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蒼黒アリス  作者: 朱華 麒月&カロン
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エピソード5 コールブランド



目を開けると、そこに転校生が____サクヤが寝ていた。


「うゎぁあっ!?」



慌てすぎてベッドから転げ落ちる。なんだなんだこの状況!?まさか間違えた?何を!?


床に打ち付けた頭をさすりながら顔を上げる。異様に無機質な白い部屋を見て、ああ、そうだった、と思い出した。



昨日、魔法使いハリーシアの家で俺が破壊の救世主(セイヴァー)になる事が晴れて決定し、そのあと魔法学の本や薬草の本などを少し読ませてもらった。大学院に行った厨二野郎が書いたような本だった。そうやって一日を終え自分の部屋に帰ったのだが、叫び声が聞こえたり、壁を叩く音がしたりして、とてもじゃないが眠れなかったのでサクヤのアパートに一時避難したのだ。



「あそこは別世界で保護した異能者のための保護施設。状況についていけなくて半狂乱する人も、多い」


曰くサクヤ。防音にすればいいのに。保護施設とは名ばかりの収容所ってことかよ。



どうやら突然異世界に放り出された俺は意外と疲れていたのか、逃げた先での記憶がない。つまり眠ってしまったらしくベッドに寝かされ今に繋がるわけだ。



…………サクヤが俺をベッドまで運んだのだろうか。


仮にも復讐すると豪語した相手の家に逃げた挙句、その復讐対象本人に介抱されたのか。我ながら笑えない。



時計を見る。なんとも読みづらい造形だが、昨日読み方を教えてもらったのでゆっくりなら読める。……午前5時30分。俺が俺の世界で最後に目覚めた時刻と同じだ。



「ごめん」


見上げると、音で起きたのかサクヤがこちらを覗き込んでいた。いつもの白いパーカーではなく、白いネグリジェ(というより病院の患者服に近い)を着ている。こいつ私服全部白いのか。


「ベッドも布団も枕もひとつしか無かった。必要なら注文するけど」



そう言いながらベッドを降りて俺に手を伸ばす。起こしてくれるらしい。



「…………考えとく」



不本意ながらも白い手をとる。サクヤは異性とひとつのベッドで寝ることも手を繋ぐことにもなんの感情使もわないらしく、俺を引っ張り上げたら無表情のままぱっと手を離した。

前から思っていたけど、サクヤはなんて言うか、距離感がバグっている。これでも俺は健康的な男子高校生だぞ。女子と手を繋ぐどころか、初恋もまだだ。解っているのか。自分が女性だということを。



「それで、今日はアリスの破壊の救世主(セイヴァー)任命をしなきゃいけない。朝食食べたら支度して」


朝食。そういえばこの世界に来てから食べ物らしい食べ物を食べたのは、ハリーシアの家で食べたお菓子(ほぼヴィオラに食べられた)とホットチョコレートくらいだ。

この世界に来て約一日半。


思い出したかのように急に腹が空いてきた。言われてみれば喉もカラカラだ。早く何か食べたい…………と思ったが、リビングにもキッチンにも、朝食らしきものが見当たらない。


とか思っていたら突然、テーブルにアルファベットと数字が浮かび上がり、読み終わらないうちに消え、代わりに食膳の上にブロック状、ペースト状、サプリメントのような形状のを載せた…………食事…………らしきものが二人分、一瞬にして現れた。え、瞬間移動が導入済み!?なんて便利な世界だ…………。



破壊の救世主(セイヴァー)は政府から1日3食、食事の配給があります。本部の食堂でも食べ放題です。アリスがここに居ることは向こうに伝えてありますから、アリスのぶんもちゃんと届きますよ」


背後からヴィオラが湧いて出てきた。だがもう驚かない。



「そうなのか」


「はい。足りないものや新しく買いたいものも政府に頼めば無償で送られて来ます。なので入り用でしたらなんでもお申し付けください」


「……それって給料から差し引かれているとかじゃないよな?」


「そんな事はありません。ただ政府が買ってくれるのは衣食住に必要な物と仕事関係の物だけです。私用は給料で買え、という事ですね」


「そういうことか。太っ腹だな」



その言葉にヴィオラは相槌を打たなかった。いや、打ってはいたが俺はあえて聞こえないふりをした。

こんな内容だったからだ。



「そりゃあ、そのぶん危険ですから………」






俺たちはまたひとつめの楽園、通称ひとつめの楽園(エデン)に向かっていた。ちなみに食事(?)みたいなやつはだいぶ美味しくなかった。


楽園に向かう途中、走らなくても走れる道でずっこけるわずっこけるわ散々な目に遭ってからの楽園なので俺の心は疲れていた。楽園て名前なのにあいも変わらず制御室にしか見えなくて、俺の知る楽園には程遠い。


