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黄金の双剣士  作者: ひろよし
九章:学園~野外演習 前編~
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第188話:二日目の朝

誤字報告感謝です。

頑張っている女の子は褒めなければいけません。

そうレキに言ったのは誰だっただろうか。


誰彼構わず褒めてはいけません。

とも言われた。


褒めるなら親しくなった女の子だけにしなさい。

例えばフランとか、フランとか、あとフランとか。


過去そんな事を言われたレキだが、フラン以外を褒めてはダメだと言われた訳ではない。

頑張っているのはフランだけではないのだ。

昨日からずっと、いや、出会ってからずっと頑張っているファラスアルムも褒めたくなったのだ。


そんなレキの言葉がファラスアルムにどれほど影響を与えたかなど、レキは知らない。


落ちこぼれと称され、ろくに褒められた事のないファラスアルムである。

レキの言葉がファラスアルムの心にどれほどの温もりを与えた事かなど、おそらくはレキで無くとも分からないだろう。


「そろそろかな?」

「えっ、もうそんな時間ですか?」


あれからも、レキとファラスアルムは満天の星空の下で取り留めのない話をしていた。

気が付けば、東の空は随分と明るくなっていた。


若干の疲労と眠気はあれど、心はすっきりとしていた。

眠る前は「明日も歩かなきゃ」と若干気を重くしていたファラスアルムは、レキとの会話で「今日も頑張ります」と気合を入れていた。

地図係という役目も「オレ、地図読めないし」というレキの言葉に「私がちゃんと見てますから」と言い返せるようになった。

旅や野営に慣れているはずのレキが地図を読めない事に、内心驚いていたりするが。


他に任せられる事が無いから地図係なのではなく、地図が読めるから地図係を任されたのだという事を、今になって知るファラスアルムであった。


「朝ご飯どうしよっか?」

「えっと、どうするとは?」


胸の不安がすっかり消え、昇りくる朝日を清々しい気持ちで受け止める事が出来たファラスアルム。

その横では、レキが朝日に向かって伸びをしていた。


「ん~、皆起こしてから作る?

