第118話:宴の終わりとデイルガ親子
「どうしよっか?」
「どうする、とは?」
「んっと、アラン」
「放っておくのじゃ」
「う~ん・・・」
「下手に構うとずっと着いてきますよ?」
「ん~・・・」
項垂れているフロイオニア王国王子アラン=イオニアをチラチラと見ながら、子供達三人が何やら相談事をしていた。
相談内容は「フラン不足に陥ったらしいアランをどうしようか」
現状は二対一で放置である。
レキだけがなんか可哀想だと思っている状況だ。
「アラン様なら放置していてもそのうち戻りますよ?」
「でもなぁ~」
「何故レキは兄上を心配するのじゃ?」
フランはもちろんの事、ルミニアまでもアランは放置した方が良いと言う意見である。
だが、レキにはそのままにしておきたくない理由があった。
「光の祝祭日って、家族と一緒に過ごすんでしょ?
アランはフラン達と過ごしたくて戻ってきたんだから、一緒にいた方がいいかなって」
家族と、特にフランと過ごすために王宮へと戻ってきたというアラン。
きっと、凄く楽しみにしていたに違いない。
レキだって、両親が生きていたなら・・・。
そう思ってしまうからこそ、アランには自分の分まで家族とこの宴を楽しんで欲しいと考えてしまうのだ。
「さっきまで一緒だったぞ?」
「ええ、昨日もずっとご一緒でしたね」
「あ、そっか」
まあ、良く良く考えれはアランは鍛錬の時間以外は基本的にフランの近くにいる。
今日など鍛錬も無かった分それこそ宴が始まるまでずっと一緒に居たと言っても良い。
あまりに鬱陶しい為フランは邪険に扱っていたが、それでも一緒にいたことに代わりはなく、つまりレキが可哀想だと思う必要は無かったのだ。
という事で、レキもアランを放置する事に賛成票を投じ、全員一致でアランの放置が決定した。
「じゃああっちのやつ、あれ食べたい」
「わらわはあっちじゃ」
「順番にしましょう」
そうと決まれば早速、と言わんばかりにレキ達は広間を再び歩き回る。
広間にはまだまだたくさんの料理やお菓子が並べられており、三人は何から食べようかと宴を楽しく過ごした。
途中、フランやルミニアに声をかける子供達も現れたが、ガージュのような残念な子供はいなかった。
レキの存在を知る子供もいたが、先程のガージュの一件もあってかレキにちょっかいを出す子供もいない。
数人、レキの実力を疑い手合わせやら決闘やらの約束を交わした子供もいたが・・・少なくとも宴の場で仕掛けてくる者はいなかった。
後半には復活したアランがいつの間にかフランの近くにいたが、そんなアランに構う事無く、レキ達は光の祝祭日の宴を存分に楽しんだ。
――――――――――
光の祝祭日の宴も、いよいよ終わりを迎えようとしていた。
午前中から始まった宴は、楽団を招いてのダンスや歓談等を経て、日が沈むのを待って終了となる。
一年の内最も太陽が強く、そして長く照りつけるこの日は、当然ながら日が沈むのも遅く、時刻は間もなく夜を迎えようとしていた。
宴の始まりこそ退屈していたレキ達も、途中からは広間を思う存分駆け回りつつ、美味しい料理を目一杯食べたおかげで十二分満足したようだ。
今は、広間に備え付けられているソファーで、のんびりとお菓子片手に談笑しているところである。
「はぁ~、楽しかったね」
「うむ、やはり光の祝祭日は楽しいのう」
「来年はお母様もお連れしたいです」
レキにとって初めての光の祝祭日の宴。
友達であるフランやルミニアと共に過ごした一日は、レキにとって忘れられない楽しい日となった。
それはもちろんフランやルミニアも同じで、三人はとても幸せそうな顔をしている。
「なぁフランよ、折角だから一曲踊ってはみぬか?」
「踊りは苦手じゃ」
「王族たるもの、その内嫌でも踊らねばならぬ時が来るのだぞ?」
「その時はレキと踊るのじゃ」
「なっ」
アランは若干不満気だった。
フランと過ごすはずだった宴。
学園に入ってからというもの逢えなかったフランと楽しく過ごすはずだった。
だが、蓋を開ければフランはレキとルミニアと三人で楽しそうに宴を過ごし、アランは学園での優秀ぶりが伝わったのだろう、学友達に囲まれたり貴族の当主達に囲まれたりと、フランと宴を楽しむどころでは無かった。
これもまた王族の務めとは言え、まだ十歳のアランには少々辛かったのだ。
少しくらいフランとの思い出を、とダンスに誘っては見たものの、返ってきた答えは相変わらずなもの。
レキ達と違い、アランの光の祝祭日の宴は少々寂しいものに終わりそうだった。
なお、フランがダンスを苦手としているのは本当である。
体を動かすのは得意なのだが、リズム感といった物は養われていないらしい。
曲に合わせて踊り、更には相手にも合わせる必要がある為、自由奔放なフランとは相性が悪いのだ。
フランが宴の最中にもかかわらずアランにダメージを与えていたその時。
「っ!」
会場内から突如発せられた敵意に、レキが反応した。
「あれは・・・」
レキの視線の先。
そこには国王へ挨拶に来た際、レキに対して明確な敵意を向けた貴族と、フランにおざなりな対応をされた事に腹を立て、手をあげようとした貴族の子供がいた。
「えっと、誰だっけ?」
挨拶の際にもしっかりと名乗っていたが、あいにくレキは覚えていなかった。
ついでに言えば子供の方も。
向けられた敵意にこそ覚えはあったが、あまり強くなかった為すっかり忘れていたのだ。
これも宴が楽しすぎたせいだろう。
子供の方すら忘れるくらい、レキは宴を満喫したのだ。
「ん?