サクヤはそんな俺は知ったことではないのか、それともただ時間が惜しいのか、北極星(ポラリス)の説明をしながら長い廊下をつかつか進んで行く。



「もう知っていると思うけど、北極星(ポラリス)は我が国____地球国連合海軍直属の、異能者のみで構成された異能集団組織。いわゆる特務機関。詳しい任務内容は任命が無事済んだら話すけど、軍人になるからには我が国と我が君主、そして世界樹に忠誠を誓ってもらう事になる。あとで構内図諸々渡すから、すぐにでも覚えて____」


「あのー、サクヤ。ひとつ気になっていたんですけど…………」


ヴィオラが話の腰を折る。前から思っていたけど、ヴィオラって空気読めない子だ。

しかしサクヤは会話の主導権をヴィオラに譲ってやるらしく、幼女に顔を向ける。



「アリスの服、そのままでいいんですか?」


話が移るとともに、視線も俺へと流れ移る。


学校にいる時世界が壊されたから当然いまの俺は学ランに上履きだが、この世界ではきっと違和感溢れる格好をしているのだろう。しかしこの学ラン、ボタンなしフック仕様で俺の中では割と気に入ってる方なのだが。


「あー…………この格好、何かまずかったか?」


「そう言うわけではありませんが、一応北極星(ポラリス)にも制服があります。他の軍と違って着用義務は式典とかでないとありませんが…………」


ヴィオラがサクヤをちらりと横目で見る。いや、サクヤを見ていると言うより…………サクヤの服を見ている?

……もしかして、


「まさかサクヤが着ている服が、制服なのか……?」


サクヤのパーカーは、白を基調に黒線や赤線を走らせた、制服というより……なんと言うんだろう、身体能力強化スーツみたいな、今にも剣とか持ち出して戦いそうな服をしている。体のラインが意外とはっきり出る構造のせいだろうか。あと、ロングブーツなのかニーハイなのか判らないが、これまた白いヒールのブーツは所謂、絶対領域を展開している。俺の方が背が高いから見えることはないが、しゃがんだり腕を伸ばしたりした時見えないかものすごーく心配。

これが制服というのなら絶対にお断りだ。こういうのは似合う奴が着るから似合って見えるのだ。


サクヤは会話の軸が自分に戻ってきたことに一瞬固まりはしたが、歩みを止めて自分を見下ろし、そして首を横に振る。


「違う。これは、私専用に作られた服。制服のままだと色々不都合が多いから」


なぜかこの時サクヤは表情を変えなかったが、代わりにヴィオラが母親に叱られた子供のように下を向いてしまった。


…………不都合が多いって、どういうことなのだろう。サクヤがアルビノであることと関係があるのか?アルビノの人は太陽の光が苦手だって言うし。サクヤはそんなことなさそうにしているけど。

やがて下を向いていたヴィオラが天真爛漫に戻り、言葉を紡ぎ出す。


「……北極星(ポラリス)にいる異能者には、破壊の救世主(セイヴァー)の素質のない…………()()()()()()()()()()()()()も大勢います。前にも言いましたが、破壊の救世主(セイヴァー)の素質を持った異能者は現在4人しかいません。そして破壊の救世主(セイヴァー)の中で制服を正しく着用している人もいません。一人アレンジしまくって原型留めていない人ならいますが……」


いないのかよ。

しかし妙だと思っていたが、やはりそう言うことだった。たった3人にこの意外とでかい本部は違和感だらけだったからだ。だがそれは破壊の救世主(セイヴァー)が3人というだけで、実際は世界の破壊ができない多くの異能者が()()()()()()()()()()()でパラレルワールドを守っているのだろう。


…………あれ、そういえば、()()、だって……?



