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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十一章:学園~レキと学園の子供たち~
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第230話:勧誘

武具は正しく用いてこそその真価を発揮する。


武具を正しく扱う事で、本人の実力も最大限発揮できるようになる。

最近のミームを見て、ガドはようやくその言葉が実感できるようになった。


今まで負け越していたミームが、小手を活かす事でフランとの対戦成績を上げているからだ。

ルミニアの突きも小手で逸らし、最近はかなり切迫するようになっている。


そのフランやルミニアはと言えば、さすが最上位クラスの二位と三位である。

この年で見事な双短剣術、槍術の使い手であった。

学園に来るまでレキを含めた格上の相手との鍛錬を積んできた成果なのだろう。


そんな彼女達と競えるほどになったミーム。

全ては経験と、日々の鍛錬の成果である。


武具を正しく用いるには、相応の経験と鍛錬を積まなければならない。

レキが日々鍛錬にいそしむのも、ミームがこれほどの使い手になったのも、すべては日々の努力なのだ。


その勤勉さが、レキ達を最上位クラスたらんとしている。


ガドの目の前で鍛錬にいそしむカルクも同様。

早朝の、レキとの手合わせこそ最近ご無沙汰気味だが、決して不真面目な少年ではない。

座学が苦手で、授業中はレキやミームと共に眠らないよう頑張っているようだが、こちらは相性の問題なのだろう・・・多分。


カルクが早朝の鍛錬に参加しなくなったのは、早起きしなくても怒られないという環境に甘えているからではない。


ギリギリまで寝ていられるという状況は確かに嬉しい。

だが、それ以上にレキやミームとの手合わせの方がカルクにとっては何倍も楽しかった。


ただ、カルクは「今までのようにただ手合わせするだけでは強くなれないんじゃないか?」と悩んでいた。


カルクは簡素な村の出身で、ただの平民である。

冒険者に憧れ、村にいた冒険者に剣の基礎を教わり、冒険者になる為ここフロイオニア学園にやって来た。

同じく村出身の平民で、冒険者に憧れ、元冒険者である両親にいろいろな話を聞いていたというレキとある意味では一番似ていると言える。


ただレキは、村を襲われ、両親を亡くし、魔の森というこの世界で最も危険な森で生き延び、そして王族であるフランと知り合った。

王宮で二年を過ごした後、フランの護衛兼友人としてフロイオニア学園に来ている。


生まれこそ似ているレキとカルクだが、その後の人生は全く持って違う。

カルクは平凡で平和な少年期を過ごし、レキは非凡で凄惨な少年期を過ごしてきたのだ。


そんなレキに今のカルクが挑んでも勝てないのは当然だろう。

ゴブリンごときに手こずり、どころか危うく殺されかけたカルクが、そのゴブリンを群れごと瞬殺できるレキに敵うはずもない。


冒険者になりたいという夢は持ち続けている。

生まれ育った村を出て、はるばるこのフロイオニア学園にやってきたのだ。

村にいた冒険者達に剣を教わり、両親や村の手伝いをかって出ては少しずつお金を溜め、馬車を乗り継ぎ、時には徒歩でアデメアの街までやってきた。


金貨一枚。

幸いにして入学試験を好成績で突破したカルクには不要な物となったが、溜めるのにはそれなりの時間と労働を費やしている。


そうして自分なりに頑張ってきたカルクは、ここフロイオニア学園で、生まれて初めての挫折を経験した。


ゴブリンという低級の魔物。

村にいた冒険者曰く「冒険者はゴブリンを倒せてようやく見習いを卒業」その程度の魔物。


そんなゴブリンに殺されかけた事で、カルクは冒険者という仕事の過酷さを思い知った。


村の護衛という仕事は、文字どおり護衛依頼に含まれる仕事である。

隊商などの護衛とは違い、村に入ってくる魔物を討伐するという確実に戦闘行為が発生するであろう依頼。

定められた期間、村を守り続ける。

村が危険であるが故に発生する依頼である。

通常の討伐依頼や護衛依頼より、ある意味難易度の高い依頼なのだ。


村人との間に波風を立たせない事も重要だろう。

「村を守ってやるのだから」などという傲慢な者に任せられる依頼ではない。


村に派遣されてきたのは実力も人格も優れた冒険者達。

階級で言えば確実に上級、魔鉄か銀か、下手をすれば魔銀ミスリルクラスである。

そんな冒険者からすれば、確かにゴブリンの討伐など朝飯前なのだろう。


かつては苦労したという話も聞いたが、それもまた彼らの軌跡の一部、懐かしき思い出でしかない。


そんな一流の冒険者ばかりと接してきたカルクだからこそ、彼らを冒険者の基準として考えてしまった。

ゴブリンごときという彼らの言葉もあり、カルクの中で冒険者の強さの基準がずれていたのだ。


ゴブリンごとき片手間で倒せないようでは冒険者になれない。


そのゴブリンに殺されかけたカルクは、つまり冒険者足りえない。


その事実に打ちのめされたカルクは、だが持ち前の前向きさを発揮しつつ、ついでに少しばかりのプライドも加えた結果、寝坊したなどと言いながら実のところ一人で鍛錬をしていたのだ。

