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黄金の双剣士  作者: ひろよし
八章:学園~入学編~
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第174話:魔術講師と無詠唱魔術

「全員終わったな」


レキ対フラン・ルミニアコンビの試合が終了し、これで全員の試合が終わった。

現時点での実力を確認し合うという目的も、レキを除けば十分果たせたと言えるだろう。


「約一名を除けば実力差はそれほどないと言って良いだろう。

 試験の順位などあくまで入学時点でのものだ。

 一年で変わる事も多い。

 お前たちも今の実力に慢心せず、今後も精進するようにな」

『はいっ!』


レキ達はまだ十歳。

体の成長もこれからだ。

今はまだ手が届かない高みにいるレキにだって、この学園で鍛錬を続けていけばいつかは手が届くかもしれない。

少なくとも、フランとミームはそう信じている。


現時点で既に最強と言って良いレキも、これからどんどん成長していくだろう。

某騎士団長ガレムのような筋骨隆々とした体つきにはなれずとも、背が伸びれば間合いは広がるし歩幅も大きくなる。

そうなれば戦い方も変わるかも知れない。


「引き続き魔術の授業に移る。

 場所は第一魔術演習場になるが、その前にまず着替えだ。

 皆、着替えた後再度集合するように」


最初の授業も終わり、続いて魔術の授業へと移行する。

場所は、やはりレキ達が魔術の試験で使用した第一魔術演習場。

武術の試験は皆バラバラの場所で受けたようだが、魔術に関しては全員同じ場所だったようだ。

武術の試験に比べて魔術の試験にはそれほど時間がかからなかったのがその理由だろう。


「・・・え~」

「まぁまぁ。

 レキ様は別ですから」

「私達の試験はちょっとね~」

「はい、素晴らしかったです」

「ふふん、そうじゃろそうじゃろ」


自分達の魔術の試験を思い出し、レキが不満を漏らした。

試験だと言うのに手本をさせられるわ、その際服は脱がされるわで、思い返してみれば散々だった。

それと言うのも、フィルニイリスが試験官だったからに違いない。

いくら無詠唱魔術を正しく評価できるのが王国の宮廷魔術士しかいないからと言って、何も宮廷魔術士長のフィルニイリスが来る必要はなかったはずだ。


「ん~、やっぱ暇だったのかな?」

「ふふっ、まさか」


もちろんそんな理由ではなく、知識や実力に加え肩書や知名度を踏まえた上での人選である。

そのくらいレキにも分かってはいるのだが、何分相手はあのフィルニイリスだ。

暇だったから来た、と言われても納得してしまう。


「意外とそうかも知れんのう」

「え~、そうなの?」

「うん、フィルだしね」

「うむ」

「ふふっ」


試験の話で盛り上がるレキ達。

無詠唱魔術を使える者は、この学園には今のところレキ達くらいしかいない。

これから行われる魔術の授業でも、試験の時同様レキ達が手本を見せる事になるだろう。

そこら辺は慣れたもので、とりあえずフィルニイリスがいなければ無茶ぶりは無いだろうとレキは気楽に構えた。


そんなレキ達と違い、つまらなそうにしているのは獣人のミームである。

種族的に魔術が不得手で、性格的にも魔術を放つより殴った方が早いという考えを持っている為、魔術には興味が無いのだ。

不得手なだけで使えない訳ではなく、先程の武術の授業でも分かる通り身体強化は問題なくできる。

ただ、魔力を元に火や水を生み出すのに時間がかかってしまうのだ。

