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黄金の双剣士  作者: ひろよし
七章:再会と試験と新しい友達
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第141話:武術の試験~サマク達とフラン

「私が武術の試験の試験官を務めるゴーズだ。

 君達にはこれから私と模擬戦を行ってもらう。

 時間はあの砂が落ちきるまで。

 な~に、私に勝つ必要はない。

 もちろん勝てば合格間違いなしだがな」


武術の試験官であるゴーズと名乗った男は、武術場に設けられた武舞台の上でそうレキ達に説明した。

砂が落ちきるまでと言って示された先には、いわゆる砂時計が用意されている。

遠目からでも確認できる大きさの砂時計は、砂が落ちる速度を調節できるように出来ている。

模擬戦とはつまり、試験官であるゴーズと全力で戦うというもの。

まだ子供である受験生の体力を考え、大体十分くらいで落ちきるようになっている。


試験官のゴーズと試合をし、武術の実力を見せるというのが武術の試験だった。


「私からは攻めないので遠慮なく攻撃するように。

 では受験番号の小さいものから順にいこうか。

 武舞台に上る際には受験番号と名前を言うようにな」


純粋な技量を見る為なのだろう。

試験官のゴーズは今回防御に徹するらしい。

下手に攻撃してしまえば試験が終わってしまうかも知れないし、攻撃を恐れて委縮してしまう可能性もある。


ゴーズは武術の試験官と言うだけ合って見るからに強そうだ。

身の丈は2メートル近くあり、身につけた鎧も相まってまるで砦のような印象を受けた。

武舞台上から見下ろすその様は、何もしなくても威圧感を受ける程である。

そんなゴーズに怯え、縮こまって実力を出し切れない受験生だっているだろう。


「武器はあちらに並んでいる物から好きなのを選んでくれ。

 あと、一応この試験は武術の腕を見るものなので、身体強化は無しで頼む。

 うっかり使っても不合格にはならんが、一応は規則なのでな」


話しぶりを聞く限り、外見と違って性格は気さくなようだ。

受験生が子供というのもあってか、気のいいお兄さんという感じすら受ける。


それでもその見た目は屈強で、サマク達などは武術場に入った時から勝手に威圧を受けていたらしい。

武術場へ着くまでの威勢など綺麗に吹き飛んでいた彼等だったが、試験官であるゴーズの話を聞いている内に持ち直したようだ。

ゴーズの「私からは攻めない」という言葉に安心したというのもあるのだろう。

我先にと自分の得意な武器を選び始めた。


なお、レキ達の中で威圧を感じた者はファラスアルムだけだった。


レキは言うまでもなく、フランも王宮でガレムを始めとした騎士達と毎日のように鍛錬しており、今更ゴーズ程度の男に怯むはずが無い。


ルミニアも王都に来た際はレキ達と一緒に王宮の騎士と、フィサス領へ戻ればフィサスの騎士や父親であるニアデルと鍛錬をしてきた。

武人であるニアデルは、鍛錬の時は実に厳しくルミニアに接していた。

武術に対して真撃であると同時に、父親だからこそルミニアの為に心を鬼にしたに違いない。


そしてユミ。

ただの村人であるユミは、縁あってエラスの領主の屋敷に侍女見習いとして住まわせてもらっていた。

その際、時間を見ては領主やその妻、更には屋敷の使用人などから武術や魔術を教わっていたのだ。

現役の冒険者でもあるらしい領主の外見は、厳つさだけならゴーズ以上である。

内面は内面でゴーズ以上に気さくな(あるいは粗野な)男なのだが、一流の冒険者にふさわしい威圧感も兼ね備えている。

そんな男に鍛錬を受けてきたユミが、気後れするはずもない。


ただ一人、ファラスアルムだけは今も怯え、涙目である。


「準備は良いか?