ある意味、レキに挑んだ他クラスの生徒と同じである。

違うのは、鍛錬の質と、夢に向かって邁進している事だろう。


レキに勝ちたい訳ではない。

ゴブリンに勝ったレキと、ある程度打ち合えるようになれればそれで充分。

ゴブリンを瞬殺できるレキと打ち合えるようになれば、自分もゴブリンに勝てるようになる。

いや、そのくらいでなければ冒険者になれない。

そう考えている。


とはいえ、レキとは毎日の授業やその後の中庭での鍛錬で毎日顔を合わす間柄である。

レキとの手合わせを完全に避けるのは不可能と言って良い。


まあ、授業も夕方の鍛錬もレキ以外とやれば良いだけの話なのだが、カルクは早朝の鍛錬の成果をその日の授業や夕方で試したくてしょうがなかった。

一朝一夕で成果が表れるはずもないのだが、何よりレキと打ち合いたいという欲求にはあらがえないのである。

早朝こそ隠れて鍛錬しているカルクは、それ以外の時間では嬉々としてレキに挑んでいるのだ。


今学園にはそのレキがいない。

いや、最上位クラスの生徒の大半がいない。

学園に残っているのはカルクとガドの二名だけ。

あとは残さず、王宮での宴に参加しに行ってしまった。


それを少し、いやかなり羨ましく思いつつも、王宮などただの平民である自分が行っても緊張してしまうだろうと考え、悩んだ末にカルクは断った。


折角寮に残るのだ。

ガドもいる事だし、レキ達が戻った時に驚かせてやろうなどと考え、こうして鍛錬にいそしんでいるのである。


一応寮には他クラスの生徒も何人か残っている。

残る理由も様々で、例えば領地が遠く期間内に戻ってこれない者や、帰省する為の費用が無い者、あるいは宴に参加しない貴族の子供等だ。

中にはカルクの様に帰る必要性を感じない者や、帰るより寮に残った方が良い生活が出来る者もいる。


まだ子供の生徒達は宴への参加も強制ではない。

領地が遠かったり家が困窮していたり、あるいは家格が釣り合わないだろうと参加を自粛する貴族家も毎年それなりにいる。

そんな貴族の家に生まれた子供もまた、こうして寮に残っているのだろう。


残った子供達の過ごし方は様々で、例えばカルクのように鍛錬にいそしむ者、体より頭を鍛えるべく勉強にいそしむ者、残った子供達である種のコミュニティを形成しようとする者など。

平民は鍛錬や勉強、貴族は集団を形成する傾向が強いらしく、上位階級の貴族の子供らがいない為だろう、残った子供達による勧誘合戦らしきものも行われていたりする。


上流階級の子供らにありがちな選民意識、すなわち貴族は貴族同士で交流すべきという考えは無く、貴族平民分け隔てなく勧誘しているようだ。

寮に残った貴族の子供は下級貴族が多く、そこに選民意識を持ち出したところで下級貴族など裕福な平民と大差なく、むしろ生活に困窮している貴族も多いくらいなので選民意識など持ちようがない。

故に、残った者同士仲良くやろうという考えなのだろう。


選民意識は無くとも仲間にするなら優秀な者が良いという考えはあるようで、仲良くしつつも勧誘合戦は発生していた。


寮に残った最上位クラスの生徒であるカルクとガドも、例外なくその争いに巻き込まれていた。


――――――――――


「カルク君、今日こそ僕達のお茶会に参加してくれないか」

「えっ、いや、俺今日はガドと約束が・・・」

「ガド君も一緒ではどうかな?」

「いや、ガドはあんまお茶とか・・・なぁ」

「む」

「そうか、じゃあまた誘うよ」

「お、おう、悪ぃな」

「むぅ」


今日も今日とで、カルクとガドはお茶会とやらのお誘いを受けた。

ガドは基本的に会話が苦手な為、こういった場合はカルクが前面に立つ事が多い。

と言ってもカルクとてただの平民、お茶会も貴族の集まりも苦手だった。


こんな時ルミニアやユーリがいてくれたらなぁ、などと思ってしまうカルクである。


お茶会に参加するメリットなど、カルクにとってはお茶や茶菓子が貰えるくらいしかない。

反面、デメリットに関しては正直良く分かっていない。

「仲間になろう」と言われたものの、実際は誘ってきた貴族の子供を頂点とした集団に加わるらしく、止めた方が良いとガドに言われたので断っているだけだ。

「じゃあガドが断ってくれよ」と思わないでもないが、武具関連でお世話になっている手前そんな事も言えず、日々断り続ける毎日を送っていた。


「友達とかならいいんだけどな」

「む」

「仲間、ってのも冒険者ぽくっていいけどよ。

 だったら実力で仲間にして見せろってんだよな」

「むぅ」

「だってよ、誘ってきたって事はあいつがリーダーなんだろ?

