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旅する悪魔ちゃん

作者: フェオン

ぐぎゅるるるる…………

「………ぐふぅ」

 さて困ってしまいました。砂漠のど真ん中で可愛くもなんともない腹の虫を響かせて立ち往生しています。

 あ、初めまして。悪魔です。旅人やってます。

…………いきなり悪魔とか言われても困りますかね?いや、その通りなんですけども。事実なのでどうしようもないです。

…………まだ聞きたい事が?悪魔なのに腹が減るのか?

 減ります。めっっっっちゃ減ります。あと喉も乾きます。悪魔と言っても何も食べずにいられるほど完璧では無いのです。えっへん。

…………威張るところじゃない?それどころじゃないだろ?

……全く持ってその通りです。困りました。村どころか人っ子一人見当たりません。このままでは乾涸びてしまいます。どこかになにか無いものか………

「……………ん?」

なにやら遠くの方でもくもくしています。

「なんだろ………砂煙?ですかね?」

本当に困りました。しかもこっちに向かってきてますね。あれ多分砂嵐じゃないですか?私の旅もここまでですか。

「…………んん?」本格的に死を覚悟し始めた頃、あることに気がつきました。

「なんかあの砂嵐、遅いですね?」確か砂嵐って結構なスピードで動いてたはず……あの距離ならもうとっくに巻き込まれててもおかしくないと思ってたのですが

「もしかして砂嵐じゃない?」ちょっと近くに行ってみますかね。


           で


「ガハハハハ!そんな軽装でこの砂漠を渡ろうとしたってか?無茶にも程があるぜ嬢ちゃん!」

「あはは…………」ぐぅの音も出ません。

 砂嵐の正体は、小規模のキャラバンでした。

 キャラバンとは、砂漠地帯をラクダなんかで渡る商人の一団の事です。どうやらこの先の国に食料やら香料やらを売りに行くようす。

 声を掛けたところこのリーダーっぽいおじさんが同行を許可してくれた上に売り物らしい水と食料まで分けてくれました。

「あの、おじさん。ご飯、ありがとうございました。お金いくらくらいですか?」

「んん?金なんて要らねぇよ!何も金取りたくて助けたんじゃねぇからよ!困ってたから助けたんでぃ!」

なんて良い人なのでしょう。こんな怪しい奴に売り物のはずの水と食料をタダで分けてくれるなんて。人間ってあったかいなぁ。

 私、悪魔ですけど。

「にしても嬢ちゃん、その格好………もしかして魔法使いなのかい?」

 言い忘れてましたが、私は自身が悪魔である事は滅多に喋りません。怖がられたり石を投げられたりとめんどくさいので。

「ええまぁ………そのような者です」

 黒いスカートに白いブラウス、黒のコートを羽織り三角帽子を被っていればそりゃ魔法使いに見えるでしょう。そのための物ですし。後あながち間違いでもないですし。

「へぇー!そいつァすげぇ!今まで何人も魔法使いに会ったことはあるが、嬢ちゃんみたいに若ぇ魔法使いは初めてだぜ」

 やはりこの先の国の商人でしたか。魔法使いに会ったことがあるのも納得です。基本珍しいですからね、魔法使い。

 今私が向かっている国は、その人口の約半分近くが魔法使いという、なかなか珍しい国らしいのです。行ったことないので細かくは知りませんが。

……それにしても、魔法使いの国とも言えるような場所に、ただ食べ物や香料を売る為だけに行くのでしょうか?なにか珍しい材料とかがないとあまり儲けられないような気がするのですが………

「なにか魔法を見せてくれないか?俺は魔法を見るのが好きでよ!」

……まぁそのくらいなら別にいいでしょう。ご飯のおかげで魔力も多少回復しましたし。

「ちょっとしたもので良ければ」そう言って右手を出し、手のひらを上に向ける形にして、魔法陣を展開します。

「出ておいで………」

すると魔法陣から炎で出来た小鳥が二羽産まれました。私のお気に入りの魔法のひとつです。

「こんなものですが、如何ですか?」

「………………」

 おや?おじさんが口をあんぐり開けてます。どうしたんでしょう?

