10.パピエ・コレ
髪を切ったことには何も意味はないけれど
切り揃えたかっただけなんて
誰も信じてはくれない
それよりも大切だったのは
こうやって今も生きていることなのに
大変だったねだとか
心配しなくてもいいよだとか
一人じゃないからなんて
過去には捻じ曲げられた履歴が積み重なって
解りやすい事象が一人歩きを始める
そのあとに取り残された体の中に
痛々しく刻まれたものは
誰にも伝わらないままの真実だった
束の間の間奏に酔いしれて
聞き覚えのない歌を口ずさむ
悲劇なんてものは
角度を変えて見なくたって喜劇なんだ
よく考えてみよう
ほら簡単な論理でしょう?
僕はヒントを出し続ける
問題文だけでは誰も見向きもしないから
なるべく照準の合った言葉を並べて
時には笑顔を織り交ぜて
どんなに噛み砕いて説明しても
決して誰も解ってはくれなかった
中には親切な人が混じって見えても
解ったような顔で近づいてくるだけなのだ
騙されてはいけない
僕は一人だった
孤独
言葉は一枚の壁板となって
本当の僕を覆い隠した
それが君にとっての特別?
ばかばかしい
これからの自分にさよならを言っても
すぐには楽になんてなれないんだよ
言葉にも満たない記憶の裡に
僕が隠し続けたものは何だったのだろう?
口癖はいつだって嘘にしかならない
見当たらない
僕が探し続けていたもの
いや違う
僕は何も探していなかったはず
見知らぬ誰かに肩を叩かれて
耳元で吹き込まれた
ただそれだけだ
姿の見えないものを求め続けていただけ
生まれてきた意味なんて
どこにもない
価値もない
見つからない
だから生きているなんて
言い訳にもならない使い古された哲学の垢屑
だけど生きるしかないんでしょう?
回りくどい言い方は好きじゃないけど
ここまで言って解らないんじゃあ
もう仕方ないよねえ
生まれる前から知っていた答え
その為に生きていくのかな?
不器用だった朝に
僕の目の前に姿を現したものがあった
無駄なものを省いて
必要なものだけを残したら
たったの一文字が最後に現れたんだ
詩




