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黄金の双剣士  作者: ひろよし
八章:学園~入学編~
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第171話:フランとミーム、カルクとユーリ、ユミとガド

「まだじゃっ!」

「あたしだってっ!」


両者は再びぶつかり合う。

これまでの攻防である程度理解したのか、今度はミームも攻撃を捌きながら時折拳や蹴りを繰り出していく。


互角の攻防と思われる内容だが、試験の順位とおりなのかフランの方が若干上手のように見えた。

ミームの拳を短剣でそらし、蹴りは見事に避けきっている。


レキを始めとした、自分より遥かに格上の相手と鍛錬を重ねてきたフランである。

ガージュのように甘やかす者は周囲におらず、むしろ王族だからこそ厳しく指南する者ばかり。

そのお陰か、王女なのじゃぞと驕るような性格にはならなかった。

もっとも、生まれつきそのような傲慢な性格などしていないが。


そんなフランと、才能があったが故に自分より強い相手とはほとんど戦ったことがないミームとでは、戦いにおける経験値に差があった。

フランの怒涛の攻めは防御するのも一苦労で、隙を見つけて攻撃するが簡単には当たってくれない。

今朝のレキとの手合わせほど絶望的な差が無い分、あとちょっとという思いが生じつい攻撃を急いてしまう。

先程のフランと違い、ミームのは現状を打破しなければという焦り。


そんな焦りが生んだ隙。

それを見逃すほど、今のフランは甘くない。


「ったぁ!」

「甘いのじゃ!」

「しまっ!」


ミームが放った不用意な蹴り。

それをフランは頭を下げる事で回避し、更にはそのままの姿勢で地を滑るように前へと踏み出す。

ミームの間合いの内側、視界の下へと入り込んだフランが、そのまま伸び上がるようにして短剣を振り上げた。

武術の試験でも見せた、小柄なフランの身長を活かした技である。


辛うじて小手での防御が間に合ったミームだが、短剣を振り上げつつ飛び上がったフランの勢いに両手を弾かれた。

そして・・・。


「にゃあ!」

「しまっ!」


「それまで!」


空中で一回転しつつ、着地と同時にミームの首筋にフランが短剣を突きつける。

フランの勝利である。


――――――――――


「フランお疲れっ!

 ミームもっ!」

「お疲れ様でした、フラン様、ミームさん」

「二人とも凄かったよ~」

「はいっ!

