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黄金の双剣士  作者: ひろよし
七章:再会と試験と新しい友達
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第146話:魔術の試験~フランとユミ、そして無詠唱魔術について

「次はフラン=イオニア」

「にゃ?

 う、うむ!」


フランとユミをすっ飛ばし、ファラスアルムの試験を何故か先に終わらせたフィルニイリス。

その意図を説明する事なく、フィルニイリスが試験官らしくフランを名前で呼んだ。

ようやく自分の番が来たとフランが意気揚々と前に出た。


「受験番号186番、フラン=イオニアじゃ!」

「では始めて」

「うむ!」


魔木の的の前に立ち、フランが気合を入れ・・・。


「う~・・・やあっ!!」


腰に差した剣を抜くかのごとく、右手を左から右へと振り抜く。

呪文を詠唱する事無く、掛け声とともに振り抜かれた右手から不可視の刃が飛んでいく。

ズズッ・・・という音を響かせながら、魔木の的が見事に両断された。


「「「「「・・・は?」」」」」

「・・・えっ?」


目の前で起きた事が理解できず、サマクとその取り巻き、更にはファラスアルムまでもが唖然とした。


魔術とは、魔力を練り「呪文を詠唱する」事で発動する。

補助具として杖などを用いる者もいるが、呪文の詠唱は必須のはず。

詠唱無しに魔術を行使出来る者など、サマク達やファラスアルムは知らない。


だが、フランは実際に詠唱せずに魔術を放ち、魔木の的を両断してみせた。

使用した魔術は緑系統の中級魔術リム・スラッシュ。

風の刃を飛ばして遠くの敵を切り裂く魔術である。

子供の魔力でもゴブリンの一匹くらいなら容易く切り裂く事が出来る、威力と速度に秀でた魔術だ。


フランが放ったそれは、魔素を多く含むがゆえに通常の木より遥かに固く、魔術に対する抵抗も高い魔木の的を見事に両断してみせた。

あの威力ならゴブリンどころかオークですら切り裂く事も出来るかも知れない。

それほどの威力の魔術を、フランは呪文を詠唱する事無く発動して見せた。

まだ十歳という年齢を考えれば優秀すぎると言えるだろう。


「発動するまでに少し時間がかかった。

 場所もずれた」

「うにゃあ・・・」


にも関わらず、フィルニイリスの評価は厳しかった。

時間がかかったと言っても、その時間はサマクやファラスアルムが呪文を唱え終わるより速い。

場所も、僅かに逸れているとはいえ的の上から四分の一当たりを綺麗に切断している。

人で例えれば丁度首の辺りだろう。

相手が魔物なら、その一撃で確実に命を奪えているはずだ。


「では別の系統を」

「う~・・・分かったのじゃ」


その評価が不服なのか、あるいはフィルニイリスの言う事を認めたのか、頬を膨らませながらもフランは次の魔術を行使する。


「う~~・・・・・・やあっ!!!」


先程より更に長く集中し、気合も込めてフランが次の魔術を放った。

今度は剣を抜くような仕草ではなく、左手で右手を支えるようにして前にかざしている。

その手の平から放たれるのは、矢のような形をした火だった。

それが真っ直ぐ、魔木の的へと飛んでいく。


「「「「「・・・」」」」」

「す、凄い、です」


赤系統中級魔術エド・アロー。

火を矢のような形にして相手に飛ばす、赤系統の攻性魔術。

速度に優れ、刺さると同時に相手を燃やす魔術である。

主に牽制や相手の行動を阻害する目的で使用するが、使い方次第では木々はもちろんの事、人や魔物すら燃やす事が可能な攻撃力の高い魔術だ。


フランが放ったエド・アローは魔木の的に見事に突き刺さり、更には刺さった場所を中心に的を僅かに燃やしてみせた。

完全に燃やし尽くす事は出来なかったものの、魔術抵抗の高い魔木の的を少なからず燃やしたフランの魔術は、それだけでサマクの魔術より上である事が分かる。

