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黄金の双剣士  作者: ひろよし
一章:森の出会い
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第22話:おやすみとおはよう

念の為、リーニャ達は素材の状態を確認する事にした。


どれほど強力な魔物の素材でも、時が経てば劣化してしまう。

処理さえ完璧なら数十年は持つ毛皮であっても、処理をしなければ数日で腐ってしまう。

牙や角なども同様。

毛皮ほど腐り易くはないが、処理をした物とそうでない物とでは素材の価値が変わるのだ。


いくつかに分かれた小屋の一室。

そこは、レキのお宝部屋という名の物置になっていた。

部屋には様々な魔物の牙や角、爪や毛皮が大量に置かれていた。


「こ、これは・・・」

「凄い」

「おおっ!」

「レキ君、もう少し整理したほうが・・・」

「え~・・・」


ミリス、フィルニイリス、フランの三人が感嘆の声を上げる中、リーニャだけは部屋の散らかりように苦言を呈した。

物置には棚も設置されていたが、それには収まりきらないほどの魔物の素材が山積みにされていたのだ。

一応毛皮は毛皮でまとまって積まれており、牙や角、爪等とは分けられてはいる。

だが、毛皮だけで一括りにされても、それが何の魔物の毛皮なのかぱっと見では分からなかった。

牙などはさらに種類も多く、少なくともリーニャでは仕分ける事は出来そうにないほどだ。


「毛皮は今夜の寝床にも使えますね」

「フィル、素材の区別はつくか?」

「大丈夫」


換金すればどれほどの金貨が得られるか分からないほど、この部屋は魔物の素材であふれていた。

だが、フラン達では運べる数にも限度がある。

ゴブリンやフォレストウルフなど比較的ランクの低い魔物の素材はこの際諦めた方が良いだろう。

それらを除いても、持ちきれないほどの素材がここにはあるのだから。


「まずオーガの素材から」

「毛皮はソードボアでよろしいですか?」

「オウルベアのもあるぞ」


素材の選別はひとまずリーニャ達に任せ、レキはフランに自分のお宝を紹介する事にした。


「これ、これなんじゃ?」

「これはね~」


フランは魔物の素材自体はあまり見た事が無く、山積みの中から面白そうなのを引っ張り出してはレキに尋ねた。

知識は無くとも、さすがに自分で狩った魔物の区別くらいはつくらしい。

ただ、名前までは分からないようで、「それは熊っぽい魔物の手」「手なのかっ!」などといった風にフランに説明していた。


「オーガだけでもこれだけ・・・」

「馬車どころか家も買えそうですね」


ある程度選別が終わり、リーニャ達はひとまず高く買い取ってもらえそうな素材を厳選して持っていくことにした。

最初は状態や程度を確認しようとしたのだが、どの素材も程度は良く、間違いなく買い取ってもらえるだろう。


「おそらく、含まれる魔素の量が影響していると思われる」


牙や角などは、金属に混ぜる事でその性質を変える程の魔素を含む素材である。

魔の森の魔物の物であれば、通常の素材より含まれる魔素の量も多く、同時に劣化もしないようだ。

程度が良いだけでなく、素材としての価値も通常の物よりはるかに高い。

詳しい鑑定は専門の者に頼むが、やはり魔の森の魔物はあらゆる意味で通常の個体とは違うのだろう。


「レキ、レキ、これはなんじゃ?」

「ん?