 凄かったですっ!!」


武舞台から降りたフランとミームを、レキ達が慰労や称賛しながら迎えた。


今の一戦。

入学したての十歳の子供が出来る最高峰の試合と言っても良いだろう

互いに接近しての戦闘が得意な者同士、至近距離での目まぐるしい攻防。

ほんの僅かな経験の差が今回の結果へと繋がった。


技術や実力にそれほど差はなく、あるのはどれだけ多くの試合を重ね、どれだけ自分より強い者と戦ってきたか。

その差が、今のフランとミームの差なのだろう。


「む~、負けたっ!」

「ふっふっふ、わらわの勝ちじゃ」

「く~、悔しいっ!」

「ふふん」


僅かな差であっても勝ちは勝ち。

と、幼い胸を張るフランである。

胸同様、実力的にもそれほど差が無かった分、悔しさもひとしおなミームであった。


「ふふん。

 やはりレキが勝負するまでもないのう」

「くっ、うぅ~」

「今後はまずわらわに勝ってからにするのじゃな」

「次は絶対勝ってやるんだから!」

「うむ、そのいきじゃ」


自分で煽っておきながら、ミームからの挑戦をフランが笑顔で受ける。


「あら、フラン様に挑まれるのであれば、まず私に勝ってからにして頂きませんと・・・」

「なんでよ、あんたの方が上じゃないの」

「試験の順位は確かにそうですが、実力的にはそれほど差はありませんよ?」

「そうなの?」

「はい」


更にはルミニアまでが参戦した。

ミームがレキに挑むには、まずルミニアを倒し、続いてフランを倒さなければならないらしい。


「そうなのか?」

「う~ん。

 フランもルミニアもオレの護衛対象なんだけどな~」

「まあいいじゃないか。

 三人共楽しそうだしね」

「む」


カルクの疑問にレキが首を傾げ、ユーリが楽しげにレキの肩を叩き、ガドが頷く。


「・・・ふんっ」


ただ一人、仲間の輪の外でガージュがつまらなそうに鼻を鳴らしていた。


――――――――――


「良い試合だった。

 途中フラン=イオニアは勝ちを焦ったようだが、良く立て直したな」

「うむっ!」

「まあ相手が素手だから良かったものの、これが剣や魔物ならあの一撃で死んでいたかも知れんがな」

「うにゃ・・・」

「ミーム=ギの方は前半様子見が過ぎたようだな」

「う~・・・」

「初めての相手に慎重になるのも仕方ないが、同じ近距離で戦う者同士、先に攻めた方が有利だろう」

「え~・・・」

「途中のカウンターは見事だった。

 相手がフラン=イオニアでなければ、あるいは決まっていたかも知れん」

「うぅ~・・・」

「決められなかったのが不満か?

 あるいは攻めきれなかった事か?

