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黄金の双剣士  作者: ひろよし
六章:レキと新しい年
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第122話:落ち込むフラン

「のうレキ・・・」

「ん?

 何?」

「わらわはその・・・レキに頼りすぎておるのか?」

「へっ?」


お墓参りに行ける事になり、更にはフランの同行の許可も下りた。

ご機嫌なレキに対し、フランの表情は暗かった。


「兄上に言われたのじゃ。

 わらわの失敗がレキの失敗になったと。

 わらわはレキがいれば大丈夫じゃと思ったのに、わらわのせいでレキが失敗してしまったと。

 わらわはレキに頼りすぎなのかのう?」

「・・・ん~」


フランの落ち込む理由を聞いたレキは、腕を組みながら一生懸命考える。


確かにフランが自由市場へ一人でふらふらと入っていったのは問題だったが、護衛と言う立場で考えれば入る前に止めなかったレキも悪い。

サリアミルニスに教えてもらった魔力探知のおかげで合流する事ができたが、それですらもっと早く教わっておけばと思ったくらいだ。

ルミニアを置いていった事だって、フランを探しに行く時に手を繋ぎ引っ張って行けば良かったのだ。

フランは自分のせいだと言うが、レキも自分がもっとちゃんとしていればと考えていた。


それに、レキはフランに頼られるのが嫌ではない。


フランは素直で無邪気で、何より友達だ。

勉強こそフランの方が進んでいるが、剣や魔術であればレキの方が数段上。

フランは、そんなレキに必死についていこうと頑張っている。

時にはレキに「どうすれば良いのじゃ?」と素直に聞いてくる。

そんなフランが、まるで妹のように思えるのだ。


ほんの数ヶ月前までは、誰にも頼る事無く、それどころか頼る人がいない状況でずっと暮らしてきたレキである。

常に誰かが側にいて、一緒に食事をしたり勉強や鍛錬をする今の生活が、レキはとても気に入っている。

そんな生活を与えてくれたのは国王だが、そもそものきっかけはフランがレキを王都へ誘ってくれたからだ。

レキにとって、フランにあれこれ世話を焼くのはその恩返しでもあった。


だからこそ、フランの不安に「そうだよ」などと言えるはずも無かった。


腕を組み、一生懸命頭を働かせながら言葉を探す。

先程までいろいろ話していたリーニャやフィルニイリス、更にはアランまでもがレキとフランを黙って見守る中、ようやくレキが口を開いた。


「んっと、オレはフランの護衛だから、フランが頼るのは良いと思うし、フランが頼ってくれるのは嬉しいよ?」

「で、でも・・・」

「オレが失敗しちゃったのは本当だし、ルミニアが怪我しちゃったのはダメだったけど、悪いのはあの犯人だし」

「だって、わらわが勝手に行ったから・・・」

「それこそオレがすぐ追いかけなかったのが悪いんだし」

「う~・・・」

「ん~・・・」


頑張って言葉を選ぶレキだが、やはりリーニャやフィルニイリスのように上手く話せなかった。

泣きそうな女の子を慰めた経験などレキには無いのだ。

自由市場の時だって、フランが泣き止むまで側にいただけだった。


上手く言葉が出てこない。

助けを求めようと周りを見ても、誰もがただ黙って二人を見守っている。

中には「頑張れ」などと無言で、ルミニアなど両手を握って応援してくる始末である。


そんな周りの様子に、さてどうしようと再び悩む。


今回の騒動は自分のお墓参りが原因である。

光の祝祭日を家族で過ごせないレキの、言ってみれば単なる我儘。

それを叶えてくれようとしている周りの人達には感謝の気持ちしか無い。

お墓参りの途中にフィサス領を含む幾つかの街へ立ち寄る事も、レキは楽しみだったりする。

フランが一緒ならなおさら楽しいだろう。

レキにとっても、フランは一緒にいるのが当たり前の存在になっている。


だからこそ、フランが王都に残るという話はレキにとっても予想外で、リーニャが口を挟まなければレキの方から言っていただろう。

ただ、レキはリーニャほど口が立たない為、多分「嫌だ」とか「一緒に行こう!」くらいとしか言えなかったに違いない。


レキはフランと一緒に居たいと思っているし、それが当たり前だと思っている。


「フランはオレと一緒に行くのは嫌なの?」

「・・・にゃ?」

「オレはフランと一緒に行きたい。

 ルミの家だって一緒に行きたいし、お墓参りにも一緒に行きたい。

 フィサス領ってどこにあるか知らないけど、フランと一緒なら絶対楽しいし、ルミも一緒ならもっと楽しいよ?