 では試験を始めよう。

 最初は誰だ?」


全員が武器を選び終え、武術の試験が始まった。


「受験番号181番、ダーガ子爵が次子サマク=ダーガだ」

「うむ、だが家の名はいらんぞ」


一番手はサマク=ダーガ。

不要な名乗りをする辺り、貴族としての驕りが見えた。

あるいは自分は貴族の息子なのだと言い聞かせたかったのかも知れない。


これから行われる試験に身分や爵位は関係ない。

あるのは純粋な武術の腕だけだ。


「さあこいっ」


立ち会いを務める試験官が砂時計を回転させたのを確認し、ゴーズが武舞台上で構えた。

一応盾を全面に出してはいるものの、明らかに隙だらけな構えは、確かにどこからでも切り込めそうだった。


「行くぞっ、はぁ!」


サマクが細剣を真っ直ぐ突き出す。

ロクに構えもせずただ突き出したその剣は、ゴーズの盾にあっさり防がれる。


「くっ」

「どうした、始まったばかりだぞ」

「わ、分かっているっ!

 はぁっ!」


防がれた事が意外だったのか、サマクが距離を取った。

ゴーズの挑発にすらなっていない言葉を受け、体勢や呼吸すら整える事無く再び細剣を突き出すサマク。

勢いはあるかもしれないが、サマクの剣は素人以前にただの子供のそれだった。


ここへ来る間の、あの自信満々な台詞は一体なんだったのだろう?

