第120話:お墓参りに行くために
「フィサス領へ、じゃと?」
「はい。
フラン様がレキ様を伴い、我がフィサス領へ訪問されるという事であれば、陛下も納得して頂けるかと」
「わらわ達が行くのは魔の森じゃぞ?」
「はい。
ですからフィサス領へとお越し頂いた後、魔の森へと向かわれれば良いかと」
「・・・おぉ!」
「幸い我がフィサス領から魔の森まではさほど離れておりません。
十日もあればレキ様のご両親のお墓参りも出来ると思います」
最初は良く分かっていなかったフランも、話を聞く内に理解できたらしく「流石ルミじゃ!」とルミニアに抱きつき喜びを表した。
要約すれば
「素直に魔の森へ行きますと言っても許可は出ないのだから、フィサス領へ行くと言って許可を取り、ついでに魔の森へ行けば良いのでは?」
という事だ。
フィサス領にも行くのだから嘘ではない。
ただ少し寄り道するだけ。
あるいはフィサス領への滞在時間が十日ほど延びるだけだ。
「おい、良いのか?」
「問題ない。
最悪姫を領主の館に置いて私とレキだけで行くという手もある」
「なるほど・・・お前は行くのか?」
「当然」
ルミニアに抱きつきながらはしゃいでいるフランをよそに、名目上の護衛であるミリスとフィルニイリスがこっそり相談を始めた。
何と言っても行き先はあの魔の森である。
いくらレキがいるとはいえ危険な事に代わりはなく、何より国王や宰相を騙す事になる。
真面目なミリスとしては悩みどころだった。
反面、フィルニイリスは特に問題視していなかった。
魔の森が危険であるという事はフィルニイリスも同感だが、今回の目的はレキの両親の墓参り。
なにも魔の森までフランを連れて行く必要は無い。
フィルニイリスも魔の森には用がある。
魔の森の小屋にはフィルニイリスが泣く泣く諦めた、大賢者が残した大量の書物が置いてあるのだ。
レキの墓参りに便乗し、あの書物をなんとしても持ち帰りたいのである。
「馬車では行けない。
だから私がレキに乗って行けば良い」
「いや、乗る必要は・・・」
「その方が安全確実、そして速い」
「まぁそうだが」
「何よりレキの乗り心地は最高」
「・・・乗りたいだけじゃないのか?」
王宮に来てからと言うもの、フィルニイリスは数えるほどしかレキに背負われていない。
背負う機会もなければ必要も無かったからだ。
背負われている間は速すぎると文句も言った事はあるが、慣れればむしろ快適だった。
そんなに良いものなのか?などとミリスがふとレキへと視線を向ければ、レキはレキでリーニャやサリアミルニスと何やら話をしていた。
「レキ様、魔の森へは私も同行いたします」
「へっ?」
「サリアはレキ君付きの侍女ですから、まぁ当然ではありますね」
「危ないよ?」
「レキ様がいれば問題はないかと」
「ふふっ、そうですね」
「ん~・・・」
行った事のないサリアミルニスでも、魔の森の危険性は十分把握している。
宮廷魔術士長フィルニイリスと、騎士団小隊長兼王族専属護衛、更には武術指南役でもある剣姫ミリスがそろって命を落としかけた場所なのだ。
サリアミルニス程度の実力が通じる場所ではなく、一人で行けば確実に命を落とすのだろう。
それでも魔の森に行くのは、それが専属侍女の務めだからだ。
確かに危険はある。
だが、どんな危険もレキがいれば問題は無い。
魔の森のオーガですら、レキにかかれば赤子の手を捻るようなものだ。
それに・・・。
「森に入ればウォルン達とも会えるでしょうしね」
「ん~、そっか」
魔の森にはレキの友達もいる。
シルバーウルフの親子に頼めば、あと数人は運んでくれるだろう。
今更サリアミルニス一人増えたところで何の支障もない。
そんなわけで、ひとまずレキ達のフィサス領行きが決定した。
なお、レキがフィサス領へ行く事に反対は無いが、フランが同行する事にはやはり問題があった。
ほんの数か月前、フィサス領からの帰りに野盗に襲撃されたばかりなのだ。
フィルニイリスの見解では野盗は相手が王族であると分かった上で襲撃してきた可能性が高く、つまり連中の狙いはフランかも知れなかった。
そんな場所に今一度フランが行くとなれば、誰だって難色を示すだろう。
だが、国王ロランや宰相アルマイスは最終的に許可を出した。
最初は渋っていたが、むしろその件があるからこそフランをフィサス領へ向かわせるべきだとフィルニイリスが進言したのだ。
例の野盗はまだ捕えられていない。
フィサス領領主ニアデル=イオシス公爵直々に野盗を捕縛すべく騎士達を伴い襲撃地点に向かったが、その時には野盗の影も形も見当たらなかった。
それでも連中が領内に潜伏している可能性は高く、フィサス領へと向かう貴族や商人達は警戒を余儀なくされ、結果フィサス領へと向かう者は減少傾向にあるらしい。
このままではフィサス領の交易が滞ってしまうと危惧する国王達に、今一度フランをフィサス領へと向かわせ、王都とフィサス領との行路が安全であるという事を知らしめれば良いと提案したのだ。
もちろん再び襲撃されれば無事では済まない恐れもある。
だが、前回と違いフランの傍にはレキがいる。
レキがいれば野盗だろうと100のゴブリンだろうと魔の森のオーガだろうと問題ない。
そう言われ、最初は難色を示した国王や宰相、更にはニアデル=イオシス公爵までもが納得した。
フランが襲撃される事無く辿り着ければそれで良し。