どうしたのじゃレキ?」
「ん~ん、なんでもない」
フランの問いかけに、レキは何でもないと首を振った。
実力的にどうとでもなる相手。
脅威になるはずもなく、余計な心配をかけない方がいいとレキは判断したのだ。
「今からどうしよっか?」
「わらわは今から父上と母上のところへ戻らねばならんのじゃ」
「私もですね、お父様と合流します」
「そっか、じゃあオレは・・・」
沈みゆく太陽に今年一年の平和と繁栄を家族揃って祈願する、というのが宴の締めとなっている。
その為、今までは自由に過ごしていた貴族の子供達も、終わりの際には家族の下へ向かうのだ。
レキには集うべき家族がいないのだが。
「レキはわらわと一緒じゃ」
これまた当然のようにフランがレキの手をとり、国王と王妃の下へと連れて行った。
「フ、フラン・・・」
実の兄であるアランを置いて・・・。
――――――――――
「ほう・・・」
フランがレキを伴って国王と王妃の下へ行き、その後ろをアランが慌てて追いかけて行く。
少し離れた場所には、デシジュ=デイルガ伯爵とその息子ガージュ=デイルガがいた。
「それで、姫はどうだった?」
「そ、それがその・・・」
宴の始まり。
国王を始めとした王族への挨拶の場で、デシジュ=デイルガは初めてレキを見た。
見た目はただの子供。
話に聞くような武力など、とても持っているようには見えなかった。
だが、見た目と実力が合わないなどこの世界では当たり前の様に多い。
確かめるべくあえて敵意を向けたデシジュだったが、レキはわずかに反応しただけであった。
貴族としてそれなりの武力を有しているデシジュ。
その自分が敵意を向けたと言うのにあの程度の反応しか示さないとは、噂は所詮噂であったか・・・。
一度はそう判断したデシジュだったが、念の為離れた場所から再度敵意を向けてみれば、今度は自分の予想を超える反応を示した事で、レキの評価を若干修正した。
挨拶の場でレキがあまり反応を見せなかったのは、デシジュの敵意がレキに向けられる前から漏れていた為であり、同時にデシジュの実力が大した事無いと思ったから。
剣を振るえば王国騎士にも匹敵する力をデシジュは持っているが、レキの実力はその王国騎士が足下にも及ばないほど。
今更デシジュ如きに敵意を向けられたところで、怯むどころかそよ風に触れられた程度にしか感じないのだ。
先程は、この楽しい日に場違いな敵意を向けられた為、つい反応してしまっただけなのである。
そんな事をデシジュはが知る由も無く。
王族の前で敵意を露わにした事も忘れ、先程の息子の醜態について叱責していた。
「ぼ、僕はちゃんと名乗ったのです。
父上に言われたとおり、姫の無事を精霊に感謝するとまで言ったのに」
「姫は聞いてくださらなかった、と?」
「そ、そうなのです。
無礼なのは姫の方です」
先の一幕、確かにガージュがわざわざ名乗ったにも関わらず、それを聞いていなかったフランにも落ち度はある。
だからと言って、仮にも王族であるフランに手をあげようとしたガージュの行動が許されるはずもない。
王族なら何をしても許されるわけではないが、名乗りを無視されたのであれば、手をあげるよりもう一度名乗るべきだった。
フランとて無視したくて無視したわけではない。
ただ単に、次から次へとやってくる貴族達の挨拶に飽きと疲れがあっただけなのだ。
そういう意味では、ガージュが無視されたのはタイミングが悪かったとも言える。
だが、そんな理屈がガージュに通用するはずもない。
フラン同様ガージュもまだ八歳の子供なのだ。
ガージュは伯爵家の息子として何不自由ない生活を送ってきた。
ガージュの周りには、ガージュの言う事ならなんでも聞いてくれる者しかいなかった。
指南役はガージュの剣を褒め、教育係はガージュの聡明さを褒めた。
街に出れば誰もがガージュにへりくだり、わすかでもガージュの不興を買う者は即座に罰せられた。
ガージュはいわば、その街の王子だったのだ。
そんなガージュが同い年の子供に無視された。
態度を戒めようと手を上げようとすれば、側にいた子供に止められ、更には威圧すら向けられた。
