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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十章:学園~野外演習 後編~
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第212話:野外演習終了

レキが戻った時、みんなは昼食の支度を始めるところだった。


メニューはサリアミルニスが言った通り野草たっぷりのサラダ。

それに、学園から持ってきた干し肉とレキが採ってきた木の実である。


サリアミルニスの調理が良かったのか、思ったより美味しいサラダに舌鼓を打ちながら、相変わらず和気あいあいと食べるレキ達。

食事が終われば、一行は森を抜け学園へと戻る事になる。


「レキ様、何か良い事でもあったのですか?」

「えっ?」


食事中、いや戻ってからずっと機嫌の良いレキ。

その理由はもちろん、リーニャやガレムと久しぶりに会えたから。


「いえ、いつもよりご機嫌がよろしいようなので」

「ん~、そうかな~?」

「そうじゃな。

 何かいつもより楽しそうじゃ」


もちろんフランやルミニアにその事を言うつもりはない。

隠し事をするのは良くないが、リーニャに内緒ですよと言われた以上内緒にしなければならない。

レキにとっても、リーニャは優しくも厳しい姉のような存在なのだ。


「ん~・・・内緒っ」

「にゃ!」

「まぁ、ずるいですわ」

「そうじゃ、ずるいのじゃ!」

「ねぇねぇ、何の話?」

「私達も混ぜなさいよ」


フランとルミニアが左右からレキの肩をつかんで揺さぶる。

楽しそうな三人のやり取りにユミやミームも加わり、昼食はいつもどおり賑やかに過ぎていった。


――――――――――


「これから森を抜けて学園に戻るわけだが」


昼食も終わり、片付けが終了したところでレイラスが生徒達を集めた。


魔物の脅威を思い知らせるという学園側の仕組んだ演習の裏の目的も、予定とはだいぶ違ったが達成された。


カルクとミームはそれまで雑魚と侮っていたゴブリンに殺されかけた事で、自分がどれだけ自惚れていたかを思い知っただろう。

知識としては知っていたガージュやユーリも、実際に戦ってみる事でその脅威を実感したはずだ。

何度も対峙した事のあるルミニアでさえ、自分の考えが甘かった事を痛感している。


そんな彼ら彼女らの顔を見ながら、レイラスがこれからの事について話を続ける。


「知っての通りこの森にはゴブリンがいる」


知っているも何も実際に対峙し、数匹ならば撃退した。

だが、森にはまだまだ多くのゴブリンが存在している。

それらが再び襲ってこないとは限らないのだ。

所詮は魔物。

好物である女子供の集団が森を移動するとあっては、撃退された事も忘れて涎を垂らしながら襲ってくるだろう。


レキやミリス達は基本的には追い返しただけで、ほとんど殺していない。

理由は、次にやってくる他の生徒達にもカルクやミームの様にゴブリンの脅威を身をもって知ってもらう為だ。

数を減らしすぎてはゴブリンが警戒しないとも限らず、何より遭遇する確立が下がってしまう為、あまり殺さず追い返すだけに留めたのである。


「無理に戦闘する事はない。

 我々は騎士団でも冒険者でもない。

 ただの学園の生徒だ。

 ゴブリンの集団に手こずる程度のな」

「う~・・・」


レイラスの言葉に不満を漏らしたのはカルクかミームか。

それがまぎれもない事実であり、何より本人たちが身をもって味わっただけに、不満は漏らせど反論はできなかった。


「魔物を放置して良いのですか?」


という疑問も出たが、それも「お前達はあくまで学生だ」という言葉と、何より「ではどうする?」と問われて何も言い返せずに終わった。

自分達でどうにも出来ないのだから、意見など言える立場にはない。

自分達の無力さを噛みしめるだけだった。


話し合いの結果、帰りはなるべくゴブリンに見つからないよう、静かに移動する事になった。

フラン辺りが心配ではあるが、無駄に騒ぎ立てるような真似はしないだろう。

他の賑やかし要員であるカルクとミームも、今回ばかりは何も言わなかった。


先頭はいつものようにレキ。

森の中を移動する為、レイラス達もすぐ後ろについている。


