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黄金の双剣士  作者: ひろよし
九章:学園~野外演習 前編~
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第192話:異変

フランとユミが見張りを終え、次のカルクとミームに交代した頃。

レイラス達護衛側では、本日最初の見張り役であるフィルニイリスが生徒達を見守りながら魔力による索敵を行っていた。

残念ながらその有効範囲はレキに及ばず、歩いて二時間程度の範囲でしかない。

それでも視界の悪い夜や森の中であれば十分に有効だった。


目視に頼れない状況下である以上、気配や魔力に頼るしか無い。

現状、魔力による索敵が行えるのは生徒ではレキだけ。

護衛側も、フィルニイリスとサリアミルニスの二人だけである。


よって、レキが見張りに立たない一組目と二組目の途中まではフィルニイリスが、四組目の途中と五組目をサリアミルニスがそれぞれ請け負う事になっている。

サリアミルニスが最後なのは、そのまま護衛達の朝食の支度も行うからだ。


二組目の後半と四組目の前半には若干の空白期間が生まれるが、そこは仕方ないと割り切っている。

索敵が行えずとも森からゴブリンが出てくれば嫌でも分かるだろうし、生徒達の野営場所と護衛達のいる場所はさほど離れていない為、万が一でも十分間に合うはず。


生徒達の動向までは探れないが、森からある程度離れておけば問題は無い。

もし何かあれば、その時は生徒達も騒ぐだろうし、ルミニアならこちらへ救援を求めてくるだろう。

それ以前にレキがなんとかするに違いない。


そう言った信頼もあり、レイラス達はギリギリまで見守る事にしていた。


これまでの二日間、何の問題もなく、実に順調に、例年になく優秀に事が進んでいた為、レイラス達も油断していたのだ。


――――――――――


異変に気づいたのは、フィルニイリスと交代で見張りについたレイラスだった。


魔力による索敵は出来ずとも、森も生徒達も十分視認できる距離にいる。

森から離れた場所で野営を行っている為、生徒もレイラス達も火を炊いており、それがある意味目印にもなっていた。


だからこそ、その火の周りにいるはずのカルクとミームの姿が無い事に気づけたのだ。


「ん?

