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黄金の双剣士  作者: ひろよし
六章:レキと新しい年
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第117話:宴と貴族の子供

貴族達からの挨拶も一通り終了し、レキとフランはようやく解放された。

国王ロランと王妃フィーリアはその場に残り、レキとフラン(ついでにアランも)は広間へと降りて行った。


敵意を向けてきたデシジュ=デルイガという貴族は気になるが、あまり強くないという事と、それより早く宴を楽しみたいという気持ちの方が強かった為、レキの頭の中からすっかり消え去っていた。

貴族に敵意を向けられる。

それがどういう事なのか、レキには良く分かっていなかった。

分かっていたとしても、あまり気にはしなかっただろうが。


レキが貴族に敵意を向けられる理由は多い。


王女フランの命を救うという功績を上げた事。

その縁でフランと親しい関係になり、更には王族の庇護下に入った事。

フィサス領領主であり、槍のイオシスの異名を持つイオシス公爵と知己を得た事。

その娘であるルミニアの命をも救った事。


どれも通常では成し得ない事である。

偶然に恵まれた事もあるが、レキの実力があってこその功績。

それでもレキを羨まない者はおらず、つまりは嫉妬からくる敵意をレキは向けられているのだ。

ただし、先程挨拶をしてきた貴族達の殆どは、羨むよりレキと知己を得る事を優先した。

国王の前という事もあるが、貴族としての矜持やメリットを優先した結果だろう。


先程敵意を向けてきたデシジュ=デルイガも、表面上はレキを讃えていた。

心ではどう思っていても、現在国王の庇護下にいるレキと表立って敵対する意思はないようだ。


もちろんレキにそんな事は分からず、相手の力量が大したこと無かった為、まぁいいやと流したのだ。


全ての人が善人では無い事をレキは知っている。

だからこそ、些細な敵意など気にしないのだ。


広間へと降りていったレキ達は、待っていたルミニアと合流し、まずは用意された宴料理から楽しむ事にした。


宴には、先程挨拶に来た貴族だけでなくその子供達も多く参加している。

王族に挨拶するのは貴族の当主で、伴侶や子供は必ずしも同席する必要は無い。

皆が皆、ルミニアの様に躾や教育が出来ているとは限らない。

中には、国王や王妃、王子に王女へ無礼な言葉を発してしまう子供もいるだろう。

宴の席は決して無礼講ではない。

子供と言えども内容によっては許される範疇を超える場合もあるのだ。


そういった事態を考慮し、挨拶するのはあくまで当主のみで良いとされているのだ。


当主である親が王族に挨拶をしている間、その子供達はこの広間で一足先に宴を楽しんでいたようだ。

壇上からもそれが見えていたのだろう、先ほどからずっと羨ましく思っていたレキは、ようやく自分も宴や料理が楽しめるとワクワクしていた。


レキ達が広間へと移動すると、多くの子供達が集まってきた。


「御機嫌ようアラン様」

「ご無沙汰しておりますアラン様」


おそらくは学園の知己なのだろう、アランに挨拶しに来る者達。


「姫様こんにちわ!」

「姫様、こっちのお菓子も美味しいですよ」

「それより姫様、こちらの料理を」


フランの友人(?)らしき同年代の子供達。


「ルミニア様もどうぞご一緒に」

「ルミニア様は近頃どのような本をお読みになりましたか?」

「お体の方はよろしいのですか?」


公爵家の娘であるルミニアにも、多くの子供たちが殺到した。


今フラン達の周りに集まってくる者達の多くは、親からそれとなく指示されて集まっている子供達だろう。

