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黄金の双剣士  作者: ひろよし
七章:再会と試験と新しい友達
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第138話:他国の学園について

明けて翌日。

試験当日である。


「目指すは一番じゃ!」

「お~!」


宿を出た四人は真っ直ぐ学園へとやってきた。

付き添いであるリーニャとミリスの前で、フランが高らかに声を上げた。


一応フランも今日まで剣に魔術に座学にと一生懸命頑張ってきた。

それもこれも学園に入る為、もっと言えばレキやルミニアと同じクラスに入る為だ。


剣術でも魔術でもレキには勝てず、それでも落ち込まず諦めず今日まで一生懸命頑張ってきたフランである。

たまに城下街へ遊びに行ったり、フィサス領や魔の森へ行ったりもしたが、それ以外ではフランなりに真面目に頑張ってきたつもりだ。

それもこれも今日の為。

目指すは最上位クラスに入る事。

出来ればレキとルミニアとで一位~三位を独占したいとも思っている。


そんなフランの宣言に、レキが両腕を上げて応じた。


レキは別に学園に入りたかったわけではないが、フランやルミニアが行くなら自分も行きたいとは思っている。

当然、同じクラスになりたいとも。

故に、今日の試験も全力で挑むつもりでいる。


二年前、王宮に来た時点ですら王国最強の騎士ガレムを圧倒したレキである。

正式な剣術をミリスに習い、魔術の知識をフィルニイリスに叩き込まれた結果、もはやこの世界でレキに勝てる者などいないだろうと言うのが騎士団、魔術士団の総評である。


なお、学力の方は残念ながらそこまで高くない。

出だしが遅かったというのもあるのだろう、フランやルミニアより数段劣っているというのがリーニャ達の忌憚なき評価である。

座学は向いていないのだろう。

レキ本人も机に座っているより剣を振っている方が楽しいと思っている。


そんなレキが全力で挑むとあっては、試験会場の方が心配かも知れない。


「頑張りましょうね」

「は、はいっ!」


そんな二人の後ろを、落ち着いた様子でルミニアがついて歩く。


レキやフラン以上に真面目なルミニアは、今日の試験の為に一生懸命頑張ってきた。

座学はこの三人の中で一番優秀、レキやフランに教える事すらある。

武術の面ではレキや父親に稽古を付けてもらい、魔術に関してもレキを手本に今日まで頑張ってきた。


試験に落ちたり、あるいは受かっても二人と別のクラスになる可能性もあるが、今のルミニアはその程度の事で不安になどならない。

この二年で気弱な面はすっかり改善されたのだ。

不安をしっかりと飲み込み、ルミニアも全力で試験に挑む。


そんなルミニアと、あるいはレキとフランも含めた三人と対象的に、自信無さげなのが昨日知り合ったばかりの森人の少女ファラスアルムである。

聞けば、武術はからっきしで、武器などろくに扱った事がないらしい。


魔術に関しても自信が無く、ファラスアルム曰く自分は森人の落ちこぼれなのだそうだ。

使えない訳ではなく、ただ同い年の森人の子供達に比べて明らかに劣っているらしい。


唯一得意なのが座学であり、幼い頃から本が好きで、知識だけならそこそこ自信があるとの事。

絶対と言わないのがファラスアルムらしさなのだろう。


なお、ファラスアルムの故郷である森人の国フォレサージにも学園がある。

彼女がフォレサージの学園を希望せず、純人族の国フロイオニア王国の学園を希望したのには理由がある。

それは他の森人の子供達より魔術が劣っている為、皆と同じ学園に行けば見下され虐められるかもしれないという後ろ向きな理由と、他種族の学園に行けばまだ見ぬ様々なものを知る事ができるかも知れないという前向きな理由からだった。


