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黄金の双剣士  作者: ひろよし
六章:レキと新しい年
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第112話:アラン来襲

フロイオニア王国王女であるフラン=イオニア。

彼女がフロイオニア王国内フィサス領からの帰路にて野盗の襲撃に遭い、一か八か魔の森に逃げ込んだ事件から数か月。

無事王都へ帰還した知らせを受け、フィサス領から駆け付けたフランの親友ルミニア=イオシスがなんやかんやで一月ほど滞在し、彼女とその父ニアデル=イオシス公爵がフィサス領に帰ってから一月が経っていた。


魔の森でフランを、更には王都滞在中に人攫いにあったルミニアをも救った少年レキは、今日もフランと共に勉強に鍛錬にと励んでいた。

時折、勉強に飽きたフランと共に城下街に繰り出す事もあったが、それでもフラン付きの侍女リーニャ曰く、レキが王宮に来てからのフランは以前よりはるかに真面目になっているらしい。

それでも根っこの部分はまだ変わらないのだろう、リーニャや教育係でありフロイオニア王国宮廷魔術士長のフィルニイリスの理解もあり、息抜きを兼ねてちょくちょく城下街へ遊びに行っていた。


一月半ほど前にルミニアが攫われたばかりである。

強くともまだ子供のレキと、曲がりなりにも王族であるフランの二人だけで行かせるのは問題だと、最近はリーニャに加えてレキ付きの侍女サリアミルニス、王国騎士団ミリス小隊隊長にして王族護衛役から専属指南役も務めるミリスも付き添う事が多かった。

それでも王族が街に出向くより遥かに少ない人数であり、何より気心の知れた者ばかりであった為、フランから不満が出る事は無かった。


ともあれ、この一月と少しの間は実に平穏に過ぎていた。


だが、平穏というのは大抵の場合長続きしないものだ。


――――――――――


暦が真紅の月に変わり、新しい年を迎える光の祝祭日まで一月を切った。

その日も、レキはフランとともに勉強をしていた。


ようやくレキの学力が一定水準を超え、フランと勉強を共にできるまでとなったのだ。

追いつかれたフランとしては面白くないところだが、どうやらそれ以上に午後の鍛錬だけでなく午前中の勉強時間までレキと一緒にいられる喜びの方が勝っているらしい。

最近では夕食を共にする事も多く、二人はますます仲良くなっている。


勉強の内容は一般常識の範疇であり、それ以上の内容は二年後に入学する予定の学園で学ばせる事にしている。

あまり先行してしまえば他の生徒達と協調が取れず不和を招くからだ。


元々レキは一般常識に疎く、王宮に来る前は文字すら読めなかった。

冒険者になるなら文字を読めた方が良いとフィルニイリスに言われ、頑張って勉強した結果、今ではフランと机を並べるまでとなった。


文字を習得し、一般常識もある程度身につけたレキ。

今はこの世界についての様々な事を学んでいる最中で、レキの世界はどんどん広がっていった。


今日も今日とで勉学に励んでいたレキとフラン。

そこに、王宮で働く侍女の一人が勉強部屋を訪ねてきた。


「お勉強中失礼致します。

 姫様。

 陛下がお呼びです。

 レキ様、並びにリーニャ様もご一緒するようにとの事です」


本日のレキの勉強は、残念ながらここまでとなった。


――――――――――


「むぅ~。

 一体なんなのじゃ」

「さあ、ただあまり良い予感はしませんね」

「そうなの?」

「ええ、私の予想が正しければ、おそらく・・・」


フランと共に仲良く王の下へと向かうレキ。

先行するリーニャと、レキ付きの侍女であるサリアミルニスも一緒である。


元々勉強に意欲的なレキと、最近はレキと一緒という事もあって勉強もそれほど嫌がらなくなったフラン。

その勉強の時間が、正しくはレキと一緒にいられる時間が中止となった事に不満を見せるフランだったが、リーニャにはなにやら心当たりがあるらしい。


「フラン様、並びに護衛のレキ様をお連れいたしました」

「うむ、入れ」


中から返事があったのを確認し、リーニャが扉を開け、フランに続いてレキも中に入る。


案内された部屋には、国王であるロラン=フォン=イオニアと宰相アルマイス=カラヌス、騎士団長ガレム、宮廷魔術士長フィルニイリス、更には騎士団小隊長のミリスまでもが揃っていた。

