第161話:みんなでごはん!再び
カラーン、カラーン
「なんじゃ!?」
部屋の外から突然聞こえてきた鐘の音にフランが反応した。
「あら、もう夕食の時間のようですね」
学園では、一日に数回鐘を鳴らし生徒達に時刻を告げる。
鳴るのは主に授業の開始や終了時など。
今のは夕食の時間を告げる鐘の音だった。
「おお、ご飯じゃな」
「それでは約束道り食堂へ参りましょう」
学園での食事は、食堂で食べるか各自の部屋で食べるかのどちらかを選ぶ事が出来る。
食事自体は食堂に用意される為、部屋で食事を取る場合でも食堂に取りに行く必要はあるが。
フラン達の入る学園の寮には、風呂やトイレ、食堂に談話室など生徒達が共同で使用する施設がいくつかある。
風呂やトイレは男女で分かれているが、食堂や談話室などは男女で共有する施設である。
つまり、食事は男女が一緒に取る事になる。
「どっちで食べるの?」
「うむ、食堂じゃ。
レキもいるしのう」
「レキって誰?」
「レキはレキじゃ」
「えっと、レキ様については後ほど。
いえ、食堂に行けば会えるのでご紹介はその時にでも。
まずは皆様、食堂に参りましょう」
「うん!」
「はい」
どこで食事をしようにもまずは食堂に行かねば始まらないと、フランを先頭に食堂へ向かう。
途中、ミームがレキについて聞き出そうとしたが、会ってからのお楽しみという事で流した。
食堂では既に数人の子供達が集まっており、食事を受け取るべく列を作っていた。
「おっ、レキじゃ」
その列の先頭には、フラン達の見慣れた少年が立っていた。
「えっ、どれ?」
「あれじゃ、あの先頭の」
「あの白いの?」
「うむ」
フランが指差す方にミームが目を向ける。
白髪で、それなりに整った、かっこいいというより若干可愛らしいとう表現が似合う少年。
身長はそこそこで、服に隠れてはいるが体躯はしっかりしている。
「・・・ふ~ん」
獣人特有の感覚により、ミームはひと目でレキを強者と見抜いた。
今にも舌なめずりするかのような好戦的な目をするミームに、ルミニアがため息を漏らす。
「ミームさん。
ここは食堂です。
もしレキ様と手合わせをしたいのであれば、後にして下さいね」
「わ、分かってるわよ」
「やっぱ脳筋じゃな」
「なんですって!?」
強者と見れば挑まずにはいられないのは獣人の性か、あるいは脳筋ゆえか。
フラン達には理解できないが、一応自制するだけの精神は持ち合わせているようだ。
「お~い、レキ~」
「ん?
あ、フランっ!」
食事を手に取り、食堂内に設けられたテーブルに向かうレキにフランが声をかけ、レキが笑顔で振り返った。
約束道り、レキも食堂で食事をするらしい。
両手で食事を持ったまま、レキがフラン達の場所へとやってくる。
「レキ様もこちらで?」
「うん、せっかくだからみんなで食べようって」
「みんな?」
「うん、あそこ」
そう言ってレキが目を向けた方、食堂の一角には三人の男の子が既に座っており、楽しげに話をしていた。
「あちらの方は?」
「同じクラスの友達」
「ほう、ではあやつらがわらわと同じ最上位クラスの連中なのじゃな」
「うん。
ユーリとカルクと・・・」
「レキ様。
私達も食事を取ってきますんので、ご紹介は後ほど」
「あ、そうだね」
「じゃあ後で」と言い残し、レキはユーリ達のいる席へと移動していった。
「ふふっ、もうお友達が出来たようですね」
「む~・・・」
「ん~・・・」
「あ、あの・・・」
レキの背を笑顔で見送るルミニア。
反面、フランは不満気な顔をしていた。
ついでにユミもなんだか面白くなさそうな顔をしており、ファラスアルムはそんなフランとユミに挟まれて戸惑っていた。
「ええい、こうしてはおれん!
