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黄金の双剣士  作者: ひろよし
八章:学園~入学編~
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第166話:レイラス登場

「おい貴様っ!

 何か言ったかっ!」

「うるさいからうるさいって言ったのよ。

 耳悪いの?」

「なっ、貴様っ!」


怒り心頭のガージュに対し、ミームが無遠慮な言葉を吐いた。

初対面の、しかも他種族の子供にこれほど無礼な口を聞かれたのは初めてなのか、ガージュはファラスアルムそっちのけでミームと口論を始めた。


「あんたがファラをいじめたのが原因なんでしょ?

 父親に怒られたからってファラに当たらないでよね」

「なっ!

 誰が当たったか!」

「当たったじゃない。

 お父さんに怒られたとか言って。

 そんなにお父さんが恐いの?

 それともお父さんに嫌われたくないとか?

 ふん、貴族と言えどお子様ね」

「き、きさまぁ~!」


レキがしっかりと捕まえている為一歩も動けず、それでもミームに食ってかかろうとするガージュ。

後ろから羽交い絞めされている状態な為、両足をばたつかせてミームに抗議する様は、端から見ている限り間が抜けていた。

ミームもまた、捕まえているのがレキだからこそ、遠慮なく挑発しているのだろう。


「大体貴族の子供って言ってもそれはフロイオニア王国の話でしょ?

 私もファラもこの国の人じゃないんだから、あんたの爵位なんか関係ないわよ」

「なっ!

 ぼ、僕の家は少なからず他国とも繋がりがあるのだぞ!

 プレーターだろうがフォレサージだろうが関係あるはずだっ!」

「知らないわよフロイオニアの貴族なんて。

 私プレーターの平民だし」

「なっ、へ、平民風情がっ!」

「ふん」


ガージュの家、デイルガ伯爵家はもちろんフロイオニア王国の貴族である。

当然その権威も基本的にはフロイオニア王国内でしか通じない。

だが、貴族の中には他国との繋がりを持つ家も多数ある。

例えばルミニアのイオシス家であれば、元々隣国との貿易で栄えた街フィサスを中心とした領地を治めている為、他国との繋がりは非常に強い。

公爵という地位を見ても、フロイオニア王国では王家に次ぐ権力を有している為、他国にもその影響は大きいのだ。


ガージュの家もまた他国と交易を持つ家であり、イオシス家ほどではないにせよそれなりに影響を持っている。

それが他国の平民にまで影響があるかと言えば、おそらくはそれほど無いのだろうが。


「あんたの家なんて知らないし」

「なっ、僕の家はフロイオニア王国の建国当初から続く由緒あるデイルガ家だぞっ!

 それを知らないなどと・・・」

「知らないから知らないって言ってんのよ。

 デイルガだかなんだか知らないけど、プレーターにはなんの関係もないわ」

「くっ」


実のところ、デイルガ家が交易を持つのはライカウン教国である。

デイルガ家の治める領地がライカウン教国に近いと言うのが理由の一つだが、同じ純人族の国である為文化や思想も比較的近いと言うのも交易をしている理由である。


反面、プレーター獣国はフロイオニアと隣接しておらず、デイルガ家の領地とも遠い。

何より獣人と純人とでは様々な面で違いがあり、人によっては忌避感を抱く事もある。

デイルガ家もまた、プレーターとの繋がりは皆無だったりするのだ。


嫡男とは言え、外交についてはまだしっかりと学んでいないガージュは知らなかったのだろう。

もっとも、それはここにいるほとんどの者に言えるのだが。


「その辺にいたしませんか?」

「なっ、くっ・・・」

「ミームさんも、どうか落ち着いて下さい」

「あたしは落ち着いてるわよ?

 ただちょっと気に食わなかっただけ」


レキが押さえている以上最悪の事態には至らないとしても、流石にこのまま放置するわけには行かず、仕方なくといった感じでルミニアが仲裁に入った。

自分の家より爵位の高いルミニアの仲裁に、仕方なく口を閉じるガージュである。

ミームも言いたい事は言い切ったのか、あっさり引いた。


「ファラさんも、大丈夫ですか?」

「は、はい。

 私はその・・・」


今回の騒動の中心であり、被害者であるファラスアルム。

レキが物理的に止め、ミームが口で負かした形となったが、肝心のファラスアルムとのいざこざは実際のところ何も解決していない。


ファラスアルムとしては、ガージュとの揉め事はフランやルミニアが謝罪した事もあってか既に終わった事になっている。

ガージュの顔を見るまで忘れていたくらいだ。

それを持ち出し、更には自分のせいで父親に叱られたなどと言われても、ファラスアルムには何も言えなかった。

止めてくれたレキと、仲裁なのかただ単に気に入らなかっただけなのか、取り合えずファラスアルムの代わりに言い負かしてくれたミームには心から感謝するファラスアルムだったが、ガージュに対して何どうすれば良いのやら。