もし襲撃されたところで、今度はレキが返り討ちにする。
それでフィサス領内の野盗は一掃できるだろう。
そんな計画をフィルニイリスはこっそり立てていた。
今回のルミニアの提案は、その計画を実行する実に良い機会となったのだ。
「王とアルには私から報告しておく」
「私も同行しよう」
ルミニア達を見送るべく城門まで来ていたフラン達。
フィサス領行きが急遽決定した事により、一度城内へと引き返す事になった。
国王への報告は、以前提案したフィルニイリスと、フィサス領の領主であるニアデルが揃って国王へと伝える事となり、残りはルミニアを含めてひとまず城内にて待機する事になった。
「大丈夫かな?」
まさか自分のお墓参りがこのような事態になった事に、レキが若干戸惑っていた。
フィルニイリスの事は信頼しているが、それでも説得に失敗するんじゃないかと少々不安になったようだ。
「ダメでも行くのじゃ!」
不安がるレキにフランが力強く宣言する。
こちらはどうしても付いて行きたいようだ。
久しぶりの魔の森。
それもルミニアのいるフィサス領を経由して行くなど、フランに取っては楽しみ以外の何物でもない。
レキを伴っての旅行とあれば、諦めるなどもっての他だった。
「ダメならレキ君だけという話になりますね」
「にゃ!?」
「その場合、レキ様は私達と一緒にフィサス領に来るという事でしょうか?」
「ええ、おそらく」
「にゃにゃ!?」
と行っても今回の目的はあくまでレキのお墓参り。
つまり、最悪レキだけでも魔の森へ行ければ良しという事であり、その場合フランは当然お留守番となってしまう。
普通に考えれば、フィサス領ならまだしも魔の森は危険すぎる。
フロイオニア王女たるフランが行くなど、それこそもっての他だろう。
魔の森に行かない、つまりお墓参りに同行しないと言うのであれば、フランがフィサス領に行く理由が無い。
フィサス領への行路が安全である事を実証する為、レキを伴いフィサス領へ行く計画こそあるが、それは何も今でなくとも良いのだ。
フランの身を第一に考えれば、レキだけで行くのが正しい。
道案内に不安があると言うのであれば、今からフィサス領に帰るルミニア達に同行すれば良い。
そんな冷静な分析をするリーニャとルミニアに、フランが驚きと悲壮の交じった声を上げていた。
――――――――――
リーニャとルミニアからとても残酷な話を聞かされ、フランが狼狽していた。
魔の森はおろかフィサス領にすら行けず、一人王宮でお留守番させられるとあっては、落ち着けと言われても無理がある。
親友であるルミニアと別れ、更にはレキとも離れ離れになってしまうのだから。
レキとフランは魔の森で出会ってからというもの毎日一緒にいた。
最近では朝食や就寝時以外は常に一緒にいるほどだ。
そんなレキが自分を置いて、親友であるルミニアと共にフィサス領へ行ってしまう・・・。
しかもその後はあの魔の森へ行くというのだ。
自分を置いてレキだけが・・・。
「だ、ダメじゃダメじゃ!
わらわを置いて行くなどそんな・・・」
「ですがフラン様の身を第一に考えれば」
「レキがいればそんなの」
「果たして陛下がそれを良しとするでしょうか」
「黙って行けば」
「バレたら怒られますよ?」
「う~、でもっ!」
想像しただけで悲しくなってしまったフランが、涙目で抗議する。
レキはフランの護衛で、大好きな親友である。
そんなレキが自分を置いて、同じく大好きな親友であるルミニアと一緒にフィサス領へ行くなど、とてもではないが我慢できる話では無かった。
レキとルミニアが一緒にいるのが嫌だとかそういう話ではない。
レキとルミニアが一緒にいるのに、そこに自分がいないのが嫌なのだ。
フィサス領へ行く事より、魔の森へ墓参りに行く事より、仲間外れにされることをフランは嫌がった。
そんなフランを見ながら、レキはどうしようと悩んでいた。
「レキっ!」
「へっ?」
「レキはわらわを置いて行かぬよな?」
「え、えっと・・・」
「レキの墓参りはわらわも一緒じゃよな?」
「う、う~ん」
「レキぃ~・・・」
レキとて別にフランを置いて行きたいわけではない。
ただレキは、両親のお墓参りに行きたいだけなのだ。
光の祝祭日、それは家族と過ごす日。
両親を亡くしたレキにとって、その日はただ寂しいだけの日になるはずだった。
でも、フランやルミニアのお陰でとても楽しく過ごす事が出来た。
とても嬉しく、二人には感謝しても仕切れないレキだが、その嬉しい気持ちを報告する為にも両親に会いに行きたかった。
フランと一緒に行けるのならそれに越した事はない。
だが、もしかしたらフランは置いて行かないといけないのかも知れない。
リーニャ達の言うように、フランを置いて自分だけ行った方が良いのか。
それとも、フランを置いて行くくらいならお墓参りを諦めるべきか・・・。
フランを突き放せない優しさと、自分の望みを捨てきれない我儘さ、その二つの間でレキは揺れ動いた。
「お父様とフィルニイリス様を待ちましょう」
「う~ん」
「う~・・・」
ルミニアの言葉に、レキにしがみついていたフランが一端離れた。
だが、以前涙目になりながら頬を膨らませ、何かを訴えるかのようにレキをじっと見ている。
何か、と言うより明確に「置いてったらゆるさんのじゃ」という事だろう。




