プロローグ
あの日、君は姿を消した。年下の悠介が“君”なんて呼ぶのは、おこがましいことだろう。しかし、彼女はそんなことで怒るような人でもなかったし、きっともう二度と会うことはない。
彼女は、悠介にしか見えなかった。俗に言う幽霊というやつだ。彼女の正体に気付いていれば、もっと色々なことをしてあげられたのではないか。
未練ばかりな考えを振り払うように、悠介は頭をクシャクシャとかき回した。頭部に微かな刺激を感じ、その正体を確認すると、細く気の抜けたような髪が指に絡みついていた。特に気にするわけでもなく、悠介はそれをゴミ箱に払い捨てる。
仮に正体を知っていたところで、彼女は姿を消していただろう。今なら、それがよく分かる。終わってしまったことはもう変えられない。
気付けば、自然と机の中にある手紙を取り出していた。あの日以来、机の奥底に眠ったままのしわくちゃになった手紙。これを読んだことで、悠介は彼女の正体を知った。
あれからまだ一週間ほどしか経っていないというのに、もう遥か昔のことように感じる。それだけ、彼女がいなくなってからの時間は何の色も無く、ただただ流れていくだけの物と化した。
無意識の内に彼女と過ごした日々を思い返してしまい、胸の奥から何かが込み上げてきた。こんな風に悲しむ姿を彼女が見たら、きっとこう言うだろう。
「悠介くんなら、もう私がいなくても大丈夫ですから」と。
起きるはずのない妄想ばかりを繰り広げ、なんだか少しだけ気持ちが紛れた気がした。その効果が現れたのか、悠介はようやく屋根を鳴らし続ける音に気が付いた。
その音は、規則正しいようでまばらだ。一定のリズムの中で、ところどころにドンッ、と強い衝撃音が鳴る。音の大きさから、それがどれくらいの強さのものなのかは想像がついたが、念のため確認しようと窓を開く。
その瞬間、悠介の重心は後ろへと押し倒されることとなった。上半身を後方に持っていかれつつも、机に手をかけ体勢を立て直す。
軽く息を吐き出し、悠介は安堵した。
ぼんやりと外を眺めていると、彼女と出会った日のことを思い出した。
「……あの日も、こんな天気だったな」
見覚えのある景色に、思わず心の声が漏れる。
悠介は静かに目を閉じ、もう一度だけ彼女との出来事を思い返した。
初めましての方は初めまして!
前作『新しい君と』を読んでくださった方はありがとうございます!
今回、私の経験談や、もしかしてこんなことあるんじゃないかということ思い、一つの作品を作りたいと決断しました。
稚拙な部分もあって読みづらい部分もあるかもしれませんが、読んでくださると嬉しいです。
ブログも運営してますので、そちらの方も是非ご覧ください!