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黄金の双剣士  作者: ひろよし
八章:学園~入学編~
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第158話:カルクとガド

「平民ってそんなに少ないの?」

「ああ、せいぜい二十人くらいだろうね」


ユーリを部屋に招き、レキは二人で雑談に興じた。


試験の内容、特に武術の試験で試験官に勝った事に関してはさほど驚かれなかった。

むしろ騎士団長に勝つくらいなのだからと納得されたくらいだ。


学園の新入生は全部で百人。

その内平民は二十人程度だとユーリは言った。

平民が少ない理由はいくつかあるが、最大の理由は高い金額を支払ってまで子供を学園に通わせようとする親がいない、という点があげられる。


入学の際に収める金額は金貨一枚。

平民の家族が一年は暮らせる額であり、そう簡単に支払える金額ではない。


更には試験の内容。

貴族の子供ならともかく、平民であれば勉強などした事の無い子供がほとんどで、読み書きすら出来ない子供も少なく無い。

武術に関していえば、まず剣など握った事が無い子供が殆どだ。

魔術に至っては使えるどころか見た事すら無い子供だっているだろう。


何より辺境の村の子供は学園の存在自体知らないのだ。

平民の子供が少ないのも当然である。


レキはともかく、ユミもまた恵まれた環境にいたようだ。


「つまり、学園の生徒の大半は貴族の子息や令嬢ということになるね」

「へぇ~」


理由を聞かされ、レキも納得した。

レキだって、フラン達と出会わなければ学園の存在など知らずに今日まで生きていただろう。


もっとも、その場合は今も魔の森で狩猟生活を送っていた可能性が高いが。


「ああそうそう。

 レキは気をつけたほうがいいね」

「へっ?」


学園に通う生徒の大半が貴族の子供である、と話し終えた段階で、ユーリから忠告を受けた。


「レキの存在は貴族社会ではそれなりに有名だ。

 強さもそうだけど、フラン王女やルミニア公爵令嬢と懇意であるという点が特にね」

「懇意・・・あ、分かった!」


フランやルミニアを持ち出されて、レキもユーリの忠告に気づいたようだ。


「学園はさまざまなことを学ぶ場所ではあるけど、同時に貴族の子供達が将来の繋がりを得るための場所でもあるんだ。

 貴族にとって繋がりは重要だからね。

 子供のうちから仲良くしておけば、将来何かと有利になる事も多いんだよ」


一緒に試験を受けたサマク=ダーガとその取り巻きなどが良い例だろう。

まあ、サマクはダーガ子爵家の次男であり、後を継く可能性は低い。

それでも子爵家という後ろ盾は将来何かと便利であり、取り巻き達はそのオコボレに預かろうとしたのである。


「特に今年は王族であるフラン王女と公爵家の御令嬢であるルミニア様がいるからね。

 皆彼女達に取り入ろうと必死になるはずだ」


と言ってもそう簡単にフランやルミニアと仲良くなれるはずもない。

何せ相手は王女と公爵家の令嬢。

明確な身分差がある以上、いくら学園とは言えおいそれと声をかけるわけにはいかないはず。


そこで目をつけられたのがレキである。


フラン達の恩人にして護衛でもあるレキだが、身分はあくまで平民である。

フランやルミニアといった爵位の高い者には話しかけ辛くとも、相手が平民ならば何も問題はない。

レキを通じてフランやルミニアと仲良くなろうとする者や、レキに命令してフランやルミニアと接点を作ろうとする者も出てくるかも知れない。

もっとも、現在も国王の庇護下にいるレキに命令出来る者など王族以外にはいないのだが、そこは貴族と言えども子供達。

いろいろとやらかす可能性はある。


学園に通うに辺り、そこら辺の話はリーニャやサリアミルニスから「よ~っく」聞かされているレキだが、改めて言われ少しばかり身が引き締まった思いだった。

同時に、貴族は面倒くさいと言うのと、フランは大丈夫かなという考えがよぎった。


「その点僕は家を継ぐ必要はないからね。

 まぁ家からは仲良くしておけと言われてはいるけど、将来家を出る僕に取っては関係ない話さ」


「家からは」というのはもちろんユーリ以外の者にも当てはまる。

むしろこの学園に通う多くの子供達は、家からの命令で学園に通い、家からの命令で他家の子供達と縁を持とうとしている。

もちろんユーリの様に家とは関係なく学園生活を送ろうとする者もいるだろう。

フランやルミニアの様に自由に過ごそうと考えている子供達も少なくない。


だが、やはり貴族の家に生まれた以上、当主の命令に逆らうのは難しい。