共に来たフラン、リーニャ、そしてサリアミルニスを入れれば、王宮内でレキのよく知る人物達が勢揃いしている事になる。


そこに一人。

レキの知らない子供がいた。


身長はレキより若干高い。

金髪赤眼で顔の作りはそれなりに整っていると言えるだろう。

年齢はおそらくレキより上。

よく見ればどことなく国王ロランに似ている気がするが、ロランの優しげな顔と違いこちらは鋭いというか生意気そうな顔をしている。


「フランっ!」


誰だろう?とレキが思うより先に、その人物がフランの名を呼んだ。


「おぉ、兄上」

「へっ?」


その人物とは、フランの兄にしてフロイオニア王国王子アラン=イオニアであった。


――――――――――


「フラン~!」


フランの顔を見るなり、嬉しそうにフランの名を呼ぶフランの兄アラン=イオニア。

レキがフランのお兄さんなのかと思う間もなく、アランがフランに駆け寄り、そして・・・。


「あぁフランよっ!

 会いたかったぞっ!!」

「にょわ~」


フランに突進し、その勢いのまま抱きついた。

兄妹の感動の再会であった。


三年前に両親を失い、天涯孤独の身となったレキにはこういった再会の場面はなかなかにくるものがあった。

少しだけ羨ましいと思いつつ、嬉しそうなお兄さんの顔を見ればレキまで嬉しくなってきてしまう。


うんうん、などと頷きつつふと周りを見渡してみれば、皆の表情はレキの思っていたのとは違っていた。


まず二人の父親であるロラン=フォン=イオニア。

彼はため息混じりに片手で額を押さえていた。

まるで「またか・・・」とでも言いたげな表情をしていた。


騎士団長ガレムもほぼ同じ。

ミリスまで同じ表情をしている。

フィルニイリスは無表情ながらも、レキの目にはウンザリしているように見えた。


後ろに控えているリーニャは笑顔である。

だが、レキにはその笑顔がとても怖く感じた。

あれはそう、村にいた頃母親の手伝いもせず丸一日中遊び回り、全身泥だらけにして帰ってきた時のような笑顔だった。


思わずビクッとなったレキはすぐさま視線を移した。


サリアミルニスはフィルニイリス同様無表情だった。

無表情の中にリーニャのような怖さが含まれているような気がして、やはりレキは視線をそらした。


室内にいる者全員を見渡した結果、どうやら兄妹の再会に感激しているのはレキだけのようだ。

その結果に首をかしげつつ、当の本人つまりフランはどうなのだろうかと目を向けてみれば、兄であるアランに力いっぱい抱きしめられて苦しそうにしていた。


「フラン、ああフラン。

 兄は寂しかったぞ」

「うに、あ、兄上・・・」

「ああフラン。

 フランのいない学園になんの価値があろうか。

 叶うなら今すぐ卒業してフランの側にい続けたい」

「わ、分かったから、ちと離・・・」

「分かってくれるかフランっ!」


抱きしめ、頬ずりまで始めるアランである。

多少力が緩んだのか、苦しさから解放されたフランだが、頬ずりされとても迷惑そうな顔をしていた。


離したほうが良いのかな?

などと思い周りを見渡せば、室内にいる全員が示し合わせたかのようにレキを見て頷いた。

何となく「行けっ!」だとか「宜しくお願いします」という心の声が聞こえてきた気がして、レキは兄妹の感動の場面に割り込む事にした。


「あぁフラン。

 叶うならこのままフランを何処かに閉じ込め・・・」

「てぃっ!」

「うにゃ」


頬ずりから再び抱きしめへと移行しようとしていたアランと、なされるがままの状態だったフランをレキが強引に引き剥がした。


「な、何をするっ!

 ん、誰だ貴様は?」


突然引きはがされ、驚いたアランがレキの顔を見て目を細めた。


「大丈夫、フラン?」

「うにゃ~・・・。

 助かったのじゃレキ」


そんなアランにお構いなしと、レキはフランを気遣う。

目一杯抱きしめられては苦しそうに、頬ずりされては迷惑そうに、更にまた抱きしめられそうになっていたフランである。

引きはがして本当に良かったのかな?と悩んでいたレキだが、フランの様子を見る限り正解だったようだ。


「おい貴様、こちらを向け」


だが、フランを堪能していたのを邪魔された挙句、自分を無視してフランを気遣うその様が、アランには気に食わないらしい。

今も若干ふらついているフランに手を貸しているレキの肩をつかみ、強引に自分の方を向かせようとする。


「ん?