「俺と、サクヤと、ハリーシア……あと一人足りなくないか?」


ヴィオラはさも当たり前、とでも言うようにさらりとその言葉を口にした。


「あぁ、それは司令のことです。北極星(ポラリス)最高司令官、メテオライト大将ですよ」


「さ……最高司令官!?」



北極星(ポラリス)で一番偉い人が、破壊の救世主(セイヴァー)の素質持ちだと!?アルビノJKだったり魔法使いがいたり、なんだか破壊の救世主(セイヴァー)って属性盛りすぎな人多くないか?

だがサクヤもヴィオラも俺の反応をジメッとした目で流す。


「別に身構えなくていい。本人に会ったら多分がっかりする」


「そうですね。夢は見るだけならタダですけどね……」



…………最高司令官メテオライト大将、一体何者だ。



「に、にしても変わってるんだな、制服の着用義務が無いなんて」


止まっていた歩みを再開し、サクヤはまた俺を見ないで話し続ける。


北極星(ポラリス)は異端だけど……破壊の救世主(セイヴァー)はもっと異端。義務付けられてないだけで、破壊の救世主(セイヴァー)以外の異能者は基本制服を着用している。…………あなたは、どうする?」


そう言いながら、今度は俺を見つめてくる。


俺は改めて自分の学ランを見下ろした。

俺の制服だった。それだけの理由で破壊を免れた、俺の世界から唯一持って来れたもの。


思えば制服を着る瞬間が嫌いだった。また今日もつまらない一日が始まるのか、そう思っていたから。



「…………いや、俺はこのままでいいよ。……このままがいい」



ここに来て沸いてしまった愛着は、もう拭うことはできない。

サクヤは黙って俺を見ていたもののすぐに前を向き、特に何も言ってこなかった。


…………このままでいいってことなのだろうか。



「しかしアリス、その靴、室内用ですよね。破壊の救世主(セイヴァー)になったら任務で様々な場所へ赴きます。半長靴か、戦闘靴にした方がいいのでは?」


確かに、軍のお偉いさんに会うかもしれない時に上履きだと流石に失礼か。


「そうだな。じゃあ靴だけ変えるよ。こう言うのは政府が買ってくれるのか?」


「任務遂行のためですから問題はないと____」


やっと北極星(ポラリス)本部、ひとつめの楽園(エデン)に辿り着いた、その時だった。



「じゃあ就職祝いに、アリスに軍靴をプレゼントしようじゃないか!」



どこからともなく、聴いてるこちらも気持ち良いほど高らかな声が響き渡り、かと思うと俺の少しボロだった上履きがタールの沼に落としたかのように綺麗な黒塗りの半長靴に変わった。

俺が声の主を探して辺りを見回した時には、すでにサクヤとヴィオラはある一方を凝視し、確かに視線の先には人影が揺れる。


その人物は焦げ茶色のとんがり帽子に焦げ茶色の外套、オレンジのボーダーのニーハイをガーターベルトで釣り上げ、亜麻色の長いサイドポニーの髪…………ってこいつは!



「ハリーシア、なんでいるんですか!?」


ヴィオラの甲高い声が響く。


そいつが明るいところに姿を表す。前髪パッツン、金色の瞳に亜麻色の長いサイドポニーは、間違いなく昨日の魔法使い、ハリーシアだった。


服が違ったから気づくのに少し遅れた。

そういえばはぐれ者だけど破壊の救世主(セイヴァー)でもあると言っていたっけ。



「やっほー。なんで、と聞かれたのでお答えしよう!自分から志願したんだよ、アリスの任命官やりたいって」


わざとらしく俺にウインクしてきた。


「なんでだよ」


「そりゃあ、ね……君に宿っているのが、水属性の生命力だからさ」



水属性。……生命力?またよく判らない単語が出てきた。



「生命力……?水属性……?その属性って、前にも言っていたけどなんなんだ?」


ハリーシアがサクヤを見やる。サクヤは全力で顔を背け、ハリーシアは大袈裟にため息をついた。



「はああぁ〜〜。まーたサクヤ、『言わなくていいことは言わない、教えない、必要な時に話す』とか言ってなーんにも話してないな?それ、後でとんでもないこと起こすから絶対」


「………別に、その考えは間違っていないと思うけど」



そのサクヤの反論に、ハリーシアの笑顔が少し不気味に答えた。俺は背筋に冷や汗が浮くのを感じた。



「話してくれないっていうのは、当事者からしたら結構辛いものさ。そして時に残酷だ。悪意を込めて渡した林檎が他者を救うことも、悪意なく捥いだ林檎が自分を殺すこともまた…………」