自分の魔術との差を見せつけられた形のサマクであったが、それ以前に呪文の詠唱をしていないフランの魔術に、言葉も出せないでいた。


同じく先程は唖然としているだけだったファラスアルムは、今は感激に目を潤ませていた。


「緑系統より更に時間がかかっている。

 場所は正確だが威力が足りない。

 的が燃えていないのがその証拠」

「うにゃあ・・・」


フィルニイリスの評価は、やはり厳しかった。


――――――――――


「では次」

「えっと、私?」

「そう、ユミ」

「はい!」


フランの試験が終わり、お次はユミの番である。

それなりに自信があったにも関わらず辛辣な評価にフランが肩を落とし、ルミニアに慰められている横でユミが気合を入れて的の前に立った。


「受験番号187番、ユミですっ!」

「始めて」

「はいっ!」


片手を上げ、自己紹介をするユミにフィルニイリスの合図を出す。

ユミの構えはフランのような独特なものではなく、サマクの様に片手を前にかざす一般的な構えだ。

利き手である右手ではなく、左手をかざしているのが違いと言えば違いだろう。

剣と魔術の両方を用いて戦う、いわゆる魔術剣士によくあるスタイル。

大剣を扱うユミとしては、何とか剣を手放さずに魔術を使えないかと模索した結果だったりする。


「む~~~・・・・・・・・・やあっ!」


先程のフラン以上に時間をかけつつ、ユミの魔術がかざした手の平から放たれた。


「ま、またっ!」

「凄い・・・」


サマクが驚きに声を発し、ファラスアルムが感動した。

ユミの放った魔術は先ほどファラスアルムが用いたのと同じ魔術ルエ・ブロウ。

水の塊を相手に勢いよくぶつける、牽制の意味が強い魔術である。

それでも使用する者次第では木々を倒しゴブリンを吹き飛ばせる魔術だが、ユミの放ったルエ・ブロウにそこまでの威力は無いようだ。

的には見事に命中したが、速度と威力はファラスアルムと同程度だろう。


「集中に時間がかかり過ぎている。

 威力も心もとない。

 牽制で使用するには十分でも、それ以上ではない」

「うぅ・・・はい」

「別の系統は?」

「ない、です」

「そう」


当然、フィルニイリスの評価はフランより厳しく、青系統しか扱えないユミの魔術試験はこれにて終了となった。


「では」

「ちょっと待て!」

「・・・何?」


フィルニイリスが次の受験者を呼ぼうとしたところで、突如サマクが大声を上げた。


「お、おかしいだろ、呪文の詠唱も無しに」

「そ、そうですよ。

 何か仕組んでるじゃないですか」

「そうだ!

 いかに王女だからと言って許されるものじゃない!」

「もう一人は平民だぞ!

 ありえないだろっ!」

「宮廷魔術士長っ!

 説明を求めるっ!」


フランとユミの魔術を見て呆気にとられていたサマク達が、驚愕からようやく立ち直った。


二人の魔術はおかしい、インチキだとサマク達が抗議の声を挙げる。

詠唱もせずに魔術を行使する者を初めて見ただけに、目の前の現象が受け入れられないのだろう。

魔術には呪文の詠唱が必要であるという固定観念が邪魔をして、フランやユミの魔術は仕組まれたもの、すなわち不正だと抗議を始めた。


自分達の魔術にフィルニイリスは辛辣な評価を下した。

その時は相手の立場もあっておとなしく引き下がったサマク達だが、不正行為となれば話は違う。

ついでに自分達の評価すら改めさせようとでも思ったのか、ここぞとばかりに食って掛かった。


「はぁ」


そんなサマク達に、フィルニイリスが呆れたような表情を向ける。

あまり心情を顔に出さないフィルニイリスだが、それだけに至極面倒くさがっている事が分かった。


思わず漏れたため息一つ、フィルニイリスがサマク達に説明を始めた。


「魔術とは体内の魔力を用いて脳裏に描いた事象を再現する力。

 よって必要なのは魔力と明確なイメージ。

 呪文は魔力とイメージを高める為の手段でしか無い」

「そ、そんな事っ」

「ありえない、と言うのはあなた達の勝手な言い分。

 現にフランとユミは出来ている」

「だ、だからそれが!」

「不正?

