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黄金の双剣士  作者: ひろよし
七章:再会と試験と新しい友達
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第143話:武術の試験~ルミニア

「お疲れ様ですファラさん」

「惜しかったよ」

「うぅ・・・」


ルミニアとユミのフォローも、今のファラスアルムにはなんの慰めにもならなかった。

フランやユミは当然、サマクやその取り巻きと比べてもファラスアルムの武術は酷かったのだ。


「最後まで頑張ったよ」

「そうじゃ!

 ファラは頑張ったのじゃ!」


唯一褒められる点はと言えば、最後まで諦めなかった事だろう。

サマクの取り巻き達が早々に諦めたり力尽きた事を考えれば、疲れても最後まで戦い続けたのはとても立派で頑張ったと言えるだろう。


「ふふん。

 貴族はそんな見苦しい真似はしないものだ」

「そうですよ。

 貴族は民の手本となるべく・・・」


サマクの取り巻き達が何やら騒いでいるが、これはあくまで試験であり貴族とか平民だとかは関係ない。


「最後まで良く頑張ったな。

 諦めない、というのも一つの才能だ。

 その点は大いに評価出来る」


「だって。

 良かったねファラ?」

「う・・・はい」


ゴーズからもそう言われて多少は持ち直したファラスアルムだったが、どこにでも空気を読まない輩はいるものだ。


「ふん、諦めなかったからなんだというのだ。

 一撃も当てられなければ何の意味も無い。

 無様な姿を晒し続けるなど恥るべきだ」


そんな台詞が聞こえてきた。


取り巻きとは違い、サマクは一応最後まで戦っていた。

その攻撃はファラスアルム同様かすりもしなかったが、盾で防がれた分ファラスアルムよりマシだとでも思っているのだろう。

少なくとも、サマクは「私は盾を使わせた」と考えていた。


「お前たちも一応は当てていたのだ。

 その分あいつよりマシだ」

「「「「は、はい」」」」


それは取り巻き達も同じ。

制限時間の半分も持たなかった彼らだが、一応四人共ゴーズの盾には当てていた。

フラフラな彼らの攻撃を、手合わせの要領でゴーズが盾で受けただけだったのだが、そんな事で彼らの増長を招くなどゴーズも考えていなかっただろう。


「大体森人がフロイオニア王国の学園に入る事自体おかしいのだ。

 森人は森人らしく森に篭っていれば良い」


更には森人という種族に対してサマクは非難し始めた。

ガージュの父親同様、他種族排斥派なのかも知れない。


ただ、サマクがファラスアルムを非難する理由は他にもあった。


自分より弱いと思っていたフランとユミの予想外の実力に、それまであった自信を完全に砕かれたサマクは、ファラスアルムの弱さに自信を取り戻し、ついでにそれまでの鬱憤をぶつけたのだ。

