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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十一章:学園~レキと学園の子供たち~
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第231話:学園でのアランの評価

アデメアの街からフロイオニアの王都までは馬車で三日ほどの距離がある。

道中は宿場町もあり、移動中はこれと言って不自由する事は無い。

迎えに来たのがリーニャという事もあってか、フラン達は移動中の馬車で止まる事のないおしゃべりに興じていた。

フロイオニアの王都へ行くのが初めてなユミとミーム、ファラスアルムの三人も、共にいるのがレキ達という事もあってか楽しく過ごせているようだ。


アデメアの街から王都までは道も整備されており、本来なら野営の必要などない。

ただ、今回はちょっとした事情により野営を行う必要が出来てしまった。


ちょっとフランが寝坊したり、そんなフランを起こそうとしたアランがルミニアに追い出されたり、その隙にレキが起こした事にアランが憤慨したり・・・。


出立が遅れた事で次の宿場町へ辿り着くのが夜になってしまうからと、急遽行うこととなった野営。

フランはルミニアとファラスアルムを連れて薪拾いに。

レキはミームとユミと共に天幕の設営を行った。


少し離れたところでは、アラン達も同様に天幕を設営していた。

三年間何度も演習で行ってきただけあって、その手際はなかなかに慣れたものだ。


お互い野営の支度を終え、騎士達が周囲の警戒をしている最中、レキ達はアラン達と共に一休みしていた。


「そちらの三人には自己紹介がまだだったな。

 私の名はアラン。

 フロイオニア王国王子にしてあそこにいるフランの兄、アラン=イオニアだ」

「あれっ?」


目の前にいるのは誰だろう?

とレキは思った。


誰だと問われれば、それは今名乗った通りフランの兄アラン=イオニアなのだろう。

二年前に王宮で知り合い、その後何度も試合を挑まれては返り討ちにしてきた相手のはずだ。


「ユ、ユミですっ!」

「あたしミーム、です」

「わ、私はファラスアルムと言います」

「うむ、フランの学友だな。

 今後ともフランをよろしく頼む」

「「「はいっ!」」」


レキの知るアランは、一にフラン、二にフラン、三・四もフランで五がフランという、フラン以外どうでも良いのだろうと思わせる男である。

フランの護衛は私だとレキに挑んでは返り討ちにあい、フランに勉強を教えるのは私だと勉強中に乱入してはリーニャに追い払われ、フランに魔術を教えるのは私だと言ってはフィルニイリスに的にされる男だ。