言うまでもなく、子供を通じて自分達も知己を得る為だ。


貴族の当主であれば、先程のようにレキにも声をかけただろう。

まだ子供である彼らは、遠回しの手段よりもストレートな手段に出たようだ。


そして取り残されるレキ。

アランはともかくとして、フランやルミニアの人気は凄いものがあった。

あっという間に人だかりが出来てしまい、食事を楽しむ隙も無さそうだ。

離れないよう近くにはいるが、このままでは折角の料理が食べられないんじゃ?と気が気でないレキである。


挨拶の最中も、レキはお腹が鳴るのを我慢していた。

並べられた豪華な食事が気になり、いくつかの料理は絶対食べようなどと目を付けてもいた。

にも関わらず、この人集りのせいで思うように動けず、食事もままならないでいる。

まるでお預けを食らった犬のような、あるいは腹を空かして森を彷徨うゴブリンのような、そんな気分のレキだった。


どうにもならない状況だからか、実にどうでも良い事を考え始めるレキである。

そんな中、人混みを縫うようにやってきた子供の気配に、何故か覚えがあるような気がして目を向けた。


そこには、レキと同い年くらいの少年がいた。


年のころはレキと同じだろう。

身長もレキと同じくらい。

茶色の髪に細い目をした、正直に言えばどこにでもいるような子供である。

流石に貴族の子供らしい綺麗な、と言うより無駄に豪華な服をまとい、いかにも貴族の子供であるという雰囲気を醸し出している。

レキの思う貴族の子供、そのままの姿と言えた。


「これはこれはフラン様。

 この度は大変危険な目に遭われたとかで、このデルイガ伯爵が一子ガージュ=デイルガ、フラン様のご無事を光の精霊に感謝いたします」


姿だけでなく言い回しすら貴族っぽいその子供に、レキは何故か警戒心を煽られた。

気配や魔力を知っている気がして、誰だろうと頭を働かせた。


「うにゃ?

 誰じゃお主?」


声をかけられたフランはと言えば、どうやら知らない相手らしい。

間違いなく相手が期待する反応とは違う返事を返す。


「・・・あ?」

「フラン様、ガージュ=デイルガだそうですよ」

「ほほう、ガージュ=デイルガじゃな。

 してガージュはなんのようじゃ?」

「・・・なっ」

「姫様のご無事を光の精霊様に感謝しているらしいですよ」

「そうか、それはありがたいのう。

 じゃがわらわが無事だったのはレキのお陰じゃ。

 感謝ならレキにすれば良いぞ」


自分でも感心の出来だったのだろう、貴族らしい名乗りと挨拶をあっさりと流されたガージュ=デイルガ少年。

お前など知らんと言わんばかりの(実際に覚えていないのだが)返しに、ガージュが思わず声を漏らした。

その声の不遜な響きにルミニアがやんわりとフォローに入ったが、フランの態度は素っ気無いままだった。


実のところ、フランはレキ以上に退屈していたのだ。

レキより体力も精神力も未熟なフランである。

むしろ今まで良くおとなしく出来ましたねと褒めても良いくらいであった。


ようやく解放され、さてここからが本番、レキとルミニアと一緒におもいっきり楽しもうと広間へやってきたところ、いきなり囲まれて思うように動けず、更には良く知らない子供が先ほどまでの貴族達と同じような言葉をかけてきたのだ。

フランの態度が素っ気無くなったのも仕方ないのかも知れない。


「ぼ、僕はデイルガ伯爵の息子だぞ!

 その僕を無視するとは何事だ!」


そんなフランの態度は当然ながら褒められたものではなく、これが貴族の当主やある程度年を重ねた者ならば本音は隠しつつ上手く返しただろうが、残念ながらガージュはフラン同様まだ子供である。

