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黄金の双剣士  作者: ひろよし
九章:学園~野外演習 前編~
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第180話:野外演習の準備

そんなルミニアの心中とは関係なく、レキ達は野外演習の話題で盛り上がった。

特にレキ、フラン、ミーム、カルクと言った頭を使うより体を動かすほうが得意な面々は、キャンプだ旅行だと騒いでいる。


学園の規則では、アデメアの街を出歩く事は許可さえ取れば問題はない。

服や筆記具、更には武具など学園に必要な物を購入、新調する必要もあるからだ。

茶葉やフランのおやつなどを購入する為、レキ達もこの一月の間それなりの頻度で街へと繰り出している。

だがそれもあくまでアデメアの街中に限った話。

街の外に出た事は、入学してから一度も無かった。


とは言え入学してまだ一月。

王宮にいた頃、レキも一月程度なら王宮の外へ出かけない事もあった。

フランの護衛として他領に出かけたり、騎士団に着いて魔物の討伐に赴いた事もあったが、それでも二~三月に一度くらいの頻度である。

王宮内で過ごす事には慣れているレキではあるが、それでも野外演習は楽しみである。

外へ出られる事自体も嬉しいが、なにより「みんな」で行くのが楽しみなのだ。


街の外には当然魔物もいる。

万が一遭遇した時の事は学園側も対策を講じている。

学園の教師が付き添うのも万が一に備えたからで、何もかも子供達に任せるつもりなど初めから無い。


レイラスを始めとした教師達の間ではレキの実力もそれなりに知れ渡ってはいるが、だからと言ってレキに全てを任せるほどこの学園の教師は無責任ではなく、野外演習が始まるまでの間に散々下見も行っている。

目的地の森も確認済みで、そもそも毎年行っている行事であり、森までの道中含めて準備は万全である。

それでも確認を怠らないのは、それだけ子供達の事を考えている証拠であった。


「なあ、森ってゴブリンとか出るのか?」

「ん~、どうだろ?」

「ゴブリンくらい大丈夫よ」

「うむ。

 わらわもゴブリンなら倒した事あるぞ」


授業は既に終わり、レキ達は寮にある談話室に集まっていた。

話題はもちろん野外演習の事で、まだ十日もあるというのに待ちきれないという様子。

野外演習までは授業も普通にあるが、レキ達の頭は野外演習の事で頭が一杯だった。


「食料って何持ってきゃいいんだ?」

「ん~、持っていくとしたら干し肉と乾燥させた野菜と・・・」

「水はどうすんの?」

「川か泉でもあれば良いのだがのう・・・」


授業が終わってからずっと、レキ達は野外演習の話で盛り上がっていた。

準備に関しては、野営の経験が少ない面々が経験豊富であるレキやフランにいろいろ聞きながらという形で進んでいた。


「ソードボアとかいないかな?」

「ソードボア?

 どうすんだあんな魔物」

「狩るっ!」

「はあっ?