 いずれにせよ足りないのは実戦経験だろうな」

「くっ・・・」

「経験など今後いくらでも積めるだろう。

 では次、カルク、ユーリ=サルクト。

 両名武舞台へ」

「は、はい!」

「はい」


フランとミームそれぞれを批評し、そのまま次の試合へと移る。

今見た高度な試合に興奮し魅入っていた二人は、その熱も冷めやらぬまま武舞台へと上がった。


両手で剣を持つカルクと、ガージュ同様片手で細剣を構えるユーリ。

平民であるカルクと貴族であるユーリの対決だが、カルクに気後れはなく、ユーリもカルクを平民だからと侮るような真似はしない。


村一番と言われても、カルクの村の規模が分からない以上なんの指標にもならないが、少なくとも武術の試験における評価はカルクの方が上。

全力で挑まねば負けるのはユーリだろう。


「うむ、では始め!」

「うおぉ!」

「はぁっ!」


両手で握った剣を上段に構え、真っ直ぐ突っ込んでいくカルク。

迎えるユーリは、僅かに体を横に構え、真っ直ぐ細剣をカルクに突き出した。


「ったりゃ!」

「がっ!」


眼前に迫った細剣、それを体を捻りながら避け、更にはその反動を利用してカルクが剣を振るう。

ユーリも突き出した細剣を戻し、カルクの剣を何とか避けようと体を捻ったが、カルクの剣が振るわれる方が速かった。

とっさに細剣を構え、盾の様に受け止めようとしたユーリ。

だが、武器の差と力と勢い、三つが重なった剣を受け止めきれず、ユーリは吹き飛ばされてしまう。


「くっ・・・」

「まだやるか?」

「あ、当たり前だ。

 あまり僕を見くびってくれるなよ?」

「へっ、そうこなきゃな!」


細剣を杖代わりにして、ユーリがなんとか立ち上がった。

カルクもまた、そんなユーリを前にして油断なく剣を構え直し・・・。


「ったあっ!」

「くっ

 はあぁっ!」


カルクの剣がユーリの眼前で止まった。

ユーリの突き出した細剣は、カルクを捉える事は出来なかった。


「それまで!」


カルク対ユーリの対決は、カルクに軍配が上がった。


――――――――――


「ふぃ~、危なかったぜ」

「いやいや、僕の完敗だ」

「そうでもねぇって」


ユーリに肩を貸しながら、仲良く武舞台から降りてくるカルクとユーリ。

貴族であるユーリと平民であるカルク。

身分の違う二人だが、今の姿を見ればそんな事は意味ないのが分かる。

先程のフランとミームとの対決に続き、貴族や平民、種族の違いなど、少なくとも最上位クラスには関係ないようだ。


「攻撃をかわしながらの一撃はなかなかだった。

 多少強引だがな」

「へへっ、まあな」

「ユーリ=サルクトも、馬鹿正直に挑まずとも良かったはずだろう?」

「いえ、同じ冒険者を目指す者同士、彼とは真っ直ぐぶつかりたかったのです」

「その気持ちは分からんでもないが、冒険者は生きてこそだ」

「はい」


まだ拙いながらも真正面からぶつかりあった者達に、レイラスが言葉を送る。

真正面からぶつかるな、細剣だからと言って真っ直ぐ突く必要はない、と言った内容のアドバイスを送る事も考えたが、今回は全員の実力を見る為の試合である。

小細工なしに真正面からぶつかりあったその心意気を組んで、余計な事は言わない事にしたようだ。


冒険者に必要なのは生き残る事。

例えば森の中で想定外の魔物が出現した際、生きて情報を持ち帰る事も冒険者の務めである。

死んでしまえばそこで終わり。

どころか、次に森へ入った者達まで危険に晒す事になる。

だからこそ、冒険者を目指すカルクとユーリには、真正面からぶつかるのではなくあらゆる戦い方を学ばせる必要がある。


だがまあ、それは今度で良いだろう。

今はただ、気持ちの良い試合を称賛すべきだ。


「では次。

 一先ずはこれが最後になるな。

 ユミ、ガド=クラマウント=ソドマイク、武舞台へ」

「はいっ!」

「ん!」


試合の余韻が残る中、本日の目的である全員の実力を見せ合う為の、最後の試合が行われようとしていた。


武舞台に上がったのは、自分の身の丈を超える大剣を持つ純人族のユミと、小ぶりながら重量のありそうな斧を持つ山人族のガド。

共に重量級の武器を持つ者同士の対決となった。


身長こそ低いものの種族的に力の強いガドの方が有利に思えるが、武術の試験はユミの方が上である。

見た目では計れない実力がユミにはあるのだろう。


「始め!」

「てえぇ~い!」

「む!」


ガァン!


武舞台の中央から激しい衝突音が響いた、

ユミの大剣とガドの斧がぶつかる音だ。

先ほどのカルク同様大剣を上段に構えたユミが特攻し、ガドがその斧でユミの大剣を受け止めたのだ。


「たあぁ!」

「む!」


ガァン!

ガァン!


武舞台上で、ユミとガドは何度も武器をぶつけ合う。

ユミが攻撃し、ガドが斧で迎え撃つ形ではあるが、聞こえてくる音から両者の力の凄まじさが伝わってきた。


ユミが一方的に攻め、ガドは防御に徹する。


「む~・・・たあぁ!」

「む!」


ガァン!

ガァン!


ユミの振るう大剣、そのことごとくをガドが斧で受け止める。

先程から幾度も繰り返された攻防だが、ガドには余裕が現れ始めていた。


「てえぇいっ!」

「む!」


ガァン!


「ん~、やっぱユミには合ってないなぁ~」

「にゃ?」

「えっとレキ様、それは大剣がという事ですか?」

「う~ん。

 だってなんか大振りだし。

 ユミもいっぱいいっぱいだし」


大剣を振り上げての斬り下ろしか、真横からの切り払い、その二種類の攻撃しかユミはしていない。

ユミの身長は明らかに大剣に合っておらず、振り下ろしと切り払いしか出来ないのかも知れない。


武術の試験では受験者が一方的に攻撃出来た。

だからこそユミも全力で攻撃していたわけだが、今回は相手も攻撃をしてくる。

それを避ける為には、フランがやったように相手が攻撃する隙を与えないのも手である。


ガドの武器がユミ同様重量級であることも幸いし、現状ではユミが一方的に攻撃できているが、そのせいでユミの攻撃が二種類しかない事にレキは気付いた。

防御に余裕が出始めたところを見れば、おそらくガドも気付いているのだろう。


「てやぁ!」

「む・・・むっ!」

「あっ!」


ガァン!!