「時にフランは我儘など言ってはいないか?」

「えっと、大丈夫だと思います!」

「うん、大丈夫よね」

「あ、はい。

 フラン様は明るくて楽しくて、私達とも仲良くしてくださいます」

「そうかそうか。

 王族だからと偉そうにしているとは私も思ってはいないが、何分自由奔放に育ってきたからな。

 皆を振り回していないか心配だったのだ」


少なくともこんな風にフランの友人達に気さくに話しかけたり、フランが誰かに迷惑をかけて無いかと心配するような男ではないはずだ。

フランが居なければフランを探しに行き、フランの友人達にフランの一番は私だと威嚇し、フランの学園生活を根掘り葉掘り聞きだすような、そんな男のはず。

そしてフランの周りを鬱陶しくまとわりついてはフランに袖にされるような男、それがレキの知るアラン=イオニアだ。


「そういえば君達は獣人と森人だな。

 まぁ種族の違いなど些細な事だが、出来ればこれからもフランと仲良くしてもらいたい」

「えっと、それはまぁ」

「は、はい。

 もちろんです」

「そうか。

 純人族の中には悲しいかな他種族を見下す愚か者が少なからずいるのでな。

 フロイオニア王国の王子として申し訳なく思っているが、フランもおそらくは同じ思いだろう。

 君達のクラスは・・・ああ、ルミニアもいるか。

 なら大丈夫そうだな」

「えっと」

「差別、でしょうか?」

「ああ。

 身体能力では獣人が、魔力や魔術の扱いなら森人が、鍛冶や細工、採掘なら山人が優れているというのに。

 純人族がもっとも優れている等と言う思想はいったいどこから来るのやら・・・」


純人族至上主義者に対し、その純人の王族としてアランが愚痴をこぼした。

レキの知るアランなら、純人至上ではなくフラン至上主義を掲げるはずだ。

フランこそこの世で唯一無二の絶対的な存在であり、他の者はすべてフランの為に生きるべきだとかなんとか・・・。

実際はアラン自身がフランの為に生きられれば良いのだろうが、レキからすれば正直どうでも良い。


「フランも王宮でそれなりにしごかれてはいたが・・・ルミニア、フランは学園でもやっていけているだろうか?」

「はい。

 座学も武術も魔術も、どれも最上位クラスの中でも上位に位置しています。

 総合的に見れば、おそらく三位と言ったところでしょうか」

「ふむ、一位はルミニアだな?

 とする二位は・・・レキか」

「はい」

「・・・ふん」


今の「ふん」はアランぽかったと、なぜか安堵するレキである。

フランが最も信頼する存在であるレキは、アランにとっては正直面白くない存在のはずだからだ。


因みに、フランは今リーニャと共に食事の支度を始めている。

というか、フランが席を外した隙にアランが来たのだが。


「・・・初年度は野外演習があったな。

 レキ、野外演習でフランを危ない目に合わせてはいないだろうな?」

「危ない目?

 えっと、ゴブリンとなら戦ったけど」

「なっ!

 それはフランもかっ!」

「うん」


レキの強さにだけは一目どころか絶対の信頼をアランは置いている。

決して口には出さないが、フランの護衛役としてこれ以上心強い相手はいない、という事実だけは認めているのだ。

というか認めざるを得ないというか。


レキに勝った暁には自分がフランの護衛として四六時中一緒にいるのだ・・・とは王宮にいた頃レキがさんざん聞かされた言葉である。

レキに勝ったところで王子であり現時点では王位継承権第一位のアランが、継承権第二位のフランの護衛になれるはずもない。

むしろ第二位のフランが第一位のアランの護衛になる方が幾分理解できる話である。

当然アランがそんな事を許すはずもないが。


つまり、アランがフランの護衛として四六時中一緒にいる未来などありえない。


アランとてもう十二歳の子供。

王子たる自分がフランの護衛になれない事は理解しているし、レキに勝てるとも思っていない。

以前はそれでも勝とうと鍛錬に励んでいたが、自分が強くなればなるほどレキの強さが理解できるようになったのだ。


レキがいれば、少なくとも武力的な意味では問題ないだろう。

その他の面ではルミニアが補佐を務めている。

つまり、アランの出る幕など初めから無いのだ。


それでもあれこれ心配をするのは、ひとえに過剰なほどの兄心からくるもの。

アランがいても何も変わらないとはいえ、心配くらいはしたくなるのが兄というものだ。


「なぜフランがゴブリンと戦うのだっ!」

「見つけたから?」

「見つけたら逃げでばよいではないかっ!!」

「みんな戦うつもりだったし」

「レキが殲滅すればよいではないかっ!!!」

「それじゃダメだって先生が」

「教師とフランどちらが大事なのだっ!!!!」

「そりゃフランだけど・・・」


そんなアランが野外演習の話題を振れば、返ってきたのはまさかの内容。

共通の話題だからと持ち出し、そういえば自分も撤退したななどと思い出しながら話をすれば、レキ達は撤退せず立ち向かったなどと言い出した。

それも、フラン達女子五名で小隊を編成し、ゴブリンの群れと真っ向から戦ったなどと・・・。


レキの言葉を疑うわけではないが、それでも念の為にと確認をとれば、ルミニア達も声をそろえて戦ったと言う。

ミームが何となく罰の悪そうな顔をしていたが、五人で戦った事は間違いなさそうだ。

ルミニアの指揮の下、ユミが前衛、フランとミームが遊撃、ファラスアルムが支援役と役割分担もしっかり行ったと、フランも後で胸を張って自慢(?)したのだから信じないわけにはいかない。