 ソードボアってランク3の魔物じゃない。

 無理よそんなの」

「そうなの?」

「一応、王宮の騎士でも隊長クラスでなければ単独での討伐は出来ないとされていますね」


時折レキとカルク達との認識の違いも出ながら、話は少しずつ纏まり始めていた。


「保存食ってどんくらい?」

「そんなの五日分に決まってるじゃない」

「だからその五日分ってどのくらいなんだよ」

「えっ、それは・・・ルミっ!」

「う~ん、皆さんの食事の量にもよりますから・・・」


最終的な判断は纏め役のルミニアに委ねられている。

もちろん何もかもルミニアに任せるような真似をレキ達はしない。


というか、基本的には自分達でやりたいのだ。


ルミニアに判断を委ねるのは、もっぱら自分では良く分からない事だけ。

レキ、フラン、カルク、ミームの四人とルミニア一人では、ルミニアの方が賢いのである。

三人寄れば文殊の知恵と言う言葉はこの世界には無いが、ルミニアの知識は四人寄っても敵わないらしい。


「ルミニアさん、こちらの道なら途中に川がありますよ」

「ねーねー、森なら木の実とかも採れるんじゃない?」


ファラスアルムやユミからの助言もあり、ルミニアも問題なく纏め役をこなせているようだ。


「ガージュは何か意見はないのか?」

「ふんっ、伯爵家の嫡男たる僕が野営など詳しいはずなかろう。

 あんなのは従者の役目だ」


一方、貴族として遠征や野営の経験もあるユーリとガージュだが、自分達だけで野営した事は流石に無い。

レキ達とは違い、基本的には従者に全てやらせているからだ。

天幕の設置から食事の支度まで全て任せており、ユーリ達は馬車の中で待つだけで良かった。

乗り合い馬車の経験しかないカルクやミームも同様だが、こちらは食料を持参していたり、天幕も無い為夜は外套や毛布などの防寒具に身を包んで寝るしかなかった。

その分、今回の話し合いではそれなりに言いたい事や言える事があるようだ。


「天幕無いとやっぱ夜辛いかな?」

「あたしは外套あるから大丈夫よ?」

「今の時期でしたら雨さえ降らなければ大丈夫だとは思いますが・・・」

「着替えの事もありますし、やはり持って行きましょう。

 男女でそれぞれ一つずつならそれほど荷物にもなりませんしね」


馬車が無い為本格的な天幕は無理でも、子供のレキ達なら簡素な物でも十分だろう。

雨さえ降らなければ不要かも知れないが、最上位クラスの半分は女の子である。

着替えなどを行う際、どうしても必要となるのだ。


「ふぅ、今日はこのくらいにしておきませんか?」

「ん?

 おお、もうこんな時間なのじゃな」

「っても決めることって後なんかあるか?」

「天幕はレキとガドにお願いするとして・・・」

「着替えや食料、武具は各自で必要な分を持ち寄ると」

「地図は代表として私が持っていきますね」

「うん、よろしく」


野外演習まで十日。

レキ達の準備は今のところ順調である。


――――――――――


野外演習に必要な物資については、基本的に学園が用意する。

生徒達は必要な量を学園に申請し、前日までの支給されるという形だ。

フランやルミニアのような王侯貴族なら全て自腹で備える事も出来るだろうが、カルクのような平民は金銭的な余裕など無い。

特待生でもない他クラスなら尚更だろう。


そもそもこれは学園の行事である。

着替えなどの個人で用意する物以外、例えば食料や天幕などは当然学園側で用意してもらうのは当然だろう。


申請の際、食料については具体的に何をどれだけと記載しなければならず、天幕に関しても大きさを指定する必要があったが、経験豊富なレキ達の意見を元になんとか決まっていった。

特に、三年間魔の森で生きていたレキは、村での記憶を頼りに干し肉を自作していた事もあってか肉の量にはうるさかった。

毎日同じ干し肉では飽きるだろうからと、オークの干し肉ならどのくらい、ソードボアの干し肉ならどのくらいと、肉の種類ごとに注文しようとしたほどだ。

残念ながらそのこだわりに賛同する者は少なかったが、それでもレキは満足気であった。


その他の荷物、基本的には着替えと武具等だが、こちらは各自で用意する事になっている。

武具はそれぞれ愛用の物がある。

服も学園が用意した制服や鍛錬用の服があるが、そこは年頃(?)の女の子達。

授業の一環とはいえ自由に服を着られる機会を逃すまいと、ルミニアとユミがあまり興味のなさそうなフランやミーム、恐縮するファラスアルムをも巻き込んで街へ買い物に出かけた。

護衛兼荷物持ち、ついでに服についての意見を聞く為にと、レキも連れ出されている。

武器を改めたユミと、武術はからっきしな為に武器を持っていなかったファラスアルムの武具選びも一緒に行われ、ユミは身の丈ほどの長さの長剣を、ファラスアルムも魔木製のそれなりに頑丈な杖を購入した。

それらのお金に関しては、ユミはお屋敷で働いていた頃の給金がそれなりに残っており、ファラスアルムも放任されているとはいえ金銭的には不自由しない程度には与えられていた為、各自で支払った。


こうして準備はちゃくちゃくと進み、野外演習の日まであと数日となっていた。


「ふぅ・・・」


演習の話が出てからというもの、毎日の様に談話室に集まるようになったレキ達最上位クラスの面々。

ルミニアを中心に纏まりも強くなりつつあったが、一人だけ打ち解けていない者がいる。


ガージュ=デイルガ。

デイルガ伯爵家の嫡男にして、入学試験の前日に揉め事を起こした少年である。


揉め事の内容は些細なもので、貴族であるガージュに平民かつ他種族のファラスアルムが無礼を働いたと言うものだ。

それも、ただお店の商品にガージュより先に手を伸ばしたというだけ。

ガージュからすれば正当な指摘らしいが、レキはおろか王族たるフランや公爵家の娘であるルミニアからしても「そんな事で?」と言わざるをえない内容だった。


揉め事自体はレキ達の介入で事なきを得たが、ガージュの中には大きなしこりが残っていたようで、同じ教室で顔を合わせた時には再燃しかけた。

ファラスアルムの傍にはフラン達がいた為、伯爵家の子供であるガージュが王族や公爵家の子供に何か言えるはずもなく、結局は何事もないまま今日まで過ごしてきたのだが・・・。


