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黄金の双剣士  作者: ひろよし
八章:学園~入学編~
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第175話:無詠唱魔術の習得方法と有用性

「今のが無詠唱魔術。

 魔力を練り、使用する魔術をしっかり脳裏に描き、呪文を詠唱する事なく魔術を行使する。

 簡単にいえばそれだけ」

「そ、それだけと言われましても・・・」


従来の魔術と無詠唱魔術との違いは確かにそれだけ。

だが、その違いこそがユーリ達が最も驚き戸惑う点でもあった。


「何?」

「魔術とは、適正のある者が正しい呪文を詠唱する事で発動すると習いました。

 すなわち呪文を覚える事こそが魔術を習得する事だと」


もちろんイメージも大事だが、それは呪文書に書かれている情報や指南役の魔術士に実際に使ってもらう事で把握していた。

どれだけ正確に呪文を詠唱できるかが重要だったのだ。

系統に関しては魔術を使っていく内になんとなく把握するしか無く、赤系統の魔術が使えたら赤の適性が、青系統の魔術が使えたら青の適性がある、という具合である。


そのようにしてユーリもガージュも魔術を覚えてきた。

だからこそ、フィルニイリスが使用し、自分達がこれから覚える事になる無詠唱魔術が、今まで覚えてきた魔術とは大きく異なるように思えるのだ。


「脳裏に描くのは同じ。

 なんなら呪文も頭の中で唱えれば良い」

「えっ?」

「そもそも呪文など誰に聞かせる物でもない。

 口に出そうが脳内で唱えようが結局は同じ。

 無詠唱魔術の初歩は呪文を口に出さずに詠唱する事から始める」


そんなユーリの困惑に対するフィルニイリスの回答は、なんとも意外なものだった。


無詠唱魔術。

それは、呪文を唱えるという行程を省いた、全く新しい魔術だとばかり思っていた。

だが、フィルニイリスの説明によれば、無詠唱魔術は従来の詠唱魔術とあまり変わらないという。

呪文を口に出さずに詠唱すれば、それもまた無詠唱魔術であると。


だったら無詠唱魔術などと区別する必要も無いのでは?

