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黄金の双剣士  作者: ひろよし
八章:学園~入学編~
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第173話:ユーリの事情

「う~、またじゃ。

 また一度も当てられなかったのじゃ・・・」

「私もです・・・」

「あはは・・・」

「で、でもお二人とも凄かったです」


試合が終わり、フランとルミニアが仲良く肩を落とした。

怪我など一切負っておらず、と言うより体には一撃も食らっていない。

手加減されていたという事が嫌でも分かるだろう。


だからこそ余計に悔しかった。

圧倒的な実力差があってもそれはそれ。

悔しさを忘れてしまえば強くなれないと、ミリスやニアデルなどから散々聞かされてきた二人である。

例え手の届かないほどの高みにレキがいるとしても、諦めるつもりは無い。


だからこそ負けた事に二人は本気で悔しがり、そんな二人にどう声をかければ良いかユミとファラスアルムが戸惑っていた。


一方、勝者であるレキはと言えば・・・。


「やっぱすげぇなレキは」

「あんた何者!?

 ほんとは獣人じゃないの?」

「む!」


カルクとミーム、手合わせした事のある二人に囲まれ、称賛やら文句やらを受けていた。

カルクはレキの実力に改めて驚き、ミームは自分に勝ったフランが二人がかりでも勝てないレキに、自分との手合わせがどれほど手加減されていたかを察した。

そもそも、昨日の手合わせでは身体強化どころか剣さえ振るわずにミームに勝利しているのだ。

それほどの実力差がありながら本気を出せなどと、今のミームが言えるはずもない。


「そういやうっすら金色に光ってたけど、あれなんだ?」

「ん?

 オレの魔力」

「えっ?