 それとも先に準備だけしておく?」

「えっと、いつもはどうされているのですか?」

「ん~、いつもはリーニャとかサリアがやってくれるから・・・」

「そうなのですね」


野営によくある光景だが、もちろんファラスアルムは初めて。

朝の光を浴びながら、レキを真似て軽く伸びをした。

思わずあくびが出てしまい、慌てて口を塞ぐ。

幸いレキは気にしていないようで、少しだけほっとした。


「焚き火もまだ消えてませんし、このまま準備した方が良いかも知れませんね」

「そっか、じゃあやろう」

「はい」


昨夜使用した鍋は洗ってある。

そこにファラスアルムが魔術で水を入れ、焚き火の上に設置する。

薪も十分な量が残されており、朝食を作るのに問題はなさそうだ。


朝食の材料は昨夜と同じく学園で用意してもらった干し肉と野菜、後調味料。

ルミニアほどではないがファラスアルムも料理は出来る。

レキも出来ない事は無いが、どうしても大味になってしまう。

魔の森で暮らしていた時は肉をただ焼くだけだった事を考えれば、調理をしている分だけ成長していると言えるのだが。


水を張った鍋にまず野菜を投入する。

軽く煮立たせ、野菜の味が染み出したのを見計らって干し肉と調味料を追加。

蓋をし、火を弱くして出来上がるのを待つ。


「じゃあ皆起こそう!」

「はい」


料理とも言えないお粗末な物だが、野営の食事などこんなものだ。

レキがひとっ走り狩りに行けば新鮮な魔物の肉を追加する事が叶うのだが、今回はあくまで野外実習、学園の行事である。

「レキ様お一人だけ頑張り過ぎるのは良くありません」とルミニアに釘を刺されている為、レキは我慢する事にしている。


後は待つだけとなったところで、レキとファラスアルムはそれぞれの天幕へ向かった。

もちろんレキが男子の、ファラスアルムが女子の天幕である。

流石にここでレキが女子の天幕に向かうような真似はしない。


まあ向かったところで誰も騒がないだろうが。

フランとルミニアは慣れたもの、ミームは無頓着で、ユミはレキなら大丈夫。

唯一ファラスアルムだけが驚き叫びそうになったが、彼女も別に嫌だった訳ではないのだ。


逆に、ファラスアルムが男子の天幕に向かった場合・・・中に入れず外から声をかけるので精一杯だろう。

それで起きるほど繊細な神経の持ち主は、残念ながら最上位クラスの男子にはいない。

レキなら敵意や害意、あるいは殺気などに反応するだろうが、当然ファラスアルムはどれも持ち合わせていない。


というわけで、レキとファラスアルムがそれぞれ起こしに行った。


「おはよーっ!」

「うわぁ!」

「な、なんだ!」

「うおっ!」

「む!」


「くすっ」


男子の方からそんな声が聞こえてきて、笑みをこぼすファラスアルム。


「ふぁあ・・・おはようございますファラさん。

 見張り、お疲れ様でした」

「おはよ~ファラっ!」


男子達の声に反応したのか、あるいはこの時間に起きようと意識していたのか、ルミニアとユミが同時に起きてきた。


「あ、おはようございますルミニアさん、ユミさん。

 あの、朝食の準備、出来てます」


自分が起こすまでも無く起きてきた二人に関心しつつ、ファラスアルムも笑顔で挨拶を返す。

レキとの会話で自分に少し自信が持てたものの、だからこそこの二人は凄いなぁと改めて思うのだ。


「まぁ、ありがとうございます」

「いえ、レキ様がその・・・」

「へ~。

 あ、でもレキは慣れてるんだっけ」

「はい、以前も良く準備を手伝われていましたから」

「そっか~」


寝起きとは思えないほどしっかりとしたルミニアとユミとの会話。

朝食の件もすんなりと伝わり、後は残りの二人を起こすだけだ。


「あ、フラン様は私が」

「じゃあ私はミーム起こすね」


フラン様のお世話は私が、という事でルミニアがその役を買って出た。

ユミもミームを引き受けてくれる。


正直、ファラスアルムでは二人を起こすのにも一苦労なのだ。

その点、日頃から寝起きの悪いフランの面倒を見ているルミニアと、侍女見習いとして働いていたユミなら問題ない。

有難い気持ちと申し訳ない気持ちを抱きつつ、この場は二人に任せて朝食の支度の続きをする事にした。


天幕の外には。


「うりゃ!」

「うわっぷ!」

「何をっ!」

「がばっ!」

「む!」


眠気覚ましにと無詠唱で水球を生み出し、四人の顔面にぶつけるレキと、それをまともに喰らって慌てふためく四人の男子がいた。


「ふ、ふふっ」


早朝の草原に、ファラスアルムの笑顔が朝日に輝いた。


――――――――――


「おいっ!

 いきなり水球をぶつけるとは何事だ!」

「え~、だって眠たそうだったし」

「だからってあれは無ぇだろ・・・」

「んじゃあエドの方が良かった?」

「そ、それはもっとダメだろう」

「んじゃあリム?」

「むっ!」


顔を濡らした男子達がレキに詰めよる。

眠気覚ましに魔術をぶつけるな!と抗議しているのだ。


もちろんレキは思いっきり手加減しているし、魔術も選んで使用している。

赤系統エドなら彼らは火傷しているだろうし、緑系統リムなら吹き飛んでいただろう。

黄系統エルならこぶの一つも出来たかも知れない。

青系統ルエだからこそ、眠気を覚ますだけで済むのだ。


もちろんそんな説明で納得出来るはずもなく。

起こすならもっと普通に起こせだとか、僕はちゃんと起きていただろうだとか、そもそも魔術を使うなとか・・・。

どれも当然の意見ばかりで、端で聞いているユミやファラスアルム達も同意出来るものであった。


「うにゃ~・・・」


そこに、まだ眠たそうなフランが近づいてきた。


「あ、フランだ。

 おはよう・・・起きてる?」

「おいレキ。

 話は終わって・・・」


男子達を無視して、レキがフランに駆け寄る。

話はまだだとそのレキを追いかける男子達。

そして・・・


「うにゃ~・・・レキ~」

「あ~、しょうがないなぁ~・・・ほい」


情けない声を上げたフランに向け、レキが掌をかざす。

かざした掌から水球が生じ、それをレキは。


「うにゃう!」


フランの顔面にぶつけた。


「ちょっ!」

「き、貴様、いくらなんでも王女に・・・」

「流石にこれは・・・」

「む・・・」


自分達ならまだしも、女子であり王女であるフランにまでするとは思っていなかったらしいガージュ達。

先程までとは違う理由で、再びレキに詰め寄った。


「あ、あの・・・」

「あれですか?

 あれは寝起きの悪いフラン様を一発で目覚めさせるレキ様の秘策です」

「ひ、秘策って」

「ふふっ、昔からあれをやれば一発で目覚めるんですよ、フラン様」

「あ、私も知ってる!

