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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十一章:学園~レキと学園の子供たち~
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第220話:連携訓練~魔術士の役割

魔術の授業。

こちらはまず、集団戦における魔術士の役割について、先ほどの武術の授業での連携訓練を踏まえた上での講義から始まった。


「魔術士が魔術を使う場合、今までは詠唱が必要だった。

 その為、前衛の騎士や剣士が時間を稼ぐ必要があった」


例えば騎士団の場合。

小隊なら一部隊に最低一人は魔術士が配属されており、戦闘の際騎士が前衛、魔術士が後衛に立って攻撃を行う。

今までは魔術士が魔術を使用するには呪文の詠唱が必要であり、詠唱中魔術士はほぼ無防備となってしまう。

その為、呪文の詠唱が終わるまで前衛の騎士達が時間を稼ぐ必要があった。


「今は違う。

 魔術士は無詠唱で魔術が使えるようになった。

 騎士は時間を稼ぐ必要がなくなった。

 それでも魔術士は魔術士。

 騎士のように戦えるわけではない。

 騎士が前衛で魔術士が後衛。

 この基本は変わらない」


無詠唱魔術が広まりつつある今、魔術士との連携に置いて騎士の役割は大きく変わった。

もちろん前衛と後衛という配置は変わらないが、時間を稼ぐ必要がなくなった分負担は減り、魔術士が魔術を放ち、残った魔物を騎士が殲滅するという戦術も取り易くなった。

ゴブリン程度なら魔術士の魔術でほぼ一掃され、残りを騎士が片付ければ良い。

フォレストウルフほどの素早い魔物でも、魔術を牽制に用いられるようになった為、以前とは違った戦い方を取れるようになっている。


「無詠唱魔術はあくまで魔術の運用方法の一つ。

 詠唱しない為即効性は高いがその分威力は落ちる。

 魔術に対する抵抗が高ければ無詠唱魔術では倒せない場合もある」


魔術を使用する上で、呪文の詠唱は必ずしも必要ではなくなった。

だが、唱える意味が無なくなったわけでは無い。

呪文を詠唱する事でイメージが明確になるのと同時に、詠唱しながら魔力を高める事で呪文の威力を高める事が出来るのだ。


ゴブリン程度であれば熟練の魔術士なら無詠唱魔術でも一掃できるが、オーククラスの魔物にダメージを与えるには心もとなく、オーガクラスであれば無詠唱魔術など目くらまし程度にしか使えないだろう。