「…………驚いた、嬢ちゃん無詠唱魔法が使えるのか?しかも、杖も魔導書グリモワールも使わずに?」

 これにはむしろ私がびっくりです。まさか無詠唱魔法が珍しい事を見破られるとは。しかも魔法使いなら分かりますが、ただの人間にです。このおじさん一体何者なんでしょう……

 「ええまぁ……修行、したので」もちろん嘘です。悪魔ならばこの程度造作もないのですよ。

 「そうかい!そりゃー大したもんだ!」

 

 「あと半日は掛かるからよ、あれだったら荷台で寝ててもいいぜ?疲れただろうし、ちぃっと狭いが休息にはなるはずだぜ」

 そういえば確かに少し眠い気がしますね……悪魔である私はあまり睡眠を必要としないのですが……きっとおじさんの言う通り、慣れない砂漠で疲れたのでしょう。少し眠るとしましょうか。

 「ありがとうございます、そうさせてもらいますね。着いたら起こしてください。」

 「おう、ゆっくり休めよ。」

 

 「ゆっくり……な」

 〜数時間後〜

 「……んむ?」

 のそり

 目が覚めると、何やら真っ暗な箱のようなものの中にいますね。なんでしょうかこれ。

 「さぁ!本日の目玉商品のお披露目です!」

 はて?どこかで聞いたような………

 バサッ!

 「わ、まぶし………え?」

 そこには

 檻の中にいる私と、それを見る数百の人間がありました。

 「な、なにこれ…」

 「さて、本日の目玉であるこの少女、なんとこの若さで魔法使い!さらに、無詠唱魔法の使い手でもあるのです!」

 おぉ………ザワザワ

 分かりました。この聞いたことある声。キャラバンのおじさんです。どうやら私は嵌められたようですね。

 おかしいと思ったんですよ。私悪魔なのに急にあんなに眠くなるなんて。疲れてたにしてもおかしいです。食料か水になにか入ってましたね。交易品も魔法使いの国に行くには普通過ぎました。あのキャラバンは奴隷商人のキャラバンだったようですね。多分私の他にも何人もの奴隷がこうして売りに出されてるのでしょう。

 しかし、目玉商品とか言ってましたかね?国の人口の半分以上が魔法使いのこの国で、魔法使いの奴隷なんか欲しがるんでしょうか……

 「強力な魔法使いと言ってもご安心ください。皆さんご存知の通り、魔滅石で出来た首輪を付けてあります。最早魔法を使うには主となった方の命令以外不可能です!」

 そういえば首になにか着いてますね?これがその魔滅石とやらの首輪ですか……なるほど、確かに魔力が上手く操れませんね……

 「……ああ、そういう事ですか。」

 客席を見渡して気づきました。この国の半分以上が魔法使いというこの国で魔法使いの奴隷を売り捌く意味。

 「この国の半数以上が魔法使いの………奴隷なんですね。」

 つまりは

 この国には金持ちが多いんでしょうね。そして、その金持ち達は残らず魔法使いを奴隷にしてると……。

 なるほど、それで総人口の半分以上が魔法使いと言われてるのですね。納得です。

 「さてさて!それでは始めさせていただきます!先ずは一億から!」

 一億五千!

 一億八千!

 二億!

 おうふ、結構伸びますね。何だか高い値段になるほど少し恥ずかしい気がします。

 「三億だ!三億で買うぞ!」

 「はい三億!他はいませんか?では落札!」ダァン!おじさんの持つ木槌が激しく打ち鳴らされました。どうやら買い手がついたみたいです。どんな人でしょう。

 「ふひひ…こんな上玉誰にも渡すものか!私が可愛がってやろう…」

 わぁ、小汚いデブのおっさんだ。こんな人間に買われたくないですね。

 「……逃げますか」

 「は?」

 「よいしょっと」ブチッ

 「は?首輪を引きちぎった?![#「?!」は縦中横]」

 「ど、どういうことだ!お前!何をしている!」

 「ああ、おじさん。さっきはご飯をありがとうございました。おかげで乾涸びずに済みましたよ。なので特別に教えてあげます。」

 私は帽子をとりました。

 見えたのは悪魔の象徴

 二本の悪魔の角です。カッコイイでしょ?えっへん。

 「な、なんだその角は……なんなんだお前!」

 ……あれ?もしかして悪魔見た事ないの?そんなことある?