 何?」


正直、アランの力などレキには無力にも等しい。

このまま無視してフランを落ち着かせる事も出来たが、一応相手はフランの兄である。

それに、なんだかそのアランの相手を周囲に任されている気がして、レキは仕方なく振り返った。


「貴様何者だ。

 私とフランとの再会を邪魔するなど、万死に値するぞ!」

「えっと、オレはレキ。

 フランの友達」

「友だと・・・」


アランの問いかけにレキは正直に答えた。

この場にいるのは護衛だからという理由もあったが、レキとしてはフランの傍にいるのもフランを助けるのも護衛だからではなく友達だからである。

だからこそ正直に答えたのだが、その答えにアランの目が細くなった。


「貴様のような男がフランの友だと!

 私は認めんぞ!」

「なんで?」


初対面のアランからそう告げられ、レキは首を傾げた。

友達とは許可を貰ってなるものではなく、気が付いたらなっているものだとレキは思っている。

事実、フランとは会ってすぐ友達になれたし、ルミニアともすぐ友達になれた。

いちいち誰かに認められる必要などないのだ。


「フランに異性の友など必要ない。

 フランには私がいれば十分だ!」


そんなレキに対し、アランは良く分からない答えを返してきた。

そもそも友達になるのに男の子も女の子も関係ないとレキは思っている。

第一、アランはフランのお兄さんであって友達ではないのだから、アランがいてもいなくても関係ないのだ。


にも関わらず、目の前のアランは憤慨し、先ほどからフランとレキを引きはがそうと力を込め続けていた。

もちろんアランがどんなに力を入れようとも、レキがどうなるはずもないが。


「うにぃ~・・・。

 レキはわらわの大切な友達じゃ。

 兄上の許可などいらんのじゃ」

「なっ!」


そこに、ようやく元に戻ったフランがアランの言葉を否定した。


フランの言葉に、アランが目を丸くする。


「大体レキはわらわの護衛なのじゃぞ。

 兄上とて無礼な真似は許さんのじゃ」

「ご、護衛?

 こ、こんな小僧が!?」

「小僧ではない、レキじゃ」


自分もまだ小僧のくせしてそんなことを言うアランと、そんなアランに胸を張ってレキを自慢するフラン。

いつものようなやり取りが始まり、どうしようかとレキが周りを見渡す。


ロランとガレム、ミリスは相変わらず額を押さえ、フィルニイリスとサリアミルニスはこれでもかというほど無表情である。

リーニャだけが満面の笑みを浮かべていたが、その笑みが何より怖いと思うのはレキだけではないはずだ。


「レキはすごいのじゃぞ。

 オーガも倒したし、ユミだって助けたのじゃ。

 ガレムだってレキには敵わぬのじゃ」

「なっ、そんなもの私だって」

「兄上はガレムに勝てた事が無いではないか」

「わ、私とて学園で遊んでいたわけでは・・・」

「ならばガレムに勝てるのか?」

「くっ・・・いや、今の私ではガレムには勝てん」

「そうじゃろそうじゃろ」

「勝てんが、しかし!

 そこの小僧になら勝てる!」

「うにゃ?」

「へっ?」


レキがリーニャの笑みに内心恐怖を感じ、こっそりミリスの後ろに避難しようかなどと考えていたその時である。

フランのレキ自慢に対抗したのか、アランがレキに勝てると言い出した。

その発言に驚くフラン。

レキもまた、この場から抜け出そうとしていたのがばれたのかと思い驚いていた。


「おい、レキといったな。

 私と勝負しろ」

「えっ?」

「貴様が負けたらフランの護衛を私と代わるのだ」

「ええっ!」


そんなレキにアランが勝負を挑む。

何がどうなったかさっぱりわからず、レキはただ驚くしかなかった。

学園に通っているアランがフランの護衛など出来るはずもないのだが、おそらくそんな事関係ないのだろう。


「ふっふっふ、その勝負受けて立つのじゃ!」

「えぇぇっ?」

「良いかレキ、絶対に勝つのじゃぞ」

「え~・・・」


更にはその勝負をフランが受けてしまい、当事者でありながらレキはすっかり蚊帳の外にいた。

助けを求めようと周りを見渡しても、周りの反応は先ほどと何も変わっておらず、額を押さえるもの、我関せずとばかりに無表情を貫くもの、そして笑顔を増していく者・・・。


勝負を受けるしか無い状態であった。


「え~」

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