使用者の実力にもよるが、無詠唱魔術より詠唱を行った魔術の方が総じて威力が高く、高位の魔物にもダメージを与えられるのである。


「牽制や相手の隙を作る為に魔術を用いるか、威力を高め戦局を覆す一撃を放つかは戦術次第。

 もちろん練度を高め無詠唱で高威力の魔術が放てるならそれに越した事はない」


魔術を放つには時間がかかる。

この常識が覆った今、魔術を含めた戦術はより一層の幅を得たと言えるだろう。


「今日は連携の基礎。

 二人組での模擬戦を行う」


一通りの解説が終わり、次は魔術を用いた模擬戦を行う事になった。


「レキ以外はまだ無詠唱で魔術を放つのに時間がかかる。

 一人は前衛で騎士の役を、一人は後衛で魔術士の訓練をする」


無詠唱と言っても即座に魔術が放てるのは現状レキだけ。

フラン、ユミ、ルミニアの三名は無詠唱でもある程度魔力を溜める時間が必要で、残りの生徒は無詠唱で魔術を放つ事は出来ない。


種族的に魔術が不得手なミームは今回前衛に専念するとして、残りの九名は交代で前衛と後衛を担当する事になった。


「あ、あの・・・私もでしょうか」

「当然」


武術が苦手なファラスアルムも前衛と後衛の両方を行う。

これはあくまで授業の一環であり、ただの訓練である。

前衛を経験する事で、後衛の役割をより理解出来るはずだ。


「模擬戦、とおっしゃいましたが、まさか魔術を打ち合うのでしょうか?」

「もちろん」


武術と違い、魔術には寸止めもなければ刃引きという概念もない。

あるのは当たるか当たらないかのどちらかであり、当たれば少なからずダメージを負ってしまう。

黄系統の魔術ならあざ程度で済むかもしれない。

青系統の魔術であれば濡れたり冷たいと感じるだけで済むだろう。

だが、赤系統なら火傷を負うかもしれないし、緑系統なら下手をすれば腕や足が切断される怖れがある。


上位系統なら尚更。

雄黄系統・大地属性なら被害は魔術演習場全体に及び、紺碧系統・氷属性なら体を貫かれるか凍り付くだろう。

真紅系統・炎属性なら火傷どころか灰になり、深緑系統・雷属性なら感電死。


今のところ上位系統を使えるのはレキだけだが、そもそも魔術自体が危険なのだ。


もし赤系統の魔術が女子の顔にでも当たれば・・・。


「もちろん制限はする。

 使用する魔術は初級のみ。

 狙うのは首から下、出来れば魔術演習服。

 顔は狙わないように」


そういった事態も考慮に入れ、今回は限定的な内容で戦う事になった。


この場にはフィルニイリスを始めとして治癒魔術を使える者が数名おり、軽度の怪我や火傷はおろか、腕や足が切断されてもその場でなら治す事が可能である。

死んでしまえば治しようがないが、初級魔術なら万が一にも死ぬ事は無いだろう。


レキがその有り余る魔力を全てつぎ込めば、赤系統の初級魔術レド・ボールでもゴブリンを燃やし尽くす事は出来てしまうが、もちろんレキはそんな事はしない。

他の者はそこまでの威力を出せず、顔にさえ当たらなければ最悪の事態は免れるだろう。


魔術演習服というのは、今レキ達が着ている魔術の授業の為に用意された服である。

魔木のように魔素を多く含む素材で作られたこの服は、魔術に対して一定の耐性を持っている。

さすがに上位系統を防げるほどではないにしても、フランやルミニアが放つ初級魔術程度なら問題なく防いでくれるだろう。


「最初はレキとファラスアルム、ガージュとユーリが組んで」

「うん!」

「は、はいっ!」

「「なっ!」」


一通りの説明が終わり、フィルニイリスが無情にも最初の組み合わせを発表した。

レキは元気に、ファラスアルムはいつものごとく緊張した風に、そしてガージュとユーリは唖然、あるいは愕然とした表情をした。


――――――――――


「前衛の役目は相手側後衛の魔術の妨害。

 後衛は魔術による攻撃のみ。

 後衛の魔術が相手の後衛に当たった時点で終了。

 よい?」

「うん!」

「は、はいっ!」

「「・・・」」

「では前衛と後衛をそれぞれ決めて」


簡単なルール説明の後、レキとファラスアルム、そしてガージュとユーリの四人がそれぞれ武舞台に上がった。


今回は前衛と後衛に分かれての模擬戦である。


前衛の目的は相手魔術士の妨害。

相手側もそれは同じな為、必然的にお互いの前衛同士がぶつかる事になるだろう。

そうなった場合は武術の模擬戦同様戦う事になるが、後衛の魔術士が放つ魔術が相手後衛に当たらなければ決着がつかないというルールの為、例えばレキが相手の前衛後衛まとめて倒しても終わりとはならない。


