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黄金の双剣士  作者: ひろよし
九章:学園~野外演習 前編~
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第185話:ガージュとユーリ

「う~・・・」

「まあまあ、卒業までに決めて頂ければ良いですから」


ルミニアからの突然の勧誘を受けたユミは、見張りの時間が終わるまで頭を悩ませ続けた。


提案したルミニアも、まさかコレほど悩むとは思っていなかった。

世間話のつもりで、四年後も一緒にいましょうねという自分の希望をユミに告げただけのつもりだったのだ。

だが、その言葉はユミの将来を決める重要な提案となった。

エラス領で既に侍女見習いとして働いていたおかげで、王宮侍女という将来を具体的に想像できてしまったのだ。

フランとルミニアと言う、本来なら住む世界の異なる親友と一緒にいられるというおまけつきで。


決して容易な道ではないと知りながら、ユミは悩まざるを得なかった。

そんなユミに申し訳ないと思いつつ、ルミニアはユミとの見張りを終えた。


お次はガージュとユーリの番である。

二人を起こすべく、ユミとルミニアは男子の天幕へと近づいて行く。


「ガージュさん、ユーリさん。

 交代の時間ですよ」

「う~・・・」


四組目であるユーリとガージュ。

天幕の一番奥で寝ていた二人は、異性の天幕だろうとお構いなしに入ったルミニアに容赦なく起こされ(もちろん他の三人は起こさないよう注意してだが)、眠たい目を擦りながら渋々と天幕から出てきた。


「それでは、後よろしくおねがいしますね」

「う~・・・」

「あ、ああ。

 それは良いのだけど・・・」


交代時の申し送りを終え、悩みに唸るユミの背を押しながら、ルミニアが女子の天幕へと戻って行く。

ユミの様子が気になったユーリだが、苦笑交じりにルミニアから「なんでもありません」と言われ、追求するのは止めておいた。


「お茶は十分用意してありますが、足りなくなったらご自分でお願いしますね」

「ああ。

 ありがとう」

「ふん。

 礼は言っておく」

「いえ、それでは・・・」

「う~ん・・・」


そう言って、ユミとルミニアが天幕へと入って行った。

二人を見送った後、ガージュとユーリは焚火の傍へと腰掛けた。


「さて、見張りと言っても果たして何をすれば良いのだろうね」

「ふん、そんなもの僕が知るか」


共に貴族の出であり、野営の経験はあれど見張りまではやった事が無い二人である。

そもそも、こんな時間に起きた事すら無いのだ。


「魔物の気配、と言われても良く分からないしね」

「そんなの、分かるのはレキくらいだろう。

 僕達は目で確認すればいいんだ」

「暗くて良く見えないのだけどね」


ここは平原のど真ん中。

今は暗くて分からないが、前方には目的地である森が、後方には学園のある街アデメアがあり、基本的には魔物が出現しない空白地帯である。

仮に出たとしても、その時は教師であるレイラスや護衛のミリス、フィルニイリスが控えており、よほどの魔物で無ければ大丈夫だろう。

ガージュもユーリもそう考えている。


なお、万が一レイラス達が敵わない魔物が出たところで、レキが一蹴するだけである。


「そもそも見張りなど僕達がするべき事じゃ無い。

 こんなの平民や冒険者に任せればいいんだ」

「う~ん、僕はその冒険者になる為にこの学園に来たのだから別にいいけどね」

「僕はデイルガ家を継ぐための勉強に来ているんだ。

 時期領主が野営の見張りなど・・・」

「それは知ってるさ。

 でも下々の仕事を知っておくのも領主の務めだと思うよ?」

「知っていればいいんだ。

 経験する必要はない」

「まあそうだけどね」


同じ貴族の子供といえど、跡継ぎであるガージュと跡を継ぐ事の無い三男ユーリとでは考え方が違う。

本人達の性格もだが、後継ぎとしての教育を受けてきたガージュと、三男であるが故に奔放に育ってきたユーリとでは、将来必要となる知識が異なるのだ。

こういった事も経験の一つだとユーリは言うが、ガージュとしてはこの野外演習自体不要な物であった。

辞退しなかったのは、もちろんレイラスの拳が理由である。


「大体見張りなど必要ないんじゃないか?