 あんたの魔力てあんな色してんの?」


先ほどの試合、レキも僅かに身体強化を使っている。

使わずとも勝てるとはいえ、使わないとフランやルミニアが文句を言うからだ。

もちろん全力を出したわけではない。

使った魔力もほんの僅か。

それでも、レキの黄金の魔力は端から見ても目立つらしい。


通常、身体強化は魔力を体内で循環させる為、外に漏れる事はない。

制御を誤るか、身体強化を施しつつ魔術を放とうとする場合に、魔術へと変換しきれなかった魔力が外に漏れる事はある。

レキの場合、身体強化に用いた魔力は微量で、制御を誤った訳でも魔術を放とうとしたわけでもない。

それでも魔力が外に漏れたのは、それだけレキの魔力が質・量ともに大きいからだ。


この世界で黄金の魔力を持つ者などレキ以外にはいないだろう。

だが、魔術は使えるもののそれほど得意ではないカルクと、種族的に魔術に明るくないミームは、レキの黄金の魔力がどれほど珍しい物なのか知らなかった。

見た事の無い色であり、キラキラ輝いてとても綺麗だという程度でしか理解していないのだ。


「はは・・・。

 いや~、話には聞いていたけど、あれほどとはね・・・。」


そんな中、ユーリだけはレキの実力と魔力、その両方に呆気に取られていた。


――――――――――


サルクト子爵家の三男として生を受けたユーリは、その時点で家を継ぐ権利を有していなかった。

長男が不出来であっても、次男が優秀であれば次男に任せればよく、あるいは次男を長男の補佐にまわすという手もある。

何れにせよ、三男であるユーリには関係のない話であった。


そんなユーリは、良く言えば放任、悪く言えば無関心という扱いを親から受けていた。

疎まれた訳ではない。

ただ、跡継ぎである長男と、それを将来的に補佐するか、あるいは長男の代わりとなる次男にばかりかまけていた為、ユーリへと注がれる愛情が薄かったというだけの話だ。


今でこそある程度割り切っているユーリだが、幼少の頃はそうもいかず、当然のように親の愛情を求めた。

だが、長男と次男の教育にかかりっきりな両親からは、愛情どころか関心を向けられることすら稀だった。


剣を得意とした長男と、魔術を得意とした次男。

それぞれが異なる才能を有した兄弟であり、座学もそれなりに出来たからこそ、両親も二人により一層の愛情を注いでいた。


そしてユーリは、ただでさえ残り少ない親の愛情を得る為、まずは関心を引く事から始めた。

それは、子供ながらに親の愛を得る為の無意識の行為だったのかも知れない。

長男が剣を褒められれば自分も剣を振るい、次男が魔術を褒められれば自分も魔術を学んだ。

いたずらしたり自傷行為に走らなかっただけマシだったが、あるいはそちらのほうが親の関心は引けたかも知れない。


とにかくユーリは、親の関心と愛情を得る為、剣と魔術、更には座学も頑張った。

それでも得られたのはほんの僅かな関心のみで、それも長男や次男との比較対象としてのもので、ユーリ自身に向けられる事は無かった。


結局、ユーリがこの年になるまで親から向けられた関心は薄く、与えられた愛情は殆どなかった。


その変わりと言っては何だが、兄達はユーリに対して愛情を与えてくれた。

ユーリが隣で剣を振るえば、長男は親の代わりに剣を教えてくれた。

ユーリが後ろで魔術を見学していれば、次男はユーリに魔術を扱うコツを教えてくれた。


それはユーリが真に望んだ愛情では無かったが、それでも歪まずに成長する事が出来た。


だが、いくら兄達から愛情を注がれようと、ユーリの居場所はサルクト家には無かった。

長男が跡を継ぎ、次男が長男の補佐をするというのは当主である父の考えだったが、長男も次男も納得済みで、サルクト家の将来は盤石だった。

当然、そこにユーリが入る隙間は無かった。

ユーリという存在はサルクト家にとって不要で、それどころか余計な火種になる可能性を有していた。


剣では長男に勝てず、魔術では次男に及ばないユーリだったが、逆を言えば剣は次男より上で魔術は長男に勝っていた。

座学の面では長男や次男に勝るとも劣らない程の優秀さを見せ、何よりユーリには長男や次男にはない力があった。

周りを冷静に見る目、すなわち観察力である。


両親からの愛情を求めていたユーリ。

どうすれば愛情を得られるのだろうかと必死に考え、両親の関心がどこに向いているのか考え続けた結果、他者が何を求めているかをある程度見抜く事が出来るようになったのだろう。

同時に、両親の関心は決して自分には向かないだろうという、悲しい事実をも認識する事になった。


それでも身についた観察力は様々な点で有効で、それは剣や魔術の鍛錬にも生かされた。

才能はさほど無かったユーリだが、それでも人並み以上の剣技と魔術を身につける事が出来たのだ。


「身体強化はともかく、フラン殿下とルミニア様を同時に相手にしてあの余裕。

 剣姫ミリス殿の愛弟子という話だが、既に超えているんじゃないかな?