むしろフランやルミニア、そしてユーリといった者達の方が特殊なのだ。


「それに・・・」


ユーリは更に、レキ自身も狙われているのだという。

首を傾げるレキに、ユーリが説明を続けた。


「レキの力は貴族の中では有名だからね。

 魔の森に住んでいた、と言うのは流石に信じる者は少ないが、ガレム団長を倒したのは多くの貴族が見ている。

 ニアデル公爵もレキの力を認めたそうじゃないか」


認めた、と言うか初対面でいきなり勝負を挑まれ倒してしまったわけだが。

槍のイオシスの名を持つニアデルは武人としても有名らしく、そのニアデルが認めたレキは武勇に優れた子供である、という事らしい。


ようするに、フランやルミニアの存在を抜きにしても、レキ自身の価値もそれなりに高いという事だ。

平民である以上権力という点では低いが、騎士として囲うならばこれほど魅力的な存在はない。

ガレムを下し、ニアデルに認められた武人を家臣にすれば、間違いなく他の貴族からも一目置かれるだろう。

同時にフランやルミニアとも繋がりを持てるのだから、レキを狙う者も少なからずいるのである。


「ふへぇ~」

「ははっ、これから大変だね」


ユーリの説明を聞いて、レキが心底面倒くさそうなため息を吐いた。

フランやルミニアを狙う者から守って欲しいと言われてはいたものの、まさか自分も狙われているとは思っていなかったのだ。


国王の庇護下にいるレキだが、レキ本人が望めば他の貴族の家臣になる事は可能である。

今のところそんなつもりは全く無く、更に言えばフランもルミニアもそんな事許さないだろうが、それでも将来何が起きるかは分からない。

あるいはレキとフランの間に何か起きて、袂を分かつ可能性だって無くはない。


実際、レキは将来冒険者になって世界中を旅したいと考えている。

その場合、当然ながらフランやルミニアとは一緒にいられなくなるわけで・・・。

ルミニアはともかくフランはきっと拗ねるだろうな、と今から心配していたりするレキなのだ。


「お~い、いるか~」


こっそり着いてきたりして・・・などとレキがどうでもいい事を考えていると、再び部屋の外から声がかかった。


「ん?

 どうやらお客さんのようだね、レキ」

「うん」


声と同時に部屋の扉がノックされ、ユーリに一言断りを入れたレキが扉を開くと、そこには燃えるような赤い髪の毛をした少年が立っていた。


「おっ、いた」

「うん?」


扉を開けたレキを見てそんな事を言う少年は、だがすぐに姿勢を正して挨拶を始めた。


「オレはカルク。

 ラーシュ村のカルクだ」


カルクと名乗った少年は、如何にも村の少年と言った格好をしていた。

素朴で丈夫さが取り柄の服。

髪は短く切りそろえられ、肌はしっかりと日焼けしており、とても健康そうに見える。

日頃から野原を駆け回っていそうな、そんな印象の少年だ。


「オレはレキ。

 王都に住んでるけど一応平民だよ」

「へ~、すげぇな」


貴族は家名を名乗り、家名のない平民は住んでいる村の名を言うのがこの世界の一般的な名乗り方である。

レキの場合、生まれはフィサス領の村になるのだが、その村はもう存在しておらず、次に住んでいたのは魔の森である。

無い村の名を名乗るわけにはいかず、魔の森はそもそも人の住む場所ではない。

という事で、先日まで住んでいた王都を名乗ったレキである。

実際は王都ではなく王宮だが、それを言えば更にややこしい事になるので言わなかった。


「それでどうしたの?」

「おお、そうだ。

 なぁ、お前って試験で何位だった?」

「試験、一応三位だったけど」

「三位かぁ・・・武術は?

 試験官に勝てたのか?」

「うん、勝った」

「おぉ!

 すげぇ!」


試験結果は大体的に張り出されていたが、そこには受験番号しか書かれておらず、誰が何位かは本人や番号を知る者だけ。

寮の部屋が順位順に割り当てられている以上、レキの順位がカルクより上だという事は分かるのだろうが、何位かまでは分からない為こうして直接尋ねに来たのだろう。

もっとも、カルクが気にしているのは試験の順位より武術のようで、レキが試験官に勝った事に驚いていた。


「オレも結構惜しいとこまでいったと思うんだけどなぁ~」

「あの試験官も結構強かったよね。

 フランも勝てなかったし」

「フランって誰だ?

 でも勝てたんだからすげぇよ」


フランもなかなかに善戦したものの、武器の相性もあってか勝ちには至らなかった。

ユミに関しては、実は武器の選択ミスだとレキは思っていたりする。


立ち話もなんだしと、レキはカルクも部屋に招き入れた。

当然そこにはユーリがいて・・・。


「ん?