 フィルニイリス様、カルクとミーム=ギの姿が見当たらないのですが・・・」

「厠では?」


いないからと言って、それが万が一の事態になっているとは流石のレイラスもこの時点では考えてもいなかった。

フィルニイリスの答えもある意味予想していたもので、あるいはそうであって欲しいと願ったものだったのかも知れない。


「しかし、二人共いないとなると・・・」

「見張りの際、所用を済ます場合は一人ずつという原則は?」

「当然教えてあります。

 ですから二人共いないというのが・・・」


とは言えそこはまだ子供。

用を足す以外にも、何か用事があって持ち場を離れる事もあるだろう。

例えばお茶が切れたとか、薪が少なくなったから取りに行ったとか。


子供というのは基本的に夜の闇を怖れるもの。

特にこういった場所では、僅かな時間でも一人きりになるのを嫌がる子供は多い。

厠かお茶や薪を取りに行ったのかは知らないが、一人では心細いからと二人揃って持ち場を離れたのだろう。


と、レイラスは考えた。


焚き火に照らされた生徒達の野営場所は、少し離れた場所にいるレイラスからも確認できる。

用を足す場所も薪の置き場所も、どちらも焚き火や天幕からさほど離れていない場所にあり、焚き火の明かりが届く範囲内である。


そして、そのどこにもカルクとミームの姿は無かった。


「・・・まさか」

「レイラスは生徒を。

 私もミリスとサリアを起こしてすぐ向かう」

「分かりましたっ!」


言うが早いが即行動に出たレイラスとフィルニイリス。

流石に見張りをサボって天幕で眠っているとは考え辛く、かと言って焚き火の明かりが届く範囲内にいないとなれば、答えは一つ。


夜の闇の中、魔物の巣食う森へと入って行ったとしか考えられなかった。


――――――――――


普通に考えればありえない行動である。

時に無謀とも言える行動を取る冒険者とて、夜の森に入るという愚行はそうそう起こさない。

ただでさえ視界の悪い夜の森で、いるのはその森に適した魔物だからだ。


ゴブリンはその最たるモノ。

暗緑色の皮膚も、人の子供位の背丈も、どれも森に紛れるのに適した身体的特徴である。

むしろ森に適応する為そのように進化したのかも知れない。

森はゴブリンにとって有利な、人々にとっては不利な場所。

そんな夜の森にわざわざ入っていくなど殺されに行くようなものだろう。


なまじ自分達の実力に自信があり、森や魔物の知識に乏しい子供達だからこその行動。

ここまで無謀な行動をとるなど、レイラスは子供の行動力を甘く見ていたようだ。


いや、カルクは常々冒険者への憧れを口にしていた。

ミームはミームで、己の力を試したがっているフシがあった。


森にゴブリンを倒しに行く。

如何にも冒険者らしい、いや冒険者に憧れる子供らしい行動だ。

いつもレキ達とばかり手合わせしているミームにしても、ゴブリンは己の力を試す絶好の相手なのだろう。


真夜中の森へ向かうという行為の愚かしさが分かっていない辺りも、実に子供らしい。

その代償が己の命だと分かっていない辺りが特にだ。


もちろんそんな代償を払わせるつもりは無い。

どんなに愚かな行為であろうとも、彼らは生徒でレイラスは教師なのだから。


生徒がとった愚かな行為、その罰は教師による鉄拳でなければならない。

間違っても「死」などという罰を与えてはいけないのだ。


今まさに死地へと向かっているであろうカルク達。

彼らを救い、そして鉄拳を食らわせる為、レイラスは足を早めた。


――――――――――


「起きろっ!

 緊急事態だっ!」


生徒達の野営の場所へたどり着いたレイラスは、手前にあった女子の天幕を躊躇なく捲り上げ、眠っていたフラン達女子を叩き起こした。


「うにゃ!

 なんじゃ!」

「先生っ!?」

「えっ?

 えっ?」

「なんですか!?」


「着替えて天幕を出ろっ!

 急げっ!」

『は、はいっ!』


驚き飛び起きたフラン達に、口早にそう告げたレイラスは続けて男子の眠る天幕へ向かう。


「起きろっ!」

「はいっ!」

「なっ、なんだ!」

「えっ?

 先生ですか?」

「む!?」


引き続き男子も起こした。

コレだけ騒がしくすれば、疲れていても起きるようだ。

レキだけはレイラスが起こすより先に起きていたようだが。


とにかく今は時間は無い。

カルクとミームがいなくなったのが何時かは分からないが、見当たらない以上既に森の中へと入っている可能性は高い。

ゴブリンと接敵していない事を祈りつつ、早急に彼らを見つけなければならなかった。


「全員天幕の前に集合っ!

 念のため戦闘準備もしておけっ!