貴族以前にサマクもただの子供。

感情を上手く抑えられず、ファラスアルム相手に発散してしまったのだろう。


「ここは種族も身分も関係なく平等に学べる学園だ。

 そういった発言は控えてもらいたいものだな」


流石のゴーズもその発言は見過ごせず、聞き流していたサマクの野次を今度ばかりは注意した。

サマクの暴言がこの学園の理念に反するものだったというのがその理由だ。


身分や種族の区別なく誰もが平等に学べる場所、それがこの「フロイオニア王国立総合学園」である。

同時に、獣人、森人、山人からそれぞれの得意分野を学ぶというのも、この学園の隠された設立目的なのだ。


武術や狩りでは獣人が、魔術や知識では森人が、鍛冶や細工、採掘では山人が秀でており、純人は何かに特化した才能は無いが、その分努力次第ではどの分野でも大成できる。


だが、純人のみで机を並べてしまえば、結局は純人の域を超える事は出来ない。

各種族を招き、共に学び競い合うことで種族の特徴をも超えて成長出来るはず。

というのが学園が他種族を受け入れている本当の理由なのだ。


サマクの発言は学園の理念や目的にそぐわない物であり、なにより森人という種族を差別するもの。

ここで止めねば、あるいはさらなる問題に発展する可能性すらあった。


「ふん」


ゴーズに言われ、サマクがそっぽを向いた。

止められた理由を理解した訳ではない。

ただ、自分達が束になっても敵わないゴーズに言われて、仕方なく黙ったのだ。


それで今までの発言が無かった事にはならないが。


「うぅ・・・」


少しは持ち直したファラスアルムも、サマクの発言によって再び落ち込んでしまった。


「森人は森人らしく」


森人の国フォレサージの学園に通ったなら、間違いなく見下され嘲笑されてしまう。

それが嫌で、逃げるようにこのフロイオニアの学園を選んだファラスアルムにとって、サマクの言葉は心に深く突き刺さるものだった。


もう少し上手く魔術が使えたなら、ファラスアルムはこの場所にはいなかっただろう。

純人の国でしか学べない知識には確かに興味があった。

フォレサージでは学べない様々な知識、それを学ぶためにフロイオニアの学園を選択したというのも嘘ではない。

だが、フォレサージの学園に未練が無い訳ではないのだ。


来たくて来たわけじゃないのに。

私だって本当は・・・。


いくら自分を納得させようとしても、その考えがなくなる事は無かった。


――――――――――


「あやつら・・・」


サマク達の暴言にフランが憤った。

誰とでもすぐ仲良くなるフランは、仲良くなった者達をとても大事にする。

昨日出会ったばかりのファラスアルムですらフランの中では既に大事な友人である。

だからこそ、その友人が嘲笑された事に心底怒りを覚えたのだ。


「フラン落ち着いて」

「落ち着いてなどっ!

 え~い放すのじゃレキ!」

「ダメだって。

 まだ試験中なんだから」


そんなフランをレキが押さえた。

レキとてサマク達の暴言に思うところが無いわけではない。


だが、今は試験中である。


レキはフランの護衛とお目付け役を任されている。

リーニャ達によろしくお願いされた以上、レキはその役目を全うしなければならないのだ。


「そうですよフラン様。

 今はまだ試験中です。

 何かあればファラさんにまでご迷惑がかかってします」

「にゃ!

 ・・・むぅ」


それでも止まらないフランを、最終的に止めたのはルミニアだった。

基本的には温かく見守りつつ何かあればフォローをするという立ち位置のルミニアだが、時には暴走する前に止める事もある。

誰かが迷惑を被るような状況では特にだ。


「大体彼らの言い分などまともに聞く必要などありませんよ?

