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黄金の双剣士  作者: ひろよし
六章:レキと新しい年
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第116話:貴族たち

「今年もまた、こうして光の祝祭日を皆と迎えられた事を嬉しく思う」


会場入りしたロラン達王族と、それに付いて入ったレキ。

貴族達がいる広間より高い位置に設けられた席で、国王ロランの演説が始まった。


貴族達はそんなロランへ顔を向けつつ、視線は更にその後ろへと向けていた。


「あれがレキという少年か」

「まだ子供ではないか」

「あの少年が本当に?」

「信じられん」


レキを初めて見る貴族達は、その幼い外見に何やら小声で話し、


「あの場にいるという事は」

「王の庇護下に入った、と言うのは本当のようだ」

「姫様の護衛というのも」

「騎士団とも連日剣を合わせているそうだが」


御前試合などを通じてレキを知るものは、レキの現状を確認した。


「お父様、レキ様です」

「うむ、なかなか似合うではないか」


レキの実力をその身をもって知った、とある公爵とその娘はレキの姿を見て笑みを浮かべた。


一つだけ言えるのは、この会場にいる者達がもっとも注目しているのが、演説中の国王ロランでは無いという事だろう。


その注目を浴び続けているレキはといえば・・・。


「・・・」


宰相アルマイスに言われたとおり、ただ黙って立っていた。


アルマイスに言われたから、というだけではない。

人一倍気配に敏感で、人一倍目の良いレキは、会場にいる貴族達のその殆どが自分に注目しているのに気づいていた。

見渡す限りの貴族達、その殆どに注目されている状況では、綺麗な服を着せてもらっている事も手伝い、何となく身動きが取れないでいた。

緊張しているというほどではないが、何となく気恥ずかしいのだろう。

ルミニアやその父親すら自分を見ているこの状況で、レキが出来る事などただ黙って立っているだけだった。


「フロイオニア王国と、王国に住む全ての者の健やかなる一年を祈願し、乾杯っ!」

「「乾杯っ!!」」


半ば拷問のようなひと時も、国王ロランの演説の終了とともに終わった。


後は、先程フランやルミニアと話し合ったように子供達だけで宴を楽しむだけだ。

アランも着いてきたそうにしているが、それはまあどうでも良いだろう。

今はただ、この針の筵に立たされているような状況から少しでも早く抜け出したかった。


「ねぇフラン・・・」

「ほう、こちらが例の少年ですかな?」

「へっ?」


残念ながら、レキやフランが抜け出せるのはもうしばらく後であった。


――――――――――


レキは知らなかったのだが、国王が参加する宴では、参列した貴族達が順に国王へ挨拶するのがフロイオニア王国の通例となっている。

その際、国王だけではなく王族であるフランもその場に留まっている必要があった。

護衛であるレキも、当然挨拶が終わるまで動くわけにはいかなかった。


先程まで参列する貴族から注目を浴びていたレキである。

国王への挨拶が始まれば当然、貴族達から直接声がかかるようになる。


「姫様の命を救った事、フロイオニア王国の貴族としてお礼を申し上げますぞ、レキ殿」

「えっと、うん、じゃなかった、はい」


「あのガレム殿を圧倒されたとの事。

 その剣の腕前、私も一度見てみたいところですな」

「あ、はい」


「村を襲ったゴブリンの群れを一撃で葬り去ったとか。

 流石英雄と称されるだけはありますな」

「あ、はい」


次から次へと声をかけてくる貴族達。

一応はロランを始めとした王族への挨拶を先に済ましているとは言え、彼らの狙いは明らかにレキにあった。


レキを勧誘するわけではない。

レキが国王の庇護下に入ったという話は周知されており、その国王の前で勧誘などすれば王家を敵に回すに等しい行為だ。

加えて今のレキの立ち位置。

フランの斜め後方に立つレキは、つまりフランの護衛である事を示している。

通常なら護衛の騎士に声などかけないのだが、本日の宴はレキのお披露目も兼ねている為、こうして貴族達も遠慮なく声をかける事が出来るのだ。


顔も名前も分からない貴族達から声をかけられ、レキは訳も分からず頷いたり返事をしていた。


「流石はレキ殿、人気者ですな」

「あっ!」


イオシス公爵もやってきた。。

どうやらこの宴は無礼講に近いらしく、挨拶にくる貴族の順番は特に決まっていないようだ。


「先日は娘のルミニア共々お世話になりました」

「うむ、今度はわらわが行く番じゃな」


友達であるルミニアの父親、ニアデルの登場にレキもようやく一息ついた。

人見知りという訳ではないが、それでも見知らぬ大人達に次から次へと声をかけられてしまい、少々戸惑っていたのだ。

レキはただの(?)平民であり、貴族というある種別世界の住人達との会話はいささか緊張するし、声をかけられてもどう返せば良いか分からなかった。

普段接しているのがその貴族世界の頂点に立つ王族である事は、この際関係ない。

更に言えば、今話をしているのも貴族世界の最高峰である公爵だが、こちらは別の意味でも関係ない。


「レキ殿も。

 次こそは一撃入れて見せますぞ」

「うん」


何故なら、ニアデルは公爵であると同時に脳筋だからだ。


