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黄金の双剣士  作者: ひろよし
八章:学園~入学編~
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第160話:ミーム=ギ

「フラン様?」

「うむ、入るが良い!」


コンコン、というノックの音が聞こえ、ルミニアが部屋の主であるフランを促した。

フランの声に部屋の扉が開かれ、現れたのは先ほどの獣人の少女、つまりはミームであった。


「お、お邪魔します」

「うむ、いらっしゃいなのじゃ」


先程とは違い、ミームが恐る恐る部屋へと入ってくる。

そんなミームの態度を気にする事無く、フランが来訪を歓迎した。


「ふふっ。

 どのようなご用件でしょうか?」


先程はついノックもせずに乱入したミームだったが、本来ならそんな無礼を働くつもりは無かった。

明日から同じ教室で勉強する事になるであろう、最上位クラスの仲間に挨拶をしにきただけなのだ。


勢いに任せて乱入し、その際の礼儀の無さから追い返される形で退出したミーム。

今度はちゃんとノックもしたし、入出の際には挨拶もした。


礼儀を弁えているならミームもれっきとしたお客様である。


ミーム用のお茶を差し出しつつ、ルミニアが用件を伺う。

その様はまさにフラン付きの侍女と言って良く、「あ、ありがと」と言いながらミームがお茶を受け取った。

先程、自分を言い負かした相手とは思えない様子に若干戸惑いつつ、ミームが来訪した理由を改めて告げる。


「えっと、一応挨拶と言うか明日からよろしくって言うか・・・」

「というとミームさんも最上位クラスなのですか?」

「う、うん」


どうやらミームも最上位クラスの生徒らしい。

試験順位は九位。

ギリギリとは言え、獣人では唯一の最上位クラス合格者である。


「ほう、ならば明日からよろしくじゃな」

「ふふっ、よろしくおねがいしますね、ミームさん」

「うん、よろしく」


互いに挨拶を交わし、ミームを加えたお茶会は和やかに再開された。


「ルミニアだっけ?

 あなたが試験の一位なの?」

「はい」

「ふ~ん。

 まぁフロイオニアの試験じゃ座学が重要って話だし。

 純人族の学園なら純人族が一位でも当然よね」

「む?

 確かにルミは頭が良いが、武術も魔術も凄いぞ?

 何せ試験官に勝ったのじゃからな」

「うそっ!?」


簡単な自己紹介も終えて、話題はやはり昨日の試験の話となった。


獣人であるミームはフロイオニア学園の試験では何かと不利だった。

主に座学が重視される点と、獣人であるが故に魔術が苦手な点である。


「身体強化が出来ればそれで良いって言われたけどね」

「ふむ、出来るのか?」

「もちろんよっ」

「ほ~」


その点、ミームは魔術は苦手でも魔力の扱いはそれなりに出来るらしい。

身体強化は魔力を体内に巡らせる事で発動する為、呪文の詠唱を必要としない点から魔術とは違う技術と言われていた。

行使する魔術をイメージする必要もない為、獣人や騎士には相性の良い技術なのだ。


「私達の年齢なら身体強化が使える方も少ないでしょうね」

「ふふん!」


ルミニアの称賛にフランと同じくらい無い胸を張るミーム。

なお、この中で身体強化が出来ないのはファラスアルムだけである。

種族的に肉体を使って戦うのが不得手なせいか、森人は身体強化が不得意な傾向があるのだ。


「じゃあ武術が良かったの?」

「まあね」

「勝ったのか?」

「うっ、それはその・・・」


ユミの疑問には得意げに頷いたミームだが、続くフランの言葉に目を逸らした。

武術の試験における評価は自分なりに良かったと思っているミームだが、それでも善戦した程度で勝利には至っていない。

獣人と言えどまだ子供のミームでは、元騎士の試験官に勝つのは難しかったのだ。


その試験官にルミニアは勝利している。

いくらハンデがあったとは言え、その実力は認めざるを得ない。


「ふふん、ルミは凄いのじゃ」

「なんであんたが胸を張るのよ」

「ルミはわらわの親友じゃ。

 親友が凄いのなら胸を張るのは当たり前じゃ」

「何よそれ」

「ふふっ」


だが、ミームの称賛に胸を張ったのはルミニアではなくフランだった。

理由は分からないが仲の良さだけは伝わってくる言葉に、ミームが呆れつつも笑顔を見せた。


「森人のあんたはやっぱ魔術が凄かったの?」

「いえ、私の魔術など皆さんに比べれば・・・」

「は?

