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黄金の双剣士  作者: ひろよし
八章:学園~入学編~
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第162話:自己紹介

「さて、食事も済んだ事ですし」


後回しにしていた自己紹介をしましょう、とルミニアが提案をし、一行はとりあえず食堂を出た。

食事が済んだにもかかわらずいつまでも場所を取っていては、他の生徒や寮母の迷惑になるからだ。


寮の施設の一つ、男女共有の談話室に一行は場所を移した。

談話室は寮内に幾つか用意されており、目的や利用人数によって広さが異なる。

レキ達が入ったのは丁度十人が過ごせる部屋だった。


「お待たせいたしました」


一旦自室へと戻っていたルミニアが、茶器を持って部屋へと入ってきた。

手伝いを申し出てくれたユミが持つのはお茶菓子である。

食後という事でお茶菓子は無しでも良かったのだろうが、お茶といえばお茶菓子というのがフランの中での常識であり、レキも大いに賛同している以上無しにするわけにはいかなかった。


談話室のテーブルにお茶菓子を置き、用意されている小型の竈に火を付けて、ルミニアがお茶の用意を始める。

お茶の作法などはリーニャやフィサスの侍女達から教わっており、その仕草は実に洗練されていた。


「なあ、ルミニアだっけ?

 あの子って何処かの貴族の侍女だったりするのか?」


カルクがそう勘違いするのも無理は無い。

食事の時にも甲斐甲斐しくフランの世話を焼き、レキを嗜め、ファラスアルムをフォローする様は、まさに侍女そのものだった。


「ふふっ、まずは自己紹介をいたしましょう」


そんなカルクの呟きが聞こえたのか、レキが応えるより先にルミニアがそう提案した。

本来なら食事の前にするはずだった自己紹介、ここへきてようやくと言った感じである。


名前くらいは食事の際の会話である程度把握出来たものの、それ以上の事は分かっていない。

精々カルクが平民である事と、ミームやファラスアルム、ガドの種族が分かった程度。

どれも見た目から察する事が出来る。


「まず私から自己紹介をさせて頂きますね。

 フロイオニア王国フィサス領を治める領主、ニアデル=イオシス公爵が娘、ルミニア=イオシスです。

 皆様、よろしくお願い致しますね」

「こ、公爵っ!?」

「の、娘です」


ルミニアの自己紹介、と言うか爵位に反応したのは平民のカルクだった。

貴族社会に疎い平民だろうと、公爵と言うのが貴族を示す事くらいは分かる。

何より、カルクは一応最上位クラスに合格できる程度には勉強しており、爵位についての知識も多少は持っていた。

公爵が貴族の最上位というのもかろうじて知っていた。


「次はわらわじゃな!

 フロイオニア王国国王、ロラン=フォン=イオニアの娘、フラン=イオニアじゃ!

 よろしく頼むぞっ!」

「お、王女っ!」

「うむ、姫じゃ!」


続くフランの自己紹介に、カルクが更に声を上げた。

ただの村人、平民であるカルクにとって公爵家はもちろん王族など雲の上の存在、天上人と言っても良い存在である。

そんな、ある意味空想上の存在である王族の、しかも王女が目の前に・・・。

その事実にカルクが呆然とした。


「・・・てか、王族だったの」

「うむ、姫じゃ」


ミームまでもが目を丸くしてフランを見た。


食事前、フランの部屋でもいろいろな話はしたが、身分や爵位に関する話はしていなかった。

フランの性格と、そんなフランを差し置いて爵位を持ち出すような真似をルミニアがしなかった為、貴族である事くらいしか分からなかったのだ。


「あ、あの、王女様」

「にゃ?