 だからさ・・・一緒に行こ?」


そう言って、レキは笑顔で手を差し出した。

レキがフランの護衛をしているのも、勉強や鍛錬を一緒にしているのも、結局は一緒にいたいからだ。

一緒にいると楽しい。

ただそれだけの理由だが、レキにとってはそれが全てだった。

初めて魔の森で出会ってから今日まで、フランはずっと一緒にいる。

レキにとって、フランは家族同然の存在になっているのだ。


「・・・うむ」


レキの差し出す手と笑顔を交互に見比べ、フランは少し躊躇いながらもしっかりと頷き、そして手を取った。

レキの迷惑になるくらいならと、側にいる事すら止めようと考えていたフランだが、レキの言葉に考えを改めた。


フランだってレキと一緒にいたいのだ。

そもそもレキと一緒にいたいと最初に言い出したのはフランの方だ。

魔の森で、自分だけでなくリーニャやミリス、フィルニイリスの命をもレキは助けてくれた。

自分の知らない様々な事を教えてくれて、自分の知らない様々な事を見せてくれて、それが嬉しくて楽しくてワクワクして、もっと一緒にいたいと思ったのだ。


護衛でなくとも一緒にいられればそれで良かったのに、気が付けば何もかもレキ任せになっている自分がいた。

もちろんレキが頼りになるのは本当で、レキがいれば大丈夫だと思うのも本当だ。

だからと言って、何もかもレキに任せっきりで良いはずは無かったのだ。


アランの言った通りだった。


「レキがいれば大丈夫」だと、子供達だけで城下街に行こうとしたのはフランで、楽しみなあまり一人で自由市場に入ってしまったのもフランである。

そのせいでレキ達とはぐれ、ルミニアが攫われてしまい、少なからず怪我もさせてしまった。

怪我自体はレキの魔術によって即座に治ったが、ルミニアに怖い思いをさせてしまったのは事実である。

それら全てが自分のせいである事など、アランに言われるまでもなく分かってはいた。


だからこそ、これ以上レキの迷惑になるような真似はしたくなかったのだが・・・。


それ以上に、フランもレキと一緒にいたかった。


「へへっ」

「ふふっ」


手をつなぎ、互いを見つめ合って、若干照れたように笑うレキとフラン。

そんな二人を、周囲は暖かく見守っていた。


――――――――――


・・・この場にいる全ての者が、その光景を歓迎したわけではない。

若干一名、そんな二人を悔しそうに妬ましそうに見ている者がいた・・・。


言うまでもなくアランである。


自分を置いてフランがフィサス領へ、更にはこの大陸でもっとも危険な場所である魔の森へ行くという。

折角、光の祝祭日を中心としたこの長期休暇をフランと過ごす為学園から喜び勇んで帰ってきたというのに、学園の長期休暇が終わるより先にフランが王宮からいなくなってしまう。


これでは何の為に帰ってきたのか分からないではないか!