 どれ?」

「これじゃ!」


そんな中、好き勝手に部屋中を物色していたフランが、物置台に置かれていた小さな石を手に持ち、レキに見せてきた。


「つるつるでピカピカしてるのじゃ」

「ただの石にしてはとても綺麗ですね。

 レキ君、これは何か特別な石ですか?」

「ん~、ただの石だよ?」

「そうなのか?」

「うん、向こうの方にある川で拾ったやつ」


川に落ちていたせいか、表面はとても綺麗に削られ丸みを帯びている。

色は白く、光に当てればまるで宝石の様にキラキラ輝いて見えた。


「本当にただの石なのか?」

「ん~、多分?」

「ふ~む・・・」

「気に入ったならあげる」

「本当か!?」

「うん」


レキからすればただの石でも、フランにしてみれば森で見つけた宝物である。

魔の森というこの世界でもっとも危険な場所、その奥にある小屋に飾られていたとても綺麗な宝石。

レキから貰った事で、フランの中でその価値は更に高まった。


「んふふ~」

「あらあら」


先ほどの石を大事に持ち、ご機嫌な様子のフラン。

それを見守るリーニャ達も、当面の資金源が出来た事もあってとてもご機嫌だ。


「そんだけでいいの?」

「ええ、ありがとうございます」


今日の布団替わりの毛皮と、野営する際敷物として用いる為の毛皮。

袋代わりの毛皮に包まれた大量の魔物の素材。

レキのお宝部屋から有難く頂いたそれらの品は、フィルニイリス曰く王都に家が建つほどの価値があるそうだ。


と言われても家など建てた事が無いレキとフランにその価値が分かるはずもない。

レキなど家はそこら辺の森から木を切ってみんなで頑張って建てる物だと思っている為、お金がかかるとすら思っていないのだ。


良く分かっていないお子様二人は、リーニャの「お菓子食べ放題ですよ」と言われてようやくそれが途方もない金額だという事を理解した。

「やったっ!」「やったのじゃっ!」と喜び飛び跳ねるお子様二人。

お金の心配はひとまず無くなり、一行は明日に備え早めに就寝する事にした。


――――――――――


「一緒に寝ていい?」


広間に戻ったフラン達は、物置から拝借した毛皮を床に敷き詰める事で雑魚寝とは言えある程度の寝心地を確保する事が出来た。

後は明日に備えて眠るだけ。

と、レキもここで一緒に寝たいと言い出した。


「ええ、もちろんいいですよ」

「やったっ!」


相手が成人した男性なら断りもしただろう。

恩人という事を差し引いても、さすがに女性ばかりの空間に一緒に眠るのは問題が大きい。

特にフランは王族である。

未成年とはいえ見知らぬ男性と一夜を共にしたとなれば醜聞も悪くなる。


レキはまだ子供であり、一緒に寝たいというのも下心の欠片もない純粋なお願いなのだろう。

さすがにレキくらいの子供と一緒に寝ても、フラン達の世間体には何も影響はない。


数年前に両親を失い、これまでずっと一人で過ごしてきたレキ。

フラン達と出会い、誰かと過ごす数年ぶりの夜。

一人で眠るには寂し過ぎるのだ。


「えへへ~」

「レキ、こっちじゃ」


心情を察したリーニャが快諾し、フランが自分の隣にレキを誘う。


「それではおやすみなさいませ、フラン様、レキ君」

「おやすみなのじゃ」

「みんなは寝ないの?」

「ええ、私達はもう少し起きてます」

「そっか、おやすみっ」

「はい、おやすみなさい」


あれほど強いレキも睡魔には勝てないらしい。

まだ子供という事もあり、夜更かしは出来ないのだろう。

明日からの予定を詰めるリーニャ達におやすみの挨拶をし、フランとレキは先に眠る事にした。


「・・・へへっ」

「なんじゃ?」

「なんでもないっ、おやすみ、フラン」

「うむ、おやすみなのじゃ」


数年ぶりとなる「おやすみ」の言葉。

何でもないその言葉を、レキは嬉しそうに交わした。


「ふふっ、もう寝たようですね」

「なんだかんだ言ってもまだ子供だな」


よほど疲れたのだろう、フランとレキはおやすみと言い合った後間もなく寝入った。

