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黄金の双剣士  作者: ひろよし
八章:学園~入学編~
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第165話:最後の一人

「やっぱレキは強ぇな!」


寮の食堂。

頭に大きなたんこぶをこさえたカルクが、それでも満面の笑みで食事をしていた。


「強いなんてもんじゃ無いわよ」


その隣、ぶすっとした顔で食事を頬張るのは中庭に転がっていたミームである。

レキとカルクの対戦後、二人と共に食堂へとやってきたのだ。


「どうなったかは聞くまでもなさそうだね」

「む」


ユーリが苦笑交じりにカルクを、というかその頭のこぶを見る。

ユーリはレキが王国最強の騎士ガレムを圧倒した事を知っている。

カルクやミームでは束になっても敵わないだろうと思っていたのだ。


ガドが静かに頷くなか、カルクとミームは対照的な表情をしつつ大盛りの食事をしっかりと平らげた。


「む~、わらわも見たかったのう」

「フラン様は朝弱いですから」


同じく朝食を、こちらは普通の量をモシャモシャと食べるフランと、そんなフランにお茶を入れつつ静々食べるルミニア。

昨日はそれなりの時間までおしゃべりをしていたせいか、フランは若干眠たそうだ。


「レキは朝も鍛錬してたんだね~」

「流石レキ様です」


毎日の習慣で問題なく起床したユミと、フラン同様朝は弱いが、それでも一人でちゃんと起きたファラスアルム。

二人共初日から中庭でそんな事をしているとは思わなかったようで、ユミも若干残念そうにしている。

なお、ユミは日頃から良く働いている為、朝はしっかりと食べる方だ。

ファラスアルムはと言うと、こちらは元々食も細く、加えて朝はあまり食べないらしい。

サラダを中心とした軽い物ばかりつまんでいる。

彼女に提供された肉類は、既にレキの胃袋にしっかりと収まっている。


「明日もやるのかい?」

「「もちろんっ!」」


食後のお茶を飲むユーリの問いかけに、レキより先にカルクとミームが答えた。

カルクはともかく、あれだけこてんぱんにやられたにもかかわらずミームはまだ懲りていないようだ。


「勝てないから戦わないなんて獣人の恥よっ!」


というのがミームの考えであり、その言葉にやはりミームは脳筋なのじゃなとフランが頷いた。


「明日はわらわも参加するぞ!」

「ふふっ、では明日からは早起きしなければいけませんね」

「う、うむ」


食事も終わり、一同は一先ず各自の部屋へと戻った。

鍛錬後に直接食堂へ来たレキ、ミーム、カルクはもとより、フラン達も服装こそ着替えているが学園に必要な荷物は何も持っていない。

入り口に集まる事を約束し、レキ達が各自部屋へと戻っていく。

学園初日の、賑やかな朝であった。


――――――――――


部屋に戻ったレキはまず服を着替えた。


王宮でも着ていた鍛錬用の服を脱ぎ、学園で用意された真新しい制服に袖を通し、部屋に用意してある鏡で全身をしっかりとチェックする。

王宮ではサリアミルニスがいつも手伝ってくれた着替えも、学園に通う間は自分でやらねばならない。

魔の森で三年もの間一人で生きていたレキだが、その時の服はと言えばフォレストウルフの毛皮をそのまま羽織り、腰のところを木の蔓で縛っただけの、服とも言えない代物だった。