そう心で憤慨するアランである。


光の祝祭日とその前後の長期休暇は基本的に家族で過ごす為にある。

アラン以外の生徒達も、大半は実家で過ごすべく帰省している。

ただアランは、家族と言うより愛する妹のフランに会う為、フランと休暇を過ごす為に帰ってきたのだ。


だと言うのに・・・。


フランと過ごしたいという理由だけでフランを諭したわけではない。

そりゃ少しはフランがこのまま王宮に残れば良いなとは思ったが、それ以上にフランの身を案じての事だ。

いくらレキが信じられないほど強くとも、レキ一人で出来る事など限られている。

何故ならレキはまだ子供で、経験が圧倒的に足りていないからだ。

先日のようにフランがはぐれ、ルミニアが取り残された状況下で、レキが適切な行動を取れなかったのがその証明だろう。

もう少し経験を積んでいれば、先日のような失敗はしなかったかも知れない。


今回向かうのは、以前フランが襲撃に遭い、危うく命を落としかけた場所である。

もしまたフランが襲撃に遭い、そして命を落とすような事があったら・・・。


そんな不安がアランの脳裏に巡り、フランを行かせぬよう言葉を尽くした。


にも関わらず、フランはあっけなくフィサス領どころか魔の森へと行こうとしている。

しかもレキと一緒に。


今アランの目の前では、とても仲良さそうに手を繋いでいるフランとレキがいる。

周囲の人間はそんな二人を祝福し、ルミニアまでもが喜んでいる。


ルミニアは構わない。

ああみえて寂しがり屋なフランの親友になってくれて、感謝しているくらいだ。


だがレキは違う。


レキは男である。

それも「フランに頼られる男」だ。


確かにレキは頼りになるだろう。

今のアランはおろか、ガレムやニアデルですら敵わない程の強さを持っている。

性格も良く、周囲からぞんざいな扱いを受けているアランにすら好意的に接してくれる。

フラン以外にならどう思われても気にしないアランだが、レキの接し方が嬉しくないわけではない。

レキの強さには敬意を抱けるし、そんなレキが手合わせをしてくれる事に感謝もしている。


何より、レキはフランの恩人である。

その点は感謝してもしきれない。


だが、それとこれとは話が違う。


レキは強いが護衛としては経験不足で、今回向かう場所は危険極まりない魔の森。

そんな場所にフランが自分を置いて行ってしまう。

光の祝祭日が過ぎたばかりで、自分はまだ長期休暇が残っている。

学園に戻るまでの間はずっと一緒にいられると思っていたのだ。


もしまた襲撃にあったら・・・。

魔の森で魔物に襲われたら・・・。


数々の不吉な想像がアランの脳裏を駆け巡った結果、アランはある一つの決断をした。


「良し、ならばこの私も同行しよう!」


――――――――――


アランの決断は当然の如く却下された。


却下されたというより無視されたと言った方が正しい。

アランはまだ長期休暇の最中であり、その長期休暇も後十日ほどしか残っていない。

王都からフィサス領までは、行くだけで半月ほどかかる。

アランが同行出来るはずがなかった。


ならば途中まで、と未練がましくアランが食い下がるが、学園のある街とフィサス領は王都から見て別方向にある為それも叶わず。

「そんなに急ぐ事は無いだろう、せめてこの長期休暇が終わるまでは」と言うアランの懇願もまた、あまり長くフィサス領を不在にする訳にはいかないというルミニアの言葉にあえなく却下された。


全ての意見を却下され、更には「兄上は早く学園に帰るのじゃ!」と若干恨みのこもったフランの言葉に、アランがまたもや崩れ落ちた。


先程アランに言われた事が尾を引いているのだろう。

今まで以上にアランを邪険に扱うフランである。

アランの言った事が正しいのは分かっているが、それでも自分だけ留守番しろと言うアランにはいろいろと思うところがあった。

頭では分かっていてもそこはまだ子供のフランである。

自分を仲間外れにしようとしたアランに対し、つい言葉や態度に出てしまったのだろう。


無邪気ゆえに無慈悲なフランの言葉にアランが崩れ落ちるのはある意味お約束であり、今更誰も気には止めないのだが。


学園云々抜きに同行を拒否されるアラン。


「実力はレキ君の足元にも及ばず、護衛の経験も皆無、そんな方が同行してなんの役に立つのでしょう?」


とはリーニャの談である。

かなり辛辣なのは、やはりフランの様子が影響しているのかも知れない。


「フラン様のお役に立ちたいというのであれば、学園でしっかりと勉強するのが大事かと思います。

 剣ではレキ様に敵わず、魔術に至っては足元にも及びません。

 せめて知識だけでも身につけて、フラン様のお役に立てるよう頑張るべきではないでしょうか?」


同じくフランの様子や、それによってレキが困っていた事、更には過去の王宮でのアランの所業などで思うところがあったのだろう。

リーニャほどではないが、サリアミルニスもまたアランに対し棘のある言葉を投げつけた。

王宮の侍女達は皆、アランに対しいろいろと思うところがあるのだろうか。


フランに崩され、侍女二人に釘を刺されたアラン。

しぶしぶという感じではあったが、同行する事を諦めた。


「次はレキに勝ってみせる!」

「今度の長期休暇を楽しみにしているがいい」


などと言っていたが、次の長期休暇は一年後の光の祝祭日とその前後三十日である。

間違いなくアランは帰ってくるだろうが、たった一年でレキに勝てるようになるなら世話はない。

アラン以外の誰もが無理だろうと思う中、それでもレキだけは一年後を楽しみにした。


こうして、レキの墓参りがようやく決まった。

共に行くのはフランとイオシス親子、そしてリーニャやミリス、フィルニイリスと言ったお馴染みの面々に加え、レキ付きの侍女であるサリアミルニスも今回は同行する。

更には以前フランがフィサス領へ向かった際に同行した護衛部隊の面々と、ニアデルが連れてきたフィサスの騎士達約二十名。

合計で約四十名もの大所帯であった。


王族と公爵家が移動するにしては少々少ないのかも知れないが、多すぎれば野盗も警戒するだろうという考えもあった。


目指すはフィサス領、そして魔の森。

レキにとっては久しぶりの旅であり、そして初めての里帰りである。


以前、魔の森でフラン達に言ったお墓参り。

魔の森を出てからまだ一年も経っていないが、両親の墓に報告したい事は山ほどある。


自分が今どれだけ幸せなのか・・・。

レキは、大好きな両親に話したかったのだ。

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