少なくともレキの目には腕に覚えがあるようには見えなかった。


「流石サマク様です!」

「試験官も防ぐので精一杯ですよ」

「おおっ、今のは惜しい!」

「そこです、サマク様!」


サマクの取り巻きには違う様に見えているらしく、サマクの剣を本気で称賛していた。

今もサマクが突き出した剣に対し、あと少しで鎧に届いたはずだと本気で思っているようだ。

見るものが見れば明らかにゴーズが誘導したのだと分かるのに・・・。

最初にゴーズが自分からは攻めないと言った事すら忘れ、サマクがゴーズを圧倒しているのだと本気で思っているのかも知れない。


「ねぇルミ・・・」

「レキ様、サマク様もその他の方々もまだ十歳の子供なのです。

 ですからあれが普通ですよ?」

「えっ、でもさっき・・・」

「十歳ですから」


武術場へ着くまでの会話と実際のサマクの実力の違いに戸惑い、ついルミニアに聞いてしまうレキである。

強く無いのに尊大な口をきく者など、少なくとも王宮の騎士達にはいなかった。

あえて言うならフランの兄アランくらいだろう。

でもアレは単に強がっていただけな気もする。


レキは自分の実力をある程度把握している。

王宮でも散々言われた事であり、同年代のフランやルミニア、更には年上のアランとの手合わせで嫌でも自覚したのだ。

今更サマクと自分を比較しようとは思わないが、それでもサマクの実力は酷く見えた。


同年代の子供の実力と言われ、レキが知っているのはフランとルミニア、そしてアランくらいである。

サマクの実力は、その三人と比べて明らかに劣っている。

二年前、レキが出会った頃のフランやルミニアと同じくらいだろうか。


ルミニア曰くそれが普通らしい。


その割には、武術場へ向かう際ルミニアは彼らを擁護していたような・・・。


あれが普通、あれで普通・・・。

武術の試験前に、自分と世間のズレの大きさに改めて気付くレキだった。


――――――――――


「そこまでっ!」

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」


レキの戸惑いをよそに試験は進み、気が付けばサマクの取り巻きの、最後の一人の模擬戦が終わっていた。


取り巻き達の実力もまた、サマクに輪をかけて酷かった。

見た目で選んだのだろう、剣を持つ者も槍を持つ者も、とても武術を習っていたとは思えない動きだった。

槍を剣のように振り下ろす様は、アレならただの棒を持った方がまだマシじゃないかな?とレキに疑問を抱かせるほどだ。


体力も無いらしく、砂が落ちきるまで動き続けられたのもサマク一人だけ。

後の者達はその半分ほどで疲れてしまい、最後の方などフラフラでまともに武器を振るう事すら出来ないでいた。


にも関わらず、試験を終えた者達はどうだと言わんばかりに得意げである。

サマクなどは武舞台から降りる際明らかにレキ達の方を見て、フフンと鼻を鳴らしたほどだ。


癖なのかな?などと思うレキである。


「では次っ!」

「うむ、わらわじゃな!」


ようやくフランの出番が来た。


「受験番号186番、フラン=イオニアじゃ!」

「うむ」


両手に短剣を持ち、フランが胸を張って名乗りを上げる。

その様子は自信に満ち溢れ、緊張など微塵も感じさせない、いつものフランである。


これまで同様、ゴーズが武舞台上で構える。


対するフランもまた、ゴーズに対し構えをとる。

左手を軽く前に、右手は少しばかり後方に。

一見すればただ普通に立っているだけの、ごく自然体な構え。

王宮での手合わせで身につけた、フラン独自の構えだ。


「なんだ、構えも知らないのか」

「女ですから、武術などやったことないのでしょう」

「両手に武器を持てば良いと言うものでもないでしょうし」

「あんなの盾に当てるだけで精一杯だろう」

「はぁ、はぁ、どうせすぐ、疲れて終わりでしょ、はぁ・・・」


見た目と武器、更にはその構えを見たサマクとその取り巻き達が、フランを嘲笑する。

試合が終わったばかりでまだ呼吸が整っていない者すら、自分を棚に上げてフランを小馬鹿にした。


全身を金属の鎧で包み、更には剣と盾を持つゴーズに対し、二本の短剣で立ち向かうのは確かに無謀に見えるのかも知れない。

フランの構えもまた独自のもので、知らない者からすれば構えていないように見えるのだろう。

サマク達の言い分も分からない訳ではない。


「う~ん、フラン大丈夫かな?」

「大丈夫だよ。

 だってガレムのおじさんの方がもっと大きいし」

「ふふっ、それにフラン様は私のお父様からも一本取った事がありますしね」


サマク達同様フランの実力を知らないユミが、心配そうに試合を見守る。


二年前に村で知り合った時、フランはユミと村を駆け回るだけの子供だった。

その頃から剣を習ってはいたが、当時八歳のフランの剣など素人同然のものだった。

村にゴブリンが攻めてきた時も、フランはユミと共に後ろで控えているだけで、戦ったのはレキだけ。

魔術を使えるのは知っているが、武術に関しては何も知らないのだ。


レキやルミニアは大丈夫だと言うが、レキの言うガレムのおじさんもルミニアの父親も知らないユミとしては安心出来るはずもない。

ガレムが王国最強の騎士だとか、ルミニアの父親が槍のイオシスの異名を持つ武人だとしても、知らなければ意味が無いのだ。


「フ、フラン様~

 がんばって下さい~」


サマク達の試験を見て緊張を加速させていたファラスアルムが、それでも声を上げてフランを応援する。

自分の事で精一杯だろうに、それでもフランを気遣うファラスアルムに、フランだけでなくレキ達も嬉しくなった。


「フラン頑張れ~」

「がんばって下さいフラン様~」

「頑張ってフランっ!」

「うむっ!」


皆の声援を受け、フランもいつも以上にやる気を漲らせる。

そして・・・。


「良し、始めっ!」


砂時計がひっくり返り、フランの試験が始まった。


「ゆくぞっ!」


合図とともに、フランがゴーズへと突っ込んでいく。

レキほどの速度は出せないまでも、この二年間真面目に鍛錬した成果は十分出ていた。


その速度のまま、フランが僅かに身をかがめてゴーズの懐へと飛び込む。

ただでさえ小柄なフランである。

扱う武器が短剣である以上、相手の懐へ入らなければ武器が届かない。

一見無謀とも思える戦い方ではあるが、怖れ知らずなフランの性格と小柄な体格に合った戦い方である。


「にゃあっ!」

「ぬおっ!」


ゴーズの構えた盾をすり抜け、懐へと入ったフランが短剣を突き出す。

至近距離から繰り出されるフランの短剣、それをゴーズが身を捩って避けた。


「まだじゃ!」

「なっ!」


突き出した勢いで軽く前方へと飛び上がったフランが、そのままゴーズの背後に移動し、息をつく間もなく攻め立てる。

背後からの一撃、着地と同時に飛び込んできたフランの攻撃を、体を回転するようにしてゴーズが躱した。


「むぅ、まだまだっ!」

「おぉっ!」


当たらなかった事が不満だったのだろう。

頬を膨らませながらフランが更に攻め続ける。

体型と武器、何よりその速度を活かした怒涛の攻めに、驚きながらもゴーズが防ぎかわしていく。


フランの武術の試験は始まったばかりだ。

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