01話 これは夢だ。夢なんだ。
アれ?ココはドコ?私はダレ?
・・・ワタシ?
あぁ、そうだ、私は人間だった。
・・・ニンゲン?
そう、人間の女の子で、名前は・・・?でも確か、高校に通っていて・・・
両親と三人で暮らしていて、友達はなっちゃんときぃちゃんに・・・
あ、あと、ご近所の星野さん家に姉妹がふたり、いて・・・そして・・・。
なんだか、頭の中に霧が出てきたような感覚になり、記憶がうまく思い出せない。
途中までは良かったのに、一つ一つ順に思い出していくと、どこかで詰まる。
その詰まりは、どれも黒いモザイクがかかっていて、よく分からない。
なんでだろう?
今、私の目の前の景色は、モザイクと同じ黒色で覆われている。そして、体の感覚もない。
意識だけが、どこかに浮いているような気分になる。
私は、もう一度、思い出してみる。今度は、この場所について。
最後の記憶は・・・・・カレー・・・・・。そう、カレーだ!
夕ご飯がカレーで、次の日の朝もカレー、いや違った。焼きチーズカレーだった。
それで、お弁当もカレーじゃないと良いな―って思って、普通に学校に登校して・・・ない。
そうだ!思い出した!
駅のレール上に白い光が出て、
男の子が私の所為で連れていかれそうになって、
手を掴もうとして、
目の前が真っ白になって・・・。
あれ?これって掴めなかったんじゃ・・・?それで、ドラマや小説の中によくある”気絶して夢でも見ている”感じかな?
そうだよね、手を掴めたんなら、その男の子が近くに・・・・・。
いや、もしかして、これ捕まってしまった?・・・男の子と一緒に光の中に入って、光を起こした人?人達?宇宙人?に捕まり身動き取れないよう、簀巻きみたいにぐるぐるにされているとか?変な薬を飲まされたり、謎の光線を浴びたりして動けないとか?
・・・もしかしたら、あの光は未確認生命体の光で、煙の様な舌で獲物を捕獲し、丸る呑み。私たちはもう、胃袋の中で・・・。
そこで私の頭は、オーバーヒート。私の頭は、良い方じゃない事を思い出した。
もうダメだ!
よし!暴れよう!!
もんもんと考えていても、しょうがない!体は動かないけれど、無理にでも動かす!簀巻きや瓶詰めホルマリン漬けにされたり、胃袋の中にいようとも、暴れて何かに当たったり、割れたり、吐き出されたりするかもしれない!よし!
うおーりゃーっ!と頭の中の掛け声と同時に、体をイメージし、暴れる!が、ぴくりともしない。
何度やっても同じだった。動くはずの部位の感覚も、気配もない。体だけでなく目も動かせられないことに気が付いた。真っ暗で、なにも音がしない。
目をつぶっているのか、開いているのかさえ分からない。心臓も時間も・・・。
あ、これ、ここまでくると、本当に夢かも。夢のような気がしてきた。私の見たことのない夢だと思うと、少しわくわくする。
夢なら何でもできるかな?空飛んだり、色んなものに姿変えたり、ずーと屋根の上で日向ぼっこしてみたい!あ、魔法も出るかな?ゲームみたいに魔法を使ってみたい!
ふと、保育園の時、憧れて観ていた魔法物のアニメを思い出した。
あのアニメは、どうやってたっけ?
あ、そうそう、体中の魔力を呼び起こし、一点に集中。魔法をイメージし、願う。
ストーム!ブリザード!ファイヤー!フラッシュメモリー!
うーん、出てこない。ならば!
私は、またイメージする。今度は体だ。魔力で体の隅々まで神経を繋げ、さらに体全部を魔力で覆うイメージで。
体よ、前へ動けっ!
・・・なーんて、そんな簡単に動くはずn・・・え?あっ、嘘、動いた。
見えないけど、なんだか油の切れたロボットみたいに、カクンカクンと動く!そして、右手が壁のような物に当たる感触がした。
私は右手に力込めて大きく振りかぶり、殴った!パリンッと音と共に、光の穴が生まれた。光で見えない手が、そのまま吸い込まれていく様に光を掴もうとする。
割れた物。それは、目の前にあった暗闇のようで、光が差し込む穴からどんどんひび割れていき、パッといっきに飛び散っていく。そして、辺りは光に満ちた。
私は嬉しかった。幼い夢が少しでも叶ったのだから。
そして、私は浮遊感を感じる。
体がどうなっているのか私には分からないが、とても高い空にいたようで、下へ下へと風をきっている。
落下しながら見える青空は輝いて、とても綺麗だ。見ていると、なんだか先程の好奇心や高揚は消え、心が穏やかになる。
これが夢なら、私は殺されなきゃいけない。私の夢は、死んで目が覚める。
(・・・あぁ、今日はこれか。)
だから、これからどうなるか分かった。私はこのまま落ちて、地面に・・・。
「あのー、神様ー?なんで落ちているんスか?」
「んん?」
どこからか声がする。
「ここっスよ~。」
声のする方に視線を向ける。私の手(すこしぼやけている無色透明なもの)が握る中に、丸く輝く光があった。
「しゃべった?」
私は驚きながら手を開いた。すると、ビー玉くらいの光が、手の上で跳ね始める。
「風の精霊はおしゃべりなんスよ♪で、それより神様は何で落ちてるんスか?地面にぶつかるっスよ?」
風の精霊と名乗った光は、私と一緒に落ちながら、話しかけてきた。
これは私が見ている夢だから、私が神様ということなのだろうか。
「いや、それで良いんだよ。」
「え?意味分かんないっス。折角あの殻から出てきたのに?」
(あの割れたの、殻だったんだ。)
「出られたから、・・もう良いんだよ。君もぶつかっちゃうから、もう逃げた方が」
「ふざけんなよっ!」
光が私の言葉を遮り、怒鳴った。なんだか、心がざわざわする。
「じゃ、単純に、神様は、死にたいんスか?生きたいんスか?」
今まで見た夢の映像が、頭の中をめぐる。夢の中の私はいつだって同じ答えだ。
「私だって、死にたくなんかない。生きたい!」
その答えに、光が笑ったような気がした。
「かしこまりました!神様!それじゃ、心の中で『上へ』と、願ってくださいっス!」
(上へ・・・?)
すると、下へ向かっていた体が、急に上へと上がっていく。
下がるスピードより速く、高く。・・・というより、飛ばされている!?
「??」
混乱している私のために、光は説明してくれた。
「神様は風の精霊の神様なんスから、この世界のすべての風は、神様の願うままに吹くっスよ!」
「この世界?」
「神様、あちらをご覧ください。」
光が改まった口調で、私の手から離れ、空中を跳ねる。跳ねる先に視線をやれば、大きく広がる絶景に息をのんだ。
「あちらに見えます岩山が、ドラゴンマウンテン。ドラゴンの巣窟です。その少し右に見えますのがバウンド砂漠。その手前の湖が蝶絃湖。広い草原はリウォ―の集落。その横の森がウォール。ウォールに流れているあの滝が、この世界三大美滝とも言われている虹のオーロラ滝っス。」
ここで光が跳ねるのをやめ、私の手の上に戻る。
「風の神よ。ようこそ、この世界トッツェ・ド・ガネィへ!」