 フランで良いぞ」

「えっと、フラン様?」

「むぅ、別に様もいらんのに」


カルクとミームがフランの呼び方に四苦八苦する。

何と呼べば良いのか分からないという事もあるが、王女と言う安易な呼び方をフランが納得しないからだ。


「お二人ともどうか今まで道り呼びやすい呼び方でお願いします」

「うむ、わらわもそれで構わぬぞ」

「「いや、でも・・・」」


結局、カルクもミームも今までどおり呼び捨てで呼ぶ事になった。

今はまだ恐れ多いという気持ちや、本当に大丈夫なのだろうかという不安もあるが、その内慣れるだろう。


「次はオレね」


そう言って手を上げたのはレキである。

順番など決めていないが、レキの両サイドを固めるルミニアとフランが自己紹介を済ませた為、間に座っている自分がやろうと思ったのだろう。


「オレはレキ。

 この間までは王都に、ってか王宮に住んでたけど一応平民だよ」

「はっ?」

「どういうこと?」


王都に住んでいた事は先程聞いているカルクだが、王宮に住んでいたのは初耳である。

もちろんミームは全てが初耳で、それどころか見た目やフランやルミニアと懇意である事からレキもてっきり貴族だと思っていたらしい。


「ん~・・・どこから説明しよっか」


カルクやミームの疑問ももっともである。

説明する事に問題ないが、何分ややこしい事情によって王宮に住む事になったレキである。

説明するのには少なからず時間がかかるだろう。


レキの事情、特にフランが野盗の襲撃で死にかけた件やルミニアが王都で攫われた件に関して説明する事に問題はない。

どちらもそれなりに有名な事件であり、それらをレキが解決した事も貴族の中ではそれなりに知れ渡っている。

レキの実力の裏付けや、レキを王宮に住まわせる理由でもあるからだ。


「な、なるほどな」

「ふ、ふ~ん」


そこら辺の事情を、フランやルミニアの助けを借りつつレキが何とか説明した。

魔の森にいた事もしっかり話したが、残念ながらそこは信じてもらえなかった。


「では次は僕が・・・」


続いてユーリ、カルク、ミームと自己紹介が続き、


「ファラスアルムです。

 えっと、フォレサージから来ました。

 どうか、よろしくお願いします」


ユミ、ガド、そしてファラスアルムと自己紹介が終わった。

特筆する事と言えば、カルクが自称村一番の剣の使い手だとか、ガドが剣の鍛冶士の一門だとか、そのくらいだろう。


「んじゃあこの中で一番強いのはレキって事?」


全員の自己紹介が終わり、お茶やお茶菓子を堪能しつつ雑談を始めた。

そんな中、レキが試験官を圧倒したという話に食いついたのはミームだった。


「うむ、レキは凄いのじゃ」

「残念ながら今の私ではレキ様の足下にも及びません」


ミームの言葉に何故か(いつもどおりに)フランが胸を張り、ルミニアが自嘲気味にそう告げる。

食事前の会話で、ルミニアが試験官に勝利した事、そしてフラン達女子の中で唯一ルミニアだけが試験官に勝った事は話しており、ミームの中で一番強いのはルミニアだった。

そんなルミニアが足下にも及ばないというレキ。

一体どれほどの強者か。

獣人であるミームが気にするのも当然であり、そして


「じゃあ勝負ね」

「へっ?

 今から?」


強者と見れば挑みたくなるのがミームという少女なのだ。


「何よ?