そこまで言うとハリーシアは最後に大きく口端を釣り上げ、そしていつもの笑顔に戻り、


「生命力っていうのは、全ての命のエネルギーの源、全ての物質の原点であるマナを生み出せる力のことだよ。まあ正式名称はもっと長いんだけどね。大前提、()()()()宿()()()()()()()()()()()()()()のだ。異能者は常に無から有を、ゼロからマナを生産してしまう。これは破壊の救世主(セイヴァー)としての素質の上で最も重要な力でもある。ほら、前に言った『諸事情』ってやつ」


ああ、なんか言ってた気がする。確か、破壊の救世主(セイヴァー)が世界を破壊しても生き残れる理由……だったような。



「世界を壊すと全ての物質と因果が消滅してしまう無空間に落とされるが、生命力があれば()()()()でも多少は生きていられる。生命活動に必要なモノを周囲にばら撒いているようなものだからね。普通の人間は即あの世行きだけど。そして、異能者はこの超万能物質、マナをあらゆるモノに変換できる。炎や水、動物、植物、電気、空気、気圧、重力、その気になれば惑星や宇宙さえも手の内で創造可能だ。人の手には余る御業だよねえ。ところがどっこい、マナの偏りによって、扱える生命力には多少の個人差が出る。北極星(ポラリス)はこの偏りに名前を付けて管理している。それが属性だ。例えばサクヤは火属性、あたしは地属性って感じで。アリス、君の場合その溢れるマナに水の気配を感じるよ」



これは、とんだびっくり箱だった。俺はなぜあの真っ白な空間でも生き残れたのか、あまり深くは考えていなかった。破壊の救世主(セイヴァー)の素質なんだろうと、自然に思っていた。


考えが甘かった。異能者が生き残るんじゃなく、()()()()()()()()()()ってことだ。

いやそれよりも、その後にハリーシアが放った言葉。「異能者はこの超万能物質、マナをあらゆるモノに変換できる」って…………それって、サラッと言ったけどかなり凄いことなんじゃないのか?


「…………じゃあ、俺の掌から水を出したりは……?」


「できるね」


「水を紅茶にしたりとか……」


「朝飯前とはこのことかな?」


「明日の天気を雪にしたり……!」


「人間が想像し得ることは可能だと思ってくれて」



……まるで魔法だ。16年間生きてきて、魔法なんて一回も使えたことなどないが。本当にそんなことができるのか?


「ああ、勘違いしないでくれよ、原理は似ているが生命力は魔法じゃない。生命力の方が魔法よりずっと希少であり魔法より上の不可能を可能にする奇跡だ。世界を壊す力の副産物は、世界を創造できる程の強大な奇跡…………君にとっては皮肉かな」


ハリーシアに心を見透かされたと感じたが、俺はそれ以上にこの生命力という未知の力への胸の高鳴りがあった。

ハリーシアの言う通り、俺の力は世界を壊すもの。でもこの力のおかげで俺は世界再生ができる。


絶対に、使いこなしてみせる。俺のために北極星(ポラリス)と、俺自身を利用してやる。



「しかしここからが本音、水属性を宿した異能者は君以外まだ見つかっていないんだ」


なぜかハリーシアはにやにやしながらサクヤの方を向いてそう呟く。

サクヤがジト目で言う。


「で、どんな武器か見に来たと」


「そゆこと」


「……武器って?」


俺がサクヤに向けた質問を、今度はヴィオラが返した。


「武器はですねー、破壊の救世主(セイヴァー)だけでなく異能者全員に与えられる官品のことです。オーソドックスなものでは剣や槍、銃などがあります。ただし選ぶのは異能者ではなくて武器が、ですけどね。異能者と武器は持ち主が強くなると武器も強くなる、という特別な誓約を結びます。みんな自身の半身として生涯大切にするのです」


ヴィオラの説明が終わるのを見計らったかのように、ハリーシアはガイドを滑らかに引き継ぐ。


「どんな武器が自分の元に来るかは属性も多かれ少なかれ関わるから。だから今まで水属性の武器って見たことないんだよ。それに政府もどんな武器隠し持ってるかわかったもんじゃないからね。これも研究さ、研究」