それに比べれば、どんな服でもレキからすれば複雑である。

着やすく動きやすい造りの制服だろうと、慣れていない者には着るのも一苦労なのだ。


青色の長ズボンをはき、袖の長い白色のシャツをはおり、前をボタンで止める。

その上からズボンと同じ色のブレザーを着て、同じくボタンで止める。

シャツのボタンが下から上まできっちりと揃っているのに対し、ブレザーのボタンはレキのみぞおちの前とヘソの前の二つのみ。

王宮で着ていた服にはこういったボタンが付いた物も多かった。

二年間の王宮生活で、ボタンを止めるのにもすっかり慣れたレキである。


「あ~、くそっ。

 このボタン?っての上手く入らねぇ」


対して、魔の森時代のレキほどではないにしろ簡素な服を着ていたカルクは、このボタンで止める服と言うのは初めてらしく、悪戦苦闘しているようだ。


「よしっ!」


鏡で一通り全身を確認し、レキは教材を入れた鞄を片手に部屋を出る。


「おや、来たようだね」

「ユーリ?」

「折角だから集合場所まで一緒に行こうと思ってね」

「うん、行こう!」


ユーリと合流し、ついでにカルクとガドも待つ事にした。


「そう言えばあと一人いるんだよね?」

「あ~・・・うん」


カルク達を待つ間、レキは姿を見せていないもう一人についてユーリに尋ねた。


最上位クラスは男女合わせて十名である。

男子側はレキを筆頭にユーリ、カルク、ガドの四人までは分かっている。

寮の部屋割りは入学試験の順位順となっており、カルクが三番目でガドが五番目の部屋を使っている以上、間の部屋に住む者が最後の一人という事になる。


「食事の前に声をかけたのだけどね」

「うん」

「平民などと一緒に食事が出来るか、と言って部屋から出てこなかったよ」


どうやらかなり気位の高い子供らしく、ついでに機嫌もよろしくないようだ。

昨日も挨拶したカルクを扉越しに追い返したようだし、食事も食堂では食べていないらしい。

おそらくはレキ達が気づかない内に食事を取り、そのまま自室に戻って食べたのだろう。

面倒くさくないのかな?というのがレキの正直な感想だった。


「学園に行けば嫌でも顔を合わせるのだし、後のお楽しみという事でいいんじゃないかな?」

「そだね」

「おっ、おまたせ!」

「ん」


ようやく制服を着る事が出来たらしいカルクとガドと合流し、レキ達は寮の入り口へと移動した。


「おっ、来たのじゃ!」

「おまたせっ」

「うむ!」


入り口には既にフラン達女子が揃っていた。

女子の中で唯一制服を着ていなかったミームだが、着替えるのはカルクより早かったようだ。


女子の制服は男子とほぼ変わらない。

違う点と言えば、女子の制服はズボンではなく膝下まであるスカートである点と、シャツの胸元にリボンが結ばれている点だろう。

男女で分けられているようだ。


「な~んか落ち着かないのよね、これ」

「はしたないですよ、ミームさん」


ミームがスカートの裾をつまみ、そのまま軽く持ち上げる。

流石に下着が見える程ではなかったが、それでも女子がする仕草ではない。


生徒が制服を着るのは主に二つの理由がある。

学園が指定する服を着る事で自分が学園の生徒であるという自覚を持たせるというものと、全ての生徒が同じ制服を着る事で貴族や平民という身分差を形から無くすというものだ。

他にも細々とした理由はあるが、大きいのはこの二つである。


だが、少なくとも今のレキ達にはあまり関係ないだろう。


「動きづらいし」

「おお、なんか動きづれぇよな」

「別に制服のまま鍛錬するわけではありませんよ?」

「それでもよ」

「それでもだ」


ひらひらとしたスカートがお気に召さないらしいミームと、ピチッとした服に慣れていないカルク。

それを笑顔で聞くルミニアを見れば、身分も種族すらも関係ない事が分かるだろう。

ミームやカルクは公爵家の子女であるルミニアに平気で愚痴や文句を言うし、ルミニアもそれを友人として聞いている。


「おそろいじゃな」

「うん、えへへ~」


その隣では、王族であるフランと平民であるユミがお互いの格好に笑顔を見せ合っている。


「あの、レキ様。

 私の格好はその、おかしいでしょうか?」

「よく似合ってるよ?」

「あ、ありがとうございます」


森人族のファラスアルムがおそるおそるレキに問えば、レキは正直に似合っていると感想を告げた。

森人である自分が純人族の学園の制服を着る事に、多少なりとも違和感を覚えたのかも知れない。

あるいは自分の制服姿をレキに見てもらいたかっただけか。

ファラスアルムが感じたかも知れない違和感はレキの一言で綺麗さっぱり消え去り、今は頬を赤く染めている。


「賑やかだねぇ」

「む」


貴族子息のユーリがぼそっと漏らした言葉に山人のガドが静かに頷いた。


この場には王族、公爵家の娘、子爵家の子息、そして平民がいて、更には純人族、森人族、獣人族。山人族が揃っている。

そんな彼らは、同じ服を着た同じ学園に通う生徒であり、対等の友人であった。


――――――――――


仲良く寮を出たレキ達は、フランを先頭に学園の校舎へ向かった。


学園は三つの建物から出来ていた。

それぞれが二階建ての堅牢な作りをしており、そこにレキ達生徒が勉強する為の部屋がある。


三つの建物の内、寮に最も近い建物をフラン達一年生の生徒が主に利用する。

二年生、三年生は二つ目の建物を、四年生の生徒と教員達は三つ目の建物を利用する事になっており、それぞれの建物は自由に行き来できるよう通路で結ばれている。


校舎の中にはいくつかの部屋があり、それぞれの部屋には扉と、そこがなんの部屋であるかを示す札が付けられている。

入り口に一番近い部屋には「下位」とあり、おそらくは下位クラスの教室なのだろう。

その隣が「中位」、つまり入り口に一番近い教室から順に「下位」「中位」「上位」「最上位」と並んでいるようだ。


レキ達はまよわず一番奥、つまり「最上位」クラスの教室へと入った。


「ふん、遅かっ・・・フラン殿下っ!」

「にゃ?