ユミ、わらわ達も食事を取りに行くのじゃ!」
「うんっ!」
それがどういう感情かは分からないが、とにかく今のフランは少しでも早くレキの側に行きたかった。
カルク達の輪からレキを連れ出したいとか、レキを独占したいわけではない。
自分の知らないところでレキが友達を作ったのが何となく面白くないのだ。
自分にもミームという新しい友人が出来たが、それはそれ。
ユミの手を取り、フランが配膳の列に並ぶ。
「ふふっ。
では私達も並びましょうか」
「そうね」
「は、はい」
そんなフランを微笑ましく見守りながら、ルミニアもミームとファラスアルムを伴い列に並んだ。
――――――――――
「邪魔するのじゃ」
「あ、フラン」
食事を手に、レキ達のいるテーブルへとフランがやってきた。
もちろんルミニア達も一緒だ。
長方形のテーブルは片面に五人、両面で十人が利用できる大きさがある。
フラン達が合流する事を見越し、レキ達男子勢は片側に横並びに座っており、フラン達はそのまま対面側に座った。
中央に座るレキの正面をフランが陣取り、その両横にルミニアとユミが座る。
ルミニアの隣にファラスアルムが、ユミの隣にはミームが座り、寮での初めての食事が始まった。
「えっと、まずは自己紹介を・・・」
「え~、先に食べちまおうぜ。
オレ、腹減ってさ・・・」
最上位クラス十名の内九人までが揃ったテーブル。
折角だからと自己紹介を促したルミニアだが、それをカルクが遮った。
見れば、カルクだけでなくレキも食べたそうに体をうずうずとさせていた。
「・・・そうですね。
食事をしながらにしましょう」
「それがいいだろうね。
そうしないとレキとカルクは飢えてしまいそうだよ」
仕方ないとルミニアが食事を優先させ、ユーリがその意見に賛同する。
「べ、別に飢えてなんかねぇぞ。
ただ村じゃめったに食えねぇ料理だからよ・・・」
そんなユーリの意見を否定しつつ、料理から目を離さないカルクである。
一般的な平民であるカルクにとって、寮で提供されている食事は普段の食事に比べてかなり豪華だった。
成長期の子供の体を考えた料理はバランス良く揃えられ、量も十分。
料理は皆同じで、食べられる量に個人差がある事も考慮に入れられ、調整できるように提供されている。
パンとスープ、肉料理とサラダ。
これが本日の夕食であり、これから提供される食事の基本である。
パンは焼き立て、スープには細かく刻まれた肉や野菜がたっぷりと入っており、肉は何とオーク肉が使われていた。
サラダに使われている野菜も瑞々しく、料理店で食べるなら銀貨一枚前後はするだろう。
平民であるカルクにとっては、年に一度食べられるかどうかという程のごちそうだった。
ご馳走を前に待ちきれないカルクである。
なお、レキが体をうずうずさせていたのは、単純にお腹が空いているからだ。
『いただきますっ!』
今にもよだれを垂らさんとするレキとカルクの様子に、先に食事をする事にした。
実のところ、カルクは懐事情により昼食を取っておらず、ユーリは冗談で言っていたが実は結構危なかったのだ。
そんなカルクに負けじと、レキも勢い良く食べ始めた。
二年間の王宮暮らしで最低限のマナーは身についており、勢いこそ凄まじいが決して見苦しくはない。
それでいて食べる速度はカルク以上なのだから、一体どれだけお腹が空いていたのだろうか。
そんなレキとカルクの様子に、ユーリやファラスアルムが苦笑いを浮かべた。
フランとルミニアは見慣れており、ユミもまた豪快な領主の食べっぷりで慣れている。
目立たないがガドやミームも負けず劣らずな勢いで食事をしており、種族関係なく腹ペコな子供とそれに付き合う子供という図となった。
レキとカルクは当然大盛り、何気にガドとミームも大盛りで、その他の面々は普通の量だ。
「あれっ?
ファラは肉食べないの?」
「あっ、私はその、お肉はあまり・・・」
ふと、レキがほそぼそとサラダのみを食べるファラスアルムに気がついた。
宿でもファラスアルムは野菜や果物ばかりで、肉料理はほとんど食べていなかった。
森人が肉を嫌っているだとか、種族的に肉が食べられないとか、そういうわけではない。
フィルニイリスはオークの肉や内臓を好んで食べるし、サリアミルニスも好き嫌い無く食べる。
単に、ファラスアルムの好みなのだろう。
「じゃあもらっていい?」
「あ、はい。
どうぞ・・・」
「ありがと」
そっと差し出された肉をレキがありがたく頂く。
それじゃなんだからと、サラダを差し出そうとして・・・。
「レキ様、好き嫌いは行けません」
「え~、でもファラは・・・」
「ファラ様はおそらく食も細いのでしょう。
無理に食べさせてしまえばお腹を壊してしまいます。
でもレキ様は違いますよね?」
「で、でも流石に足りなく無い?」
「大丈夫です。
こんな事もあろうかとサラダのみ量を増やしてもらってますから」
やんわりとルミニアに止められた。
「食事はバランス良く食べなければダメだそうだよ?
パンが体力を、肉が体を作り、野菜が体の調子を整えるらしい」
「パンなんかオレの村じゃ滅多に食えなかったぜ?」
「あ、オレも肉ばっか食べてた」
日頃の食事の大切さをユーリが語れば、カルクとレキはそれどころではないと言い返す。
(レキの場合は少し違うが・・・)
「体力なんか動いてれば勝手につくわよ」
「おう!
やっぱ肉だよな」
「あの、お野菜は大事ですよ」
そこにミームが良く分からない理屈を持ち出し、レキ同様肉料理を堪能しまくっているカルクが賛同し、ファラスアルムがおずおずと反論し。
「ほら、フラン様も」
「む~、わらわももっと肉をじゃな」
「お野菜を食べてからです」
「うにゃ~・・・」
リーニャに頼まれているルミニアが甲斐甲斐しく(?)フランの世話をしながら、九人は賑やかに食事を楽しんだ。
しばらくして。
「「ふ~、食った食った」」
「む!」
満足気にお腹を擦るカルクとレキ。
その横ではガドが深く頷いた。
賑やかな食事に、レキ達は皆満足気な顔をしていた。