それでも頑張って説明したファラスアルムだったが、返ってきた答えは「放っておけば良い」だった。


「二日前の件は既に終わった事じゃ。

 ガージュがガージュの父上に怒られた事などファラが気にする話では無いのう」

「くっ・・・」

「そうですね。

 そもそも店の商品を貴族より先に取ってはならないなどという法はフロイオニア王国にはありませんし、あったとしてもそれを裁くのは国の法務官の仕事です。

 ガージュ様がどうこう言える話ではありません」

「・・・ちっ」

「大体二日も前の事をグチグチ言うなんてみみっちいとは思わないの?」

「なっ、貴様っ!」

「あ~、また」


フランとルミニア、二人の言い分は黙って聞いていたが、ミームの挑発に再び食ってかかろうとするガージュである。

ガージュが動き出すより先にレキが止めたが、それすら気に入らないガージュがなんとかレキの手を振りほどこうと暴れ、それを煽るかのようにミームが舌を出して挑発した。


「あ~・・・どうするよ?」

「あはは・・・」

「う~ん、とりあえず席に座ろうか」

「む」


残された四人。

カルク、ユミ、ユーリ、ガドが見守る中、教室内の騒ぎはなかなか収まりを見せないでいた。


――――――――――


レキに拘束されながらも暴れたせいか、疲れたガージュが自分に割り当てられた席でぐったりしていた。

本来なら騒動の中心であり、被害者であるはずのファラスアルムがこっそりガージュの様子を気にかけていたが、その他の者はガージュには見向きもせず室内で談笑している。


「おい、席につけ」


そんな中、教室の扉が開いて一人の女性が室内に入ってきた。


見た目は二十代前半くらい。

明るい茶色の髪を肩の上で切りそろえ、若干釣り目気味の瞳は明るい青色をしている。

気の強そうな美人、と言う表現がぴったりくる顔、身長は高く体つきは女性らしい凹凸を備えている。

王宮の文官が着ていそうなしっかりとした服に身を包んだその女性は、室内に入るなりフラン達に席に着くよう促した。


「にゃ?

 誰じゃ?」

「誰か、は後ほど言おう。

 まずは席につけ」

「うむ」


誰かと問うフランに対し、その女性は名乗るより先に席に着くよう再度促した。


「まずは入学及び最上位クラスの合格おめでとう。

 お前達の担当を任されたレイラスだ。

 今日からよろしく頼む」


レイラスと名乗ったその女性は、そう言ってレキ達に挨拶をした。


担当、つまりは担任の教師のようだ。

男のような口調であったが、顔も体つきも女性らしく、勘違いするような者はいないだろう。

どことなくミリスを彷彿とさせる言葉遣いに、レキなどはむしろ親近感を抱いた。


「ではまず、簡単に自己紹介を・・・ん?」


手短に名乗ったレイラスは、そのまま生徒側の自己紹介に移行しようとして・・・。


「そこの、机に突っ伏している奴。

 今すぐ起きろ」


今だぐったりと机に突っ伏しているガージュを見つけ、起きるよう注意をした。


「・・・おい」

「・・・」

「・・・起きろ」

「・・・」

「・・・ふんっ!」

「がぷっ!」


反応のないガージュに声をかけながら少しずつ近づいて行くレイラス。

ガージュの席のすぐ真横までたどり着き、それでも起きないガージュの、その頭に思いっきり拳を振り下ろした。


机とレイラスの拳に挟まれる形となったガージュの口から、面白い声が出た。


「お~」

「い、痛そう・・・」


その容赦のない拳にレキが感心したような声を漏らし、ミームがまるで自分が殴られたかのように頭を抑えた。

その他の面々の反応も、レキのように感心する者、ミームのように同情する者、更にはただ驚く者と様々だ。


そして、殴られた当のガージュはと言えば。


「・・・」

「ん?

 手加減はしたつもりだが・・・死んだか?」

「死ぬかっ!」

「おお、起きたな」


よほど拳が痛かったのだろう、しばらくそのままの体勢でプルプル震えていたガージュだが、もちろん死んではいなかった。

頭にはなかなかに見事なたんこぶが出来ており、レイラスの拳の威力が良く分かった。


「き、貴様。

 この僕にこんなことしていいと思っ」

「教師を指差すな」

「あがっ!」


勢いよく立ち上がりレイラスを指差しながら何やら激昂するガージュだったが、全てを言い終わるより先にレイラスがガージュの指を握り、「くにっ」とあらぬ方へ折り曲げた。


「うわぁ~・・・」

「あ、あれは痛い」


先程の拳といい、容赦のないレイラスである。

指を押さえて再び机に突っ伏したガージュに、レキ達の同情の視線が集まった。


「き、き、き~」

「ん?

 手加減はしたつもりだが・・・言葉が話せなくなったか?」

「貴様ぁ~」

「おお、元気だな」


皆の視線に気づかず、ガージュが再度立ち上がる。

再び指を指すほど愚かではないようだが、それでもレイラスに向ける視線は憤怒に満ちていた。

たんこぶはいまだ引かず、右手の人差指は赤くはれて痛そうだが、怒りがそれを忘れさせているのだろう。


「僕はデイルガ伯爵家の嫡男だぞっ!

 その僕にこんな事をしていいと思っているのかっ!」


感情のままにガージュが吠える。

伯爵家である自分に楯突くような愚か者など、この場にいるフランとルミニア、その護衛であるレキ、追加でミームくらいしかいないはずなのだ。

だが。


「うるさい、いちいち立つな」

「はがっ!」


レイラスの返事は、再びの拳だった。

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