 森人が魔術で勝てないでどうすんのよ?」

「そ、それはその・・・」

「あら?

 純人に武術で負けたミームさんもファラさんのことは言えないのでは?」

「くっ・・・次は負けないから」

「ふふっ、はい」


森人は魔術、獣人は武術に優れるが故に、入学試験では得意な分野で点数を稼ぐのが基本である。

いくら座学の試験に比重を置いているとは言え、武術や魔術の試験が悪ければ受からない事もある。

ミームは武術の試験に全力を尽くし、結果最上位クラスへの合格を果たしたのだ。


森人であるファラスアルムもまた、自分同様得意分野で点数を稼いだのだろうとミームは思ったようだが、残念ながらファラスアルムは魔術をあまり得意としておらず、むしろ落ちこぼれと称されていた。

魔術が使えないわけではなく、むしろ同年代の純人族の子供に比べれば遥かにマシなのだが、レキ達の魔術、すなわち無詠唱魔術と比べれば劣っているのも事実。

その分ファラスアルムは座学の試験で結果を出し、最上位クラスへの合格を果たしている。


魔術では森人に勝てず、武術では獣人に勝てない純人族が唯一対等に勝てる物、それが知識。

その知識の試験において、おそらく満点を取ったであろうファラスアルムは種族関係なく称賛に値する。


「森人は魔術を使いこなすだけの知識が必要らしいし、頭がいいのは当然よね」

「ええ、しかもファラさんはおそらく満点を取っていますから」

「・・・あんたは悔しくないの?」

「悔しくないかと言われれば悔しいですが、お友達が満点を取った事を嬉しく思ってます」

「うむ、そのとおりじゃな」

「・・・変なの」


先程ルミニアの勝利をフランが自分の事のように誇ったように、ファラスアルムの試験結果をルミニアは誇らしく思っている。

負けて悔しいという感情は確かにあるが、ファラスアルムは友人なのだ。


負けを認め勝者を称える武人としての矜持か、それとも優れた者を称賛する貴族としての誇りか。

いや、単純に彼女達の性格なのだろう。

自分より優れたものを非難する気持ちは、フランにもルミニアにも無い。

その事に首を傾げつつ、ミームが微笑を浮かべた。


ミームも武を重んじる獣人である。

勝者を称えるフランやルミニアの姿勢は、好ましく思えたのだろう。


「ところで、ミームさんは何故この学園に?」


獣人としての誇りを持ち、武術を重んじるミーム。

だからこそルミニアは疑問に思った。


フロイオニア学園は純人の学園であり、武術も魔術も習うが重点を置くのはやはり座学だ。

ファラスアルムはその座学でルミニアの上をいくほどの才女であり、このフロイオニア学園でも上手くやっていけるだろう。

だが、ミームはどうにも違う気がするのだ。


「ん?

 別に大した理由はないわよ?