再び襲われた場合を想定しての布陣。

レキが前方のゴブリンを撃退し、左右から来るゴブリンは接近される前に魔術で迎撃する。

後方から来るゴブリンは、当然レイラス達が排除する予定だ。

魔物の脅威を生徒達が知った以上、レイラス達も遠慮なくその力を振るう事が出来る。


昨日の反省を踏まえ、レキ達はあらゆる想定を行った上で移動を開始した。

いつ襲われても良いよう常に気を配りながらの移動だったが、ゴブリンの方もそれなりに被害を被った為か、結局森を抜けるまで襲撃は無かった。


結局、レキ達は何の問題もなく森を抜ける事が出来たのだ。


「出たのじゃ~!」

「お~!」

「ふふっ、お二人ともお元気ですね」


森を抜け、更に離れた場所まで移動したのち、フランとレキが両手を上げて思いっきり叫んだ。

警戒をしながらの移動は少なからず緊張するもので、普段賑やかに移動するフランとしては精神的にも疲れたのだろう。

レキはそんなフランに付き合っただけだ。


「う~、もやもやする~」

「ちっくしょ~、来るなら来いってんだ・・・」


フラン同様、いつもは賑やかし要員であるミームとカルクはと言えば、こちらはぶつぶつと文句を言いながら天幕の設営を行っていた。

道中、いつゴブリンが襲い掛かって来ても良いように気を張っていた為か、何事もなく森を出られた事で逆にもやもやしてしまったようだ。


森を出れば、学園までは平原が続く。

もう魔物の襲撃はないだろう。

ミームとカルクの胸に溜まった鬱憤は、学園に着くまでは晴れそうに無かった。


流石の二人も、先日のようにこっそり抜け出して森に入るという愚行を起こすつもりは無い。

二度のゴブリンとの戦いで、己の実力不足を嫌というほど思い知ったからだ。


森という環境。

集団戦闘における立ち回り。

そしてゴブリンという魔物の脅威。


今のミームとカルクにゴブリンの群れとの戦闘は荷が重い。

学園側が用意した野外演習の裏の目的は、この二名にはこれ以上ないほど効果があったらしい。


「お食事出来ました」

「野草もまだまだたっぷりありますから、お代わりしたい方は遠慮なさらずどうぞ」

「うにゃ~、またか・・・」


ファラスアルムとサリアミルニスの森人コンビが用意した、森で採れた野草や木の実をふんだんに使用した夕食。

干し肉もまだまだ残ってはいるものの、昼間に取った野草も早めに処理しなければならず、今宵の夕食で大量に消費される事になった。

こうも続けて野草尽くしとあってか、野菜嫌いなフランが不満の声を漏らしつつ、森から出れた解放感もあって今宵の食事も賑やかに進んだ。


「う~む、終わってみればあっという間じゃったのう」

「フラン様、まだ終わってませんよ」

「そうだよ~、まだ二日あるんだから」

「それに、まだ魔物が出ないとも限りませんし」

「そうよ、まだ出るかも知れないわよ」

「でるかのう~?」


野外演習も後は学園に帰るだけとあって、すっかり終わった気分になっているフランである。

事実、野外演習の目的である森の湖には辿り着けたわけだし、途中で魔物との戦闘も経験した。

予定されていた内容は、全てすべて消化したと言って良い。


もちろんこれから学園に戻る際に何か起きる可能性も無くは無い。

例えば森からゴブリンが追いかけてくるだとか、他の魔物が突然現れるだとか、あるいは学園の生徒を狙った野盗が襲ってくるとかだ。

そのどれも可能性としてはゼロではなく、だからこそ帰りも油断せず警戒しながら移動する必要があるだろう。


と言っても、そのどれもが生徒達には内緒で対処されていたりするわけだが。


森のゴブリンは後方にいるミリスやフィルニイリスが警戒している。

平原の魔物に関しては、あらかじめレイラス達学園の教師達が討伐済みで、野盗などは森の裏側にいる王国の騎士団が警戒している。


また、フラン達に経験を積ませる為、今までレキには自重してもらっていたが、森を抜ければそれももう必要は無いと、レキにもしっかり周囲を警戒してもらっている。

森に入る前、フィルニイリスから自重するよう言われた魔力による索敵も全力で行っており、その影響で弱い魔物は寄り付きすらしない。

万に一つも生徒達に危険はないだろう。


ゴブリンとの対峙で魔物の脅威を知った生徒達。

それ以上の経験をさせるつもりは、学園側には今はまだない。


知らぬは生徒達ばかり。