 誰だ?」

「ああ、初めましてだね。

 僕の名はユーリ=サルクトだ。

 どうかよろしく頼むよ」

「ふ~ん、オレはカルクだ。

 よろしくな」


爽やかに挨拶をするユーリに、カルクも笑顔で応じた。

どうやらユーリは平民だからと言って見下すような真似はせず、カルクも貴族だからと言って恐縮したり意味もなく突っかかったりはしないようだ。


カルクも交え、三人で話を雑談を再開した。


同じ平民だからか、カルクは初対面のレキに対して無遠慮に接してくる。

それどころか貴族であるユーリに対してもざっくばらんに接し、ユーリもまた気にする事無く応対した。

それが二人の性格なのだろう。

レキとしても当然その方が良かった。


今までレキの周囲にいた同い年の子供は女の子ばかりで、男の知り合いは全て年上だった。

それも騎士や魔術士、更には国王やら宰相やらと言った、かなり年が離れている者ばかり。

一番近い者でもフランの兄であるアラン=イオニアで、彼ですら二つほど年上である。

年上に対して一応は気を使い接していたレキとしては、同い年かつ同性であるユーリとカルクの存在はとても嬉しかった。


「へ~、んじゃあユーリも試験官には勝てなかったのかよ」

「ああ、彼らは元騎士だからね。

 そうそう勝てる相手じゃないよ」

「んでもレキは勝ったんだよな?」

「うん!」

「う~ん、やっぱすげぇな」

「ああ、やはりレキは・・・うん?」


お互いの試験の話を中心に、和気藹々と話をする三人。

と、再びレキの部屋をノックする音がした。


「またお客様のようだよ」

「うん」


三度目となれば馴れたもの。

レキはユーリとカルクに軽く断りを入れた後、またまた部屋の扉を開ける。


「山人?」

「む」


三人目は山人の少年だった。


山人の特徴とも言える、低いが筋骨隆々な体躯。

赤茶色の癖っ毛と太い眉。

レキを見る目には強い光が宿っている。


「ガド=クラマウント=ソドマイク」


そう名乗った山人の少年は、レキをしっかりと見つめた。


「オレはレキ。

 よろしく」

「む」


その視線を受け止めたレキが名乗り返し右手を差し出す。

その手をしっかりと握り返し、ガドが一つ頷いた。


「じゃあ入る?」

「む」


挨拶は終わったとばかりに、レキが他の二人同様部屋に招き、ガドはまた頷く。

言葉少ないガドであるが、レキの招きには素直に応じるようだ。


「ふむ、今度は山人かな?」

「おお、オレ山人って始めてみた」

「む」


ユーリとカルクとも紹介し合い、四人は再び雑談に興じる。


カルクもそうだがガドももちろん最上位クラスの子供である。

順位はレキが三位、ユーリが五位、カルクが七位でガドが十位だった。

ガドの話によれば、ガドとカルクの間にもう一人男の子がいるらしく、だが部屋を尋ねてもそっけなく扱われてしまったらしい。


「おお、オレもだ!

 あの野郎、平民と話す事など無いとか言いやがったぞ」


カルクもその相手に挨拶したらしく、ガドの話にいきり立った。


「なるほど、貴族か」

「む」

「だったらユーリが相手すればいいのかな?」

「いやいや、そういう相手は身分だけでなく爵位も気にするからね。

 僕はしがない子爵家の三男だ。

 相手の爵位によっては、カルクやガド以上に下に見られるかも知れないよ」

「ふ~ん」

「なんだか面倒くせえ奴だな」

「む」


レキもまた平民である。

実力では負けずとも爵位を持ち出されては何も言えない。

一応フランやルミニアと言った最高位の貴族の友人がいるが、彼女達を巻き込むつもりは当然無かった。


「学園が始まれば嫌でも会うのだし、放っておけばいいさ」

「そうだな」

「む」


カルクとガドの間の部屋という事は、つまりはその貴族の子供も最上位クラスの生徒という事になる。

明日以降、嫌でも同じ部屋で勉強する事になるだろう。

挨拶とか相手の反応とかはその時でいいやと一先ず放置する事にして、レキ達は再び雑談に興じた。


その貴族の子供を除けば、どうやら最上位クラスの男子勢は皆気のいい者ばかりのようで、レキの密かな目標である「男の友達をつくる」と言うのは早くも達成できそうだった。


「なぁ、武術の時間があったらオレと手合わせしてくれよな!」

「うん」

「ははっ、カルクは覚悟したほうがいいね」

「なんだよ、そりゃレキの方が強ぇかも知れないけど、オレだって村じゃ一番強かったんだぜ?」


その事に喜びつつ、レキはなおも雑談に興じた。

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