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黄金の双剣士  作者: ひろよし
七章:再会と試験と新しい友達
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第153話:リーニャの解説

「どういう事じゃ?」

「つまりですね。

 無詠唱という未知の魔術を使用した皆様がフィルニイリス様から低い評価を受けていた為、ファラスアルム様は自分が試験に落ちたと思ってしまったのですよ」

「う~ん・・・?」

「分かんない」

「ああ、分かりました」


リーニャはファラスアルムの視線で全てを把握したが、フラン達はそうもいかなかった。

説明しても、理解できたのはルミニアだけだった。


「ルミ?」

「ええと、私達の無詠唱魔術は従来の詠唱魔術よりも難しいですよね?

 呪文を詠唱しない分、必要となる魔力を練る時間も、使用したい魔術をイメージする時間も無いのですから、より集中しイメージを明確にする必要があります。

 それだけに、無詠唱で魔術を行使する事が出来れば評価は高くなるはずですが、フィルニイリス様の評価はそうでもなかった。

 正しくは低く聞こえた、でしょうか」

「は、はい。

 その通りです」


ルミニアの説明は正しかったようで、ファラスアルムが頷いた。


「皆様の魔術はとても素晴らしく、特にレキ様の魔術はもはや神話における精霊様にも匹敵するほどの、とても素晴らしい物でした。

 私などは感激のあまりに気を失うかと思った程です。

 ですが・・・」


思うどころか実際に気を失ったファラスアルムである。

意識を取り戻した後も感激し続け、とても人には見せられないような顔をしていたりする。

そんなファラスアルム的にはとても素晴らしかった魔術にもかからわず、フィルニイリスは辛辣な評価を下した。


あれほどの素晴らしい魔術が低評価ならば、ファラスアルムの魔術など評価する価値すら無いに違いない。

もしかしたら、今年の魔術試験の最低基準は「無詠唱で魔術が使える事」ではないかとすら、ファラスアルムは考えてしまったのだ。


全ては特出しているレキ達の魔術と、そんなレキ達に対するフィルニイリスの辛辣な評価が原因であった。


原因が分かれば後はその誤解を解くだけ。

下手に説明しても余計に悩ませるだけだと、レキ達はフランの教育係でもあり説明力(?)の高いリーニャに任せる事にした。

そもそもリーニャとルミニアの解説を聞いても理解できないレキとフランが、ファラスアルムの誤解を解けるはずがない。


皆の視線を受け止めたリーニャが、苦笑しつつ再び説明を始めた。


「まず、フィルニイリス様の評価はレキ君達を増長させない為のものです。

 フラン様とルミニア様、ユミ様もですが、レキ君の魔術に比べれば幾らか拙い物だったはずですから」

「うにゃ・・・」


事実なだけに何も言えないフラン達である。

無詠唱魔術が使えるというだけで殆どの魔術士より格上となる分、増長してしまえばこれ以上成長出来ないかも知れない。

レキに比べれば数段劣る為、現状で満足しないよう釘を差す意味もあったのだろう。


「レキ君の評価に関しては、確か最初は評価を避けていたのでしたよね?」

「はい。

 ただどうしても気になってしまい・・・」

「それでより辛辣な言葉を受けてしまったと」

「う~・・・」

「そ、その節は申し訳ありませんでした」


藪を突いてなんとやら。

まさかあれほど辛辣な言葉を投げられるとは、ルミニアですら思っていなかった。

レキ本人はもとより、促したルミニアも大いに反省する結果である。


「それからもう一つ。

 おそらく今回の評価基準は大きく二つに分かれていると思います。

 すなわち「詠唱魔術」と「無詠唱魔術」ですね」


今までの魔術試験に対する評価基準は大きく分けて五つ。


・呪文の正確性

・詠唱速度

・魔術の等級

・威力

・精度


このうち、無詠唱魔術は呪文を唱えない為、当然ながら呪文の正確性に対して評価は出来ない。

詠唱側に関しても、魔術が発動するまでに要する時間がそれに該当するだろうが、最も遅かったユミですら詠唱するより幾らか速く発動している。

つまり、通常の基準では呪文に関する項目に置いて無詠唱魔術は評価出来ないという事になる。


単純に合格・不合格で言えば魔術が発動した時点で合格となるだろう。

だが、試験は200名近い受験者を100名に絞るのと同時に、特待生である最上位十名に加え、上位・中位・下位への振り分けも行わなければならない為、合否だけでなく点数も付けなければならない。