ひときわ大きい衝撃音が武舞台に響き渡り、同時に武舞台の破片なのだろう石礫が周囲に飛び散った。


「きゃ!」

「っと」


その欠片がフラン達へと飛んできたが、レキが難なく叩き落とす。


「あ、ありがとうございますレキ様」

「うむ、助かったのじゃ」


ルミニアとフランからの礼を背中で受けつつ、レキは武舞台を見た。

武器である大剣を武舞台に叩きつけてしまい、その衝撃で硬直してしまったユミと、そんなユミに斧を突きつけているガド。


「そこまで。

 勝者、ガド=クラマウント=ソドマイク」


本日最後の試合は、順位で劣るガドが上位のユミを下すという番狂わせの結果で終わった。


――――――――――


「あはは~、負けちゃった」

「む」


残念そうな様子のユミとガドが武舞台から並んで降りてくる。

何が起こるか分からないのが試合である。

これが模擬専用の刃引きされた武器ではなく、実戦用の武器であったなら、あるいは違う結果になったかもしれない。

それでも、今回の試合の勝者はガドであり、敗者はユミであった。


「む」

「えっ、なに?」


そんな勝者であるガドが、ユミに向かって何やら語りかけた。


剣職人を目指すガド曰く、大剣はユミに合っていないらしい。

あの身長でしっかりと振り下ろしや切り払いが出来ている為、初めこそギャップも手伝って防戦一方になったガドだが、次第にその攻撃にも慣れ、後半は注意深く観察していたのだ。

その結果、ユミには他の武器の方が合っているという結論に達したらしい。


具体的にどんな武器が合うか、というのは残念ながら現段階では不明である。


背丈の問題で不十分なだけで、大剣も一応は振り回せている。

ユミが成長し、大剣に見合うほどの身長を手にしたらなんの問題もなくなるだろう。

ただ、今のユミには間違いなく合っていないのだ。


「わかった!

 ありがとね」

「む」


幸い時間はたっぷりある。

学園生活だけでもあと四年もあるのだ。

その間に、ゆっくりと自分に合った武器を探していけばいい。

ユミはそう考えた。

心なしガドも満足気だった。


「言うべきことはほぼガド=クラマウント=ソドマイクが語ったようだな。

 ユミ」

「あ、はい!」

「武器は己の命を預ける物だ。

 必ず己に合った物を選ぶようにな」

「はい!」

「まあ、武器に見合うよう己を成長させるのも手だがな」

「あ、はい」

「ガド=クラマウント=ソドマイクは、これが武術の試合だというのを忘れてないだろうな?」

「む?」

「武器職人として武器だけでなく使い手をも見てみたいというお前の気持ちは分からんでもないが、今は試合だ。

 試合に集中しろ」

「むぅ」


ユミに関して、一言で纏めるならば「これからに期待」といったところか。

身の丈を超える大剣を振るえる力こそ素晴らしいが、武器は振り回せれば良いという話ではない。

使いこなしてこその武器なのだ。


これまで指南出来るのがエラス領の領主しかおらず、その領主が大剣しか使っていないが為に、なし崩し的に大剣を習ってきたユミ。

学園であれば、大剣以外の武器も教わる事が出来るだろう。

あるいは体の成長を待ち、大剣を使いこなすという道もユミには残っている。

いろいろ試し、己にあった戦い方を模索していくのが今後のユミの課題となる。


一方、ガドに関してはレイラスが語った事が全てだった。

山人は鍛冶士、職人の種族である。

力こそ優れているが、それはもっぱら鍛冶や採掘時に振るわれる物であり、武術などは己の身を守る程度しか身に着けていない者がほとんど。

中にはその力を持ってオーガやドラゴンすら屠る山人もいるが・・・殆どの山人は採掘や鍛冶にこそ力を注いでいる。


ガドもまた、剣職人を目指す山人である。

今回の試合も武人としてではなく職人として武舞台に立っていたようだ。


防戦一方と思われたガドの試合運び。

なんのことはない、ユミの武器とそれを振るうユミ個人を職人として観察していただけだった。

ユミの武器が合っていなかった為に勝てたが、これがフランやルミニア、あるいはミーム辺りであればあっさりと負けていたかも知れない。

試合の勝敗など、職人を目指すガドにとっては二の次なのだから。

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