そんな当然の疑問が浮かぶが。


「もちろんそのままでは従来の魔術と変わらない。

 最初はそこから。

 少しずつ呪文を短縮、詠唱時間を短くしていき、最終的には呪文を詠唱せず魔術を行使できるようになるのが目標」

「・・・」

「・・・ふんっ」


フィルニイリスの語った内容をユーリは脳内で反復した。

先程フィルニイリスが見せた魔術。

口に出す事はおろか、あの行使速度なら脳内でも呪文を唱えていないだろう。


あれこそが無詠唱魔術。


呪文を声に出さず唱えるのはあくまで取っ掛かり。

最終的には、フィルニイリスの様に呪文に頼らず魔術を行使できるようにならなければいけないのだろう。


理解は出来た。

納得できたかと言えば、正直分からない。


今までの常識。

魔術とは呪文を唱える事で発動する、それが今までユーリ達が習ってきた魔術である。

それをいきなり呪文は止めろと言われて「はい分かりました」とは言い難い。


正直、ユーリもガージュも魔術の才能はあまり無いのだ。

無詠唱魔術も従来の魔術と大して変わらないなどと、それはフィルニイリスのように魔術の才能に溢れた者だから言える台詞だとユーリとガージュは思った。


「無詠唱魔術も詠唱魔術と変わらない。

 呪文を唱えるか否か。

 そこに才能も適性も関係ない。

 無詠唱魔術は魔術が使える者なら誰でも習得できる」


そうは言っても相手は宮廷魔術士長フィルニイリスだ。

知識も才能もあり、四系統全ての魔術を扱うフロイオニア王国一の魔術の使い手。

フィルニイリスに出来るからと言って、自分も出来るなどと安易に考えられる者がどれだけいるだろうか。


「仕方ない、フラン」

「にゃ?」

「ルミニア」

「はい」

「ユミ」

「は、はい!」

「お手本を」


そんな疑問が、あるいは不満が顔に出ていたのだろう。

フィルニイリスがフランとルミニア、そしてユミを指名し、ユーリ達の前でお手本を見せる事にした。


「む~、何故わらわ達なのじゃ?」

「フィルニイリス様が使えるのは当然として、レキ様では流石に凄すぎて分からないからでしょうね」

「そっか~」


しぶしぶ、と言うより何故、と言った様子のフランにルミニアが説明した。

レキの魔術は威力だけならフィルニイリス以上。

手加減をしたところで先程のフィルニイリスと同じかそれ以上の物にしかならず、手本としてはあまり意味を成さないのだろう。


試験の時はただ無詠唱で魔術を行使すれば良かったが、今回はそれが誰にでも出来る物だと言う事を教えなければならず、手本としてはフラン達くらいが丁度良かった。

流石に、試験の時のように服を脱ぐような事も無いだろうし。


「まずフラン」

「うむ!」


指名された三人が演習場の的の前に立ち、フィルニイリスの合図で順に魔術を行使する。

フィルニイリスの魔術には及ばないものの、三人共ちゃんと無詠唱で魔術を放った。


「お、おぉ・・・」

「・・・ちっ」


流石に認めざるをえないのだろう、二人も納得した様子を見せた。

・・・ガージュは面白くないと言った感じで舌打ちをしているが。


フィルニイリスとは違い、三人共それなりに溜めを必要とするからこそ、呪文の詠唱以外は従来の魔術と変わらないというのが理解できたのだ。

同時に、不慣れな三人の無詠唱魔術であっても従来の魔術より速く行使できるのを見て、二人には無詠唱魔術を学ぶ意義も見いだせたようだ。


「大した事ねぇよな?」

「う~ん、あたしは良く分かんないけど、まあ大差ないわよね」


反面、魔術に詳しくないカルクとミームの二人には違いが良く分からないでいた。


――――――――――


実演も終わり、以降は武術同様現段階での全員の魔術の腕を確認し合う時間となった。

ただし、武術と違って魔術を打ち合うにはまだ早く、今回は順番に自分達が使える魔術を披露するだけである。

種族的に魔術が苦手な獣人のミームと、鍛冶にしか魔術を用いない山人のガドに関しては、的へ放つのではなくその場で使用する事に。

ミームは魔力の扱いと身体強化の練度、ガドは鍛冶に用いるという赤系統と黄系統の魔術だ。


ミームに関しては既にみんな知っている。

レキやフランとの模擬戦で使用しており、練度はこの年齢にしては十分。

もちろんフィルニイリスからすればまだまだ甘いと言えるが。


ガドに関しては、こちらは鉄の棒を用いての実演となった。

まず赤系統の魔術を用いて鉄の棒を熱する。

練度を高め、真紅へと至れば金属を燃やし尽くす事すら可能となるが、今のガドには到底無理な話である。


黄系統に関してはレキも初めて見る用い方だった。

黄系統の魔術を用いて金属そのものに干渉したのである。


黄系統の魔術は、魔力を用いて土を固めて杭にしたり、石を集めて相手に飛ばしたりと、土や石に干渉する魔術である。

ガドはその物質に干渉する力を用い、金属を加工、変化させようとしたのだ。

残念ながらこちらも練度が低く、赤系統の魔術で熱した金属を歪ませる程度しか出来なかったが。


雄黄へと至る事で、赤系統で熱する事無く思うように形を変化させられるらしい。

つまり、通常の鍛冶技術を使用する事無く思うままに金属を加工、変形させる事が出来るのだ。