それは獣人として生まれた以上仕方なく、ミームもそこに不満を述べるつもりはない。


つまらなそうにしているのは単純で、自分が不得手かつ興味のない魔術の授業を受けるのがただ億劫なのだ。


「あたしはどうでもいいんだけどなぁ~」


両手を頭の後ろに回し、ミームがそんな事を呟く。

なんとなくふてくされたように見えるのは、自分だけ仲間外れな気がしているからだろう。


「自身が使えずとも授業を受ける価値はある。

 例えば相手が魔術を使ってきた場合、予めどのような魔術か分かれば対策もとれよう」

「え~、でも魔物は魔術使わないじゃん?」

「戦う相手は魔物だけとは限らん」

「えっ、それってどういう・・・」

「ほら、着いたぞ」


話をしている内に、どうやら演習場についたらしい。

レイラスの話は気になるも、今からは魔術の授業である。

話の途中ではあったが、一応授業をさぼるつもりは無いミームが先を行くレキ達に追いつこうと足を早めた。


「遅い」

「えっ、フィル!?」


そこには何故か、フロイオニア王国宮廷魔術士長フィルニイリスがいた。


――――――――――


「今年から我が学園で魔術の授業を担当していただく事になったフィルニイリス殿だ。

 フロイオニア王国宮廷魔術士長と言えばわかるか?」

「えっ、そうなの?」

「そう」


驚くレキとフラン、ルミニアをよそに、レイラスが簡単にフィルニイリスを紹介した。

フロイオニア王国の宮廷魔術士長であるフィルニイリス。

顔は知らずとも名前とその肩書はこの大陸でも有名で、王国最強の騎士ガレム、剣姫ミリスと並んでフロイオニア王国の顔と言っても良い。


「なんでフィルが?」

「そうじゃ、何故じゃ!」


ようやく混乱から立ち直ったのか、レキとフランがフィルニイリスに詰め寄った。

魔術の試験でもそうだったが、フィルニイリスが学園の講師を務めるなどレキ達は聞かされていない。

学園の講師となるのなら、せめてフランには一言あっても良さそうなものだが・・・。


「無詠唱魔術を指導出来るのは現時点で私しかいない。

 よってこの学園で講師をする事になった」

「なるほど、確かにそうですね」

「うん」


理由を聞かされて納得したのはルミニアとユミである。

ルミニアは魔術以外でも母親の件でお世話になっているし、ユミの魔術の基礎はフィルニイリスから習ったものだ。

フィルニイリスが学園で講師を務める事に異議は無く、むしろ歓迎している。


「それにしてもせめて一言くらい・・・」

「申し訳ありませんレキ様。

 フィルニイリス様が内緒にしておこうとおっしゃられたもので」

「サリアっ!?」

「はい、ご無沙汰しておりますレキ様」


レキだってフィルニイリスが来てくれた事は正直嬉しい。

ただ、自分達に一言も言わず突然来た事に驚くやら不満やらが沸いてしまったのだ。

そんなレキにダメ押しをするように、王宮でレキ付きの侍女を務めていたサリアミルニスまで現れ、レキの混乱は加速するばかりだ。


「あの、サリアミルニス様は何故こちらに?」

「フィルニイリス様の助手兼お世話係として参りました」

「助手?」

「はい」


再び混乱してしまったレキに代わり、ルミニアがサリアミルニスとの話を引き継いた。

宮廷魔術士長かつ王家の相談役という側面を持つ為か、実はフィルニイリスにもお世話係がついている。

別にフィルニイリスが日頃だらしないとかそういう訳ではなく、その肩書故だ。

その為、学園に派遣される際には助手兼お世話係が付く事となり、志願したのがサリアミルニスだった。


元々レキ付きの侍女という事もあり、他人の世話はお手の物。