生まれて初めて受けた強力な威圧に、ガージュはそれまでの勢いを失い、その場に崩れ落ちてしまった。
レキが向けた威圧など魔の森ではゴブリンすらひるまない程度だったが、甘やかされて育ったガージュに耐えられる物ではなかった。
その後、何事も無かったかのように無視されその場に放置されたガージュは、屈辱のあまり涙目になりながらその場を去り、来訪した貴族達に割り当てられた休息の間で連れてきた侍従達に八つ当たりする事で発散し、今に至るのである。
フランやレキとの一部始終は別の侍従によって既に報告を受けていたが、デシジュはあえて息子の口から語らせた。
案の定レキとのやり取りは報告されず、ただフランが自分を無視したとしか言わなかった。
「それで、貴様はそのままおめおめと逃げてきたのか」
「に、逃げてなどいません。
むしろ奴らの方が僕の前からいなくなったのです」
尻餅をついたガージュに興味を無くし、その場を去ったフラン達。
それをガージュは少しでも自分に有利になるように報告する。
もっとも、一部始終を把握しているデシジュに虚偽の報告など意味は無いが。
「・・・ふん、まぁ良い」
これ以上は無意味だろうと、デシジュは息子の叱責をやめた。
そもそもここは宴の間。
参列者達は間もなく訪れる宴の終わりを家族で迎える為、夕日が見える場所へと移動中だが、それでもまだ多くの貴族達が広間に残っている。
目立たぬよう片隅に移動しているとはいえ、目立つ行動は控えるべきだろう。
「良いか。
貴様の目的はフラン王女やルミニア嬢のような高位の者達に近づく事だ。
そして友好を深め、我が伯爵家との結びつきを深めるのだ」
「は、はい」
「その為にはあの小僧はいささか邪魔だが・・・たかが平民。
気にするほどの者ではなかろう」
今から話す内容は、他者に聞かせられるものではない。
野望を抱く貴族と言うのはどこの国にも存在する。
先程フランやルミニアの周囲に集まってきた子供達の多くは、親から指示されて近づいただけ。
ガージュもまた、宴が始まる前にデイルガ伯爵に言われてフランに近づいたのだ。
名前だけでも覚えて貰えればまだ良かっただろうが、ガージュと相対した後のフランを見れば、ガージュなど頭の片隅にも残っていない事が分かる。
もっとも、あのような失態をおかしたとあれば、覚えられていない方が良かったかも知れない。
仮に覚えられていたところで、その時は親であるデシジュが頭を下げるなり何なりすれば良い。
対応次第では、ガージュはともかくデシジュの印象は良くなる可能性がある。
「今はまだ頭の片隅にでもあれば良い。
本番は学園に入ってからだ。
良いかガージュ。
学園ではなんとしてもフラン王女と同じクラスに入るのだ。
そして学園での四年間でなんとしてでも交友を深めろ」
「は、はい!」
二年後に入学する学園は、入学時に行われる試験の結果に応じてクラス分けがされる。
同程度の実力が無ければ研鑽し合う事もできず、同程度の学力が無ければ授業についていけないからだ
「フラン王女は宮廷魔術士長であるフィルニイリスと剣姫ミリスが指南している。
同じクラスに入るにはそれ相応の実力が必要であろう。
ガージュよ。
今から二年、死にものぐるいで鍛錬をつむのだ。
良いな」
「はい、父上!」
デシジュは息子を甘やかしてきた自覚がある。
だがそれは、己への依存心を高め、絶対的な服従心を植え付ける為、あえてそうしてきたに過ぎない。
その結果、ガージュは周囲の者へは貴族らしい高圧的な態度を取るが、親であるデシジュに対しては非常に従順な子供に育った。
自分の権力が通じるのは父親がいるからだと、子供ながらに悟っているのかも知れない。
指南役や教師達にもそう教え込むよう、指示したのはデシジュだ。
全ては二年後の為に。
ガージュがフランを始めとした高位の貴族の子供達に取り入り、交友を深めた後。
ガージュを通じてフランやルミニアを自らの手中に収め、そして・・・。
沈みゆく夕日を見ながら、デシジュは息子にすら明かしていないとある計画を思い描いていた。