 誰じゃ?」


先頭のフランが一番乗りのつもりで扉を開ければ、教室には既に一人の生徒が座っていた。

反射的に憎まれ口を紡ごうとしたようだが、入ってきた者を見て思わず口を紡いだ。

入ってきたのはこの国の王女であるフラン=イオニアである。

慌てて名前を呼んだものの、当のフランは知らないようだ。


一番乗りのつもりで入ったものの、そうではなかったことに若干不満な様子のフランだった。


「どうしたの、フラン?」

「誰かいるのじゃ」

「誰かって・・・あ、最後の一人じゃない?」

「・・・おお!」


続けてユミが教室に入った。

昨日から、フラン達は最上位クラスの九人と一緒に行動している。

後の一人に会う事はなかったが、どうやら先に来ていたらしい。


フランの教室一番乗りを奪った最後の一人。


「フラン様?

 一体・・・あらっ?」

「ル、ルミニア=イオシス」

「ふふっ、お久しぶりですね、ガージュ=デイルガ様」

「くっ・・・」


それは、何かと因縁のある相手、ガージュ=デイルガであった。


ガージュがここにいる理由はもちろんガージュが最上位クラスに合格したからであり、彼こそが最後の一人であった。


フランに続きルミニアが入ってきた事に更に驚くガージュに対し、ルミニアは貴族らしい挨拶を返した。

ここが学園である以上ルミニアもガージュもただの一生徒であり、ルミニアのような挨拶をする必要は無いのだが、ガージュがルミニアに対し家名をつけて呼んだ為、ルミニアは公爵家の娘として返したのである。


「お、お久しぶりです、ルミニア=イオシス様」

「ええ、二日ぶりですね」

「くっ・・・」


ガージュの家は伯爵家であり、爵位としてはルミニアの方が上である。

そんなルミニアに挨拶をされてしまえば返さないわけにはいかない。

先に家名込みで名前を呼んだのはガージュの方なのだ。


遅れながら挨拶をするガージュに、ルミニアが笑顔で応える。

だが、ルミニアの言った二日ぶりという言葉と、それに込められた意味に気づき、ガージュは苦虫を噛んだような表情になった。


二日前と言えば・・・。


「あっ、思い出したのじゃ!

 こやつ、ファラをいじめてた奴じゃ!」

「なっ!」

「あっ、ホントだっ!」

「えっ、誰?」

「なんだ?」


フランの言葉にレキが思い出し、その場にいなかったミームとカルクが何事かといった風に教室へと入ってくる。


「ファラ!

 あいつじゃ、あいつがいるのじゃ!」

「あ、あの・・・」


そしてもう一人、二日前の事件の当事者であり被害者でもあるファラスアルムが、フランに手招きされるように教室へと入ってきて・・・。


「ひぅ・・・」


ガージュの姿を見て短く悲鳴を上げた。


「貴様っ!

 あの時のっ!」

「ひっ」


入り口から姿を覗かせたファラスアルムにガージュが声を荒げる。

ガージュにとって、ファラスアルムは貴族である自分の邪魔をした他種族の平民であり、フランやルミニアと揉める事になった原因である。


「貴様のせいで僕はっ!」


フラン達との騒動の後、父親から強く叱責されたガージュとしては、原因であるファラスアルムに文句の一つも言いたくなったのだろう。


「ファラに何するの?」

「くっ、また貴様か」


だが、ここには二日前ガージュを力づくで止めたレキがいる。


「いいか、貴様のせいで僕は父上に叱責されたのだぞっ!

 平民の!

 森人の貴様が!

 僕の邪魔をしたせいでっ!」

「うぅ・・・」

「デイルガ伯爵家の息子である僕が森人の平民の貴様のせいでだっ!

 どうしてくれるっ!」


レキに背後から押さえられた状態で、それでもファラスアルムに食ってかかろうとするガージュ。

レキのお陰で一歩たりともファラスアルムに近づけないが、代わりに口での攻撃を止めなかった。

そんなガージュに何も言えず、ファラスアルムはただ怯えるばかりである。


なお、ここにはファラスアルムの友達が大勢いる。

友達がいじめられているのを、彼女達が黙ってみているはずが無い。


「おぬしっ!」

「うるさいわねっ!」

「なっ!

 なんだとっ!」


フランが間に入るより先に、ファラスアルムの後から入ってきたミームが口を開いた。

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