野外演習の内容についてはアランも当然知っている。

二年前にはアランも経験した事で、学園に戻ってからはその悔しさを胸に鍛錬に励んだものだ。


それは学園に入学し、フランに会えず落ち込んでいた頃の話。

王宮にいた頃はフランと共に、あるいはフランに良いところを見せるべく座学に武術に魔術にと一生懸命励んでいたアラン。

当然のように最上位クラスに入れたものの、フランのいない生活に日に日にやつれていった、そんな中での野外演習。


ゴブリンの存在は当たり前のように知っており、「ゴブリンごとき倒せねばフラン様を守るなど出来ません」と言われた事もあったが、実際に対峙したゴブリンはアランの予想に反した魔物だった。

それまで知識としてしか知らなかったゴブリンの、その鋭い爪や牙を間近で見たアラン達最上位クラスの生徒は・・・当然のようにパニックになり這う這うの体で逃げだそうとした。

唯一ゴブリンに立ち向かい、皆が落ち着くまでの時間を稼いだのは・・・何を隠そうアランである。


「落ち着けっ!」と一括し、「この先の湖まで走れっ」!と大声で指示を出し、自身は最後尾に立って剣を振るった。

その姿はまるで物語の中の騎士のようで、また民を導く王の姿だったと、後に生徒達は語った。


まともに戦ったわけではない。

ただ皆が逃げるまでの時間を稼いだだけだ。

実際に立ち向かったというフラン達の言葉には正直驚いたが、ミリスやフィルニイリス、そしてレキ自身もこっそり見守っていたと聞かされ、何とか留飲を下げた。


「それでもフランは王族なのだぞ?

 いざというときはフランを逃がすべきだろう」


『その言葉、そのままアラン様にお返しいたしますっ!!』


アランの言葉に思わず突っ込んだのは、アランに付いてきた三年最上位クラスの仲間達だった。


――――――――――


野営中はアラン達三年生も同じ竈で食事をする。

別々に食事をとるのは安全面からも効率の面からも悪いからだ。


学園三年目となるアラン達も慣れたもので、護衛の騎士達に協力してすぐさま野営の支度を終えている。


今回共に行動する三年生達。

王族であるアランを筆頭に、高位の貴族出身の子供も多い。

にも拘わらず野営から食事の支度、はては就寝時の夜番まで文句ひとつ言わずに行うのは、慣れているからという理由ともう一つ、王族であるアランが率先して働いたからだろう。


