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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十一章:学園~レキと学園の子供たち~
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第233話:王宮見学

誤字報告感謝です。

何はともあれ、まずは王宮の主である国王への挨拶が先。

家主(?)であると同時にフランの両親でもあるのだ。

お世話になる以上、礼儀としても欠かせない。


とはいえ相手は一国の王。

平民であるユミ、ミーム、ファラスアルムとは、本来無縁の相手である。

たまたまフランが王族で、今回そのフランに誘われて王宮へ来ただけで、フラン的には仲の良い友人達を家に招いたという感覚であろうとも、ユミ達にとっては雲の上の存在なのだ。

「挨拶を」と言われても何を言えばよいか分からず、普段袖を通しているはずの学園の制服ですら緊張で上手く着る事が出来ず、それでも何とか着てみたは良いものの、着慣れた制服が何故かみすぼらしく感じてしまう。


「準備は良いか?」

「え、えっと・・・」

「ねぇ、やっぱ挨拶しなきゃダメ?」

「当然です。

 皆様はフラン様のご友人にしてこの王宮のお客様でもあるのですから。

 挨拶しないのは失礼に当たりますよ」

「うぅ・・・」


着替えが終わったユミ達にフランとルミニアが声をかけた。

二人とも用意されたドレスに着替え済みである。


普段は活発で、王女と言われても首を傾げてようなフランも、こうしてみれば実に王族らしく見えるのだから不思議なものだ。

個性的で古めかしい言葉遣いも、豪華な衣装に包まれればどこか高貴な印象を受けてしまう。

その隣に控えるルミニアも、こちらは普段から貴族の子女らしい雰囲気を持っているが、ドレスを着たルミニアはもはや完璧な淑女と言っても過言ではなかった。


「では行くぞっ!」


意気揚々と両親の元へと向かうフラン。

なんだかんだ言っても数か月もの間離れ離れだったのだ。

その分ルミニアやユミ達がいつも一緒だから寂しくは無かったが、それでもその足は幾分か速まっていた。


――――――――――


「ふぅ~・・・緊張した」

「でもいい方々でしたね」

「ふふん、そうじゃろ」

「あんまり王様って感じはしなかったけど」

「ふふっ、先ほどはあくまでフラン様のご両親としてですから。

 公の場ではまた違いますよ?」


フランの両親との会合は、緊張するユミ達を気遣い終始和やかだった。

ルミニアの言う通り、あくまでフランの両親として接したのだろう。

「これからもフランをよろしく」と、国王としてではなく父親としての言葉をフロイオニア国王ロラン=フォン=イオニアは送った。

その優し気な表情に、最初は緊張していたユミ達も幾分かほぐれたようだ。


「これからどうしましょうか?」

「あたし騎士団のとこ行きたい!」

「わたしはお城の中見てみたいな~」

「わ、私はその、特には・・・」


とりあえずやるべき事は済んだからと、ルミニアがそれぞれの希望を尋ねた。

ミームは鍛錬。

ユミは侍女見習いとして王宮の様子が気になるらしい。

ファラスアルムは特になし、というより何をして良いか分からないのだろう。


「ふむ、ではまず鍛錬場に行くかのう。

 レキも多分そこにおるはずじゃ」

「ええ、おそらくはもう・・・」


先ほど別れたレキは、どうやら一足先に鍛錬場へと向かったらしい。

フラン達を除けば王宮で最も多くの時間を過ごしたであろう騎士団の面々。

顔を見せに、という意味もあったのかも知れない。


もちろん強者との戦いに飢える騎士団の面々が、そのままレキを解放するはずがない。

ルミニアの予想どおり、そこには騎士団と手合わせするレキの姿が・・・。


「ほら始まって・・・って、お父様!?」


手合わせの相手は、ルミニアの父ニアデル=イオシスだった。


――――――――――


「お父様っ!」

「おお、ルミニア。

 息災であったか?」

「それはもう、ってお父様はなぜここに?」

「む?

 見ての通り手合わせをだな」


てっきり騎士団長のガレム辺りがレキと戦っているものだとばかり思っていたフラン達。

だが、戦っていたのはルミニアの父親だった。


「・・・はぁ。

 陛下への挨拶はお済みですか?」

「当然だ」

「でしたら私のご友人達も紹介したく思います」

「おおっ!

