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黄金の双剣士  作者: ひろよし
十章:学園~野外演習 後編~
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第197話:三日目の始まり

「・・・、・・・!」

「ん・・・」

「・ー・さ・、ミ・・ムさんっ!」

「ん~・・・」

「ね・、ミー・!」

「んん~・・・」

「ミームさん、ミームさんっ!」

「・・・レ」

「ミームっ!!」

「わあっ!?」

「ふぎゃっ!!」


ガバッ!ゴンッ!!と、かかっていた外套を跳ね上げ、ミームが飛び起きた。

覗き込んでいたフランの額がごっつんこし、フランが額を抑えながら悲鳴を上げた。


「うにゃ~・・・。

 な、何をするのじゃミームっ!!」

「・・・こ、ここは?」

「ここは天幕の中ですよミームさん。

 昨夜の事、覚えていますか?」

「昨夜・・・あ」


涙目で抗議するフランをよそに、額を赤くしたミームが周りを見渡す。

昨日の事件が尾を引いているのか、あるいは先程まで見ていたであろう夢のせいか、少々記憶が混乱しているようだ。


森から出てきたゴブリンを追いかけ、昨夜カルクと共に森へ入ったミーム。

深追いし過ぎたのか、彼女達はゴブリンの群れに囲まれ危うく命を落とすところだった。

異変に気づいたレイラスの迅速な指示と、三年もの間魔の森で生きてきたレキによって一命をとりとめた二人は、レイラスの鉄拳付きのお説教の後に解放され、その後糸が切れたように眠りに落ちたのである。


「あ、あの・・・」

「お聞きしたい事は山ほどありますが、まずは食事にしましょう」

「うにゃ~・・・」


何か言いたげなミームを制し、ルミニアが食事を促す。

本日は野外演習の三日目。

いよいよ森へと入る日だ。

昨夜の事もあり、万全にしておきたいのだろう。


ルミニアの提案に先に起きていたユミとファラスアルムが頷き、二人でミームの手を引きながら天幕の外へ向かう。

赤くなった額を押さえるフランの背をルミニアが押した。


「だからっ!

 なんでお前達はいちいち魔術で起こそうとするのだっ!」

「む?」

「ははっ・・・流石にエル・ボールは痛いね」

「むぅ」


天幕の外では、先に起きていたガージュとユーリがガドに何やら抗議をしていた。

フラン同様二人もまた額を赤くし、ついでに涙目になっている。


どうやら、ガドは昨日のレキを真似て魔術を使って皆を起こしたようだ。

ガドが使えるのは赤系統と黄系統。

使用したのはおそらく、黄系統の初級魔術エル・ボールだろう。

二人の額が赤いのは、土の塊をぶつける魔術を食らったからだろう。


「ふわぁ~・・・朝かぁ~」


そんな三人の後ろを、あくびしながらレキが続く。

ガージュやユーリと違い額が赤くなっていないところを見れば、ちゃんと起きたのか、避けたのか、あるいは効かなかったのかも知れない。


そんなレキも眠気には勝てないらしく、先程から頻繁にあくびをしながら目をこすっていた。

昨夜の件で寝不足気味なのだろう。

有事になればしゃっきりするだろうし、むしろあんな事があったにも関わらず呑気なレキを、ルミニア達は頼もしく感じている。


そしてもう一人。


「・・・エル・ボールとルエ・ブロウとリム・ブロウの三つはやりすぎだろ・・・」

「ふん。

 エド・ボールを食らわなかっただけマシだと思え」

「まあ最後まで起きなかったカルクが悪いね」

「む!」

「ふわぁ~・・・もう一回やる?」

「・・・いらねぇ」


赤くなった額をさすりながら、カルクが天幕から出てきた。

レキ同様、あるいはレキ以上に昨日の疲れがあり、最後まで眠っていたが為に三人から攻撃を食らったようだ。

ガージュのエド・ボールが加われば、晴れて四系統の初級魔術を全て食らった事になるのだが、流石に燃やすのはやり過ぎだと思ったようだ。


疲労と眠気以外は普段どおりのカルクを見て、ルミニアはそっと安堵した。


ミームはどことなくしゅんとしていて、どう見ても普段どおりではなかった。

これでカルクも落ち込んでいたら・・・と心配していたルミニアたが、杞憂に終わったようだ。


それを見越しての悪ふざけだったのでしょうか?

ミームさんが元気になるなら見習うべきかも?