 「ていうかそもそも私の事を魔法使いだと思うところから間違えてるんですよ。いえ、そう思わせるためなんで仕方ないですし、似たような物なんですけど」

 「魔法使いじゃ……無い?じゃああの時の魔法はなんだったんだ!」

 「あの程度の魔法、私には造作もない事ですから。むしろ私の実力をあんな下位魔法で測られる方がちょっとイラッとします。」

 さぁここでビシッと決めましょう!

 まずはスカートの裾を持って足をクロスさせてペコり。

 「お初お目にかかります。私は悪魔。しがない旅人でございます。名前は……そうですね、アグニとでもお呼びください。あ、でもあまり可愛くないですね……やっぱりフランにしましょう。こっちのが可愛いですよね?」

 「あ、悪魔?そんなものが実在するものか!ふざけているのか!」

 えぇ〜……

 「いやほんとですって!見てくださいよ角!あるでしょほら!」頭を指さしながら必死のアピール。何よりの象徴でしょう角は!

 「そんな偽もんに騙されるか!さっさと正体を言え!」

 どうしましょう。全然信じてくれません。

 「仕方ないですね……」

 こうなったら実力行使です。

 「えい!」

  ボッ!

 商人のおじさんがとんでもない火力で消し炭になる!

 ………なんてことは無く。

 燃えたのはここにいる約半分程の首元だけ。半分以外の人間には火の粉すら飛んでません。しかもこの炎、なんと全然熱くないのです。熱くないけど、燃やされたものは跡形もなく燃え尽きます。私が燃やしたのは、この場の約半分の人間の首についていたあるもの(・・・・)。忘れてませんよね?

 「……首輪が……無くなった……?」「やった!自由だ!」「助かった!」

 「な、なんだ?![#「?!」は縦中横]何が起きている?![#「?!」は縦中横]」

 あらあら、おじさんったらパニックになっちゃってる。

 「落ち着いてください、ただ魔法使いたちの首輪を燃やしただけですよ。」

 ドカーン!

 あちこちで魔法が飛び交い始めましたね。狙った通りです。長年虐げられ続けた魔法使い達が一斉に復讐を始めたのでしょう。殺しはしないかもしれませんが、まぁだいぶ痛い目は見るんじゃないですかね?

 「な、な、なんてことしてくれやがる!この、この悪魔めぇ!」

 「だからさっきからそう言ってるじゃないですか……」というかそっちこそ悪魔みたいな所行してたくせに。人の事言えないと思うんですけど。

 「まあいいです。私はもう行きますね。あ、でも食料とか買ってか無いと……この騒ぎなら勝手に持ってってもバレなさそうですね。外に行けば何かしらあるでしょう。」

 「おい!待ちやがれ!どこに行くつもりだ!」

 「さぁ?私は旅人なので。風のむくまま気のむくままに。また次の国でも探しますよ。この国も、なかなか貴重な体験が出来ました。二度と来ないと思いますけど、いずれまた。」

 ポンッ

 箒を出して横向きに座ります。この箒ですか?魔法で出しました。転移魔法の一種です。便利ですよ?さっきはお腹がすいて使えませんでしたが、今ならよゆーです。ご飯も手に入りそうですし、砂漠も楽に越えられますね。

 「ま、待て!」

 「さようなら、親切なおじさん。背中にお気をつけくださいね。」

 あなたに恨みを持ってそうな魔法使いが山ほど後ろにいますから、ね

 

 「さて、次の国は一体どんな国でしょう?どこかで情報を仕入れないとですね。」

 

 私は悪魔。しがない旅人。この世界には人間の作った素敵な国がまだまだあります。それではまた、次の国で……

お読みいただきありがとうございます!

いずれまた続きを描きたいなと思っていますが、何時になるかわからないのでその時はまたお願いします!

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