しかも、伯爵というそれなりの地位を持つ家の子供であるところから、変にプライドをも持ってしまっていた。


相手が王族と公爵家の娘である事も忘れ、自分を無視するなとガージュが声を荒げる。

いつも周りの者にもしているのであろう、フランやルミニアに対し手をあげようとすらしてしまった。

例え子供と言えども許される事ではない。


一応は護衛であるレキが動くには十分だった。


「まった」


一瞬でレキがフランとルミニアの前に立ちはだかった。

ガージュが振り上げた手を掴み、ついでミリスから教わった通り相手の顔を睨むように見る。

更には・・・相手を怯ませる為少しばかり敵意を向けてみた。


「ひっ!」


魔の森の魔物すら容易く仕留めるレキである。

そんなレキの威圧が子供に耐えられるはずも無い。

向けられたガージュは、レキが手を離すとその場に尻餅をついた。


「大丈夫、フラン?」

「む、なんともないのじゃ」

「ルミは?」

「はい、大丈夫です。

 ありがとうございます、レキ様」


ガージュを退けたレキは、目の前で尻餅をつくガージュには目もくれず、フランとルミニアに声をかけた。


「お、お前は」


そんなレキの態度もまた、ガージュにとっては気に障ったようだ。

レキの威圧に本能が恐怖を感じていても、頭では理解できていないらしい。

尻餅をついたままの姿勢で、なおもレキを睨みつけた。


「おっ、あっちのお菓子が美味そうじゃ」

「ふふっ、行きましょうレキ様」

「あ、まってよフラン、ルミ」


そんなガージュの視線に気づく事なく、レキ達は広間の中へと突入していく。

挨拶の間、レキもフランもずっとお預けを食らっていたのだ。

我慢も限界だったのだろう。


「お、おのれぇ・・・」


後には、今だ尻餅をついたままの体勢で、悔しさに涙ぐむガージュだけが残されていた。


――――――――――


「ガージュ=デイルガですか?

 彼は伯爵家の子供で少々プライドが高く、周りの子供達を見下す傾向にあるそうですよ」

「伯爵・・・伯爵って偉いの?」

「わらわより偉くないぞ」

「少なくとも私の家より下ですね」

「ふ~ん」


貴族の爵位については勉強中な為、ガージュの伯爵家がどのくらい偉いのか分からなかったレキでも、フランが王族で一番偉い事は知ってる。

ルミニアの公爵家についてはなんとなく偉いのかな、くらいであり、それが貴族の爵位の中でどの位置にあるのかまでは分かっていない。

ただ、今聞いた限りではそれなりに偉いのだと言う事だけは分かったようだ。

とすると分からないのが先程のガージュの態度である。


フランはともかくルミニアより偉くないのであれば、なんであんなに偉そうだったのだろう・・・。

もしかしてフランやルミニアより強いのかな?


などと明後日の解釈をするレキだった。


「そんな事より宴を楽しみましょう」

「うむ!」


ガージュの一件など無かったかのように、フランもルミニアも宴を楽しむべく広間を歩き回った。

無邪気で人一倍元気なフランはともかく、ルミニアも最近は槍の鍛錬のお陰で体力もついたらしい。

フィサス領に戻ってからも、槍に魔術に座学にと、人一倍真面目に取り組んでいたルミニア。

久しぶりに会うフランとレキと過ごせるこの宴を、心から楽しみにしていたのだ。

もちろん楽しみにしていたのはレキも同じ。

ただでさえ慣れない貴族の挨拶に少々辟易していたところだった。

ようやく宴を楽しめるとあって、フランの護衛という立場も忘れて仲良くはしゃぎだした。


「うわぁ~、これ美味しいね」

「そうじゃろそうじゃろ」

「ふふっ、実はこれ、私も大好きなんです」

「へ~」


そこにいるのは王族でも公爵家の娘でも魔の森の魔物を瞬殺する子供でもない。

ただただ宴の料理を美味しそうに食べる、八歳の三人の子供達だった。


元々大食漢なレキである。

貴族の挨拶にお預けを食らったせいか、すぐさま目の前の料理に夢中になった。


「あっ、こっちも美味しい」

「あ~!