仮に、魔術の試験に対する審査基準が上記の五項目で、それぞれが二十点ずつ、合計100点だったとした場合、無詠唱魔術は「呪文の正確性」に関しては点数がつけられず、「詠唱速度(発動までに要する時間)」は二十点を超えてしまう。

「魔術の等級」、「威力」、「精度」に関しては問題なく採点できるとしても、残り二項目に関してはどうしても詠唱魔術と同じ基準では採点できないのだ。


ならばどうすれば良いか。

これはもう単純に、「詠唱魔術」と「無詠唱魔術」とで評価基準を分けてしまえば良い。


「詠唱魔術はいつも道り五つの項目で。

 無詠唱魔術は、そうですね。

 無詠唱で魔術が発動した時点で既に評価は高いでしょうから、発動速度、等級、威力、精度の四つの項目でそれぞれ評価されるのではないでしょうか」


詠唱魔術と同様、満点を100とし、評価項目を「発動速度」、「等級」、「威力」、「精度」の四つにするという考え方もあるのだろうが、それでは「無詠唱魔術」と「詠唱魔術」を同じ基準で評価する事になってしまう。

もちろん詠唱魔術でも使用したのが中級や上級であれば、無詠唱であっても初級魔術しか使用できない者より評価は高いかも知れない。

ただ、同じ初級魔術を使用した場合、間違いなく無詠唱で使用した方が評価は高くなる。

高くなければおかしい。

それだけ、無詠唱魔術というのは高度な技術なのだ。


「という事で、レキ君達は無詠唱魔術という基準で評価されたはずです。

 フラン様やルミニア様、ユミ様の評価が低く感じたのは、無詠唱という基準で評価されたからでしょうね」


フランやユミ、ルミニアの魔術に関する評価、特に発動速度に関しての評価が低く聞こえたのは、無詠唱という前提で評価したからだ。

無詠唱魔術は文字道り詠唱する事無く魔術を発動させる技術であり、発動までの時間は当然のごとく速くなる、というか速くなければ意味がない。

フランもルミニアもユミも通常の詠唱魔術に比べれば幾分か速く発動できたとは言え、それはあくまで詠唱した場合と比べての話。

無詠唱での発動速度は、極めればそれこそ一瞬の溜めすら必要なく発動できるのだ。

そう、レキの様に。


「レキ君の評価に関してですが、確か発動速度や威力、精度、更には等級に関して何も言われていないのですよね?」

「え、あ・・・」

「・・・確かにそうですね。

 使用した魔術や順番に関していろいろ言われていましたが、私達の様に発動が遅いといった評価は受けていません」


そのレキの魔術だが、最初にフィルニイリスが言ったとおりレキの魔術は現時点でフィルニイリスを超えている。

発動までの速度は一瞬の溜めすらなく、威力や精度も申し分ない。

等級に至っては全てが上級である。

どれをとっても申し分なく、魔術の試験で言えば最上の評価だろう。


だからこそ、最初にフィルニイリスは「私にレキの魔術を評価するのは無理」と言ったのだ。


いくら宮廷魔術士長という肩書があっても、自分より上位の者を評価する事はフィルニイリスには出来ない。

間違いを指摘するならばどう改善すれば良いかを提案すべきだし、欠点を指摘するならば克服方法まで教えるべきだろう。

フランやユミ、そしてルミニアの無詠唱魔術は、レキのそれと比べて等級や威力以前に発動までに時間がかかりすぎていた。

その点をフィルニイリスが指摘した、という事はフィルニイリスにはその改善方法を知っているという事であり、実際フィルニイリスの無詠唱魔術はレキほどではないにせよそれなりに速く発動する。

