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黄金の双剣士  作者: ひろよし
一章:森の出会い
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第18話:毒草とレキの血

結果的に、レキの言う畑に生えている植物は全て毒草である可能性が非常に高い事が分かった。

フロイオニア王国のみならず、他国にも知れ渡る知恵者フィルニイリスが、毒草の名前と効果を一つ一つ説明したのだ。

レキには悪いが、食べる気にはならなかった。


なお、レキが食べても平気な理由については、フィルニイリスが一つの仮説を立てている。

それは、レキの持つ膨大な魔力が、毒草の毒を無意識に治癒したのではないか、というものだ。


魔術には大きく分けて四つの系統が存在する。

赤、青、黄、緑の四系統である。

それぞれの系統は対応する属性持つ。

すなわち赤は火を、青は水を、黄色は大地を、緑は風である。


このうち、青系統の魔術は癒しを司どっており、傷や病を癒し、毒を消す事が出来る。

癒せる傷や病、対応する毒素にも限度があるが、レキの持つ膨大な魔力ならあるいは、というのがフィルニイリスの仮説であった。


レキの魔力については現時点では不明な点が多いが、あれほどの魔力ならどんな毒だろうと打ち消す事が出来るに違いない。

例え竜をも殺す毒草を食べたとしても、体内の魔力が自然と体を正常な状態に癒すのではないか。

というのがフィルニイリスの見解だった。


根拠もあった。

リーニャの脇腹の傷、それがいつの間にか治っていた事である。

野盗の矢からその身を挺してフランを庇った時に負った傷。

傷を受けたリーニャ自身、その傷を見て逃げるのは不可能だと判断せざるを得なかった傷である。

それほどの傷が、レキの持つ黄金の魔力に触れただけで治ったのだ。

魔術など碌に扱えないにも関わらず、無意識の内に他者の傷を癒した。

体内の毒もまた、無意識の内に癒せる事だろう。


初めて食べた時には腹を壊したというのも、毒を摂取した為に起きた一種の防衛反応と思われる。

いくら毒を癒せるほどの魔力を持っていたとしても、体が毒を認識しなければ癒そうとはしない。

毒を摂取し、それが体に害をなして初めて治癒魔術が働くのだ。

平気になったのは、害を与える成分を体が認識し、痛みを感じるより先に毒素を消し去ったから。

あるいは繰り返し毒を取り込んでは癒していった事で、毒の効かない体となったのだろう。


要するに、だ。

畑の植物を食べても平気なのはレキだけで、その他の者にとってこれはただの毒草。

レキほどの魔力が無ければ、決して食べてはいけない植物であるという事だった。


レキの持つ黄金の魔力にはまだまだ謎が多く、ぜひとも王宮に連れ帰りいろいろと調べたいと改めて思うフィルニイリスである。


「どれも食べられない、という事か?」

「正確にはレキ君以外は、ですね」

「・・・そうだな」

「一応、レキ君には私達は遠慮しますとお断りしておきますね」

「ああ、しかし大丈夫か?」

「何でも初めて食べた時にお腹を壊したとかで・・・

 私たちも万が一があるかも、と言ってはありますが」

「おそらく毒素を体外に排出する為の防衛反応」

「竜殺しを食べても腹痛だけで済むというのも・・・」

「今は食べてもなんともないみたいですよ?」

「次からは耐性が出来たと思われる」

「なんかもう、言葉も無いな」


念の為もう一度断りを入れておきましょうと、リーニャを先頭に三人はレキの元へ向かった。

小屋の表側、フランと仲良くオークの解体をしているはずのレキは。


「わわわっ」

「わはわはへはひはほひは」

「分かんないよっ!」


「レキ君、何かお手伝いすることは・・・あらまあ」

「どうしたリー・・・へ?」

「・・・味見?」


何故か、フランに指を咥えられ慌てていた。


――――――――――


「姫はレキを食べる?」

「ひはうほひゃ、へひはへはほひはほへはへへほふほひゃ」

「・・・姫様はなんと?」

「レキが怪我をしたので・・・食べておるのじゃ?」

「いえ、舐めておるのじゃ、だと思いますよ?」

「なるほど、おしい」

「意味はだいぶ違うがな」


フィルニイリスの問いかけに、フランがレキの指を咥えたまま答えた。

レキでも怪我するのか・・・などと一瞬考えた三人だったが、とりあえずレキが困っているようなので引き剥がす事にした。


「レキの血は不味いのじゃ」

「え~」


よだれまみれの指を差してそんな事を言うフランに、レキが不満げな声を漏らした。


何故そうなったのかを問いただしたところ、フランが力いっぱい振り下ろした短剣が骨に当たり、弾かれてレキの指に当たったとの事。

一口大に切り分ける作業を楽し気にこなしていたフランだが、少しだけレキの作業も手伝いたくなったらしい。

フランのお願いに快く応じたレキだったが、経験と身体能力の違いからフランでは上手く切れず、ならばと思いっきり振り下ろした結果がそれだった。


「うう、すまぬ」

「うん、大丈夫」


怪我と言ってもかすり傷程度、日ごろから擦り傷の絶えないレキにとっては何という事もない。

自分のせいで傷つけてしまったフランの方が、申し訳なさに落ち込んでいた。


「それでレキ君、怪我の方は大丈夫ですか?」

「うん。

 かすり傷だし!」


昔、父親も良く怪我を負っては、心配するレキの前でそう強がっていた。