 ならばどうやって?」

「そ、それは何か・・・」

「何かとは?」

「くっ・・・」


所見の者ならば理解が難しい説明に、サマクはそれでも食い下がろうとした。

まともに付き合うつもりがないのか、フィルニイリスは会話を切り上げようと逆にサマクに問い始める。


悔しそうにするサマク。

二年前であれば、むしろフィルニイリスはサマク達の側だったかも知れない。

もちろんサマクのように不正だなどと喚く事はせず、どうやったのかと根掘り葉掘り聞き出すだろうし、実際そうしていたのだが。


王宮でもフィルニイリスはレキに魔術の指南をしつつ、どうすればレキのように呪文を詠唱する事なく魔術を行使出来るのか試行錯誤を繰り返していた。

それから数ヶ月、フィルニイリスは見事呪文を詠唱せずとも魔術を発動する事に成功している。


一先ず、この技術をフィルニイリスは「無詠唱魔術」と名付けた。


その後、フィルニイリスはこの無詠唱魔術を広めるべく活動を始めた。

口で言っても理解できないだろうからと、まずは王国の魔術士達にも無詠唱魔術を習得させた。

その際、レキと共に鍛錬を続けていたフランも習得し、更にはレキとフランがつきっきりで教える事でルミニアも出来るようになった。


だが、王宮の魔術士達はフランやルミニアのようにはいかなかった。

今までの常識や固定観念が邪魔をして、宮廷魔術士ですら習得するのに一年以上の時間を費やしてしまったのだ。


今は、その技術を他の領地にいる魔術士達に教えているところである。

サマク達が知らないのは、無詠唱魔術がサマク達の領地にまで伝わっていないからだろう。


驚くのは分かる。

だからと言って目の前の現象、実際に行使された事をなんの根拠も証拠もなく不正と断言するのは間違っている。

フィルニイリスなら疑うより先に調べようとするだろう。

なお、同じく初見なファラスアルムは疑うより先に感激している。


座学の試験が上手くいかず、武術の試験でも大きく差をつけられ、挙句の果てに自分達の知らない無詠唱魔術を見せつけられ、嫉妬と焦りからこの様な態度に出てしまったのだろうか。

傲慢な貴族の性質が出たのか、あるいは十歳という未熟な精神故か・・・。


いずれにせよ、サマク達もこのままでは納得がいかないらしい。

そんなサマク達に、フィルニイリスは最後まで付き合う事にした。


「いいの、ルミ?

 次ってルミの番じゃ・・・」

「はい、大丈夫です。

 それに、おそらくはこの為にフィルニイリス様がいらっしゃったのだと思います」

「どういうこと?」


無詠唱魔術は大陸どころかフロイオニア王国全土にも伝わりきっていない。

当然この学園にも知らない者は多いだろう。

そんな状況でレキやフランが無詠唱で魔術を使用してしまえば、サマクどころか学園の試験官ですら不正だと言い出しかねない。

そう言った事態を避けるべく、フィルニイリスがこうして試験官を務めているのだろう、と言うのがルミニアの見解だった。


「知らない方、理解できない方への説明もフィルニイリス様の務めなのでしょうね」

「へ~・・・」

「うむ、流石ルミじゃ」


ルミニアの説明にレキが納得し、フランがルミニアを褒めた。

事情を察する能力はルミニアが一番長けており、いつもこうしてレキやフランに説明してくれるのだ。


「それはそうと、ユミさんはどこで無詠唱魔術を?」

「ん~・・・魔術自体は領主様の奥様とか、あとお屋敷の人達から教わったけど・・・」

「無詠唱は習っていないと?」

「うん。

 昔レキが使ったのを見て、私もああいう風に魔術を使いたいなって思って、それでずっと練習したの」

「まぁ!

 ではほぼ独学という事ですね?」

「そうなるのかな?」

「ええ、素晴らしいです」


フィルニイリスとサマク達の言い合いが続く中、ルミニアがユミの魔術について尋ねていた。


エラスの領主はあまり魔術が得意ではないらしく、ユミは領主の妻や屋敷にいる魔術士達に教わっている。

とは言え、彼女達も無詠唱魔術は使えない為、習ったのはあくまで魔術の基礎である。

無詠唱での魔術行使については、ゴブリンを一掃した時のレキを思い出しながら必死に努力した結果なのだ。


「魔術とは魔力とイメージ。

 レキ様の魔術を見ていたからこそ、ユミさんも無詠唱魔術が使えるようになったのですね」

「うん!

 だってレキの魔術凄かったから」


ゴブリンの群れを一掃したレキの魔術。

あの時の光景を、ユミははっきりと覚えている。

その件があったからこそ、魔術に呪文の詠唱は要らない事を知ったのだ。


屋敷の魔術士達は最初信じなかったが、ユミとユミの母親は実際に見ている。

領主やその妻がユミ達を信じると言い出した為、とりあえず普通の魔術と並行して無詠唱の練習も行われたのだ。

その結果、ユミだけでなく屋敷の魔術士達、更には領主の妻までも無詠唱魔術を習得したそうだ。


「ふふっ、ユミさんもお屋敷の方々も素晴らしいですね」

「みんなで頑張ったからね」


二年前まではレキしか使えなかった無詠唱魔術。

そのレキを中心として、少しずつ無詠唱魔術が広まっている。

いずれはこの世界の多くの人が詠唱に頼る事なく魔術を扱えるようになるのだろう。

それがどこか誇らしく、ルミニアとユミは微笑み合った。


そして、当人であるレキは。


「試験まだかな~」


退屈なのだろう、試験の再開を待ちわびていた。

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