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0:01:00話 つづきの風を

ある晴れた春の日の朝、十一重(じゅうひとえ)駅の上り線のホームで本を読みながら、ある決意をした男がいた。

男の名は、山田友ノ瀬(やまだとものせ) (じゅん)

やたら長い苗字の所為で、山田だの、友瀬だの、山友だの、違う苗字で呼ばれることが多い男である。


(オッス!おはよう!同じ時間の電車なんてきぐうだな?ん?何読んでんの?

 あっ、それ俺も同じの持ってる!この本、面白いよな~?

 俺らって、意外と趣味合うんだなっ!)


(よっし!完璧!!流石、俺!!これで今日こそはナンバーゲット!!!)


中学の頃からの片思いの相手に声をかけ、あわよくば携帯の連絡先まで聞き出そうと熱意に燃えていたのだ。


なにせ、この男、中学最後の席替えで片思いの相手と隣同士になったにもかかわらず、緊張してなにも話せず卒業してしまった悲しい過去がある。

しかし、高校入学後、たまたま同じ駅に、同じ時間の電車に、片思いの相手と乗り逢わせたことで男は運命を感じとってしまった。

そして、三分の一しか読んでいない本を片手に、今日、この時、この瞬間を逃せば二度と声をかけることもできないと決め立ち上がったのだ。


この男、かなりのヘタレである。


(あれ?霧が出てきた?さっきまで晴れてたのに。)


男が周りを見まわすと、深い霧に、辺り一面が覆われていた。

自分の足元も見えないほどの濃さだった。



霧の中で、誰かが叫んだ。その声の主が、男の頭に過る。


(この声は!)


突然、一陣の風が吹き、男は思わず、手にしていた読みかけの本を放してしまった。


「あ、やべっ!」


あわてて辺りに目をやると、濃く深い霧がみるみるうちに消えていく。

先ほど同じ心地よい晴れた天気に戻った。


(さっきの風で霧が晴れたのか?あっ!それより本はどこだ!?)


本は意外と近くに、足元に落ちていた。


(線路に飛んでない!セ~~フ。)


本を拾いあげようとした時、制服の上着にしまっておいたスマホまで落ちた。

地面にぶつかった時に電源ボタンに当たったのか、スマホはトップ画面を映し、時刻は電車到着まであと9分。

男はスマホが割れていないことを確認してズボンのポケットの中へ。

本を軽く叩き、読みかけのページを探す。


(え、えーと、ああ、そうそう、ここだ!主人公が王国に盗まれた自分の中二病炸裂妄想日記⦅王女曰く、予言の書⦆を奪還しに、城に忍び込むとこ~からだ。)


 

(それにしても、俺よくこんな変わった本みつけたな~。んで、買っちまったな~。まぁ面白いから、いっか!)



男は本の続きを見つけ、読みだした。今日も天気が良いから昼寝には最高だろうなと、ぼんやり考えながら物語をめくる。


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