そういったハリーシアはだいぶそわそわして、同時に嬉しそうでもある。本当の目的は武器か。

…………しかし剣とか槍、ということは、破壊の救世主(セイヴァー)は何かと戦う仕事なのだろうか。


いやでも、国防のために武装するのが軍隊。必ずしも侵略が目的とは限らない。



「じゃ、早速始めようか、破壊の救世主(セイヴァー)任命」



そう言うとハリーシアは水晶の中に蒼い水を入れたような球を取り出し、両手で包むように持ち上げた。それに反応して楽園の地面がフラクタル構造のような幾何学模様を描いて光りだす。




「ハヤミ アリス、あなたは自らの意思で破壊の救世主、セイヴァーとなることを決定し、偉大にして万能の絶対者、我らが仕える全ての母に忠誠を誓うか」



これに答えたら、俺は破壊の救世主(セイヴァー)から逃げられなくなるのか。

一生。死ぬまで。



…………でも普通で平凡な俺にも、気にかけてくれる人はいた。大切な人が居た。俺はあの世界でちゃんと愛されていたんだ。

そんな人達に一生会えないで、あの日常が一生戻らないでこんな異世界で生きることが俺は辛い。



これは俺自身の今までの罪滅ぼしでもある。


そしてあいつに、サクヤをこの手で殺すためにも。


俺は、この道を進む。何があっても歩ききってみせる。




「____はい」




答えた瞬間、球が霧散し中に入っていた蒼い水のようなものか宙に浮いた。それはふよふよとこちらに近づいて来て、最終的に俺の左手首に巻き付いた。


…………腕環?にも見えなくない。



「それは拘束具。行動を監視、制限したりするけど能力強化、所持品収納、パラレルワールド探知、侵入、離脱も拘束具によっていつでもどこでもできるよ。____さあ、これで君も正式に破壊の救世主(セイヴァー)だ。おめでとう」



そんなこと言いながらハリーシアはにこにこそわそわしている。武器の方が気になるのか。


すると空中をファイルのようなものが一列に並んで大量に飛んできて、円を描く。その中のひとつが俺の方に引き寄せられ、俺の手前で止まった。


そこには、細長い蒼黒の剣が描かれている。



「これって……」


ヴィオラが口を開きかけた時、ファイルが輝き、細長くなって____剣になった。

思わず手に取ると、剣は徐々に輝きを失い、俺の腕に剣の重みがずっしりと伝わる。


俺は自分の手の上に乗っているその剣をまじまじと見つめた。黒い柄、蒼い紋様、竜が彫り込まれた、氷のような透き通った刀身。素人目に見ても、この剣は名剣だと解る。

この剣が、俺の半身になる剣。俺を選んでくれた武器。


ハリーシアが感嘆の声を上げた。


「ほえー……まさかこれってもしかして……」


「エクス……カリバー……?」


サクヤがその言葉を継ぐ。エクスカリバー。伝説の聖剣じゃないか。

そんな凄い剣を、俺が使いこなせるのだろうか。


「いえ、登録されている名前は……“コールブランド”です」


「意味同じだよヴィオラ」


「解っていますよ。えーと……水竜剣コールブランド。あと3回強化可能です」


「アリスに使いこなせるの?」



失礼なこと言うなサクヤ。まあ俺も同じこと思ったが、そんな本人の前で言うことじゃないだろ。

俺はちょっとイラッときたので、


「そんなの、やってみないと分からないだろ」


そう反論した。するとサクヤは顔色を一切変えず、しかし分厚い肉を切り裂くようにはっきりとそれを口にした。


「じゃあ、やってみる?」


「?何を」


「……パラレルワールドの破壊に決まってる」



ぞく、と背筋を冷たいものが走る。


覚悟はしていたつもりだった。世界を壊すということは、そこに在る全ての命を殺すこと。人間だけじゃなく、動物も植物も平等に。そこに不公平はなく、あるとすれば俺と同じ____異能者だけ。

