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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十一章:学園~レキと学園の子供たち~
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第229話:一方その頃、学園では・・・。

光の祝祭日の前後十五日は学園も休みである。

休みの間の過ごし方は自由で、許可さえ取れれば実家に帰る事も可能だ。

学園から故郷の街や村まで片道十五日以上かかる生徒もいるが、その場合特別に休みを延長するか、諦めて寮で過ごすしかない。

故郷に帰る為の旅費が払えず、あるいは帰りたくないからと寮で過ごす生徒も少なからずいる。


平民であるカルクの故郷の村は、学園から数日の距離にある。

乗合馬車を利用すれば十分往復可能な距離だが、カルクにそのつもりは無かった。


別段帰る為の旅費が足りない、というわけではない。

カルクの手元には金貨一枚という平民ならば一家族が一年は余裕で暮らせる程の金があるからだ。


フロイオニア学園に入学する際、学費および寮費として納める予定だった一枚の金貨。

カルクは、入学試験で第七位という非常に優秀な成績を修め、結果その費用を全額免除される事になった。


とは言え金貨一枚が丸々残っている訳ではない。

学園に通う以上、学費や寮費以外にも必要な経費というものが発生するからだ。


例えば服。


学園では、授業を受ける為専用の服が支給される。

座学や一般的な活動をする際の制服に加え、武術の時間には鍛錬服が、魔術の授業では魔術服がそれぞれ支給され、授業ごとに着替えている。

学園という組織に属しているという意識を植え付ける為だとか、生徒間での差を見た目から排除する為だとか、制服と言う共通の服を着る理由は様々だが、騎士で言う鎧、魔術士で言う術衣のようなものだと思えば良いだろう。


生徒の間では賛否両論あるが、着ないという選択肢は無い。

着なければ授業を受けられず、反発しようものなら容赦のない鉄拳が生徒を襲うからだ。


だが、それはあくまで学園で授業を受ける時の話。

寮に戻ればその限りではなく、部屋着や寝間着など思い思いの服で過ごす事が出来る。

貴族出身の生徒達はそれぞれ自前の部屋着を用意しており、むしろ授業中は制服という全生徒共通の服の着用が義務付けられている分、寮で過ごす間に着る服くらいはと各自でこだわりを持っている。