 負けるのが嫌なの?」

「ん~、負けるのは別に・・・」


剣術のみでの模擬戦ではミリスにしょっちゅう負かされているレキである。

勝ち負けにはこだわるが、負けた事が無いわけではない。

もちろん身体強化有り、魔術有り、何でもありのルールなら誰にも負けないだろうが。


「待つのじゃ!」


詰め寄られるレキを見かねたのか、フランが手を挙げてミームを止めた。


「レキに挑むならまずわらわを倒してからにしてもらおう!」


単純にレキ達の勝負に加わりたかっただけなようだ。


「ふ~ん、面白いじゃない」


レキの前に立ち、胸を張るフランにミームが好戦的な目を向ける。


挑まれたからには受けて立つのが獣人である。

この場合先に挑んだのはミームだが、レキという将へ挑む為の試練というか前座という認識なのだろう。

目の前に試練があるなら挑むのが獣人である。

言い換えれば目の前の壁はとりあえず壊すのが獣人という種族であり、更に言えば


「やはり脳筋なのですね・・・」


という事だ。


――――――――――


「あれっ?」


レキ対ミームという構図から、いつの間にかフラン対ミームという構図に変わってしまい、放置状態になったレキが首を傾げた。

レキとしては勝負を受ける事に問題はなく、どこでやろうか考えている間に、気がつけば対戦相手が変わっていたという状況だった。


「あはは」

「あ、あの」


悩むレキにユミが力なく笑い、ファラスアルムが戸惑う。

二人共話にはあまり加わっていなかったが、状況はちゃんと把握している。

脳天気な王族と脳筋な獣人の争いを止められるはずもなく、状況に流されるしかなかったのだ。


「う~ん、流石にこのままでは・・・」

「オレも混ぜてくれよっ!」

「む」


本人達がやる気になっている以上止めるわけにもいかず、更にはカルクまでもが参加を希望した。

ガドが静かに頷く中、唯一この状況を止められそうな人物であるルミニアが場を纏めようと口を開く。


「時間も時間ですし、当初の予定どおりレキ様とミームさんが手合わせをするという事で」


フランを矢面に出すのはルミニア的にありえない。

ミームの実力が分からない以上、下手をすれば両者とも怪我をしてしまう可能性がある。

治癒魔術で治せるとは言え、学園が始まる前に怪我をするのはよろしくない。


かと言って、フランが乗り気な以上このまま何も無しというわけにもいかなかった。


レキなら手加減も出来るし、相手に怪我を負わせずかつ即行で終わらせる事も可能だろうと言う、ルミニアの判断である。


「むぅ」


当然ながらフランが不満気な声を上げたが、事情を説明(説得)されて渋々引っ込んだ。

先程手を上げたカルクもまた、ルミニアの説明に理解を示したようだ。


「まあ学園が始まれば嫌でも手合わせするだろうしね」


というのがユーリの意見である。


こうして、学園が始まるより先に手合わせをする事になったレキである。

まあいいかと思いつつ、とりあえず自室に武器を取りに戻った。

ミームも同様に部屋へ向かい、残りの者は試合の場を整えるべく寮の中庭へと移動した。


寮は上から見ると凹の形をしている。

男子側の部屋と女子側の部屋が丁度向かい合わせになっており、その間に中庭があった。


地面は均され、木製のベンチやテーブルが端に用意された中庭は、天気の良い日なら食事をする事も可能だろう。

それなりの広さもあり、運動や鍛錬するにも問題ない。

元々授業時間外でも運動が出来るようにと用意された場所な為、レキ達が手合わせするのも大丈夫だ。


入学直後という事もあってか、中庭には誰もいなかった。


夕食過ぎの、静かで少々薄暗い中庭に移動したルミニア達。

レキとミームはまだ自室で手合わせの準備中であり、ルミニア達は一足先に中庭て二人の手合わせを見学すべく場を整える。


「フラン様はこちらに」

「うむ!」


中庭のテーブルに陣取り、レキ達の登場を待つフランにルミニアがお茶を差し出す。

先程談話室に持ち込んだ茶器をそのまま持ってきたのだ。

当然お茶菓子もあり、気分はすっかり観戦モードである。


「ファラさんとユミさんもどうぞ」

「いいのかな~」

「えっと」


テーブルは五人の女子が使うには十分な大きさがあり、ティータイムにも使えそうだ。

今は夕刻、フラン達を照らす光は傾いた太陽と寮から漏れる灯りのみ。


対戦相手を取られた形ではあるが、フランは今の状況も楽しんでいるらしい。

他の面々に関しては、さすがにいろいろ複雑のようだ。

ユミとファラスアルムは戸惑い、ユーリは半ば諦め、カルクは自分も戦いたくてうずうずしている。

ルミニアはレキを信じ、ガドはただ静かに頷くばかり。


「おまたせっ」

「きゃっ!」


そこに、ようやくレキが参上した。

レキの部屋は男子寮の一番端、食堂や談話室から比較的近い場所であり、丁度フラン達のいるテーブルのすぐ後ろだった。

だからと言って良いかは分からないが、自室の窓から直接登場したレキに、ファラスアルムが驚き軽い悲鳴を上げた。


両手には手合わせ用の木剣。

服装もちゃんと動きやすく、かつ汚れても良い格好に着替えている。

一応は真面目に手合わせをするようだ。


「ふふん。

 逃げずに来たようね」


しばらくしてミームが現れた。

レキとは違い、ちゃんと中庭へ続く廊下からの登場である。


両手に小手を、足にも脛当を着けている。

袖のない上着、太ももをさらけ出した短いズボンを履き、動きやすさを追求した服装なのだろうその格好は、着るものが着ればとても扇情的に見えただろう。

なお、ミームはまだ子供な為その服装も子供らしさを強調するだけだった。


両手の小手以外に武器は無く、おそらくは徒手空拳のようだ。


「では時間も時間ですし、早速始めたいと思います。

 お二人ともよろしいですか?」

「うんっ!」

「ええっ!」


立会人としてルミニアが二人の間に立ち、いよいよ手合わせが始まる。


「明日からは学園です。

 多少の怪我なら治せますが、それでもお二人とも十分注意してくださいね」


青系統の魔術を扱うルミニアは、治癒魔術を最も得意としている。

もちろん万が一フランが怪我をした時の為に鍛錬した成果である。

なお、この中では他にユミとファラスアルムも治癒魔術を使える。

あとレキも。


「それではフラン様」

「にゃ?」

「合図を」

「おぉ!」


一応は王族であるフランに開始の合図を委ね、ルミニアが一歩引いた。

ミームが僅かに腰を落として構え、レキは木剣をだらりと落とした自然体の構えをとる。


「ごくっ」


誰かが息を飲む音が聞こえた。


「では、始めっ!」


フランが開始の合図を出した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今、一番楽しみにしている作品です。続きが気になって仕方がないです。
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