「野営の分担も、少し見直した方が良いのでしょうか・・・」


何事もないがしこりは残ったまま。

それは皆の輪の中に入ってこようとしないガージュの態度をみれば明らかである。

特に、揉め事の原因となったファラスアルムと、真っ先に介入したレキに対するガージュの態度は顕著であり、自分から近づいたり声をかけるような事は入学して以来一度も無い。

ガージュ自身馴れ合いを好まない性格のようだが、それでもユーリとはそれなりに会話を交わしており、孤立しているわけでも無い。

授業後の話し合いにも参加しており、積極的ではないがそれなりに意見も言っている。

それでも朝晩の食事も食堂ではなく自室で食べている辺り、打ち解けるにはまだ時間が掛かりそうだ。


「分担と言えば、レキ様の負担も少し考えねばなりませんね・・・」


今、談話室にはルミニア以外誰もいない。

野外演習に必要な事はほぼ決まり、今はルミニアが見直しをする為レキ達には退出してもらっていた。

消去法で決まった纏め役ではあるが、元々しっかり者で責任感も強く、ついでに面倒見も良いルミニアは適任と言えるだろう。


「天幕の設置、不足した場合の食料の調達、万が一魔物と遭遇した場合の対処、全てレキ様にお願いしてしまっていますし・・・」


各個人の実力をかなり正確に把握し、特に学園では全力を出した事のないレキの実力を知っている者の一人として、今一度役割分担について考えておこうとこうして残っているのだ。


「せめて食事の支度くらいは・・・」


今回の野外演習に関して、食事は基本干し肉などの保存食が中心となる。

移動を中心に考えての事だが、大人の手を借りずに何もかもを行わなければならないという理由からでもある。

例えば狩人や冒険者が共にいるなら、動物なり魔物なりを狩ってその日の食事にすれば良い。

だが、今回の野外演習は基本子供達だけで全てを行うという条件があり、子供が狩りをするのは難しいだろうと言う判断からだ。


干し肉も野草や調味料などを使えば美味しく食べられる。

野草の調達は難しいかも知れないが、調味料はあらかじめ用意しておけばいい。

多少荷物になるが、不味い料理ばかりでは気が滅入るだろう。

心身共に疲れている時などは、美味しい料理は活力にもなる。

煮込む為の鍋やら配膳用の食器も持っていかねばならないが、美味しい食事を食べる為ならみんな我慢してくれるだろう。


索敵役としてレキを先頭に、遊撃に適したフランが中央、状況判断と指示を出すルミニアが最後尾につく。

基本はこの三人で、残りは各自役割ごとに配置を考え、同時に荷物を分配する。


「ファラさんは力こそありませんが、地図係として常に進路を確認してもらいましょう。

 ガージュさんは協調性に問題がありますが、自ら輪を乱す真似はしないでしょうから、ユーリさんと共に周囲の索敵を任せれば悪態をつきながらもやってくれるはず。

 ミームさんとカルクさんはフラン様の左右に、ガドさんはファラさんの側についてもらいましょうね」


頭の中で移動中の配置案を纏めつつ、ぬるくなった紅茶を一口。

ふと中庭を見れば、今日も今日とでレキが鍛錬をしていた。


武術の授業だけでなく、早朝と、そして夕食前・夕食後と、時間を見つけてはレキは剣を振っている。

元々体を動かすのが好きだというのもあるが、武術の時間は抜きん出た実力から指南役に回る事が多く、早朝の鍛錬でもミームやカルクが乱入してきては手合わせをしているらしい。

フランも参加したがっているが、早起きが苦手な為今まで一度も早朝の鍛錬に参加できないでいる。

そんなフランに合わせている為、ルミニアもレキの早朝鍛錬は見学のみにとどめている。

その分、ルミニアは武術の成績二位という現在の地位を活かして、授業中に良く手合わせをしてもらっているのだが。


レキと出会って二年。

あれからルミニアも大分成長した。

武術もそうだが、精神面での成長は著しい。

気弱で引っ込み思案であったルミニアも、今ではフランを諌める事が出来るくらいには強くなり、最上位クラスの纏め役に選ばれるほどだ。


だからこそ今回の野外演習は失敗したくなかった。

王族たるフランと、学園はおろかこの世界でおそらく最強であるレキ。

この二人と共に歩む為、二人を支え続ける為に。


「もう一度、確認しておきましょうか」


ルミニアも日々、頑張っているのだ。

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