森人という事もあって魔術も問題なく、無詠唱魔術も習得済み。

フィルニイリス達王国の魔術士が無詠唱魔術を習得する際、サリアミルニスもレキやフィルニイリスから学んだのだ。

レキ付きの侍女として、その程度は習得しておかねば有事の際レキの力になるどころか足を引っ張りかねないからと、王国の魔法士以上に努力した結果である。


どうせ学園に派遣するのなら見知った者の方がレキ達も喜ぶだろうという、国王や宰相の配慮もあった。

学園でのレキやフランの生活っぷりを伝える為、という側面もあったりするが。

フィルニイリスは学園の講師となる為そうそう学園を離れる事は出来なくなるが、助手兼お世話係のサリアミルニスであればある程度自由に王宮と学園を行き来できるのである。


いろいろと理由はあるが、一番の理由はサリアミルニス自身がそれを望んだから。


「じゃあサリアも学園にいるんだね?」

「はい。

 今後共よろしくお願いします、レキ様」

「うんっ!」


ようやく混乱から戻ったレキが、笑顔で頷いた。


レキ付きの侍女として二年。

敬愛を抱くと同時に、サリアミルニスはレキの事を弟のようにも感じていた。

もちろんレキはフランの、ひいては王国の恩人であり、そのような感情を持つこと自体許されないのだろうが、レキもサリアミルニスに対し姉のように接している為お互い様である。


フィルニイリスの突然の来訪と講師就任。

更にはそれについてきたサリアミルニスとの再会。

それらがもたらす混乱からレキがようやく落ち着いた。

その横では「む~、リーニャも来れば良かったのにのう」と残念がるフランと、それを宥めるルミニアがいた。


――――――――――


「フィルニイリス殿が仰られた通り、本学園では今後無詠唱魔術も習っていく事になる。

 既に習得済みの者はその練度を高め、まだの者は頑張って覚えるように」


フィルニイリスとその助手を務めるサリアミルニスの紹介も終わり、レイラスが魔術の授業を開始した。


「せ、先生っ!」

「ん?なんだユーリ=サルクト」

「いきなり無詠唱魔術と言われても」

「ああ、お前達は無詠唱魔術を知らないのか」


無詠唱魔術。

従来の呪文を詠唱する事で発動する魔術とは違い、脳裏にイメージした魔術を詠唱する事無く発動させる魔術。


呪文を知らないレキが、その余りある魔力を用いて半ば強引に発動させた魔術であり、本来なら正式な魔術とは言えないものだった。

それをフィルニイリス達宮廷魔術士が解析し、更には自身で再現する事によって確立した新しい魔術とも言える。


通常の詠唱魔術に比べ、無詠唱魔術は必要となる魔力量が膨大であり、以前はレキほどの魔力が無ければ満足に発動できないと思われていた。

だが、フィルニイリス達宮廷魔術士の研究により、常人でも無詠唱魔術を習得する事が出来るようになったのである。


必要なのは魔力ではなく、脳裏に描く魔術のイメージ、それをより明確にする事。


魔術を碌に知らなかったレキ。

そのレキが呪文を詠唱せずに魔術を発動できたのは膨大な魔力があったから。

そもそも、レキほどの魔力が無くとも呪文と正確なイメージさえあれば魔術は発動する。

それは今までの魔術士が証明している。


問題は、レキほどの魔力が無い者が無詠唱で魔術を行使するにはどうすれば良いか。


魔力・呪文・イメージ。

このうち、従来程度の魔力量で、呪文を詠唱せず魔術を発動させるとしたなら、残るのはイメージだろう。

ならばそのイメージをより精細に、正確に、具体的にイメージすれば、レキほどの魔力が無くとも発動するのでは?