 ただ獣人の子供で私に勝てる奴がいないから、だったら別の学園に入った方が面白いんじゃないかって」

「なるほど」


こう見えて、ミームは同年代の獣人の中では抜きんでた存在らしい。

同い年の子供には負け知らずで、ライバルとなるような相手すらいなかったそうだ。

流石に獣人の戦士には勝てないそうだが、鍛錬を重ねていけばいずれは獣人国最強の戦士になるのも夢ではない、とすら噂されていた。


強くなるのは楽しかった。

鍛錬を重ね、昨日より強くなるのが嬉しかった。

鍛錬に鍛錬を重ねた結果、周囲の子供でミームに勝てる者は一人もいなくなった。


今ほど強くなかった頃は、ミームは皆と一緒に鍛錬をしていた。

皆で強くなり、皆で競い合った。

だが、ミームは皆より少しばかり強くなってしまった。

皆に勝てるのが嬉しくて、ミームは更に強くなろうとした。

鍛錬を重ね続け、ミームは誰よりも強くなった。


気がつけば、ミームは一人になっていた。


どうせミームには勝てないからと、誰もミームと手合わせしてくれなくなったのだ。

ミームの方が強いからと、一緒に競い合う事も無くなった。

同じ鍛錬を重ねてもミームと他の子供達との差は開く一方で、いつしか鍛錬すらもミームは一人で行う様になっていた。


このままでは本当に一人になってしまう。

そう危惧したミームの両親は、ミームに一つの提案をした。


「この国の学園に入ってしまえば、今までと同じ日々を重ねるだけだろう。

 他国の学園ならば、あるいは今とは違う何かが見つかるかも知れないよ」


同年代ではもはや負けなしのミームである。

いくら国中の子供が集まるプレーター獣国の学園といえど、ミームより強い子供などそうはいないだろう。

仮にいたとしても、ミームならすぐにでも追いつき追い越してしまうに違いない。


ならば、いっその事他の種族の学園に行けば、武術と狩りを中心に学ぶプレーターの学園では見つからない何かが見つかるかもしれない。


このまま今までと同じ孤独な鍛錬の日々を送るか、あるいは他国の学園に行きまだ見ぬ何かを見つけるか。


選択肢を突きつけられたミームが選んだのが、純人族の国フロイオニアの学園だった。


「あ、別にプレーターにいるのが辛かったとかじゃないから。

 他の国に行けば自分より強い人がいるかもって、そう思っただけ」

「ふむ」


孤独に耐えかねて、とか、周りの子供達に絶望して、と言った負の感情ではないと言いたいのだろう。

ミームの前向きな言葉にフランが納得したように笑顔で頷いた。


その横で、後ろ向きな感情でフロイオニアの学園に来てしまったファラスアルムがそっと視線を逸したが、ミームには気付かれなかったようだ。

言ってみれば、ミームがフロイオニアの学園に来た理由はファラスアルムとは同じであり真逆でもあった。


抜きん出た存在であるが故に、今と異なる環境に挑んだミーム。

劣った存在であるが故に、今と異なる環境に逃げたファラスアルム。

どちらも同じく今と違う場所を目指した者であり、ただその理由が違っていた。


故に、ファラスアルムにはミームが眩しく見え、目を逸してしまったのだ。


「来て良かった。

 なんせあの試験官に勝てる人がいるんだから」


そんなファラスアルムの様子に気づく事無く、ミームは嬉しそうに話している。


武術以外の何かが見つかるかも知れないと言われやって来たフロイオニアの学園。

それでも、自分より強いか、せめて自分と同レベルの相手がいればいいなと少しは期待していた。


まさか、入学早々自分が勝てなかった試験官に勝った者に出会えるとは思ってもいなかったのだ。


「この中で一番強いのって誰?

 ルミニア?」

「そうですね、この中では・・・」

「槍ならルミじゃな。

 魔術ならわらわも負けておらんが」

「私はどっちもまだまだかなぁ・・・」

「わ、私は武術の方は・・・」

「まぁ森人だしね」


最初こそ獣人を脳筋だと馬鹿にしたようなことを言っていたフラン達。

いざ話してみればミームを馬鹿にするような事はなく、むしろ同じ最上位クラスの仲間として接してくれる。

その事を嬉しく思い、明日からの学園生活に一抹の不安を抱いていたミームもすっかり打ち解けたようだ。


こうして、新たな友人を加えたフラン達のお茶会は、それからも賑やかに続いていった。

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