などと考えるルミニアである。


流石にあの男子特有のノリは貴族の娘として育った自分には難しく、出来るのはフランくらいだろう。

他にできそうなのはミームくらいだが、そのミームを元気づけなければならない以上やはり自分達なりに何かする必要があるのかも知れない。

とりあえず朝食にしましょうと、ルミニア達もわいわい騒ぐ男子達の輪の中に入って行った。


レキを見るミームの顔が赤いのは、おそらく気の所為だろう。


――――――――――


それなりに賑やかな朝食も終わり、レキ達は焚き火を中心に円を作った。

話す話題は昨夜の事とこれからの事。


カルクとミームが独断で森に入り、危うくゴブリンに殺されかけた。

レキ達の強烈な励まし(?)のおかげでいつもの調子を取り戻しているカルクと違い、ミームはまだしゅんとしている。

出来るならそっとしてあげたいところだが、森に入る以上話をしなければならない。


「・・・ごめん」


最初に口を開いたのはミームだった。


「みんな、迷惑かけてごめん。

 勝手に森に入って、ごめん。

 それと・・・ありがと」


最後にちらっとレキを見つつ、ミームが謝罪と感謝の言葉を告げた。

勝ち気で、めったな事では謝らないミームの態度に、寝起きの様子を知らない男子勢がこぞって驚いた。


「な、何か悪いものでも食ったのか・・・」

「打ちどころが悪かったんじゃ」

「むぅ?」

「先生の拳骨のせいじゃね?」

「眠いの?」

「何よっ!」


思い思いの言葉を投げかける男子達。

同じ目にあったはずのカルクですら、ミームの様子に困惑していた。


自分も原因の一人なクセに、一緒になってミームをからかうカルクである。

彼の前向きな性格は、たった一晩の反省とお説教、睡眠によって調子を取り戻せるようだ。


そんな男子達の言葉にミームが声を荒げる。

折角謝ったのにと、ぶつぶつ呟き出した。


「・・・カルクさんも言う事があるのでは?」

「うっ・・・すまねぇ」


そんなミームに苦笑しつつ、ルミニアがジトッとした目をカルクに向けた。

しっかり反省し、ミームは皆に頭を下げた。

そんなミームをからかう権利は、少なくとも共犯であるカルクには無い。


昨夜の経緯を、反省の意味を込めてカルクに語らせる。

時折ミームが補足を入れるも、内容はレイラスに釈明した時と同じだ。

皆に迷惑をかけないようにと勝手にとった行動。

そのせいで逆に皆に迷惑をかける羽目になった事をガージュに鼻で笑われながら、カルクは一通りの説明と謝罪を済ませた。

それらを受けた面々の反応は様々だったが、二人が無事ならそれでという意見でまとまった。

二度とするなと釘を刺す者もいたが。


「うん・・・ごめん」

「わるかった」


最後にもう一度、二人が深く頭を下げた。

こうして謝罪が出来るのも生きて帰ったからだと、昨夜レイラスに言われた事が身にしみたようだ。


一通りの説明と謝罪が終わり、元々調子を取り戻していたカルクは完全に元通り。


「次は負けねぇ!」


などと剣を振り上げながら宣言する姿はいっそ頼もしくもあった。


「あ、あたしだって・・・」


カルクに遅れてミームも声を上げる。

ただ、いつもと比べて明らかに覇気が無い。

やはり、死にかけた事が尾を引いているのだろう。


冒険者に憧れるカルクと違い、ミームは強くなりたいという想いで鍛錬を続けてきた。

自分の実力にはそれなりに自信を持っていたが、学園に来てからと言うものそれはただのうぬぼれ、世間を知らなかっただけだと今は思っている。

レキは言うに及ばず、フランやルミニアにも負け越しているのだから、自信を失うのも無理はない。


それでも、ゴブリンくらいなら倒せると思っていた。


レキはたった一振りでゴブリンの群れを一掃したという。

フランやルミニアも、訓練を兼ねレキに付いてゴブリンと戦った事があるらしく、数匹程度であれば倒せるらしい。


対して、昨夜のミームは複数のゴブリンに捕まり、殺されかけた。

ゴブリンが群れを成す魔物だという事くらいミームだって知っている。

詳しい生体、群れで行動する際の習性や獲物を追い込むような戦いをする事までは知らずとも、一匹見たら数匹はいるのがゴブリンだというのはこの世界の常識なのだ。


だからこそ、昨夜はその一匹を見つけて即座に排除しようと考えた。

仲間を呼ばれるより先に倒してしまえば問題ないと、そう判断したのだ。

その一匹が斥候だとも知らずに。


結果・・・二人はむざむざ追い込まれ、危うく命を落としかけた。


強さを求めるミームは、弱さがもたらす結果を知らなかった。

自分は強いのだからと、負けた時の事など考えていなかったのだ。


レキ達との手合わせで負ける事はあっても、それは所詮ただの手合わせ。

精々怪我をするか馬鹿にされるか、あるいは昼食のおかず(主に肉)を一品取られるくらい。

負けた対価が自分の命である事など実戦では当たり前なのに、その当たり前を知らずにいたのだ。


身をもって知ったのが昨夜の戦いであり、一歩間違えればそこで全てが終わっていた。


これまではただ純粋に戦いを楽しんでいたミーム。

だが、戦いとは楽しいだけではないという事を、ミームは知ったのだ。

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