フランが共にいる以上、アランが張り切らないはずがない。

食材となる魔物はレキはどこからともなく狩ってきて、解体と下ごしらえはリーニャを中心に行われた。

そのどちらもフランが大喜びした為、せめてそれ以外で良いところを見せようと張り切ったのだ。


理由はともかく、王族であるアランが率先して行う事で他の生徒達も協力を惜しまなかった。


学園でのアランも、フランがいないにもかかわらず大抵の場合自らが率先して行動するらしい。

野外演習で殿を務めたように、最も苦労するだろう仕事は最も優秀な者が担当すべきだと言って、アランがそれを受け持つ事が多いそうだ。


「ってことはアランが一番なの?」

「ええ、アラン様は一年生からずっと一位です」


驚愕するレキ。

アランは、王宮での下地があったとはいえ入学以降ずっと一位を取り続けているらしい。

しかも、座学、武術、魔術の全てにおいて一位なのだそうだ。


「へ~」

「ふふっ、アラン様はとても優秀な方です」

「私達最上位クラスの代表だしね」

「うそっ!?」


クラスの代表は最も優秀な生徒がなる事が多い。

総合成績一位のルミニアがレキ達の代表であるように、三年生最上位クラスの代表はアランだった。

座学、武術、魔術の全てで一位なのだからむしろ当然とも言えるが、何分王宮でのアランしか知らないレキは驚かざるをえなかった。


一年生で言えば、実力だけならルミニアよりレキの方が遥かに上である。

にもかかわらずルミニアが選ばれたのは、頭の良さもさることながら人望によるところが大きい。

レキやフランはもちろん、最上位クラスの誰もがルミニアならと納得した上での人選なのだ。


そんなルミニアとアランが同じ代表。

つまり、アランは成績だけでなく人望もあるという事に他ならない。


・・・あのアランが。


にわかに信じがたい話ではあるが、アランに同行している生徒達が口をそろえて言うのだから本当なのだろう。


「ん~・・・」

「座学は優秀、武術でも学年最強ですし、我々三年生の中で唯一、呪文無しで魔術を行使する事ができる方です」

「レキ君達も経験した野外演習では民を守る王族としての姿を皆に示されましたし、以降も困難な道があればアラン様が率先して進まれています」

「誰かがやらねばならない時、まずアラン様が真っ先に名乗り出ますから」

「私、先日座学で分からない事を教えて頂きました」

「無詠唱のコツを教わりました!」

「時間を見ては手合わせして貰ってる」


上級生達の賛辞を聞きながら、それはいったい誰の事だろうとレキが首を傾げる。

考えるまでも無くそれはアランの事ではあるのだが。

あの、フラン以外の事には微塵も興味が無いのでは?と思わせる男アラン=イオニア。


「まずアラン様が手本を示され、分からない者には根気よく教えてくださいます」

「分からない者を集めた勉強会では、アラン様が講師を務めて下さいます」

「剣術だけでなく短剣や槍術にも明るいですし、集団戦における指揮も完璧です」

「赤系統と緑系統の二系統を習得してるし、最近だと青系統も習得しようと頑張ってる」


レキの知るアランとは、座学では自身の勉強よりフランを優先しようとしてはリーニャに叩き出され、武術ではフランに良いところを見せようとしてはレキやミリス達に返り討ちにあい、魔術ではフィルニイリスの指示のもと、嬉々としてフランの魔術の的になっていた男である。


勉強を人に教える・・・確かにフランに教えようとはしていたが、兄上は邪魔じゃと追い出されていた。

剣術だけでなく短剣や槍術も・・・フランが短剣を使うようになったからアランも真似して、槍術はルミニアが使っているのをフランが自慢したから対抗しただけ。

集団戦における指揮・・・あれこれ騒がしいけど、指揮?

赤系統と緑系統、そして青系統・・・赤は元々アランが使えて、緑はフランが得意だからって覚えて、青は俺のルエ・ボールをフランが喜んだのを見て悔しそうにしてたけど・・・。


「代表として他クラスとの話し合いにも毅然とした態度で臨まれてますし、そもそも他の生徒達からの信頼も厚いですからね」

「最近では他の女子からのアプローチも激しくなる一方でして」

「ああ、それにはアラン様も困っておられたな」

「私には心に決めた相手がいるのだと、はっきりとおっしゃられておりました」

「まあそれが返って男らしいと評判になってしまったのですが・・・」


アランが決めた相手というのに一瞬興味が引かれたものの、多分フランの事だろうとあっさりと流し、あとは自分の知るアランとの違いを埋めるのに精いっぱい。

他クラスとの話し合い、というのは最近ルミニアがやっているようなレキの手合わせを望む生徒への牽制だろうか?

それとも三年生ともなれば他クラスと合同で行う授業があるのかも知れない。


女性問題に関しては、リーニャからそれとなく教わっている。

アランは現時点では王位継承権第一位。

そんなアランと婚姻を結ぶ事が出来れば、それすなわち将来の王妃になれるという事だと。


フランも王族だが継承権は二番目で女の子である。

必ずしも男性が継がなければならないという訳ではないが、アランがいる以上将来的には結婚して場合によっては王宮を出る事になるのだろう。

もちろんそれで王家との繋がりが無くなるわけではないが、アランほどの権力は与えられない。


顔も良く、聞いた限りでは能力も優秀。

そして王族という血筋。

リーニャの言う「優良物件」という奴なのだろう。

そんなアランを狙う女子は、意外と多いようだ。


アランの友人達の語るアラン像と自分の中にあるアラン像がどうにも一致せず、レキは終始首を傾げ続けた。

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