そんな気弱な彼女も昨日からずっとレキ達と一緒にいる為か、自信は無くとも精神的には大分落ち着いている。

一人ならきっと、緊張のあまりろくに眠れなかっただろう。

昨日は日が暮れるまでレキ達と街を歩き回り、宿に着いてからもフランやルミニアと女の子だけで盛り上がり、いつの間にか眠ってしまっていた。

若干意気込みが強くはあるが、体調や精神面で大きな問題は無いようだ。


「それでは行ってらっしゃいませ」

「うむ!」

「全力で頑張ってこい」

「はい、ありがとうございます」

「オレは?」

「レキはまぁ・・・適当にな」

「え~」

「レキ君、学園は壊しちゃだめですよ?」

「え~」


見送りの二人からの激励(?)を受け、意気揚々と試験に臨む四人。

ファラスアルム以外の三人は心身共にバッチリだ。

睡眠は十分(フランはやや寝坊)、ご飯もしっかり食べ(レキは食べ過ぎ)、体調は万全、意気込みも十分。

向かうところ敵無しな三人である。


「うぅ・・・緊張します」


気弱な面が見られるものの、友達と一緒だからだろう。

ファラスアルムもやる気だけはあるようだ。


――――――――――


入学試験は座学、武術、魔術の三つ。


座学はこの世界や大陸の基本的な知識と簡単な算術など。

武術は得意な武器を用いての、試験官である学園の教師との模擬戦。

魔術は魔木(魔素を多く含む為、魔術に対する抵抗が強い木)で出来た的に向かって魔術を放ち、その威力や精度などを評価する。


最初に行われるのは座学、すなわち筆記試験である。

試験の順番にも一応意味があり、武術の試験を先に行ってしまえば体力を、魔術の試験を行えば魔力と精神力をそれぞれ消耗してしまい、座学の試験中に寝てしまう怖れがあるからだそうだ。

加えて、貴族なら十分な教育を受けた上で試験に望むだろうが、平民ならそういった教育など受けていない者がほとんどで、最初に座学の試験を行い、後で挽回のチャンスを与えようと言う側面もある。


貴族の子供達は先に行われる座学の試験に、平民の子供達は後に行われる武術の試験に全力を出すのが例年の傾向である。


なお、魔術に関してはそもそもこの歳で魔術が使える子供自体それほど多くはおらず、成人しても魔術を使用できない者も少なくない為、こちらは試験というより確認という意味合いの方が強い。