野営の際にはしっかりと見張りを立て、移動の際にも周囲の警戒を怠らない。

森に入る前であればどこか緩んでいたフラン達も、実際に魔物と戦った後ではそんな意識は無くなっていた。

カルクやミームは当然として、フランですらそれとなく周囲に気を配りながら移動している。


野外演習の成果は、こんなところにも現れていた。


――――――――――


「着いたのじゃ~!」

「お~!」


そうして移動すること二日。

レキ達最上位クラスの生徒は、五日間の野外演習を無事終了してフロイオニア学園へと戻ってきた。


学園のあるアデメアの街の入口で両手を上げて叫ぶフランと、それに付き合うレキ。

五日間の過酷(?)な演習を終えたというのに、この二人は元気そのものである。


「着きました」

「疲れたね~」

「は、はいぃ~・・・」


そんな二人の後ろ、ルミニアやユミ、ファラスアルムの三人は、さすがに疲れたようで叫ぶ元気が無かった。

あったとしても叫ばなかっただろうが、三人は普通にお互いを労わり合った。


五日間の野外演習。

日中は歩き通し、夜も見張りに加えて慣れない野外での就寝では満足に眠る事も出来ず、さらにはゴブリンとの戦闘をも経験し、心身共に疲れ切っている。


人一倍体力の少ないファラスアルムなどは返事もまともに返せないほどだ。

もう一日野外演習が続いたなら、おそらくは一言も発せなくなっていたかも知れない。


「はぁ~、何なのあの二人」

「ふふっ、さすがのミームさんもあのお二人にはついていけませんか?」


獣人であるミームですら、出来るならこのまま寮のベッドで眠りたいと思っているくらいだ。

それだけこの五日間は過酷だったという事だろう。


「ったく、本当に元気だなあいつら」

「ははっ、レキはともかくフラン様はすごいな」

「全く、どうなってんだあの二人は」

「むぅ・・・」


そんな女子(+レキ)の後ろをガージュ達が続く。

こちらも疲労はだいぶ溜まっているものの、そこは男子の意地なのかしっかりと歩いていた。


貴族は基本的に移動の際は馬車を用いる。

嫡男であるガージュは当然、三男であるユーリも、機会こそ少なかったが領内を移動する際は馬車だった。

今回のように丸一日歩き通した経験など皆無なのだ。

鍛錬と称して村内を駆け回っていたカルクや、日ごろ父親について炭坑内を歩き回っていたガドはともかく、レキが天幕など共通の荷物を一人で持ってくれなければ、ガージュやユーリもこれほど余裕は無かっただろう。


「よしレキ!

 宿屋に行くのじゃ!」

「なんで?」

「リーニャがおるからに決まっておるのじゃ!」

「あっ!」

「なんじゃ、忘れておったのか?

 全くしょうがない奴じゃのう」


疲れ切った仲間を無視し、フランはリーニャが待っているはずの宿屋へと向かおうとした。

野外演習の初日、護衛として王国から派遣されてきたミリスからリーニャも学園のあるアデメアの街の宿屋で待っていると聞かされた事を覚えていたのだろう。

さすがに野外演習をさぼるわけにもいかず、終わるまでずっと我慢していたフランである。

街に着いた事で、いてもたってもいられなくなったようだ。


その我慢ももう必要ない。

誰に遠慮する事なく会いに行ける・・・。


「まずは学園に戻れ」


とはいかなかった。


「にゃ!?

 なぜじゃ!?」

「学園に戻るまでが野外演習だからだ。

 ちゃんと学園に戻って終了報告をしろ」

「にゃ~・・・帰りにちょっと寄るだけなのじゃが」

「ダメだ」

「うにゃ~・・・」


学園を出発し、学園に戻るまでが野外演習である。

つまり今はまだ野外演習の最中。

理由もなく寄り道するなど許されなかった。


レイラスに言われ、しょんぼりとするフランである。


「まずは学園に戻り、終了報告書を提出しろ。

 後お前達は五日間もの間移動と野営を続けていたのだぞ?

 自分達が思っている以上に疲れているはずだ。

 今日はおとなしく寮に戻って休め。

 いいな」

「うにゃ!

 わらわはまだ元気なのじゃ!」

「ダメだ」

「うにゃ~・・・」


追い打ちをかけるように告げられたレイラスの言葉。

フランの言い分が通るはずもなく、しょんぼりが深まるだけだった。

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