 ルミニアの友人か」


そういってニアデルは武舞台上から降りた。

娘の友人達を前にして、レキとの手合わせを優先するほど脳筋ではないらしい。


「フロイオニア王国フィサス領領主、ニアデル=イオシスだ。

 学園では娘のルミニアが世話になっているようだな。

 今後ともルミニアと仲良くしてやってくれ」

「「「は、はい!」」」


槍を片手に、ニアデルが挨拶をした。

ただでさえ体も大きく、武人らしい雰囲気のニアデルがそのような挨拶をすれば、初対面の者なら間違いなく委縮してしまう。

上半身は若干はだけ、幾度か手合わせもしたのであろう上気した肌や流れる汗なども、その迫力を増す要因となっている。


同様な体躯を誇る領主の屋敷で働いていたユミや、獣人のミームですら緊張で声が上ずっており、ファラスアルムはビクビクと若干怯えていた。


「うむ。

 折角だ、そなたたちも手合わせをしていくか?」

「「「えっ!?」」」

「お父様っ!?」


そんな、明らかに委縮している三人を、ニアデルは手合わせに誘った。


「何、そこの獣人の娘は先ほどから参加したそうだし、そちらの純人の娘もそれなりに出来るのであろう?

 森人の娘は無理そうだがな」


武人らしく、見ただけでやる気と実力を見抜いたらしい。


「フラン様やルミニア、レキ殿のご学友の実力、今年の最上位クラスの実力とやらを見てみたいのでな。

 できれば一手、お相手頂きたい」


ついでにルミニアの父親として、あるいはフロイオニア王国の公爵として、今年の学園の生徒達の実力も把握しておきたいらしい。

武人ではあると同時に貴族でもある、何ともニアデルらしい言い分であった。


「そ、そういう事なら・・・」

「わ、私も大丈夫です」

「あの、私は・・・」


元より参加するつもりだったミームと、公爵からの誘いに侍女見習いとして断り辛いユミは手合わせに参加する事にした。


武術が苦手なファラスアルムは当然辞退した。


――――――――――


「ふむ、さすが獣人。

 筋は良いな」

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」


「長剣は苦手か?

 それとも慣れていないだけか?」

「ふひぃ~・・・」


「うにゃっ!」

「ほほう、一段と鋭くなりましな。

 だがっ!」

「うにゃっ!?」


「はっ!」

「ほほう、さすが我が娘」

「まだっ、ですっ!」

「それで良い」


それから、ニアデルはフラン達四人と順に手合わせをした。

見学していたファラスアルム曰く、それは手合わせというより稽古のように見えたそうだ。


ミーム、ユミ、フラン、ルミニアそれぞれの攻撃をいなし、かわし、そして隙を見つけては槍を突き出す。

ミームは機動力を削がれ、ユミは慣れない長剣に振り回され、フランは懐に入れども槍でそらされ、ルミニアは技量の差で打ち負かされた。


「ミーム殿は直線的すぎるな。

 もう少し相手の動きを見ながら攻め手を変えてはどうだ?」


「ユミ殿はまず武器に慣れる事だな。

 その体躯で振るうには少々長すぎる気もするが、相性はよさそうだ」


「フラン様は思い切りは良いのですが、己の間合いを過信しすぎない事です。

 私にすら通じないものがレキ殿に通じるとは思えませぬ」


「ルミニアは・・・うむ。

 以前よりしぶとくなったな。

 負けられぬ相手でも見つけたか?」


一通り手合わせが終わり、ニアデルが四人に助言をする。

ファラスアルムの言う通り、手合わせというより稽古をつけて貰った形となったようだ。


ニアデルの技量は高く、学園の武術教師以上である。

槍に関して言えばフロイオニア随一で、彼は槍のイオシスの異名すら持っているのだ。

今のフラン達が太刀打ちできる相手ではない。


「す、凄いです」

「ルミニアのお父さんって強かったんだ」

「槍のイオシス、だっけ?

 聞いてた以上だね~・・・」

「うむ、叔父上は流石じゃな」

「あまり褒めないでください。

 父はすぐ調子に乗りますから・・・」


ルミニアの小言もよそに、ミームはニアデルの技量にすっかり感心していた。

ニアデルもまた、娘の学友達の力量に満足したのだろう。

その顔には笑みが浮かんでいた。


「では、次はレキ殿だな」

「うんっ!」

「ふっふっふ・・・久方ぶりの手合わせ。

 このニアデル、楽しみにしておりましたぞ」


そんなニアデル一番の笑顔は、やはりレキとの手合わせの時だった。

騎士団同様、ニアデルもまた強者との戦いを何よりも好んでいる。

祝祭日の宴までまだ数日あるにもかかわらず、こうして王宮にはせ参じたのも全てはレキと手合わせをする為なのだ。


「行くぞっ!