慣れない移動と魔物との対峙、さらに小屋に来てからはしゃぎ続けたフランはともかく、レキも案外疲れていたようだ。

フラン同様はしゃいでいたせいだろうか。

それだけ、誰かと過ごすのが嬉しかったのだろう。


「なんというか・・・本当に一人で生きていたのだな」

「ええ・・・ご両親を亡くされてからずっと」

「・・・まだあんな小さいのにな」


先ほど案内されたレキのお宝部屋。

ところせましと積まれた魔物の素材は、レキのこれまでの生活の足跡でもあった。


毎日森で狩りをし、解体しては焼いて食べる。

そんな生活を三年、レキはたった一人で繰り返してきた。

孤独にも慣れていたのだろう。


リーニャ達と過ごした今日は、そんなレキに人の温もりを思い出させる一日だったに違いない。


助けてくれた時のレキは、その力もあってなんとも大きく見えたものだ。

それが今では年相応に見える。

一緒に食事をしたり、フィルニイリスに詰め寄られて困っていたり、フランと共にはしゃいだり・・・。

そんな姿を見るたびに、レキもまだ子供なのだと思うようになった。


だがらだろうか。

ただの挨拶を嬉しそうにするレキをいたたまれなく思うのは。

自分が小さい頃は、などと重ねてみても、家族が健在であるミリスやリーニャにレキの辛さや悲しさが分かるはずもない。

そもそも分かろうとする事自体烏滸がましいのだ。

レキの辛さや悲しさはレキだけのものであり、それを理解する事も、安易な同情をする事もリーニャ達には出来ないのだ。


明日から、レキはリーニャ達と共に王都へ向かう。

それがどれほど心強いか。

笑顔で眠るレキを見ながら、リーニャ達は改めてレキに感謝した。


「明日以降の予定はこれでいい?」

「ええ、大丈夫です」


予定と言っても先ほど話していた事と大差はない。

金策のめどが立ち、目的地がエラスの街に確定した事と、途中魔物と遭遇した際の動きの確認をした程度。

フランとリーニャを後方に、レキを二人の護衛に立たせ、ミリスとフィルニイリスで叩くのが基本。

二人で勝てない場合は申し訳ないがレキに対処してもらおうという方針だ。

子供のレキに任せる事への罰の悪さが無いわけではないが、優先すべきはフランの安全である。

自分達が命をかけるよりレキに任せた方が確実なのだから、この際仕方ない。


もちろんレキに無理をさせるつもりは無い。

故に、元来た方へ向かう案はレキに矢面に立ってもらう事が前提となる為却下されている。

あえて危険を冒すつもりは無く、かと言って時間をかけるつもりもない。

エラスに着いたら馬車を手配し、その後は真っ直ぐ王都へ。


そこまでを再度確認し合い、明日に向けてリーニャ達も就寝する事にした。


「私はもう少し調べ物をしてくる」

「ええ、分かりました」


小屋は魔石による結界と、外にいるウォルフ達で安全は確保されている。

夜の見張りに立つ必要もなく、リーニャ達も安心して休む事が出来るのだ。

フィルニイリスは気になる事があるらしく、魔石のある広間を出てとある小部屋に入っていった。


この小屋にある部屋の一つ。

そこはまるで書庫のように、様々な書物で溢れていた。


部屋を見渡し、置かれていたランプに魔術で火を灯す。

魔石の光はここまで届かない。

逆に、灯したランプの灯りがレキ達の睡眠の邪魔をする事も無いだろう。


灯りで照らされた部屋をフィルニイリスが見渡す。

部屋の片隅には、小屋を建てた誰か使用したであろう机と椅子が、壁際に設置されている本棚には大量の書物が並べられていた。


「これは・・・」


机の上、乱雑に積まれている書物の一つをフィルニイリスが手に取った。

書物の表紙には、こう書かれていた。


<この小屋へとたどり着いたものに、我が研究成果の全てを譲る。

 ガルストム=アーカニム>


書物に記された名前をフィルニイリスは知っていた。

魔の森と呼ばれる危険な森に小屋を建てるなど、よほどの存在だろうとは思っていたのだが、それが伝説の賢者と呼ばれている存在だとは思わず、さすがのフィルニイリスも驚きを隠せなかった。