その貴族の代表でもある王族のフランは、その性格から簡素な服を好んでいる。

「鍛錬服は動き易くて良いのう」などと言ってはルミニアに苦笑いされていた。

「王族たるフラン様がそれでは他の貴族に示しがつきませんから」と説得しつつ、お揃いで購入した部屋着を着せるルミニアである。

「ルミとお揃いじゃ」とフランも喜んでいるので問題はないだろう。


対して、平民出身の生徒はそもそも服にお金をかけるという考えが無く、支給された服を寮でも着用している。

ただでさえ入学の際に金貨一枚という大金を収めているのだ。

服に余計なお金を使うわけにもいかず、何かと節約して過ごしているのだ。


支給された服は普段過ごすのにも適していた。

鍛錬服は動き易く、魔術服は柔らかく着心地が良い為、就寝着としても人気があった。

それはカルクも同様で、免除されたとはいえ懐に余裕は無く、カルクもまた平時は鍛錬服を好んで着ている。


こだわらなければ服など支給された物で十分。

貴族と違い、平民は服にお金をかけずに過ごしているのだ。


例えば食費。


生徒達は全員寮に住んでいる。

寮では朝晩はもちろんの事、昼食すら用意され、飢えるどころか毎日お腹いっぱい食べる事が出来ている。

それらの費用は入学の際に支払ったお金で賄われており、学園や寮にいる間は食費を払う必要は無く、飢える事もない。


だが、それはあくまで学園で食べる分であり、学園外で食べる分は当然自分達で支払う必要がある。


学園では十日間に一日の休日が設けられており、その日は学園の外に出ても良く、アデメアの街内であれば自由に出歩く事が出来る。

フラン達もこの休日を楽しみにしており、休みの度に皆で街へ繰り出しては街を満喫していた。


もちろん外食や買い食いなどもする為、十日に一度とはいえ回数を重ねればそれなりの金額になっている。


別に、休日は外で食べなければならないなどという規則はない。

それこそ午前中は街でぶらつき、昼食の時間になったら寮に戻って食べても良い。

実際カルクはそうしている。


寮の食事は味も量も十分。

あえて外で食べようとは思わなかった。


おそらくは生きていく上で最も必要で最もお金がかかるであろう食費。

それを使わずに過ごせるだけでも、カルクには十分過ぎる話だった。


他にも座学で必要な筆記具、武術で用いる自分専用の武具、魔術士専用の杖など必要な物は意外と多く、中には定期的に購入しなければならないいわゆる消耗品もある。

金貨一枚であっても上手くやりくりしなければ即尽きてしまうだろう。


と言っても・・・。

筆記具は簡素な物なら学園から借りる事が出来るし、武具は鍛錬用であれば学園で用意してくれる。

魔術用の杖もそうだ。

他にも日常生活で必要となる物は、申請さえすれば学園側で用意してくれる。

全てが無料とはいかないが、足りない分は卒業後に働いて返す事が可能だったりする。


学園に通うのは貴族だけではない。

平民の多くはその日暮らしで金銭的な余裕は無く、入学金の金貨一枚すら支払えない者も多い。


入学試験で優秀な成績を修めたにも関わらず、入学金が支払えずに入学できなかった。

あるいは入学後も必要な物資を購入できずに学園を辞めざるを得なかった。

そんな生徒を出さない為、卒業後に必ず支払うという契約を交わす事で、生徒達は学園生活を送る事が出来るのだ。


もちろんそれは必要最低限の話であり、休日の外での買い食いにかかる費用などは当然含まれない。


その事はカルクも承知しており、休日はもっぱら寮で過ごす事にしている。

たまにレキやユーリに付き合い武具店を見て回る事はあるが、残念ながら購入する余裕は無く、「冒険者になったら買い占めてやるぜ」などと良く分からない宣言をするに留めていた。