 こんな見晴らしの良い平原で、アデメアの街から一日しか離れていない場所なんだぞ?」

「まあまあ。

 確かフラン様が以前野盗に襲われたのも、フィサスの街から一日程離れた場所だったはずだし」

「それはフィサス領の治安が悪いだけだ」

「いや、フィサス領の治安は王都に次いで良いんじゃ?」


半ば強制的に参加させられた鬱憤があるのか、先程からガージュはユーリに対して愚痴をこぼし続ける。


「万が一と言うのは基本起こらないから万が一というのだ。

 いや、この場所で魔物の襲撃などその万が一以下だろう」

「それでも有事に備えるのは必要だろう?

 騎士団もその為にいるのだろうし」


別に見張りが嫌な訳ではない。

ただ、見張りも野外演習も貴族たる自分には将来においても必要無いという思いがある為、意味も無くやらされているようで不満なのだ。


「だったらその騎士団に任せるべきだ。

 僕は僕のやるべき事が・・・」

「今の僕達のやるべきことは見張りだろう?

 それは僕達が学園の生徒である以上やらねばならない事なんだ。

 見張りも学園行事の一環なんだから、やらない訳にはいかないだろう?」

「うっ・・・ちっ」


だが、いくらガージュが不満を訴えたところで今の状況が変わるはずもなく、結局はユーリに言いくるめられる形となった。


「・・・ユーリ=サルクトは口が回るようだな」

「ははっ、ルミニア様ほどでは無いけどね」


手に持つ木の枝で焚火を掻きまわしながら、ガージュは渋々見張りを続ける。

そんなガージュに苦笑しつつ、口が回るらしいルミニアが入れてくれたお茶をユーリが飲んだ。


なんだかんだ言いつつも、ガージュは見張りを続けている。

ガージュが傲慢なら、ユーリの言葉に耳を貸す事も無くとっとと天幕に戻っただろう。

ルミニア相手に初めからサボるような真似は出来ずとも、ルミニアが寝た後で全てをユーリに押し付けて自分も寝てしまえば良いのだ。

実際、野外演習ではそういう子供もいたらしい。


だが、ガージュはなんだかんだ言っても見張りを続けている。

先程の不満も、決して自分が見張りをサボりたくていったわけではなく、強制的にやらされる事への不満を漏らしただけだろう。


「まあお茶でも飲みながらゆっくり過ごせばいいさ。

 ガージュの言った通りここは安全なのだから」

「ふん」


デイルガ家の跡継ぎとして、ガージュは日々真面目に授業を受けている。

口も態度も悪いが、それでもサボるような真似はしていない。

野外演習の話し合いにもちゃんと参加し、皆とは違う視点からの意見を述べたりもした。

それもコレもガージュが真面目だからだ。


先程の不満も、真面目さ故に出てしまったガージュなりの考えなのだろう。


「なんなら鍛錬でもするかい?

