第176話:明日はどんなかな
魔術の授業が終わり、レキ達は教室へと戻ってきた。
授業は基本、座学が二回に武術と魔術の授業がそれぞれ一回という構成である。
最初の座学は自己紹介と学園の説明で終わったが、二回目となるこの授業は他の時間と同様みんなの成績の確認と今後の予定を説明するだけになった。
座学に関しては試験の成績がそのまま現時点での学力となる。
お互いの学力を確認する為、座学の試験結果を発表するのみとなった。
順位は以下の通り。
一位:ファラスアルム
二位:ルミニア=イオシス
三位:ユーリ=サルクト
四位:フラン=イオニア
五位:ユミ
六位:ガージュ=デイルガ
七位:レキ
八位:ガド=クラマウント=ソドマイク
九位:カルク
十位:ミーム=ギ
発表されると、その反応は様々だった。
特に、一位のファラスアルムは周囲よりも本人が一番驚いていた。
ルミニアの「おめでとうございます、流石ファラさんですね」という温かい言葉でようやく我に返ったファラスアルムは、感極まったのか嬉しさのあまり泣き出してしまった。
その他の者で、反応が顕著だったのはガージュ=デイルガである。
おそらく自信があったのだろうが結果は六位。
他種族で、何かと絡んでいたファラスアルムはおろか、自分より爵位の低いユーリ、女の子であるフランとルミニア、さらには平民のユミにすら負けている事が癪に障ったようだ。
流石に教室で、あるいはレイラスやレキの前で声を荒げるような失態をする事はなかったが、それでも暫くの間ユミやファラスアルムを忌々しそうに見ていた。
王族であるフランや自分より爵位の高いルミニアを睨みつけない当たり、一応わきまえてはいるのだろう。
因みに、そんなガージュより下であるレキ、ガド、カルク、ミームは開き直った模様だった。
レキを見るルミニアの目がなんだか仕方のない子供を見るそれであったが、勉強は好きだが得意ではないので諦めてもらおうとレキは思っている。
「最初に言ったとおり、この学園では算術や歴史、商学、教養など幅広く学ぶ事になる。
一年生は算術や歴史、この世界の成り立ちなど基本的な座学が中心となるだろう。
既に学んだ者もいるだろうが、皆の足並みを揃える為そこは我慢するように。
まあ復習だと思え」
因みに、座学の担当はレイラスである。
武術の授業も本来は専門の講師がいるのだが、初日である今日はレイラスが全ての授業で担当、あるいは付き添いをする事になっていた。
「一年生の予定だが、授業は基本的な座学と、武術、魔術の三つを学んでいく事になっている。
後は野外遠征や武闘祭などあるが、まぁそれはおいおいだな」
今挙げた行事の他にも細々とした催しはあるが、一度に説明しても覚えきれないだろうからとレイラスは説明を省いた。
座学の説明を始めた途端に嫌そうな顔をしたレキとカルク、興味なさそうと言うより自分には関係ない様な顔のミームは、間違いなく覚えないだろう事がレイラスならずとも分かる。
本番が迫れば嫌でも分かるだろうし、野外遠征と武闘祭に関しては間違いなく食いつくに違いない。
仮に忘れても、その時は拳とととも叩き込めば良いだけの話だ。
「明日からは本格的に授業が始まるが、皆遅刻などしないようにな。
遅刻したものは相応の罰を与えるので覚悟するように」
「くっ」
「うむ、それでは簡単ながら本日の授業はこれで終わりだ。
また明日、遅れずに来るように」
最後にガージュをひと睨みし、レイラスは授業の終わりを告げた。
初日は確認で終わったが、それでもそれなりに濃いものだったと言えるだろう。
実のところ、他の上位、中位、下位クラスは最上位クラス程濃くは無かった。
試験結果を口頭で告げた後、今後の授業内容を一通り説明した程度だ。
最上位クラスだけが、明日から本格的に授業を行えるよう密度の濃い初日を送ったのである。
ある意味これも最上位クラス、特待生の扱いと言えた。