と言っても出来るのは形状変化程度で、鍛冶で言うところの鍛造、すなわち叩いて密度を高めるという工程や、更には研ぎに当たる作業は熟練の魔術士でも難しいらしい。

それでも簡単な加工ならば鍛冶場にいなくとも出来るのだ。

盾や鎧などの簡単な修復がその場で出来るのであれば、その利用価値は高いだろう。


初めて見る鍛冶の魔術に、レキやフランなどは大層興味を惹かれたが、とりあえず授業を進めるとの事で質問は後回しになった。


不満顔のレキとフランをルミニアが慰める間も授業は進んだ。

順番はこちらも魔術の試験順であり、最下位から順にミーム、ガドときて次はカルクだった。


因みに魔術試験の順位は以下の通りである。


一位:レキ

二位:フラン=イオニア

三位:ルミニア=イオシス

四位:ユミ

五位:ファラスアルム

六位:ユーリ=サルクト

七位:ガージュ=デイルガ

八位:カルク

九位:ガド=クラマウント=ソドマイク

十位:ミーム=ギ


使えるとはいえ、カルクは村にいた冒険者から少し教わった程度。

赤系統火属性の基本魔術エド。

掌の上に火を生み出すだけで終わった。


七位のガージュは赤系統の初級魔術エド・ボールを放つも、魔木の的に当たりはすれど燃やすどころか焦がす事も出来なかった。


六位のユーリ。

二番目の兄に習ったのだろう、青系統の初級魔術ルエ・ブロウと緑系統のこちらも初級魔術リム・ブロウを的に当てる事に成功する。

威力はどちらも弱く、的を揺らす程度に終わったが。


ファラスアルムは試験の時と変わらず、だがあの時よりも威力が上がっていた。

魔術に必要なのが魔力とイメージであるなら、レキ達の魔術を見た事でファラスアルムの中での魔術に対するイメージが強化されたのだろう。

試験から僅か二日、ファラスアルムの魔術は明らかに向上していた。


その後はユミ、ルミニア、フランと続くのだが、三人共既に実演済みという事で飛ばされ、レキの番となった。

今回の目的は現時点での魔術の実力を見せるという事で、フィルニイリスに言われて最初から上位四系統を使って見せる。

試験の時に言われた点を改善しつつも、周りになるべく被害を出さない程度には手加減したつもりだったが、それでも十分周囲を圧倒する結果となった。


初見となるユーリ達の驚き様は凄まじく、まさに声も出ないと言った様子。

ガドだけはいつも道り頷いていたが、心なしか頷くタイミングが少しばかり遅い気もした。

なお、試験時には感激のあまり気を失ったファラスアルムは、今回も同じように気を失ったり戻ったりまた失ったりと一人忙しそうにしていた。


無詠唱を含め魔術そのものを軽視していたカルクとミームも、流石にレキの魔術にはただ唖然とするばかりである。


従来の魔術であれば、呪文を詠唱している隙に詰め寄り、攻撃すれば良かった。

無詠唱魔術にその隙は無く、フィルニイリスやレキの様に溜めすら必要としない魔術士を相手にしたなら、遠距離から一方的に攻撃され負けるだろう。

レキが放った上級魔術。

それが絶え間なく放たれる事を想像し、カルクとミームは揃って身震いした。


「まず詠唱無しで放てるようになる事。

 威力や精度の向上、他系統の習得はその後」


一通り魔術を見せあった後、フィルニイリスが今後の方針について説明した。

従来の詠唱魔術の使い手、まあ魔術が使える者のほとんどの者が当てはまるわけだが、彼ら彼女らが無詠唱魔術を習得しようとした場合、どうしても威力や制度が落ちてしまうという弊害が発生してしまう。

これまでの呪文を詠唱するという行為がイメージを高める手助けをしており、また「呪文さえ正しければ魔術が発動する」という固定観念が、呪文の正確性=精度という図式になっている為である。


そう言った者達にとって、呪文の詠唱と言うのは魔術を行使する上で必要不可欠であり、それを省いてしまえば魔術は発動しないのだ。

呪文の詠唱に慣れている者ほどその傾向は強く、王国の魔術士の場合無詠唱魔術を習得するのに一年以上かかっている。


幸いユーリ達はまだ十歳の子供。

魔術が使えると言っても良くて初級レベル。

固定観念は持っているだろうが、それも大人ほどではないだろう。

つまり、矯正も容易いという事だ。


威力や精度、あるいは他系統の習得などはその後でも十分。

無詠唱魔術を習得する事で呪文の詠唱に頼らない魔力やイメージの高め方が身につく為、後回しにした方が効率も良いのだ。


「魔力の制御を高める事で身体強化の向上や魔術に対する耐性を高める事ができる」

「ほんとっ!?」

「本当」


魔術に興味の無かったミームも、フィルニイリスのその一言でやる気になったようだ。

他人の魔術を見る事で魔術への対策もつかめるだろうし、魔術に頼る事なく魔術士に勝つ戦い方もきっと見つかるだろう。

獣人の戦士達が他の種族に対抗できるのも、そうした戦い方を身に着けているからだ。

もちろんそれは従来の詠唱魔術に対する戦い方ではあるが、基本的には同じである。


とはいえ、それで勝てるのは精々初級~中級魔術を扱う魔術士を相手にした場合。

上級魔術を無詠唱で、一切の溜めもなく放つレキに勝てるかどうかは・・・正直困難と言わざるを得ないだろう。

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