 ついでに顔も洗えてお得だよね」

「お、お得・・・」


突然のレキの行動に若干引き気味のファラスアルムである。

とはいえこの行為は寝起きの悪いフランを起こす為、野営の際は毎回やってる事で、ルミニアからすればいつもどおりの光景なのだ。

カランの村に泊まった際にも行っており、ユミも覚えていた。


「うにゃ~。

 すっきりじゃ!」

「ふわぁ~・・・何騒いでんのよ?」


ガージュ達に詰め寄られるレキと、ドン引きのファラスアルムを宥めるルミニアとユミ。

目覚まし代わりの魔術でスッキリなフランと、ようやく着替えが終わったらしいミームが天幕から出てきた。


最上位クラス全十名。

野外実習二日目の始まりである。


――――――――――


二日目の朝を賑やかしく迎えたレキ達。


昨日の疲れで空腹だったのだろう。

レキとファラスアルムが用意した朝食を、ファラスアルムが「ど、どうですか?」と聞く暇を与えぬほどに、皆しっかりと平らげた。


食事の後は天幕など野営地の片付け。

ルミニアの指示の下、皆手分けして作業する。

レキやフラン、ユミといった慣れた者も多く、他の者達も見た事くらいはあるようで、こちらはさほど時間もかけずに終わった。


「皆様、準備はよろしいですか?」

「順調に行けば、夕刻には目的地のある森の近くまで辿りたどり着けるはずです」


ルミニアが指示を出し、地図係であるファラスアルムが本日の予定を告げる。

昨日同様、焦らず程よいペースでの移動予定だ。


「・・・ふんっ」


昨日は食って掛かったガージュも、順調であれば言う事は無い。


実を言えば、大半の者が予想以上に疲れていたりする。

丸一日歩き続けると言うのは、予想していたよりずいぶんきつかった。

昨夜はぐっすり寝たにも関わらず、皆疲れが取れていなかったのだ。

見張りの為、いつもより睡眠時間が短いというのもあるのだろう。


野外演習の辛さを、二日目にして思い知ったようだ。


「では行きましょう」

「お~!」

「うむ!」


レキとフラン。

慣れている二人の、元気の良い返事で出発する。


そんな子供達を、初日からずっと後ろを着いて歩く大人達が温かく見守る。

担任のレイラス、魔術指南役として学園に訪れているフィルニイリスと、その補佐サリアミルニス。

そして、今回の野外演習の為護衛として派遣されている、フロイオニア王国騎士団中隊長であるミリスの四人。


彼女達はあくまで護衛であり、よほどの事がない限り口も手も出さない事になっている。

もちろん生徒達が困っていればその限りではないが、今のところそのような様子も無い。


若干暇であった。


「・・・退屈」

「我々が退屈なのは良い事なのだろう?