もちろん使えるなら試験は有利となるだろう。


座学の試験を受けるべく、レキ達はファラスアルムも加えた四人で学園の入り口にある受付へと向かった。

受付には既に多くの子供達が並んでいた。

それなりに早く宿を出たつもりのレキ達だったが、フランの寝坊とレキの食事に時間が取られてしまったようだ。

もっとも、生徒の定員は100名でも受験自体の定員は定められていない為、順番など何番目でも構わないのだが。


「レキのおかわりが無ければのう・・・」

「えっ、オレのせい?」


それでもなんとなく順番にこだわってしまうのがフランである。

自分の寝坊を棚に上げつつそんな事を言うフランに、流石のレキも少々不満気。

とはいえ流石に冗談で言っている事が分かったのか、並んでいる子供達の様子をレキが背伸びして伺った。


「他の種族の子も結構いるんだね」

「フロイオニアの学園は他種族も歓迎していますから」

「他種族は他種族の学園に通った方が本来は良いのですけど・・・」

「なんで?」


レキの感想にルミニアが説明を返し、ファラスアルムが他国の事情を説明し始めた。


「フォレサージ森国にある学園では森人向けに魔術を中心とした授業が行われます。

 マウントクラフ山国でしたら鍛冶や細工、プレーター獣国なら武術や狩りを中心に、それぞれの種族に合った授業が行われるのです」

「なるほどのう・・・」


ファラスアルムの説明に、並んでいる列を不満気に見ていたフランが感心した。

知識にはそこそこ自信があると言うだけに、ファラスアルムの説明はレキ達にも分かり易かった。


「流石ファラさんです」

「いえ、そんな・・・」


ルミニアに手放しで称賛され、ファラスアルムが照れながら恐縮した。


ルミニアも自身の持つ知識にはそれなりに自信があるが、ファラスアルムの知識はある意味でルミニア以上だった。

他種族の事情やこの大陸に伝わる伝承などの類は、ルミニアでも知らない事が多い。

その分、貴族社会や社交界の行儀・作法と言った分野ではルミニアの方が精通しており、お互いの得手不得手を補い合える良き友人となれるに違いない。


「俺、プレーターでも良かったかも」

「プレーター獣国の学園では魔術は教わりませんよ?」

「そうなの?」


魔術より剣が好きで、ついでに勉強より体を動かす方が好きなレキとしては、狩りと武術を中心としたプレーター獣国の学園に興味があるらしい。

魔の森にいた頃は狩りでほぼ一日を費やしていた事もあり、プレーター獣国ならその頃に戻った気になれるに違いない。


なお、プレーター獣国の学園で魔術を教わらないのは、獣人族は種族的に魔術が不得手だからである。

身体強化だけなら他種族より得意な者が多いが、その他の魔術に関してはほとんどの者が発動すらできないのだ。

これは魔力の有無や才能といった話ではなく、種族的な特徴に起因するところが大きい。

その分、素の身体能力は他の種族より総じて高く、そこに身体強化が加わることで武術や狩りといった分野では他種族の追随を許さないのである。


あるいは魔術を放つより剣で斬った方が早いという、どこぞの騎士団のような風潮があるからかも知れない。


そういった理由から、プレーター獣国にある学園では基本的に魔術はあまり教えないのだ。


「フォレサージ森国の学園は森人向けの学園ですので武術はあまり学びませんし、マウントクラフ山国の学園でしたら山人ばかりですので一般的な知識より鍛冶や細工の技術を学びます。

 森人は魔術と知識を重んじていますし、山人は鍛冶に必要な技術とそれを振るうだけの力、あと鍛冶に有効な魔術以外は不要だと考えているからです」

「ふぇ~・・・」

「なるほどのう」


獣人だけでなく他種族の学園の事情も教わり、レキとフランはますます感心した。

結局、武術と魔術、そして座学をまんべんなく学べるのはここフロイオニアの学園のみのようだ。


「純人族の他の国は?」

「おおっ、そう言えばそうじゃ」

「ああ、それでしたら・・・」


他種族の学園の事情を聞いたレキが、ふと純人族の他国を思い出した。

森人、山人、獣人はそれぞれ一つの国に纏まっているが、純人族は他の種族より人口が多いせいか三つの国に分かれている。

レキ達の住むフロイオニア王国もその一つである。

純人族の国として、他にマチアンブリ商国とライカウン教国の二国がある。


「マチアンブリ商国の学園は座学を中心としています。

 それも商業に特化した学問です」

「ライカウン教国も座学ですね。

 こちらは神話や伝承、精霊学といった少々特殊な分野の学問になりますが・・・」

「へ~・・・」


マチアンブリ商国は純人族の国であり、いわゆる商業国家である。

フロイオニア王国と獣人の国プレーター獣国、山人の国マウントクラフ山国の三ヶ国に面しているこの国は、元々はただの宿場町であった。

フロイオニアの商人がプレーター獣国やマウントクラフ山国を渡り歩く際に利用されたこの街は、他国との交易が活発になるに連れ次第に発展していき、最終的に国と成ったのである。

国王はおらず、複数の有力者による合議制の政治体制を敷いている。

その有力者とはすなわち商人であり、いわば商人の商人による商人の為の国である。


ライカウン教国も純人族の国であり、いわゆる宗教国家である。

フロイオニア王国とフォレサージ森国の間にあるこの国は、元々は何もないただの村であった。

フォレサージに伝わる創世神話や精霊信仰などを深く研究する為、フロイオニア王国の学者がその村へと移り住み、街へと発展していった。

更には創世神や精霊などへの信仰が強まった学者達が、それらを教え広める為に組織化し、最終的に教国と成ったのだ。


フロイオニア王国・マチアンブリ商国・ライカウン教国。

この三国が純人族の国である。


なお、他国、他種族との交易に積極的なのはフロイオニア王国とマチアンブリ商国の二国である。

フロイオニア王国はその成り立ちから純人族国家の中心的な役割を持っており、マチアンブリ商国は商人の国だけあって他国他種族関係なく交易を重視している。


ライカウン教国は宗教面が強く、魔術が不得手な獣人や信仰よりも鍛冶の山人、更には信仰より金なマチアンブリ商国とは相性が悪いようだ。

対立や争いがあるわけではないが、ライカウン教国は現在フォレサージ森国とフロイオニア王国の二国との交易を重視しているのである。


そう言ったお国柄から、同じ純人族の学園でもマチアンブリ商国は商業を中心とした座学、ライカウン教国は神話や精霊についての座学をそれぞれ重点的に教わるのだ。


「う~ん、やっぱここでいいや」

「うむ、わらわもじゃ」

「ふふっ、そうですね」

「はい」


座学が苦手なレキである。

どこの学園だろうと座学は学ぶが、他の二国の学園は剣術や魔術より座学の割合が多く、レキに合っているとは言えないだろう。

何より、皆で一緒に通えるのはここ、フロイオニア学園しかないのだから。

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