まあ、相手側の後衛が魔術行使できない状態にした後、ゆっくり魔術を当てればそれでも一応決着はついてしまう。

つまり、前衛のレキが全力で攻めればそれで終わってしまうのだが。


かといってレキが後衛に回れば、今度は無詠唱で魔術を放ち試合が終わる。


入学してからずっと、嫌と言うほどレキの魔術を見てきたガージュとユーリである。

レキの魔術行使の速さと、初級魔術にも関わらず魔木の的を破壊する威力。

その二つが自分達に向けられるとなれば、少なくともレキの魔術の的にだけはなりたくない、そう思うのは当然だった。


「レキは前衛」

「へっ、あ、うん」

「手加減もするように」

「うん!」


ガージュとユーリが危惧した問題は、フィルニイリスの采配によって回避された。

さすがに初級魔術で魔木の的を焼き尽くしたり粉々にしたりするレキの魔術をまともに食らえば、魔術演習服の魔術耐性があっても下手すれば命に係わる。


その心配がなくなったガージュとユーリである。

だが、前衛に回ったレキを突破しなければ勝てないという新たなる問題に気づき仲良く頭を抱える事になった。


これまたフィルニイリスの言葉で手加減するようだが、果たしてどこまで加減して貰えるかは不明である。


武術の模擬戦ではない分、レキが直接こちらを倒すつもりはないはず。

それでも実力が違いすぎる為、レキの妨害をどう突破するか、そもそも撃破できるかと頭を悩ませなければならない。


武術の授業でも使用している刃引きされた武器を手に、レキが前衛に立った。

後ろに控えるファラスアルムは、不安と緊張はあれどレキに守られている分どこか安心している風にも見えた。

対するガージュとユーリはと言えば・・・。


「僕が後衛に回る。

 ユーリはレキを食い止めろ」

「いやいや、無理だよね!?」

「大丈夫だ、ファラスアルムの魔術はそれなりに時間がかかる。

 その間だけレキを止めればいいんだ」

「その間ってどのくらいなのさ!?」

「・・・僕が魔術の詠唱を終えるまで頑張れ」

「・・・なるべく早くしてね?」

「・・・善処する」


入学してから実力を伸ばし始めているガージュとユーリではあるが、レキを相手にするにはまだまだまだまだ力が足りない。

それでもどちらかが前衛に回らねばならないとなれば、現時点ではガージュよりユーリの方が適任である。


武術の実力はユーリが上。

魔術に関しては、共に無詠唱を身に着けていないという点から大差なし。

そもそもガージュが前衛より後衛向きである為、魔術を行使しつつ指揮を執るガージュが後衛、その指示を受けつつユーリが前衛、というのがこの二人のベストなのだ。


と言うか、レキが相手であればどちらが前衛でも大差ない。


指揮能力の差が今回のガージュとユーリの立ち位置を決めたと言えるだろう。


「用意はいい?」

「うん!」

「は、はいっ!」

「ああ」

「はぁ」


「では始め」


「じゃあ行ってくるねっ」

「は、はいっ。

 "青にして慈愛と癒やしを司りし大いなる水よ"」


開始の合図と共にレキが飛び出した。

身体強化は無し。

両手に持つのは模擬戦用の刃引きされた剣。

速度も、一応は加減しているらしく目で追える速さ。

それでも元々の身体能力が図抜けているせいか、あっという間にユーリの眼前に迫った。


「お、おいっ。

 来たぞ、ユーリ」

「わ、分かってる!

 ガージュも魔術っ!

 早くっ!」

「あ、ああっ。

 "赤にして勇気と闘争を司りし大いなる火よ"」


レキに守られ、落ち着いて詠唱をするファラスアルムとは対極に、焦りつつ指示を出しながらガージュも詠唱を始めた。

前衛の役割は相手側後衛の魔術詠唱の妨害、とフィルニイリスに説明されてはいたものの、初めての魔術を用いた模擬戦という事もあって即座に動けなかったガージュとユーリのペア。

そもそもレキを相手に勝利を収める事は難しく、唯一勝る知識で対抗するしかなかったガージュだが、試合開始前に指示を出さなかった時点で勝敗は決していたのかも知れない。


「くっ!

 ここは通さっ」

「えいっ!」

「ぐふっ!」

「"我が手に集っ"、ユーリッ!」


初級魔術の呪文、その最初の小節を唱え終えた頃にはすでにユーリがレキと相対し、十分手加減した上で早々に打ち倒された。

詠唱が終わるまでのわずか数秒すら持ちこたえられない、というのは前衛としての役目を果たしていないとすら言えるが、相手がレキなのだから仕方ないのだろう。


「"我が手に集いて立ちはだかりしモノを討ち払え"」


「えいっ!」

「はがっ!」


そんな最中、落ち着いて呪文を詠唱するファラスアルムである。


前衛を失ったガージュの前にレキが立ち、直後ユーリ同様武舞台に沈んだ。

後衛は基本魔術のみでの戦いと言われていた為、ろくに抵抗できなかったのだろう。


例えガージュが完全武装し、武器を用いて応戦したとしても結果は変わらなかったが。


「えっと、」

「ファラっ」

「は、はいっ。

 "ルエ・ボール"っ」

「はぶっ!」


初級魔術の呪文、その二小節目をファラスアルムが唱え終えるより早くユーリとガージュ両名が武舞台に沈んだ。

その時点で既に勝敗は決していた。

だが、今回の模擬戦はあくまで魔術士としての戦いを学ぶ為。

ルール上、ファラスアルムが魔術を当てなければ決着がつかない為、大変に心苦しく思いつつファラスアルムが魔術を放った。


集った水は塊となって目標へと飛んでいく。


青系統水属性の初級魔術ルエ・ボール


手のひらに集めた水を球状に固め、目標へと飛ばす魔術。

威力はさほどなく、攻撃に用いる場合は牽制程度にしかならないが、水球の大きさや飛ばす速度などのコントロールが比較的容易な為、例えば相手を怯ませる為に使用したり、あるいは眠気覚ましに顔面へぶつけたり出来る魔術である。

フィルニイリスが今回の模擬戦で許可したのも、制御しやすく当たっても被害が少ないからだ。


そんなルエ・ボール。

魔術が苦手と言っているファラスアルムでも、普通に放てばちゃんと命中する。

まあ、的が動いていないのだから当然と言えば当然だ。


パシャリと、水球のはじける音が武舞台から聞こえた。


死者に鞭打つかのような光景だった。


「それまで」


自慢気なレキとどこか申し訳なさそうなファラスアルムをよそに、フィルニイリスから無慈悲な宣言が下された。

魔術の模擬戦、その初戦はレキとファラスアルムのペアが当然のごとく勝利した。

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