その時の怪我と今レキが負った怪我は比べるまでもないが、何となく父親みたいになれた気がしてむしろ満足気なレキだった。


「適切な処置をしないと傷口が膿む可能性がある」

「うむ?」

「特に錆びた剣で傷つけられると腐れ落ちたり最悪死にいたるぞ」

「うそっ!」

「にゃ~、レキ、レキ、すまんのじゃ!」

「あ、いや。

 姫がお使いの短剣は錆びていませんので大丈夫かと」

「でもオークの解体のせいで結構汚れている」

「にゃ~~、レキ~~~!」

「レキがこの程度で何かあるとは思えない。

 でも一応見せて、レキ」


折角強がっていたレキも、フィルニイリスとミリスの言葉に分かり易く怯え始めた。

実際そういった例もあり、決して嘘などではない。

ただ、傷口を良く洗い、治癒魔術をかければまず大丈夫である。

そもそも・・・。

竜殺しの毒草を食べても平気なレキが、傷口から入った細菌程度でどうにかなるはずもないのだが。

慌てるレキと涙目で謝罪するフランにこれ以上余計な事も言うわけにもいかず、フィルニイリスはおとなしく怪我を診る事にした。


「・・・綺麗に切れてる。

 さすが姫」

「そうじゃない」

「レ、レキは大丈夫なのじゃな?」

「大丈夫。

 短剣は多少汚れてたけど姫が舐めたおかげで傷口は綺麗になっている」

「そ、そうか。

 良かったのじゃ」

「良かった~・・・

 フランありがと」

「う、うむ」

「・・・あむ」

「えっ!?」


腐れ落ちるやら最悪死に至るなどと言われ(脅され)、焦っていたレキである。

フランと共に心から安心していたところ、何故かフィルニイリスにまで指を咥えられて困惑した。


「わわわっ・・・」

「な、何をしてるんだフィル!」

「姫様ばかりずるい、とか思ったのでしょうか?」


フィルニイリスの突然の奇行に驚くミリスと、首を傾げつつ冷静にフィルニイリスの思考を推測するリーニャ。

傷は大した事は無く、フランの唾液で消毒も完了している。

後は放置しても治るし、フィルニイリスの治癒魔術があれば即座に治せるはず。

にもかかわらず指を咥えるフィルニイリスに、一同は困惑するばかり。


「わわっ!」

「あむあむ」


無表情ながらどこか満足げなフィルニイリスを何とか引き離そうと慌てるレキ。

オーガを一蹴した力があればフィルニイリスなど簡単に振り払えるだろうが、一応は女性である為かあまり強く出られないでいた。


それでも何とか引き剥がし、さらに涎まみれとなった指を見てレキがどうしようかと悩んだ。


「・・・まずい」

「うむ、不味いのじゃ!」

「え~」


二人の言葉にさらに不満気な様子を見せつつ、レキが涎を飛ばそうと指をぶんぶんと振る。

リーニャが差し出したハンカチで指をぬぐえば、傷は既にふさがっていた。


「まったく、何を考えてるんだお前は!」


ま、いっかとオークの解体を再開するレキをよそに、ミリスがフィルニイリスの奇抜な行動を咎めた。

少し離れた場所にはフランが立っており、レキに怪我をさせてしまった事を反省したのか、今は邪魔にならない位置でおとなしく見学している。


「レキの血が無害かどうか調べる必要があった」

「・・・は?」


どうやら、フィルニイリスには考えがあったようだ。


「あれだけの毒草を日常的に摂取したのだから、レキの体質に変化があってもおかしくない。

 通常なら毒に対する抵抗力が高くなったと考えるが、レキの血が毒性を帯びている可能性もある」

「なっ!」


レキの血が毒性を帯びているなら、それを舐めたフィルニイリスも無事では済まないだろう。

それこそ竜を殺す毒と永遠の眠りに陥る毒、狂ったように暴れる毒、生ける屍と化す毒、石化する毒、心臓すら麻痺させる毒に発情する毒と、ありとあらゆる毒がフィルニイリスの体内を巡る可能性すらあった。

にもかかわらず、フィルニイリスが体を張った理由、それは・・・。


「・・・それで、レキ君の血を調べようと?」

「既に姫が摂取している以上、早急に調べる必要がある」

「そ、それではフィルも」

「毒の種類を見極めるには自分で受けるのが早い。

 ことは一刻を争った」

「し、しかしだな・・・」

「毒性を帯びている可能性は低かった。

 姫が無事なのがその証拠。

 レキの血が本当にあれほどの毒を帯びているなら、舐めた瞬間に倒れてもおかしくは無い」


それでも万が一を考え、フィルニイリスは毒の有無と万が一の際にはその種類を見極める為、己の体に毒を取り込もうとしたのである。

もちろんフィルニイリスには治癒魔術がある。

ただ、竜をも殺す毒に通常の治癒魔術がどれほど効果があるかは、正直不明だった。


「むしろ各種毒物に対する抵抗力が高まった・・・気がする」

「気がするって・・・」

「レキは毒を受け付けない体質だと思われる。

 ならそのレキの血を飲めば抵抗力が上がる・・・かもしれない」

「そんなものですか?」

「それに、姫だけずるい」

「おいっ!」


フィルニイリスの突発的な行動は今更だが、一歩間違えればフランともども死んでいた可能性もあった。

その可能性をあえて無視し、レキの血が無害であるかどうかを身を持って確認したフィルニイリス。

結果的には何の問題も無かったのが、さすがに褒められた行為ではないだろう。


さすがのリーニャも、フィルニイリスの行動とその理由には、内心肝を冷やしていた。

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