 どうせ彼らは受かりませんから」

「なんだとっ!」

「彼らに会うのは今日で最後です。

 二度と会う事のない方々の言葉など、覚えておく必要もありません」


フランを諭すように語るルミニアの言葉。

明らかに棘のある台詞にサマクが反応したが、そんなサマクをルミニアは一瞥すらしなかった。


「おいっ!」

「座学の試験では自信がなさそうでしたし、武術の試験は見ての通り。

 これでは受かりようがありません」

「なっ!」

「サマク様だけならあるいは合格するかもしれませんが、他の方々は難しいでしょうね。

 何せ試験を早々に諦めるような方々ですから、学園としても遠慮して欲しいのではありませんか?」


それでもサマクにも聞こえるように、というか顔こそ向けていないが明らかにサマク達に言い聞かせるようなルミニアの言葉。

内容の辛辣さも相まって激昂するサマクだが、お構いなしにルミニアの言葉は続いた。


「最後まで諦めなかったファラさんはご立派です。

 武人とは最後まで諦めない者なのですから」

「わ、私は貴族だ。

 武人ではない」

「武術の試験に貴族も平民も、ましてや種族の違いなど関係ありません。

 この学園とて、そういった垣根を取り払い皆が平等に学ぶ為の場所なのですから」


ファラをフォローするようで、明らかにサマク達を糾弾するルミニアの物言い。

内容が正しいだけにサマクも反論が出来なかった。


「・・・ルミニアさん、怒ってる?」

「うん」


普段はおしとやかなルミニアがこうも攻撃的な理由。

それはもちろんファラスアルムに対するサマク達の暴言に怒りを覚えたからである。


フランほどではないが、ルミニアもファラスアルムの事は友達だと思っている。

性格が昔の自分に似ている点、本好きで学問に精通している点、更には新たな知識を求めてフロイオニア王国の学園へ来たという点も。

理由はともかく、昔のルミニアだったら間違いなく出来なかったであろう一人で他国の学園に来たという行動力。

ある種の敬意すらルミニアは抱いているのだ。


そんなファラスアルムが一方的に責められ、ルミニアが怒らないはずがない。


「大体家を継ぐ事が出来ないからこそこの学園で新たな生き方を見つけようとしているのに、諦めた理由に貴族の身分を利用するなど・・・」

「ぐっ・・・」

「貴族が時に撤退を選択するのは生き残って民達を導かねばならないからです。

 貴族は民のために存在し、民によって生かされているのですから」


ルミニアは公爵家の娘としての矜持を持っている。

貴族としての間違った姿を提示され、同じフロイオニアの貴族として訂正せざるを得なかった。


「大体・・・」

「あ~、その辺にしておいてやれ」


サマク達からぐうの音も出なくなったところで、試験官のゴーズがルミニアを止めた。

忘れているようだが今は武術の試験中である。

口での言い合いは武術ではない。

仮に武術であったとしても、これ以上は敗者に鞭打つ行為である。

武人としても大人としても、ここらで止めなければと思うゴーズだった。


「仕方ありませんね・・・。

 そういう事ですから、ファラさんは何も気にする事はありませんよ。

 むしろ最後まで諦めずに戦った事を誇って下さい」

「は、はい・・・。

 その、ありがとうございます」

「いえ、お友達ですから」


そう言ってルミニアがほほ笑む。

ファラスアルムもまた、ぎこちないながらも笑顔を返した。


「では次っ!」

「はい」


ようやく試験は進み、次はルミニアの番である。


「受験番号189番。

 ルミニア=イオシスです。

 よろしくお願いいたします」

「うむっ!」


武舞台に上がり、ルミニアが丁寧なお辞儀する。

武器を持っている為淑女らしい礼こそしなかったが、それでも洗練された仕草はこの場にいる誰よりも貴族らしかった。


「ルミ~。

 わらわのカタキを取るのじゃぞ~」

「ルミニア~、いつもの調子~」

「頑張って、ルミニアさん!」

「・・・が、がんばって下さい!」


頻繁に鍛錬やら手合わせをしているだけあって、フランとレキの応援はいつもどおりの気易いもの。


ユミはルミニアの実力を知らない。

それでもルミニアは友達であるフランの友達、すなわちユミにとっても友達である。

先程のファラスアルムに対するサマクの暴言もあってか、応援にも熱が入っていた。


そして、自分の為にサマク達に言い返してくれたとあって、ファラスアルムの応援する声にも力が入っていた。


「準備は良いな?」

「はい」


レキやフランと共に磨いてきた槍術。

二年前、自分が病弱であったが故に見舞いに来たフランが野盗に襲われてしまった。

更には何も出来ない子供だったが故に人攫いに遭い、レキに迷惑をかけてしまった。

そんなレキが庇護すべきフィサスの領民であったすら、二年前のルミニアは知りもしなかった。


弱く無知だった自分。

そんな自分を変える為、ルミニアは今日まで頑張ってきた。

全てはフランとレキの為。

敬愛するフランと、恩人であるレキの役に立つ為に。


そうして身につけた強さ、それを今日披露する。

フランとレキ、更には新しく出来た友人であるユミとファラスアルムに。


「では、始めっ!」


ルミニアの試験が始まった。


――――――――――


「行きますっ、はあっ!」


気合とともにルミニアが前に出る。

一足飛びにゴーズへ突進し、同時に槍を突き出した。

間合いを詰めながらのその突きは、ゴーズの盾に防がれる事なく顔面へと届いた。


「おっと!」


今までの生徒との違いに油断もあったのだろう。

盾で防ぐのが遅れたのか、ゴーズが上体を反らして槍を躱した。


「すっ・・・はっ!」


一撃目は牽制。

相手との距離を詰めつつ、突き出した槍で間合いを図り、更には相手の上体を崩すのが目的。


盾で防がれても問題は無い。

その時は即座に槍を引き、下段を狙うつもりだった。


目論見どおり相手の上体を逸らす事に成功したルミニアが、すかさず追撃する。

槍をわずかに引きつつ、体は更に前へ。

完全に引いてしまえば相手が構える余裕を与える事になる。


これは試験。

ゴーズからは攻撃を仕掛けない。

ならばこそこちらは防御を一切考えず、ひたすら攻撃すれば良い。


間合いを詰め、槍を連続で繰り出し、相手が体勢を戻す暇を与えない。

何度目かの攻撃、ゴーズがルミニアの槍に慣れた頃を見計らい、ルミニアはその距離から更に前に出た。


先程より詰まった間合い、相手の盾でも防げない状態にまで踏み込んだルミニアは、突き出した槍を横なぎに振るった。


「ぐおっ!」


ルミニアの槍は、見事ゴーズの額に一撃を食らわせた。

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