 はぁっ!」

「てやっ!」

「ぬあっ!」


ニアデル必殺の突きを片方の剣でそらし、もう片方の剣を繰り出すレキ。

ニアデルも、そんなレキの剣を何とか受け止めた。

その顔は、苦戦しているにもかかわらず笑顔が輝いていた。


――――――――――


ニアデルとの手合わせを終えたレキ達は、続けて騎士団の鍛錬の様子を見学していた。


「凄いね~」

「ふふん、そうじゃろそうじゃろ」

「団長が脳筋ですから」


ユミの称賛にフランが胸を張り、同じ団員であるミリスが補足を入れた。

レキがいるからか、あるいはこれが通常なのか、騎士団長ガレムの気合に団員が応える様子は、鍛錬場が震えるような錯覚をユミ達にもたらした。


「おらっ、そこ!

 もっと気合入れろっ!」

「はっ!」


素振りをする者、ひたすら走り続ける者、一対一、一対多、多対多での模擬戦を行う者。

この鍛錬場で行われる様々な鍛錬は、獣人であるミームが体をうずかせるほど苛烈で、素晴らしいものだった。


「う~・・・やっぱあたしもっ!」

「ダメですよ、ミームさん。

 今日は他にも行くところがありますから」

「私は見てるだけで十分かな~」


当初は騎士団の鍛錬に参加するつもりだったミームである。

ルミニアの父ニアデルとの手合わせでそれなりに満足できたが、騎士団の熱気に当てられたようだ。


そんなミームをルミニアが軽く窘める。

何せ、ミームは本日王宮に来たばかりである。

案内すべき場所は多く、こんなところで力尽きられても困るのだ。


名残惜しそうにするミームの手を引き、フラン達は次の場所へと向かった。


お次は王宮魔術士団の建物である。

脳筋騎士団とは違い、書物を読む者、瞑想する者、魔術について討論する者達など、体ではなく頭を働かせる者達が多かった。

的めがけて魔術を放つ者もいるが、大規模な魔術ではなく魔力を一点に集中、速度と精度をひたすら高める鍛錬を行っているらしく、正直に言えば地味だった。


「でも凄いですよ。

 だって、あれほど魔力を込めても的が形を保っていますから」

「威力が弱いだけじゃないの?」

「いえ、よく見てください」


ファラスアルムに言われ、ミームが的を注視した。

魔木製の、魔術に対する抵抗が非常に高い的は、形こそ保っているもののそこかしこに穴が開いていた。

魔力を集中し、威力を高めつつ範囲を絞る事で、貫通性を高めた結果である。


「速度も上がってる」

「あっ、フィル」


宮廷魔術士長でもあるフィルニイリスは、久しぶりに戻った王宮であれこれ仕事に追われていたようだ。

それも一段落したのか、あるいはレキ達の対応を優先したかは分からないが、基本的には優秀なフィルニイリスである。

どちらであっても問題はないのだろう。


「魔術は魔力を高めれば規模も大きくなる。

 大きすぎる魔術は周囲にも影響を及ぼす。

 森で放てば対象だけでなく森そのものに被害を出してしまう」


そうならないよう、威力を高めつつ範囲を絞るのが先ほどから行われている鍛錬の目的である。

実は以前、レキが覚えたての紺碧系統、氷属性の魔術を放った際、うっかり氷山と見まごうほどの氷の塊を出してしまい、獲物どころか森の一角をも潰してしまった事があったのだ。

被害もさる事ながら、目的の食材が手に入らずレキは大いに反省した。

以降鍛錬を重ね、魔力を集中させる事で氷山ではなく氷の塊や矢や槍を放つ事が出来るようになったのである。


魔術士達が行ってる鍛錬も、要は同じ事なのだ。


また、この鍛錬は騎士団との連携を取る上でも重要である。


「無詠唱で魔術を行使する以上、今までよりさらに精度を高める必要がある。

 特に騎士団が前衛にいる場合、騎士団に当てずに魔術を放つにはあのくらいの精度が必要」


今まで、魔術士は騎士達の後ろで呪文を詠唱し、魔術を放っていた。

詠唱は前衛である騎士団にも聞こえていた為、詠唱が終わると同時に騎士団が射線を空ける事で、味方に被害を出す事なく魔術を放つ事が出来たのだ。


無詠唱魔術は相手に悟らせる事なく魔術を放てる。

それは同時に、味方にもいつ魔術を放つか分かり辛いという事でもある。


呪文を詠唱する事で放つ魔術が分かり、同時に放つタイミングも掴めていた。

今まではそれが当然で、騎士団との連携もその前提で行われていたが、今の魔術士達は無詠唱という新たな技術を得ている。

その弊害として、今までの連携を見直す必要が出たのだ。


騎士団との新たなる連携。

それもまた、無詠唱で魔術を放つ為に必要な鍛錬なのである。

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