 わらわの分っ!」

「大丈夫ですフラン様。

 ほら、すぐ追加が来ますから」


宴の料理は王宮の料理人が腕を振るって用意したもの。

味も種類も、何よりその量も、宴に参加する子供達がお腹いっぱい食べても十分すぎるほど用意されている。


「ね、次はあっち行こう」

「うにゃ、それよりこっちの方がおいしそうなのじゃ」

「まあまあ」


宴が始まって既に数刻、レキ達がすっかり宴を満喫した頃。


「あれっ?」


ようやく腹も落ち着いたレキがふと会場の片隅に目を向けると、そこには・・・


「アランだ」

「うにゃ?」

「・・・まぁ」


片隅に用意されたソファーで、一人項垂れているアランがいた。


「どしたのかな?」

「ほっとくのじゃ」

「う~ん、多分ですが・・・」


軽く心配したレキにフランがいつも道り放置宣言をした。

ルミニアだけは何やら事情を把握しているようで、そんなルミニアにレキが尋ねた。


「私達同様、アラン様も先ほどいろんな方に囲まれていましたよね?」

「うん、すごかったね」

「私やフラン様と違い、アラン様は既に学園に入っていますので、おそらくはご学友の皆さまだったのだと思います」

「ごがくゆう?」

「ええ。

 学園のお友達か、同じクラスの方々ですね」

「ふ~ん」


学園はまず学年ごとに分かれ、更には成績順にクラスが分かれる。

一学年は100名。

その100名が四つのクラスに分かれて学園生活を送っている。


アランも当然、そのクラスの一つに在籍している。

そこには身分も種族も違う多くの子供達がいて、毎日勉強や鍛錬をしながら過ごしている。

毎日席を並べ、あるいは剣を交えて過ごすうちに仲良くなった者達が、先ほどアランを囲っていた学友なのだろう。


「お一人でいるという事は・・・」

「喧嘩しちゃったのかな?」


先ほどまで囲まれていたアランがああして一人でいる理由。

レキの知るアランは、フランさえ絡まなければとても真面目で頭も良い立派な王子である。

平民であるレキに対しても、王族として上から接するのではなく、対等の存在として接してくれている。

アランとしてはフランの護衛という立場を競うライバルとして接しているのだが、少なくともそこに身分の上下は無い。


そんなアランが友達と喧嘩をした。

自分で言っておいて本当かな?と思ってしまうレキだった。


「いえ、アラン様はああ見えて優秀な方です。

 才能こそ恵まれませんでしたが、その分真面目な努力家ですし、何よりご自身の身分を笠に着るような真似はされないお方ですから、学園でも結構人気があるそうですよ」


そんなレキの推測をルミニアが否定した。


「フランさえ絡まなければ」と言うのは、実は貴族社会でもそれなりに知られている。

学園に入る前は常にフランの側にいたが、その分フランに良いところを見せるべく、アランは勉強も鍛錬も真面目に行っていた。

それは学園に入ってからも同様で、最初こそフランがいないからとやる気のやの字も見せなかったアランだが、二年後にはフランも入ると分かってからは王宮にいた時以上に真面目に過ごしているのだ。


身分や種族の違いなく誰もが平等に学ぶ場である、というのが学園の理念ではあるが、それでも貴族である事を笠に着る者は少なくない。

十歳までに植え付けられた選民意識と言うのはなかなか消えないのだ。


そんな学園に、貴族の最高位である王族のアランが入学した。


当然貴族の子供達は将来を見越してアランに擦り寄ったが、アランにとっては貴族だろうが平民だろうが等しく国民であり、と言うか貴族だろうが平民だろうがフランで無い以上どうでも良かった。

よってアランは、学園に通う学生たちに対し、とても平等に接したのだ。

その結果、平民の子供達はアラン様はそこらの貴族達とは違うと慕い、貴族の子供達は流石王族だと敬意を抱いた。


つまり、学園でのアランはレキが思う以上に優秀で、貴族も平民も分け隔てなく接する素晴らしい生徒なのだ。


だからこそ先程のように学園に通う、アランを慕う者たちに囲まれたわけだが・・・。


「じゃあどうしたんだろね?」

「おそらくですが・・・」


学園のアランはとても優秀な子供である。

だがそれは、あくまで周囲から見たアランの評価であり、アラン自身はと言えばフランに良いところを見せるべく頑張っていただけで、つまりはフランの事しか頭に無い。

そんなアランが、光の祝祭日を祝う為という大義名分の下、王宮へ戻ってきた。

出会い頭に抱きしめ、更には頬ずりしたのも致し方ないのだろう。


だが、フランの側にはレキがおり、フランはそんなレキにすっかり懐いている。

レキに対抗心を燃やしたアラン。

ここ数日はレキに勝つ事を優先していた為か、フランに対しては比較的おとなしくしていた。

と言ってもそれは鍛錬中の話で、それ以外の時間は相変わらずフランに付きまとっていたが・・・。


本日は光の祝祭日。

基本的には家族と共に過ごす日である。

そして、アランとしては愛する妹フランと過ごす日であり、その為に王宮に戻ってきたと言っても過言ではなかった。


そんなアランが、会場に下りてそうそう学友と思われる者達に囲まれ、結果フランと引き剥がされた。

つまり・・・。


「限界なのでしょうね」

「あ~」


ルミニアの説明に納得してしまうレキだった。

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