 いいなっ!!」

「はいっ!」

「「は、はい」」

「む!」


生徒達を捜索に当てるつもりはないが、自分が留守の間に他の魔物が来ないとも限らない。

森の近くでコレだけ騒ぎ、更にはこの後自分が森の中へと入って行く。

ゴブリンに、自分達の拠点となるこの野営地を教えるような物である。


それより先に戻ってくるつもりではあるし、カルクとミームを探すついでにゴブリンを間引くつもりもある。

そうすれば、ゴブリンもカルクとミーム、それに野営地に残るレキ達より自分に目を付けるだろう。

こちらに引き付けられればそれで良し、恐れて森の更に奥へと逃げていけばなお良しだ。


何れにせよ、カルクとミームが接敵するより先に行動を起こす必要があった。


「揃ったな。

 今から私達は森へ入る。

 お前達はこの場所で待機するように。

 万が一森から魔物が出てきたなら、無理せず逃げる事を優先しろ」


天幕の前に集合した生徒達。

何故こんな夜中に起こされたのか、疑問に思う者が殆ど。

人数が足りない事に気づいている者はわずかだった。


「先生」

「なんだ、ルミニア=イオシス」

「先生方は何故森に?」


おそらくは生徒の中で最も事態を把握しているであろうルミニアが、確認の意味を込めてレイラスに問いただした。

その横では、レキが何かを探すように、森の方を見つめている。


「お前達も気づいているだろう。

 カルクとミーム=ギの両名が現在行方不明だ。

 おそらく森に入ったものと思われる」

『っ!』

「・・・本当ですか?」

「残念ながらな」


予想はしていただろうルミニアも、まさかという思いは拭いきれなかった。


「急がないとお二人がっ」

「落ち着けっ!」

「ですがっ!」

「お前が慌てたところで何も変わらん」

「そ・・・はい」


どうにかしなければ、という思いは強い。

だが、実際今のルミニアの実力では、夜の森でゴブリンを相手取るのは少々難しい。

ただでさえ薄暗く見通しの悪い森で、相手はその森に溶け込むかのような特徴を持つ魔物なのだ。

それが群れを成し、四方から襲い掛かってくる。

昼間ならまだしも、夜の闇に紛れ、群れをなして襲い掛かってくるゴブリンを相手に、今のルミニア達では勝ち目はないだろう。


レイラスに窘められ、ルミニアは落ち着こうと自制した。


状況は刻一刻と悪化している。

今にもカルクとミームがゴブリンと相対するかもしれない。

そこで逃げてくれれば良いが、彼らの性格なら逃げるより戦う事を選ぶだろう。

と言うか、ゴブリンと戦う為森に入った可能性が高いのだ。

カルクとミームの方からゴブリンに攻撃を仕掛ける可能性すらあった。


だからこそ一刻も早く救出に向かわねばならないのだ。


「いいか。

 カルクとミーム=ギ両名の捜索は私達が行う。

 その間、お前達はこの場で万が一に備えろ」

「万が一とは?」

「森から出て来る魔物の相手だ」

「なっ!?」


レイラスも急ぎ森へ向かうつもりである。

だが、生徒達を残して森に入る事への不安があった。


レイラス達は生徒達の護衛として付き添っている。

それは明日以降の森に入ってからの話だけではなく、不意に遭遇するあらゆる事態に備える為だ。


平原とて魔物は出るし、それ以外にも野盗やら人攫いやら、あるいは柄の悪い冒険者などが絡んでくる事もある。


最上位クラスの約半数は王侯貴族であり、質の悪い者からすれば格好の獲物だろう。

いくら強くともまだ子供。

相手が力づくで来たなら自衛のしようもあるだろうが、搦め手で来た場合対処しきれない可能性もある。


その為、こうしてレイラス達が付かず離れず見守っているのだ。


森に入ったであろうカルクとミーム。

両名の捜索には、レイラスを含めた大人四人で出向く必要がある。

それほど大きくない森ではあるが、夜という時間帯が捜索を困難なものにする。

日中であれば足跡やら木々についた痕跡から後を追う事も出来るだろうが、夜の闇はそれらすら覆い隠してしまうのだから。


幸いにして、レイラス達は誰もが一騎当千の強者である。

個々に別れたとて、ゴブリン程度なら軽くあしらえるだろう。


それでも時間は限られている。


「私達はコレより森に入る。

 その間お前達の護衛を務める事は不可能となる。

 つまり、私達が戻るまでの間はお前達だけで対処しなければならないという事だ」


だからこそ、レイラス達は総力を上げて捜索にかからねばならず、故に生徒達を護衛する者はいなくなってしまう。

万が一ゴブリンが森から出てきた場合、生徒達だけで対処しなければならないのだ。


森から多少離れた場所なら四方を囲まれるような事態にはならないだろう。

距離さえ取れれば遠距離から魔術で牽制する事も可能だ。

怯んだ隙に攻撃すれば撃退する事も叶うだろう。


最悪、この場から離脱すれば良い。

森の中であれば相対的に素早いゴブリンでも、障害物のない平原であれば移動速度は人とそう変わらない。

魔術で牽制しつつ逃げれば、おそらくは問題ないはずだ。


後は、自分達が戻るまで時間を稼いでくれれば良い。

撃退出来ずとも、せめて生き残ってさえいてくれれば。


今はそう願うしか無かった。


幸い、今年の最上位クラスの生徒達は誰もが優秀である。


ルミニアは十歳にして大人顔負けの知識と、それを生かせるだけの知恵がある。

普段は大人しいファラスアルムも、知識だけならルミニア以上だ。

フランは自然と皆をまとめるカリスマがあり、ユミは適時補佐が出来る。

ガドは、普段はファラスアルム以上に自己主張をしないが、その分専門分野では人が変わったように己の意見を主張する。

ガージュも協調性こそ足りないが、その代わり彼女達とは異なる視点で物事を考えられる存在である。

そんなガージュと彼女達の橋渡し役として、また個性の強いクラスの連中の潤滑剤としてユーリもおり、最上位クラスは今のところ上手く回っている。


そして何より、最上位クラスにはレキがいる。

武術も魔術も随一のレキがいれば、よほどの事が無い限り生徒達は無事でいられるだろう。

実際どれほどの実力があるのかは、全力を見た事のないレイラスでは知りようが無い話だが、少なくともゴブリン等は相手にもならないはずだ。


流石にまだ子供のレキを夜の森に向かわせるつもりは無いが、この場に残る子供達の護衛としてならば安心して任せられるだろう。


「あの・・・」

「ん?

 なんだルミニア=イオシス」

「カルクさんとミームさんの捜索でしたら、レキ様が探されたほうが確実かと」


そう考えていたレイラスに、レキを良く知るルミニアから提案があった。

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