つまり、カルクは学園に入学して以来あまりお金を使っていないという事になる。

入学金として支払う予定だった金貨一枚、それが殆ど残っているはずのカルクがなぜ村に帰らないのか。


それは・・・。

学園にいれば朝昼晩しっかりと食事が出来る為「別に帰らなくてもいいんじゃね?」と思ったからである。


カルクの様な考えを持つ平民の子供は結構多い。

もちろん年に一度の光の祝祭日を生まれ故郷の家で過ごしたいと考え、街や村に帰る子供もいる。

だが、ほとんどの平民の子供は、故郷の街や村に帰るより学園に残(って十分な食事を食べ)る事を希望するのだ。


「うっし、終わり」


寮に残ったカルクは、朝食を取った後中庭で一人鍛錬を行っていた。

いつもなら学園で座学の授業を受けている時間。

長期休暇となった寮は静かなもので、鍛錬をしているのもカルク一人だった。


「む」

「おう、頼むな」


ただし、中庭にはもう一人生徒がいた。

最上位クラスの仲間、ガドである。


カルク同様平民であり、他種族でもあるガドはカルクと共に寮に残った。

家に帰れないわけではない。

日数的にはギリギリではあるが往復できる距離であり、費用についても問題ない。

ただ、カルク同様家に帰る必要性が無かったのだ。


「どうだ?」

「むぅ・・・」


将来の為、学園で多種多様な武具を見ておきたい。

鍛冶士になるのが夢であるガドは、家に帰るより己が見識を広める事を選んだのである。


――――――――――


山人は採掘と鍛冶や細工で成り立っている種族である。

小柄かつ力の強い体は鉱山での採掘に適し、腕力は武具を鍛える際にも存分に振るわれる。

それでいて器用な手先は武具の装飾から宝飾品まで広くこなしている。


腕力を活かして武具を振るえば、ある程度の魔物は一撃で屠る事が出来るかも知れない。

だが、彼らの腕力はあくまで採掘と鍛冶の為にあった。


そんな山人に生まれたガドは、当然のごとく自身も鍛冶士になるつもりである。

幼い頃から父親の鍛冶仕事を見て育ったせいか、鍛冶士になるのがガドの夢であり目標であり、鍛冶士以外の選択肢など欠片も無かった。

少しでも早く父親の仕事を手伝い、いずれは父親を超える鍛冶士になるのがガドの夢だ。


そんなガドに、父親は良くこう言った。


「鍛冶士になるなら、まず武具を良く知らねばならない」


店に飾られている武具を見るのではない。

父親が作り出す武具の誕生を見るのでもない。

武具が実際に振るわれている場面を見なければ、武具本来の価値を知る事は出来ない。


というのが父親の言葉だった。


ガドの父親も山人である。

普段は鍛冶ばかりしているが、魔物と対峙した時は自ら鍛えた斧を振るう。

だが、山人の腕力はあくまで採掘と鍛冶の為のもの。

魔物を倒す事を生業とした騎士や冒険者に比べれば、それこそ力任せの攻撃でしかない。

とてもではないが、武具本来の価値を引き出しているとは言えなかった。


武具は正しく振るわれてこそその真価を発揮する。


そう言われて、ガドは山人の国マウントクラフ山国を出て、ここフロイオニア学園にやってきた。


とはいえ、入学して以来生徒達が武具を用いるのはもっぱら鍛錬の時だけで、実戦などそれこそ野外演習まで無かった。

その野外演習とて、本来なら戦う必要など無かった。


ガドが見るのは鍛錬時に振るわれる武具ばかりだった。

それでは武具の真価など分かるはずもない。


最初はそう思っていた。

だが、レキ達の手合わせを見ているうちに、ガドは考えを改めるようになった。


武具の真価は戦いの中でこそ発揮される。

だが、その真価を発揮するには日々の鍛錬こそが重要だという事を、ガドは知ったのだ。


毎日の手合わせではあれほど戦えたカルクやミームが、野外演習ではその実力を半分も出し切れなかった。

前日、二人だけで夜の森へと侵入し、危うくゴブリンに殺されかけたらしいが、普段の二人ならもう少し戦えたはずなのだ。


初めての実戦、不慣れな夜の森、集団で襲い掛かるゴブリン。


何もかもが二人に不利な状況下では、満足に戦えないのも当然だろう。

だが、同じ生徒であるレキはそんな状況でも難なくゴブリンを撃退し、カルク達を助け出した。


その違いはなんなのだろうか。


それを知る為、ガドは日々の鍛錬を観察し続けた。


レキほどの強者でも鍛錬を欠かさない。

いや、レキほどの強者になるには日々の鍛錬が欠かせないのだろう。


そんなレキに飽きもせず突っかかるミームは、本人は気付いていないのだろうが日々もの凄い速度で成長している。

相手がレキである以上多少強くなったところで結果は変わらないのが残念だが、それでも入学当初よりも随分と強くなっていた。

強者と戦う事で成長できるのは確かだろうが、他クラスの生徒達のように一瞬で終わっていては意味がない。

レキとの手合わせに加え、実力の近しい者達との模擬戦を繰り返したミームは、明らかに強くなっていた。


それはミームの、強さに対する執着がもたらした成果だろう。


同時に、ミームはずいぶんと小手の扱いにも慣れてきているように見えた。


元々ミームは相手より先に攻撃するタイプである。

武具は小手と脛当。

防具に分類される装備だが、ミームはそれを攻撃にのみ使用していた。

受けるよりかわした方が早く、相手が攻撃する前に倒してしまえば問題ない。


というのが当時のミームの考え方である。


だがそれは、格上の相手には通用しない。


それまで同年代で自分より強い相手と戦ったことのないミームは、力も速さも自分以上の相手であるレキに手も足も出なかった。

自分と同程度の実力者であるフランにも負け越し、ルミニアになど数えるほどしか勝てていない。


フランに関して言えば、力はミームの方が勝っているが、その代わり素早さでは負けている。

後は武器の扱いと、格上の相手との対戦経験の差が勝敗に現れているのだろう。


その不利を補う為なのか、ミームはまず己の装備に関して考えを改めた。

というより本来の使い方に気付いたと言った方が良いだろう。


かわせないなら受けるしかなく、受けるなら小手や脛当で受けた方が痛くない。

という、至極単純で当たり前の結論である。


それでも、レキはともかく同格であるフランの攻撃なら、ミームは少しずつ対処できるようになっている。

避けられる攻撃は避け、避けられない攻撃は小手で受け、あるいはそらして対応する。

小手や脛当を装着した者が行う基本的な防御、それをようやくミームは身につけつつあった。

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