 弱いリーダーは嫌じゃね?」

「む・・・む」

「だよな!」


カルクの言葉に頷くガド。

友人になるのに強さなど関係ないが、仲間となればそうはいかない。

先日の野外演習を経験してしまった以上、ある程度の実力がなければお荷物になってしまう。

カルク自身、自分の行動でレキ達に迷惑をかけてしまった事もあり、どうしても厳しい目で見てしまうのだ。


レイラスの話では、他の生徒達のほとんどはゴブリンの姿に恐怖し、逃げ惑うだけだったらしい。

一部無謀な生徒が戦いを挑んだらしいが、初めての実戦でまともに戦えるはずもなく。

結局は護衛の騎士達に救われたそうだ。


同じ初めての実戦とは言え、逃げずに立ち向かい、一応は何匹か倒したカルクである。

彼らと一緒に戦えるかと問われれば、正直首を傾げざるを得なかった。


あのファラスアルムですら、逃げずにフラン達を支え続けた。

武術の実力では勝っていても、度胸や根性、あるいは仲間の為に戦おうとする気持ちでは、ファラスアルムはカルク以上かも知れない。

伊達に最上位クラス、そしてレキ達の仲間ではないという事だ。


その点はガドも同じ思いらしい。


斧を構え、ガドもカルク達と共に戦った。

盾も持たずに前衛を務めたのは、後方にいる仲間を信じたからだろう。

ガージュの指示、ユーリの遊撃、歯を食いしばって剣を振るい続けたカルク。

それらを背に、ガドは危険な前衛というポジションで戦い続ける事が出来たのだ。

ガドの背にいたのが他クラスの生徒だったなら、おそらくはガドが敵を食い止めている間にこぞって逃げ出したかも知れない。

無謀にもゴブリンに挑んだ一部の生徒を見捨てて逃げ出したくらいなのだ。

そんな連中を仲間と呼べるほど、ガドの心は広くない。


「手合わせくらいならやってもいいんだけどなぁ」

「む」

「だよな~」


レキ達が寮を発ってからというもの、カルクは毎日のように中庭で鍛錬を行っている。

朝夕の鍛錬でカルクの実力は嫌でも目についただろう。

最上位クラスという肩書もあり、だからこそ勧誘されているのだが、手合わせを挑まれた事は今のところまだ無い。


カルクに挑む気概があり、互角とまでは言わずともある程度やり合えたならば、その時は仲間になってもいいとカルクは思っている。


というか、だ。

いい加減一人で鍛錬するのも飽きてきたのだ。

ガドは一緒にいるが、彼は鍛冶士としてカルクの剣選びに付き合ったり、振るう際の助言をしてくれるだけで、手合わせどころか鍛錬すら一緒にはしてくれなかった。


勧誘に来る連中も強くなりたいという気持ちは薄いらしく、カルクの鍛錬の邪魔をする事はないが一緒に剣を振るうつもりもないようだ。

カルクが剣を振るう中庭で、少し離れた場所で呑気にお茶を飲むだけ。

ルミニアのようにカルク達の分までお茶を用意する事も無ければ鍛錬に参加する事もない。

まるでカルクが鍛錬に飽きるのを待つかのように、優雅にお茶を飲み続けるだけだった。


そんな連中と手合わせしたところで得られるものなど何もないだろう。

野外演習でゴブリン相手に逃げ出した癖に、強くなろうと思わないのがカルクには不思議でしょうがなかった。

ミームは今まで以上にレキに挑んでるし、フランやルミニアだって今まで以上に鍛錬に精を出している。

回復の支援しか出来なかったファラスアルムが攻性魔術を覚えようとしているのに、逃げ出した彼らは自ら鍛える事をせず、強い者を引き入れようとしているのだ。


それも強さの一つなのかも知れない。

貴族なら強い臣下を得るのは当然である。

貴族であり武人でもあるルミニアの父親の方が珍しい類なのだ。


ただしそれは貴族の話であり、平民であり冒険者を目指すカルクには分からない話である。

将来の家臣を集める為に行われている勧誘も、カルクにとっては仲間集めとしか思えず、手合わせすらしない彼らの仲間になどなるつもりは無かった。


「ま、しゃあねぇよな」

「む」


結局、カルクはガドを横に置きながら、今日も一人鍛錬にいそしむのだった。

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