「そうそう、フィサス領に来られる際はレキ殿もぜひ」

「うんっ!」


フランの護衛という立場にも少しは慣れたレキである。

フランが行くなら当然自分もと、ニアデルの誘いに笑顔で頷いた。

フランとて、今更レキを置いて行くような真似はしないだろう。


ニアデルはニアデルで、レキの実力にすっかり心酔している為、当たり前のようにレキを誘っている。

王宮に留まっていた時には、暇を見つけてはレキに勝負を挑んでいたニアデルである。

レキを誘った理由もまた、再び勝負を挑もうとかそんな話なのだろう。

それはそれで楽しみなレキだった。


「さて、あまり長居しては他の者達の迷惑にもなりますな。

 私はこの辺で失礼させて頂きましょう」


それからも貴族達の挨拶は続き、慣れないレキに気疲れが見え始めた。

フランは目の前の貴族より会場に用意されている料理の方に意識が向いており、アランはそんなフランに意識が向いている。

人並み以上の体力と精神力を持つレキだからこそ、初めての場でもこうしておとなしくしていられるのだ。


貴族達の話は先程から同じ事ばかり。

まず国王を始めとした王族へ挨拶をし、その後最も関心のあるレキに話を振ってくる。

その内容も同じで、レキの武勇を褒め、レキの功績を讃え、レキの活躍に貴族として礼を述べるだけ。


確かにレキはフランを救った。

だがそれもレキの中では昔の話。

先程から繰り返し讃えられては、褒められ慣れていないレキと言えど少々うんざりしてしまう。


(いつまで続くんだろうなぁ~)


などと、レキがこっそり肩を落としながら考えていたその時である。


(ん?)


次にやってきた貴族が、何故かレキに敵意を向けてきた。


――――――――――


敵意と言っても大したものではなく、嫌悪感を向けられた程度である。

それでも今までとは違う感情に、レキが思わず身構えた。


その貴族の顔は当然見た事がなく、気配や魔力を探っても記憶にはない。

そもそもレキの知る貴族などイオシス公爵くらいで、本日挨拶に来ている貴族達のほぼ全員が初対面なのだ。

ガレムとの御前試合を見ていた者もいるが、レキと直接会話した事のある者は一人もいない。


知らないはずの人から敵意を向けられ、戸惑いつつも護衛として気を引き締めるレキ。

相手は貴族で、見たところ普通の人より少し強いかも知れない程度。

側に控えるガレムやミリスには遠く及ばないだろう。

レキならば、剣など抜くまでも無く倒せるに違いない。


「光の祝祭日に陛下にお目にかかれました事、光の精霊に感謝いたします」

「うむ」


レキが相手の力量を見極めている間に、その貴族の挨拶はつつがなく終了していた。

多くの貴族が国王と言葉を交わす機会を得られるとはいえ、毎年行われる宴である。

挨拶など定例文を述べるだけで、国王もそれに軽く返事をする程度。

もちろんそれだけでは国王の印象にも残らないが、かといって長すぎれば国王のみならず他の貴族の迷惑にもなる。

少ない時間でどのような挨拶をするかと言うのも、貴族の手腕の一つなのかも知れない。


「アラン様も学園に通う年になられたそうで、ますます陛下に似てきましたな」

「そうか?

 私としてはフランに似たいのだが」

「はっ?」


ロランだけでなく王妃フィーリアや王子であるアランにも挨拶をする。

フィーリアはそつなく、アランは良く分からない返事を述べ、次はフランの番であった。


「フラン様。

 この度はご無事で何よりです。

 フラン様がご無事なのも、ひとえに光の精霊のご加護があっての事でしょう」

「わらわが助かったのはレキのお陰じゃがな」

「ほう、レキ殿・・・」


フランが野盗に襲われたという話は貴族の間で周知されており、先程から挨拶に来る貴族の多くはその件を持ち出しては光の精霊に感謝を捧げていた。

それはこの世界における創世神話と精霊信仰から来るもので、特に光の祝祭日である本日は光の精霊の力がもっとも強まる日とされており、感謝を捧げるには丁度良かったのだろう。

そんな貴族の言葉に毎回フランが返すのが「助かったのはレキのお陰」という事実で、その言葉があるからこそ貴族達もスムーズにレキに挨拶する事が出来ていた。

レキの気疲れの理由、その大半はフランにあると言って良い。


「レキ殿とはそちらの子供ですか?」

(あっ、また)


フランからレキへと視線が向けられ、ついでに王族には向かなかった敵意が復活する。

なんで自分にだけ?と思うレキだが、敵意自体には慣れている為、特に戸惑う事無く平然と対応する事が出来た。

伊達に三年もの間魔の森で過ごしていない。


「レキ殿。

 この度はフラン様のお命を救い、この王都まで無事送り届けた事。

 このデシジュ=デルイガ、光の精霊に代わりレキ殿に感謝を」

「あ、うん」


デシジュ=デルイガと名乗った貴族は、レキへの敵意はそのままに、他の貴族同様レキに感謝の言葉を告げた。

貴族として、王族の命を救ったレキに感謝するのは当然で、デシジュの言葉におかしいところはない。


だがレキは、デイルガの言葉の奥に潜む敵意に気づいている。


目の前の男はレキに感謝などしていない。

むしろフランを助けた事に対して「忌々しい」とか「余計な事を」としか思っていなかった。

あくまで想像だが、向けられる敵意にレキはそうとしか思えなかった。

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