これもまた、フィルニイリスの努力の成果である。


レキの魔術はフィルニイリスを凌駕しており、レキに劣るフィルニイリスが評価して良いものではないとフィルニイリスは考えている。

それでも一応フィルニイリスはレキの魔術の指南役であり、求められた以上は何か言うべきであろうと考えた結果、昨日のような助言をしたのだ。

現状、レキに足りないのは魔術の知識や経験、それに基づく様々な判断力。

それらを認識させる為、あのように辛辣な言葉をレキに送ったのである。


「フィルニイリス様らしいお言葉だと思います」

「はい、そうですねレキ様」

「う~ん」


レキが慢心しないよう、現状に甘んじないようにと送られたフィルニイリスの言葉。

それは確かにありがたいのかも知れないが、なんとなく素直に頷けないレキだった。


――――――――――


「さて、少々長くなってしまいましたが。

 ファラスアルム様」

「は、はい」

「レキ君達とご自身を比べて、落ち込まれていたようですが・・・」


もとより自信のなかった魔術。

レキ達の無詠唱魔術を見た事で、ゼロに近かった自信がゼロを通り越してマイナスへと落ち込んでしまったのだ。


「レキ君達の無詠唱魔術を通常の詠唱魔術と同じ基準で評価する事は出来ません。

 ですので、今回の試験は別で評価されると思われます」

「はい・・・」

「ファラスアルム様は呪文も正確で詠唱速度も問題が無かったと聞き及んでいます。

 等級こそ初級ですが、威力も精度も問題ないと。

 ならば落ち込まれる必要はないのではありませんか?」

「・・・はい」

「そもそも入学試験において、魔術に対する比重はさほど大きくありません。

 使えない子も多いですし、平民なら習ってすらいない子がほとんどです。

 魔術の試験に対する評価の比重が大きければ、使えない子達は不利になってしまいます」

「・・・」

「武術も同じです。

 森人は元々身体能力が低く、山人は力こそ強いですが戦闘能力はあまり高くありません。

 種族の区別なく平等に評価する場合、武術も魔術も重く見るわけにはいかないのです」


森人の国フォレサージの学園ならば話は違ったのだろう。

獣人の国プレーターなら何より武を重んじ、山人の国マウントクラフの学園なら手先の器用さを重んじた。

身分や種族の区別なく、皆が平等に学べるよう設立された「フロイオニア王国立総合学園」だからこそ、武術でも魔術でもないもう一つの試験に重きを置いているのだ。


「フロイオニア学園の試験で最も重視されるのは知識です。

 知識だけはどの種族だろうと平等に身につける事が出来ますからね。

 ファラスアルム様は知識の試験がほぼ満点だと聞いています。

 でしたらまず大丈夫だと思いますよ?」

「は、はい」


生まれつき頭の良し悪しはあるのだろう。

育ってきた環境も影響するだろう。

平民ならそもそも学ぶ環境がないかも知れない。

貴族であっても、家によっては知識より武を重んじるかもしれない。


獣人ならば知識より武術を、森人なら魔術を、山人なら鍛冶を重んじる。


それでも、知識だけは身につけようと思えば誰でも身につける事ができるのだ。

獣人が魔術を不得手とするのも、森人が身体的に劣っているのも関係ない。

学ぼうと思えば学ぶ事が出来、努力次第でいくらでも身につく力、それが知識であり、フロイオニアの学園が最も重視する点である。


そんな、最も重視される座学の試験において、ファラスアルムはほぼ満点だったという。

試験の結果はまだ出ておらず、満点だろうというのもあくまで自己採点の結果ではあるが、それでも武術も魔術も自信の無いファラスアルムが唯一胸を張れるもの、それが今回の座学の試験なのだ。


「ルミニア様もファラスアルム様の座学の試験は把握されているのですよね?」

「はい。

 ファラさんとは試験終了後に答え合わせをしましたから。

 ファラさんはおそらく満点、私は一歩及ばずと言ったところでしょうか」


お互い座学が得意という事もあり、ルミニアとファラスアルムは二人で答え合わせをしていた。

その結果、ルミニアは一問を落とし、ファラスアルムは全問正解であったらしい。

二人共間違えた可能性ももちろんあるが、それでも満点に近い点は取れているはず。

まず間違いなく、ファラスアルムは合格しているはずだ。


無詠唱魔術の衝撃が強く、それが酷評されたが故に自信の無さに拍車がかかってしまったのだろう。

レキ達とは別で試験を受けていれば、あるいはこれほど落ち込んだりしなかったのかも知れない。


そう考えれば、ファラスアルムが落ちこんだ原因はレキにあると言って良い。


「えっ、オレ?」

「そうですね。

 レキ君の凄さが今回の事態を招いたと言っても過言では無いでしょうね」

「え~」


もちろんそれは冗談だが、ほんの少しだけ、学園に入っても自重して下さいというリーニャの忠告でもあった。

そんなリーニャの言葉にレキが頬を膨らませた。

フランが「そうじゃな」と頷き、ルミニアが「レキ様ですから」と良く分からないフォローを入れ、ユミが「そっか~」と納得した。


自分のせいでレキが責められたとファラスアルムが慌てて謝罪を始め、それを見た皆に笑顔が戻った。

この場はようやく、いつもの賑やかさを取り戻していた。

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