「それでは本日の授業を終了とする。
皆、起立」
『はいっ!』
「礼」
『ありがとうございましたっ!』
「よし、解散」
もちろんそんな事をレキ達が知るはずもなく。
フロイオニア王国立総合学園の初日の授業は、こうして無事終了した。
――――――――――
学園を出たレキ達は、昼という事もあって皆で食堂へ移動した。
相変わらずガージュはレキ達と行動を共にする気はないようで、教室を出てすぐどこかへ行ってしまったが、その他の面々は仲良く昼食を食べた。
模擬戦などでお腹も空いていたのだろう。
朝や昨日の夕食以上の食欲を見せるレキやミームをルミニアが微笑ましそうに見守った。
食堂にはレキ達最上位クラス以外の生徒もいるが、皆どことなくレキ達を遠巻きに見ている様子だ。
最上位というある種のエリート集団に気が引けたのか、あるいはフランやルミニアといった高位の者達に気後れしたのか。
ユーリやガージュの様に実家から何か言われたであろう貴族の子供達ですら、声をかけるのに躊躇っている様子だった。
彼らが同じクラスであったなら、これほど距離を取る事も無かったのだろう。
あるいはフランやルミニアよりも上位のクラスであったなら、むしろ積極的に声をかけてきたかも知れない。
爵位は下でも成績は上。
相殺されて対等の立場を得た気になったに違いない。
だが現実はなんとも残酷なもの。
爵位で負けて成績でも負けた彼ら彼女らは、当分の間フラン達を遠巻きに見つめる事しか出来ないのだ。
そんな彼ら彼女らをよそに、食事を終えたレキ達は談話室でゆっくりと過ごす・・・事は無かった。
武術の授業で火がついたのか、皆で改めて手合わせをする事となったのである。
フランに負けたミーム、レキやユーリ以外の者とも手合わせを望むカルクを中心に盛り上がり、フランが乗り気ならレキやルミニアに否は無く。
当然ながら乗り気ではないファラスアルムも見学だけならばと、皆で仲良く中庭に出た。
とは言うもののあくまで手合わせ。
もっと言えば折角だから皆で体を動かそうというだけの話である。
最終的にはレキ対全員などと言った模擬戦も行われながら、レキ達は楽しく午後を過ごした。
そして・・・。
「ふぃ~」
夕食も終わり、寮に備え付けられている風呂(もちろん男子用)にも入って後は寝るだけとなった夜。
レキは一人、ベッドの上で一日を振り返っていた。
学園の初日という事で様々な期待があった。
さすがに初日からあれこれさせられる事は無かったが、それでも最上位クラスの面々とは仲良くなれた気がする。
強いて言うなら、担当であるレイラスがちょっと恐いくらいだろうか。
とりあえず座学で居眠りだけはしないよう頑張ろうと思った。
フィルニイリスとサリアミルニスがやってきた事は予想外だった。
まさか二人と学園で会えるとは思っても見なかった。
フィルニイリスはともかくとして、レキ付きの侍女としていつも一緒にいたサリアミルニスが来てくれた事は正直嬉しかった。
いや、フィルニイリスも嬉しい事は嬉しいのだが、戸惑いの方が大きいのだ。
授業の内容はと言えば・・・こちらは問題は無いだろう。
座学は分からないが、武術も魔術も今のレキなら付いていくどころか皆の目標となる立ち位置にいる。
特に武術。
ミームはレキに勝つという目標を早々と掲げ、フランやルミニアもレキから一本取る事を昔から目標にしている。
カルクは単純に強い奴と手合わせしたいだけで、勝ち負けにはこだわっていないようだが、皆やる気に溢れていた。
総じて、学園での生活は確実に楽しくなるに違いない。
「よしっ!」
明日からの生活に思いを馳せていたレキ。
なんだか体がむずむずしてきて、無性に体を動かしたくなった。
ベッドから飛び起き、部屋に立てかけてあった双剣を手に、再び中庭へと出た。
「明日はどんなかな~」
双剣を振りながらそんな事を呟く。
レキの学園生活は、どうやら楽しくなりそうだ。




