8.Message
見知らぬ誰かの死に気づきもしない
取り澄ました顔で根拠のない笑顔を振り撒いて
幸せですか それがあなたの幸せですか
全てはガラス一枚を隔てた向こうの出来事
あなたの手は決して汚れないでしょうけどね
ここは善人が馬鹿を見る世界
僕は誰よりも愚かな善人に違いないと
聖人君子になったつもり真顔で呟いた
生まれてきてよかったよなんて
綺麗事で生きていくつもりはないけれど
それはそれで悪い事じゃないでしょう
自分にできる限りの行為が誰かを救うなら
褒められるほどの事ではなくとも
貶されるほどの事でもないのでしょう
僕は痴れ者です
沢山の嘘を吐いてきた愚者です
存在価値はあるようでないようで
ないようでもあるようで
あるようでもないようで
どちらにせよ変わりはないですから
たった一縷の明日も生きていくという望み
叶えさせてください
あなたの耳元へと囁きます
あまりにも小っぽけな願いですが
せっかく命を受けた身である以上
少しでもその証しを刻む時間を与えてください
差し伸ばした手に触れた微かな温もり
目を離した次の瞬間に消えてしまう現実
本当はそんな事を知りたくもなかった
何も知らないままで
安穏と暮らしていられたら良かったのに
ただ伝えたいのです
一度も笑顔を浮かべる事もないままに
果敢なく散っていく命の物語を
ただ伝えたいのです
ガラスの向こう側のあなたに
僕は伝えたいのです
何もできない愚かな善人であっても
非力な筆を執って
小さくても声をあげて
ガラスの向こう側のあなたに