そう考えたフィルニイリス達宮廷魔術士は、約一年の研鑽を経て無詠唱魔術を習得したのである。


現段階では、宮廷魔術士全員と王宮にいるその他の魔術士達が数名、その他例外的に習得した者が数名いる程度。

習得者が少ない理由の一つには、教えられる者が少ない事が挙げられる。

宮廷魔術士達が無詠唱魔術を習得してからまだ一年、一番早かったフィルニイリスですら習得してまだ一年と半年しか経っていない。

更には、王国の魔術士が総力を上げて無詠唱魔術を明文化し、他の者達でも習得できるよういろいろ整備するのに一年ほど費やしている。


そしてようやく、宮廷魔術士を中心に他国や他領に住む者達へ無詠唱魔術を広め始めたところなのだ。


その一環として、これからを背負って立つであろう子供達への指導をすべく、こうして宮廷魔術士長フィルニイリス直々にやってきたのである。


「無詠唱魔術の実演から入る。

 サリア、準備は良い?」

「はい、整ってます」


無詠唱魔術を知らない、見た事もないユーリ達の為、まずフィルニイリスが実演してみせる事になった。

試験ではレキに任せたフィルニイリスであったが、今回は自分で行うようだ。

今後、子供達に魔術を教えていく為にも、自分の力を見せておく方が良いと考えたのかも知れない。


「まず赤系統。

 えい」

『っ!』


用意された魔木の的に向かって、フィルニイリスが魔術を放つ。

杖から放たれたのは赤系統の中級魔術エド・アロー。

フランも試験で用いた魔術であり、ただしフランとは決定的に違う点が幾つかあった。


まず目を見張るのは魔術を行使するまでに要した時間だろう。

フランやルミニア、ユミの様な魔力を練ったり溜める時間を一切必要とせず、杖を構えた直後に放たれた魔術は、実践ならば相手が構えるより早く、防御する隙を与えず、逃げ出すより先に当てる事が出来るに違いない。


更には威力。

フランの魔術が魔木の的を辛うじて燃やした程度であったのに対し、フィルニイリスの放った魔術は魔木の的を燃え上がらせた。


そして数。

使用したエド・アローはその名が示す通り魔力で作られた火の矢を放つ魔術である。

一流の弓矢使いが時に二~三本もの矢を連続で放つように、フィルニイリスは実に四本もの火の矢を同時に放ってみせた。

もちろん、その矢は全て的に突き刺さっている。


発動速度、威力、そして数。

どれをとってもフランとは比較にならず、宮廷魔術士長の名は伊達ではなかった。


「うむ、さすがフィルじゃな」

「ええ、流石です」

「うん、凄いね」

「ふぁ~・・・」


相手がフィルニイリスというのもあるのだろう。

自身より優れた魔術をフランは素直に称賛した。

ルミニアも、そしてユミも魔術に関してはフィルニイリスが師同然であり、久しぶりに見たフィルニイリスの魔術に心から感心している。

ファラスアルムも同様で、レキの時の様に感激しすぎて気を失うような事は無かったものの、感嘆の息を漏らす程度には感動したようだ。


「こ、これが無詠唱魔術・・・」

「お、おぉ~・・・?」

「す、凄い、の?」

「・・・ちっ」

「む」


反面、初めて無詠唱魔術を見た者達の反応は様々だった。


ユーリやガージュは、学園に来る前の段階で従来の詠唱魔術は習得ずみであるが故に、自分達が今まで習った物とは異なる無詠唱魔術に対し素直に驚いている。


魔術とは、呪文を詠唱し、使用したい魔術を脳裏に描き、必要となる魔力を用いて行使する。

これがユーリやガージュが今まで習ってきた魔術である。

その呪文の詠唱が一切なく、それでいて自分達より遥かに高威力の魔術が放たれたのだ。

あっけに取られるユーリと舌打ちするガージュ、反応は極端だが二人とも無詠唱魔術の素晴らしさは理解している。


カルクとミーム、二人は魔術そのものに対してあまり詳しくないせいか、何が凄いのかがよく分かっていない様子である。


一応は赤系統が使えるカルクだが、実際のところ初級魔術以前の基本魔術であるエドが使える程度で、実戦で通用するレベルではない。

この歳で魔術が使えるだけでも十分なのだが、カルク自身、戦闘の際には魔術より剣で戦うほうが好みなのか、魔術に関する知識があまり無いのだ。


ミームはミームで、もとより魔術が不得手で興味も無い為、フィルニイリスの魔術も多分凄いのかな?という程度にしか感じなかった。


ガドはいつもどおり深く頷いている。

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