賢者ガルストム。

約100年ほど前に存在した大賢者。

様々な薬草・毒草に精通した魔術士にして研究者。

当時では並ぶ者の無いほどの魔力を有し、千の魔物を一撃で屠ったという伝説の持ち主。

もっとも、当人はあくまで研究者であり、魔術は自分の身を守る為身につけたのだと言っている。


「賢者ガルストム・・・113年前に行方をくらませた稀代の賢者。

 知識と魔力の両方において並ぶ者のない存在。

 さらなる魔術の研鑽と叡智を求め、異大陸へ向かったと言われていたのに・・・」


薬学に地理学、歴史に神話と、ありとあらゆる研究を続け、最後には未知なる物を求めて異大陸に渡った・・・と言われていたのだが、それは誤りであったらしい。

賢者ガルストムの終焉の地、それはここ魔の森だったようだ。


「なるほど、確かにこの森は研究するに値する場所。

 魔素の濃度、森に住む魔物の強さ、裏手の毒草・・・賢者が篭もるのも無理は無い」


賢者は賢者を知る・・・。

魔の森の特殊性を考えれば、稀代の賢者にして研究者が篭もるのも当然。

フィルニイリスとて、フランの護衛という任務がなければ数日から数ヶ月は留まりたいと思っている。

ただ・・・。


「レキの方が興味深い」


今のフィルニイリスの興味は魔の森よりレキに向いていた。

故に、レキと共に王都へ向かう事に迷いはない。


「賢者ガルストム。

 あなたの研究は私が正しく引き継ごう。

 正しきことに使うことを我が魂に誓おう。

 ・・・レキに嫌われない為にも」


自分を背負う小さな背中を思い出し、フィルニイリスは今は無き賢者と己の魂に誓った。

元より悪用する気などないが、間違ってしまう事は誰にでもある。

だからこそ自分の魂に誓いを立てるのだ。

レキと敵対する事の愚かさと、レキに嫌われる事を想像しながら。


「流石にこれだけの書物を持ち帰ることは出来ない・・・か。

 研究成果は次来た時にしよう。

 ・・・でも、折角だから」


良く分からない言い訳をしながら、フィルニイリスが書物を読み始めた。


しばらくのあいだ、書庫にはフィルニイリスが書物をめくる音だけが聞こえていた。


――――――――――


「う~ん」


朝。

いつものように朝日と共に目覚めたレキだが、なぜか今日は体が思う様に動かせなかった。

普段のレキなら目覚めと共に飛び起きるのだが、まるで誰かに押さえつけられているかのように体が重いのだ。


昨日の疲労のせいだろうか?

昨日は確か・・・。


そこまで考え、そういえばと周りを見渡した。


「おはようござますレキ君。

 竈の方、勝手に借りてしまって申し訳ありません」

「おはよう、レキ。

 早めに顔を洗ってくるといいぞ」


そこには、竈に火を入れて水を沸かしているリーニャと、そんなリーニャを手伝うミリスの姿があった。


「・・・あっ!」


二人の姿に、ようやく昨日の事をレキは思い出した。


昨日はフラン達と出会い、一緒に寝たのだ。


魔の森に逃げ込んできたフラン達。

あわや殺されるところをレキが助け、この小屋まで連れてきた。

一緒に食事をして、いろんな話をして、一緒に寝て。

数年ぶりに過ごす一日。

それが嬉しくて楽しくて、はしゃいでそして・・・。


少しずつ思い出し、同時に嬉しさがレキの中からこみ上げてきた。

改めて飛び起きようとしたレキだったが、相変わらず体が上手く動かせない。


なんでだろうとレキが左右を見れば、そこには。


「うにゃ~・・・」

「すぅすぅ・・・」


レキの両隣には、レキの腕を抱え込みながら眠るフランとフィルニイリスがいた。


「フィルニイリス様はまだ寝ていらっしゃるようですね」

「起きるのは遅いからな」

「夜寝るのも遅いのですけどね」

「・・・こんな時くらいなんとかならんのか」


そんなフィルニイリスの姿に苦笑を浮かべるリーニャと、ため息を漏らすミリス。

その反応を見るに、どうやらフィルニイリスが朝寝坊するのはいつもの事のようだ。


「えっと」

「ん?」

「ん、どうしたレキ?」


そんな二人とは対照的に、レキは満面の笑みを浮かべ、そして元気にこう言った。


「おはようっ!」

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