 なあレイラス」

「まあな」


不満を漏らすフィルニイリスをミリスが嗜める。

気安い口調でレイラスに話しかけたが、レイラスも気にした様子は無い。


実を言えば、彼女達は同い年であり同じ年にフロイオニア王国立総合学園を卒業した同窓生だったりするのだ。

卒業後、ミリスは騎士へ、レイラスは学園の教師の道へとそれぞれ進んだ。

今回は数年ぶりの再会でもあったのだ。


「それにしても今年は優秀だ。

 まさか子供達だけで野営を行えるとはな」

「レキも姫様も野営は慣れているからな」

「ルミニアも慣れている。

 良くレキ達と一緒に野営の設置を手伝っていた」


例年なら子供達だけでの野営など出来るはずもなく、困った挙句教師や護衛達に聞いてくるのが常だった。

反面、今年の最上位クラスにはレキを初めとして野営に慣れている者が多く、全て自分達で解決してしまったのだ。

もちろん称賛すべき事なのだが、付き添いとしては少々退屈でもあった。


「レキがいるのに護衛は必要無いだろうに」

「レキ一人で他の九人を守るのはいささか辛いのではないか?」

「いや、レキなら可能だ。

 そもそも守りながら戦う必要もない。

 見つけたらその場で魔術を放てば終わりだ」

「そう。

 だから護衛など不要。

 それにルミニアもいる。

 大抵の事は解決する」

「姫様もそれなりに経験しているしな」

「ふむ」


流石にレキ達を良く知るだけあって、ミリスとフィルニイリスの評価は高い。

だからと言って付き添いがいらないかと言えばそうもいかない。


レキの実力以前に、子供達だけで五日に渡る野外演習を行わせるわけにはいかないのだ。


主な理由は体裁という事になるのだろう。

それに、子供達だけでは何をするか分からず、何が起きるかも分からない。

ルミニアを筆頭に真面目な生徒の多い最上位クラスと言えども、久しぶりに街の外へ出た解放感から予定とは違う行動を取らないとも限らないのである。


故に付き添いと言う名の見張りは必要であり、子供達十人に対し大人一人では足りない為、監視の目を増やすという意味もあって彼女達四名が付き添う事になったのだ。


「姫はああ見えて皆に迷惑をかけるような行動は取らない」

「うむ。

 ルミニア様もいるしな。

 彼女なら姫様の手綱も上手く取ってくれるだろう」


もちろんミリスもフィルニイリスもそう言った事情は把握している。

だが、レキがいる以上自分達が不要であるというのも否定できなかった。


フランとルミニアという、フロイオニア王国でも最上位の爵位を持つ者が二人もいる。

レキを加えた三人が真面目に野外演習を行っている以上、実力でも権力でも逆らえない状況下で勝手をする子供などまずいないだろう。

最上位クラスはそういった意味でも纏まっていると言える。


「確かに今年の最上位クラスは纏まっている。

 フラン=イオニアを頂点として、ルミニア=イオシスとレキが脇を固めるという体制が出来上がっているからな。

 ユーリ=サルクトやガージュ=デイルガは一応貴族としての立場もあるし、逆らったところでレキには敵うまい。

 カルクやミーム=ギ、ガド=クラマウント=ソドマイクはレキの実力に信望しているようだしな。

 ユミやファラスアルムは元々フラン=イオニア側、いやレキ側か?

 ふむ、そう考えるとあいつらの中心はレキということになるか?」

「姫とルミニアも結局はレキ側。

 レキは彼女達の恩人にして英雄」

「まあレキはレキで彼女達を大事に思ってるわけだし、見たところ他の面々とも友人として接しているようだな。

 うむ、やはりレキ一人で十分だな」

「まて」


レキ達最上位クラスに関するレイラスの分析を受けて、ミリスはそう結論付けた。

元々フランとルミニアの護衛であるレキは、よほどの事が無い限り彼女達を守りきるだろう。

二年前の様に、フランとルミニアが別れて行動でもしない限り問題は無いはずだ。


ユミやファラスアルムなど、最上位クラスの面々を加えたところで、バラバラにさえならなければ大丈夫だろう。

戦力という面からすれば、ミリスやフィルニイリスはやはり必要なかった。


纏め役であるルミニアとその主でもあるフランがいれば集団が崩壊する事も無いだろう。

脇を固める面々も、エラス領領主の屋敷で侍女見習いとして働いていたユミと、知識だけならルミニアを超えるファラスアルムがいる。

その彼女達もレキを信望しているのだから、集団が崩壊する危険性は現状では皆無と言えた。


あるいはここ数年で最も纏まりのあるクラスと言えるかも知れない。


「だからと言って貴様の任務が終了するということはないからな、ミリス?」

「分かってる。

 ちょっと言ってみただけだ」

「・・・本当だろうな?」

「ああ」


そんな面々を護衛するミリスとしては、自分より遥かに強いレキがいる時点で正直やる事が無かった。

ここ二年でレキの剣術と護衛としての心構えは向上し、一人前と言っても過言ではないほどだ。

元より魔物に対する感知能力が高く、更にはサリアミルニスの指導の下で魔力探知の能力も向上し、魔物だけでなく人を察知する能力も身につけている。

仮に野盗の集団が襲撃してきても、今のレキなら接近されるより先に迎撃出来るだろう。


それほどの強者がいるのだ。

今更ミリスの出番などあるはずもない。


と、ミリスがどれだけ護衛不要論を論じたところで、それがレイラスに通じるはずも無かった。


「はあ・・・。

 いいか、私達は生徒の護衛であると同時に子供達を監視する役目も持っているのだ。

 平原ならまだしも森で迂闊な行動を取ればすぐさま逸れてしまう。

 その際、手分けできるようこちらも複数人で当たっているのだ」


どれだけ強くともレキ達はまだ子供。

騎士団のように統制が取れている訳でも無く、何かの拍子でバラバラに行動し始める可能性もある。

一見良く纏まっているように見えるレキ達でも、実際は知り合ってからまだ一月しか経っていないのだ。

元々一緒だったフラン、ルミニア、レキの三人は兎も角、他の面々はどのような行動を取るか分からないのである。


「分かっている。

 まあ例えはぐれてもレキならすぐに探し出すだろうがな」

「貴様・・・」

「でも事実」


その心配もレキがいれば解決してしまう。

それが分かっているだけに、これ以上何も言えないレイラスであった。


「こちらも出発の準備が整いました」


これまで黙々と野営地の片付けを行っていたサリアミルニスから声がかかった。

今回、サリアミルニスはミリス達の補佐として付き添っており、こういった野営の撤収作業も彼女の担当であった。

もちろん天幕などの大掛かりなものは手分けして設置したが、その他の細々とした者は全てサリアミルニスが担当している。

その分、サリアミルニスは移動時における周辺の警戒などは免除されていた。


「よし、それでは私達も出発しよう」

「ああ」


準備も整い、付き添いの大人達も移動を開始した。

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