 まあ、少なくとも兄さんよりは上だろうけどね」


長男の剣を観察し続け、自身もそれなりに剣を身に着けたからこそ分かるレキの強さ。

実際に剣を交える事でより深く理解できるであろう実力差も、これほどまでに離れていれば少なくとも勝てない事は分かる。

カルクとは真正面からぶつかったユーリだが、レキに関してはむしろ端から観察したほうが分かるのかも知れない。

レキが全力を出していない以上、分かるのは手加減に手加減を重ねた上で、それでも自分では足下にも及ばないという事実だけだだった。


「魔術に関しては流石に分からないが、魔力量だけ見ても小兄さんでは相手にならないね。

 全く、レキを見てると爵位とか跡継ぎとかどうでも良くなるから困るよ。

 ・・・冒険者、本気で目指すのもありかもね」


自己紹介では「冒険者にでもなろうかな」などと言ったユーリだが、あの時点では本気で目指しているわけではなかった。

ただ、家に居場所が無く、一人で生きていく為には冒険者は都合が良かった。

兄達もそんなユーリを陰ながら応援し、だからこそ剣や魔術を教えてくれた。

その事に感謝しつつ、いや感謝したからこそ家を出る事に若干の躊躇いが生じてしまったわけだが。


学園に入る際も、両親からは王女殿下やイオシス公爵家の娘によろしくとしか言われなかったが、兄達は自由にやってこいと応援してくれた。

子爵家の息子である以上、フランやルミニアとの結びつきはそれなりに有益なのだろう。

そのくらいはユーリでも分かる。

だからと言って両親の言いなりになるつもりは無い。

精々兄達の迷惑にならないよう、無礼だけは働かないように気をつけようと思った程度だ。


それでも実際に学園に入ってみれば、予想以上に気さくな王女殿下と穏やかで理知的な公爵家の娘がいて、両親の思惑とは関係なく友誼を結ぶ事が叶ってしまった。


彼女達の関心はもっぱらレキに向いている為、両親が望むような成果は得られないだろう。

それでもお近づきにはなれた。

その成果を持ち帰ればサルクト家に居場所ができるかも知れない・・・などと考えてしまった辺り、ユーリもまだ子供なのだろう。


家を出る事は決定事項で、ユーリもそこに未練は無い、つもりだった。

ほんの僅かな心残りが、フランとルミニアと実際に相対する事で湧き上がってしまったようだ。


もし自分がこれ以上無いほどの優秀さを二人に見せつけられれば、あるいは取り立ててもらえるかも知れない。

そう考えてしまったのだ。


まあ・・・。

そう言った未練というか残滓というか、ほんの僅かな心残りも、レキの強さを見て綺麗さっぱり消え去ったわけだが。


自分がどれだけ力をつけようともレキ以上になれるとは思えず、気さくなフランとそれを支える優秀なルミニア、そして彼女達を守るレキという盤石な体勢に、自分の入り込む余地などないのだろう。

それが分かったからこそ、ユーリは将来について改めて考える事にした。


「レキには敵わずとも、一緒にいれば力を付ける事はできそうだし。

 カルクやミームと手合わせするのも良いかもね。

 後は魔術だけど・・・ん?」


冒険者として成功するには何より実力が必要であり、それを得るためには強者に教わるのが一番だろう。

幸い、レキは他者を指導するのも向いているようだし、気も良いから望めば鍛錬くらいつけてもらえそうだ。

手合わせの相手にも事欠かず、ユーリが今以上の力を付ける為に必要なものは揃っていると言えるだろう。


あとは魔術だけ、などと将来に思いを馳せていたユーリ。

ようやく立ち直ったフランやルミニアを加え、仲良く談笑しているレキが、武舞台の袖に控えているとある人物を気にしている事に気付いた。


それは、皆の輪に入らず、少し離れた場所から観察していたユーリだから気づけたのだろう。


「ガージュ?」


最後までレキ達の輪に加わらず、一人外れた場所から、ガージュ=デイルガがレキ達を見ていた。


――――――――――


「・・・あの目は?」


ユーリが気づいたガージュの視線。

それはレキに対する様々な感情を宿した物だった。


例えばそれは憎しみだったり、あるいは憧れだったり。

恐怖や怒りと言った負の感情と、敬意などの正の感情が入り混じった、何とも言えない目であった。


「彼も僕と同じように、デイルガ家から何か言われて・・・いや」


それがレキに対する嫉妬や、邪魔者に対する感情ならユーリにも理解が出来る。

ガージュはデイルガ家の嫡男であり、何もなければそのままデイルガ家を継ぐはず。

フランやルミニアと友誼を結んでおく事は、ガージュ自身の将来にこれ以上ないほど有益なものになる。

だからこそ、ガージュにとってレキは邪魔者以外の何者でも無いはずで。


「だが、ガージュのフラン殿下やルミニア様への態度が・・・」


そもそも自己紹介で「馴れ合うつもりなどない」だとか「よろしくなどしてやるもんかっ!」などと啖呵を切ったガージュである。

ミームとのやり取りやレイラスからの叱責もあるのだろうが、それでも王女や公爵家の子女の前で取る態度ではない。

彼女達に取り入ろうとするなら尚更だ。


だからこそ、ガージュ自身にはフラン達に取り入ろうとする意思は無いように思えた。

だからこそ、ガージュのあの視線がユーリには気になった。


「・・・まあ、レキなら問題はないか」


とは言うものの、レキとガージュの実力差は歴然である。

ついでに言えば、ガージュのあの視線にもレキの方が先に気付いたわけで。

今更ユーリが心配したところで、なんの問題も起きないだろう。


それより今、ユーリがすべきことは一つ。


「僕も彼らの輪に入らなければ」


レキを中心にして形成されている輪に、ユーリも混ざる事。

それが今、ユーリがすべき事だろう。

打算とか将来とかそういうものは関係なく、学園で知り合った友人と仲良くなる為に必要なのだ。

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