 夜の襲撃に備えて」

「レキやミーム=ギじゃあるまいし。

 第一そんな事してたら魔物に気づけないじゃないか」

「ははっ、それもそうだね」


だからこそ、ユーリはガージュと過ごすこの時間を存外気に入っていた。


「じゃあ真面目に見張りをやろうか」

「ふんっ、ボクは元よりそのつもりだ」


口も悪いが態度も悪い、だが根は真面目なガージュを、ユーリは友人と思っているのだ。


――――――――――


「さて、そろそろ交代の時間だけど・・・」

「ん?」


見張りの交代を告げる砂時計の砂が落ちきり、ガージュとユーリの見張りの時間は終了した。


ルミニアが用意しておいたお茶を飲みつつ、お互いの領地の事や将来など様々な事を二人は語り合った。

ユーリの気さくな口調に対し、渋々と言った感じではあるが、それでもガージュは最後までサボらず見張りを終えた。

学園の規則に従ったのか、あるいはこの一月でそれなりに打ち解けたのかは分からないが、お互いそれなりに有意義な時間を過ごせたようだ。


だが、友人と言えるほど打ち解けた二人の関係に、早くも亀裂が入りかねない問題が生してしまった。


「どちらがファラスアルムを起こしに行くか・・・」

「・・・ちっ」


次の見張りはレキとファラスアルム。


最上位クラスは男女五名ずつ。

見張りの組み合わせを常に男女一人ずつにすれば回避できた問題だが、相性の問題から男子同士、女子同士という組み合わせをせざるを得なかった。

故に、こうした問題が発生してしまうのだ。


「「・・・」」


ガージュもユーリも、と言うか一年生は全員まだ十歳の子供である。

夜中に女子の眠る天幕に忍び込んだところで、大人がするような真似はしないだろう。

それでも女子の眠る天幕へ入るという行為に、何となく後ろめたさを感じてしまう年頃だった。

二人が貴族として多少進んだ教育を受けていた事も、変に意識してしまう要因なのかも知れない。


カルクやガドも何となく気恥ずかしさを感じていたようだが、二人はもう少しだけ先を行っていた。


「・・・じゃあ僕がレキを」

「まて、ユーリ=サルクト。

 レキなら僕が起こしに行く。

 だから貴様がファラスアルムを起こしに」

「いやいや、ガージュはほらファラスアルムに避けられてるじゃないか。

 でもいつまでもそれでは不味いだろ?

 折角だから仲直りの機会をだね・・・」

「そんなの貴様に関係ないだろう。

 大体避けられてる相手を起こしに行って叫ばれたらどうするんだ」

「そこはほら、なんとか上手く」

「貴様が行けば問題ないだろうが」


それなりに頭も口も回るせいか、理屈と言うより屁理屈じみた理由で押し付け合う二人である。

カルクやガド以上に情けない二人だが、本人達は至って真面目であった。


このままでは折角芽生えた友情に亀裂が・・・。

と思われたその時である。

ユーリの脳裏に、素晴らしい案が浮かんだ。


「・・・ファラスアルムを起こすのはレキに任せよう」

「おぉ!」


そう、何もガージュとユーリが二人共起こす必要など無いのだ。

次の見張りはレキとファラスアルム。

その片割れであるレキさえ起こしてしまえば、とりあえず見張りの交代は出来る。

その後はレキに任せればよいのだ。


レキが一人で見張りをするも良し。

女子の眠る天幕へ忍び込み、叫ばれるも良し。

何れにせよ、ガージュとユーリの見張りの時間は終わったのだ。

レキを起こし、見張りの交代を告げて眠る。

それだけで良いのである。


「ユーリ=サルクト!」

「なんだいガージュ?

 今更ダメだなん・・・」

「貴様は天才か!?」

「・・・い、いやぁ、それほどでも」

「いや、謙遜は良くないぞユーリ=サルクト。

 僕は貴様を見直した。

 いつもヘラヘラとやる気のなさそうな態度、所詮は子爵家の三男だなどと侮っていてすまなかった」

「・・・君は僕をそういう風に思っていたんだね」

「頭の出来ではルミニア=イオシスやファラスアルムに敵うまいと思っていたが、悪知恵なら貴様は一位だ」

「それ、褒めてないからね?」

「良し、では早速レキを起こそう。

 そしてとっとと寝ようではないか」

「ああ、うん。

 もうそれでいいよ」


意気揚々と男子の天幕へ向かうガージュと、その後ろを肩を落としながら付いていくユーリ。

ガージュとしては心からの称賛だったが、元々あまり他人を褒めた事のないガージュのそれはあまりにも不器用で、当然ながら褒められた気がしなかった。

それでも褒められた事に違いは無く、「まあいいか」と思う事にしたユーリであった。

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