俺はその重みに耐えられるだろうか。


…………いや、耐えなければいけない。それが出来なければ、世界を再生することが出来ない。そして、すでにその身を世界に捧げているサクヤを殺すことも。



「____ああ。やる」



サクヤは頷くと、ぴしっと姿勢を正して俺を見上げる。


「了解。アリス・ハヤミを地球国連合海軍特別機動隊異能者集団北極星(ポラリス)所属、分野・破壊の救世主(セイヴァー)、曹長に任命する」


そう言って握手を求めてきた。


今朝は異能者とその保護者という関係だったが、破壊の救世主(セイヴァー)破壊の救世主(セイヴァー)として握手をするのは、なんだか今朝とは違うぎこちなさを感じる。


陶器のように白いその手を俺はそっと握った。思った以上に小さくてしなやかだ。



「政府からの祝福として『メルクーア』の姓を贈る。これからはアリス・メルクーア・ハヤミと名乗るように」


「メルクーア?」


「旧ドイチュ語で『水星』って意味ですよ」


ナイス解説ヴィオラ。


握手が終わるとサクヤは足を揃えて右手で敬礼した。急にいつもと雰囲気が変わった。軍人モード、だろうか。



「申し遅れた。私は地球国連合海軍北極星(ポラリス)所属、分野・救世主(セイヴァー)、サクヤ・ノヴァ・フレイム少将である。これからは貴官の上官として任務に当たる。貴官の着任、心より歓迎する」


そう言って出会って2日、やっと本名を名乗った。そしてこれから俺の上司になるらしい。別に誰でもいいけど。



「了解。じゃ、初任務命令お願いします、フレイム少将」


馬鹿にされたと感じたのか、サクヤはむっと俺を睨みつけたまま命令する。



「……アリス・メルクーア・ハヤミに命令する。(ラーモ)5423891478YOAKNを破壊せよ。知っての通り私達破壊の救世主(セイヴァー)の仕事はパラレルワールドを壊すこと。世界を破壊するには、世界の(ワールド・)守護者(ガーディアン)を見つけて、倒さなければいけない」


世界の(ワールド・)守護者(ガーディアン)…………?」


また知らない単語だ。教わってないこと多い気がするけど、初任務果たして大丈夫か…………?


「私達に意識があるように、世界にも意識がある。その意識集合体が世界の(ワールド・)守護者(ガーディアン)。数万年に一度くらいの頻度で自らの宿る世界を壊すか救うかを決定し、壊す場合は自分で自分を殺す。つまり世界の(ワールド・)守護者(ガーディアン)を倒せば、世界が破壊される」


…………意外だった。世界を壊すほどなのだから、てっきり機械とかを使って破壊するのかと思っていた。

そして同時に、嫌な予感も俺の中で形成されつつあった。


「……でも、その世界の(ワールド・)守護者(ガーディアン)?は世界を壊しもするんだろ?だったら話し合いでなんとかなるんじゃないか?世界樹がどんな危機に陥っているのか知らないけど、その理由を話せば…………」


「それでなんとかなる場合もある。でもあいつらには意思も感情もあるんだ。交渉決裂する方が多いね」


世界の守護者(あいつら)』と呼んだハリーシアの声には、彼らへのせめてもの贖罪であるかのような響きがあった。


そいつを……世界の(ワールド・)守護者(ガーディアン)を殺すことが、世界を壊すことに繋がる…………だから破壊の救世主(セイヴァー)は武器が必要なのか?



「……そして世界の(ワールド・)守護者(ガーディアン)は、宇宙空間に存在している。宇宙へ突入すれば向こうから気づいてやって来る」


またぶっ飛んだこと言い出す。若干慣れちゃったけど。


「……まさか宇宙に行く為に毎回ロケット飛ばすつもりじゃないだろうな?」


「そんなめんどくさいこといちいちしませんよ。拘束具に瞬間移動機能も付いていますから、そこんとこは安心してください」


「宇宙に行っても破壊の救世主(セイヴァー)には生命力があるから死なない。説明は以上。質問は?」



俺は迷わず手を挙げた。正直質問は山ほどあったが、今一番欲しい答えを。


「なんで壊さなきゃならない?世界樹の危機って何だよ?」


サクヤは無視しようとしていたのだろうが、さっきハリーシアに言われたことを気にしてか、少し間を置いて静かに言った。


「…………爪が伸びすぎたら、自分も周りも危ないってこと。他に質問は?」



…………もっと言い方あるだろ。不器用キャラか。

だがこれがこいつから引き出せる最低限の情報だろう。小さい情報だが、これ以上問い詰めるのは野暮ってもんだ。深追いする男子は嫌われるって姉貴も言ってたし。


俺は仕方なく首を横に振った。サクヤの紅い瞳が光を映し、血色で濡れる。



「行こう。世界を壊しに」



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