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蒼黒アリス  作者: 朱華 麒月&カロン
23/33

エピソード23 甘さは残酷がお好みですか






轟音が鳴るのは何度目だろう。




いつもの奪う者(ローバー)排除より骨が折れそうなことはアリスの話で解っていた。


でも、今日の私はいつもの私じゃないことを私は忘れていた。




(刀が……重い……)




アリスをリリスから庇った時私の12年間の愛刀、血櫻が折れた。




もちろん、血櫻以外の剣で実戦に出たことはある。


でも12年間の歳月は短いようで長いらしい。いつものように刀をうまく振るえない。




対して奪う者(ローバー)の主武装は機関銃やレーザーのような銃火器。刀で両断し難い上、接近戦に持ち込む前に遠距離で攻撃される。いくらかこちらが部が悪い。



再び銃弾の嵐がやって来た。


目視で避けられるものは避け、避けきれないものは刀で弾く。


そうやって間合いを詰め、懐に入れば




超新星爆発アルス・ノヴァ!!」




一気に辺りを爆発させて蹴散らしてやれる。




……でも。



私は辺りを見回した。



どれだけ斬っても、どれだけ燃いても、一向に減らない敵。


もし私が何の力もない一般人だったら、この状況を恐怖していたのだろうか。





「……この世界の私は、何を思って死んでいったのかな…………」






もし私が異能者じゃなかったら。


もし私がアリスの世界を破壊していなかったら。


ーーアリスの世界を破壊したのが私じゃなかったら。









「馬鹿サクヤッ、後ろ!!」



それは突然の出来事で、声が聞こえた時にはもう迫り来る殺意を避けきれなかった。






私だったら。




突然ありえない方向からのありえない力を受けて、私は頭から転倒する。


衝撃とともに遅れて状況を理解した。





奪う者(ローバー)の攻撃からアリスが私を守ったのだ。


衝撃はその時アリスに抱えられて吹っ飛び、地面に叩きつけられた時のものだったらしい。




私はすぐさま起き上がり、視野を確保した。



地面に転がったアリスから鮮血が滴っていた。




「……アリス……」





彼は動かない。動いているのは地面を彩るように溢れるアリスの血だけだ。





ーー何をしているんだ私は。




彼は別世界のアリス。私の識っているアリスじゃない。


このまま見捨てても何の利益も不利益もない。




それなのに、何故ここから動けないんだろう。





「……サクヤ」




アリスの声が微かに零れる。





「…………お前はこんな風に、俺を庇って死んだんだ」





心臓の音が耳に張り付く。




別世界もしもの自分の最期が予想外すぎて、私はアリスを長い間見つめていた。




「お前らしくもない最期だった。俺は死ぬ寸前のお前に泣きながら聞いたよ。何でお前が、何で俺をって。そしたらお前なんて言ったと思う?」




私が首を横に振ると、アリスは今にも倒れそうになりながら立ち上がり、笑って言った。





「『ぱふぇ、食べられなくなるの、困る……』……ってさ」







それは、私がリリスからアリスを庇った時の言葉だった。



つまりこの世界の私はあの時死んだのだ。





「……『俺』はお前が感情の起伏が激しいことくらい識ってる。それに表情がついてこないだけで。何で軍に入ったのかも、“あの実験”のこともある程度識っている」




アリスは血を押さえながら、しかしその瞳は私の目を真っ直ぐに捉えていた。




「それを識っているのは、『俺』が識ろうと思ったからだ。復讐する為じゃない。単純に興味があった。『俺』は、お前を識りたかった」





その言葉を聞いて、私の胸は何かの感情が溢れたかのように大きく脈打った。



ーー殺意だけじゃなかった。






「だから、お前が思っていること、感情をちゃんと言ってやれ。俺は馬鹿だから言われないと解らない。『俺』はきっと戻ってくる」



「…………うん」






『ちょっとサクヤ、サボってないで仕事……じゃないけと戦闘してください!ワームホール塞いだのでわたし達も加勢しますから!』




ヴィオラからの通信だ。私はアリスの傷を見ながら言った。




「アリスが重傷を負った。下手したら致命傷。ヴァレンはこっちに来て」


『え!?まじですか了解です!今すぐ』


「いや、いい」





そう言ったのはアリスだった。



アリスはどこか哀しそうな視線で言った。





「……サクヤ、俺は運命に寿命も定められているんだ。よく聞いてくれ。……そっちの『俺』の余命は、あと三年だ」






通信先のヴァレンとヴィオラもーーそして私も息を飲むのがはっきりと判った。





「ヴァレン、お前本当は最初から判っていたんだろ」




なんで、どういうこと。そんな単語が頭を駆け抜けては消えていく。頭に乗っているヴァレンへ視線を向けるのでやっとだった。




ヴァレンは深い溜息をついて、いつか言おうとは思ってたんだけど、と前置きして話し始めた。





『……主人はリリスに斬られた時、腹部にリリスの剣のカケラが寄生した。それは主人のマナを糧に成長している。そのことに気づいた時真っ先に主人の身体への影響を単純演算した。そこから導き出された答えは、』



「余命……三年……」





図らずも私はヴァレンの言葉を継いでいた。





『そう。しかも肉体に寄生しているんだ、これ。世界パラレルワールドを行き来する時、通常は意識のみが転移して転移先での仮の肉体が死んだとしても本来の世界の肉体になんら影響は無い。意識さえあれば。でも主人は別だ。異能者は溢れるマナのお陰で無空間でも肉体と意識を保てる。でもそれは同時に、世界チャンネルを変える時意識だけではなく肉体も一緒に転移することになる。帰る世界が無いから。だから主人はこのままだと確実に死ぬ。主人が助かる方法はただひとつ。三年経つ前に本来の世界を再生させる。それしか道は残っていない』





静寂が訪れる。





こんな事を識ったら、アリスはきっと今度こそ壊れてしまう。絶対に。


私はもうアリスを救い出せる気が殆ど失せた。





「だから、な、サクヤ」




私はアリスを見つめ直した。




脇腹から漏れる赤の量は尋常じゃなかった。黒い学ランが赤く見えるほどだ。


それなのに何故かアリスは笑っていた。引き攣っている。作り笑いと言ってもいい。






「この剣、貰ってくれないか」







それは、死を目前にした者の遺言みたいだった。


いや、アリスはきっとそのつもりでーー。




「この世界はそっちより三年早い。俺の寿命はもう残り僅かだ。そしてこの剣は、俺が死んで初めて完成する。……ほかの奴にやるにしても、もうこの世界には俺以外誰も居ない。知り合いに貰って欲しいってのもあるけど」







私は深く考えなかった。



遺言は何であれ、快く見送るのが生者の務めではないか。そう思ったのだ。




私の意思が伝わったのかアリスは微笑み、シャツを乱暴に破る。


蒼い剣の形をした宝石が腹部に埋め込まれているかのようななりのそれは、陽の光を浴びて残酷な輝きを放つ。


アリスの命を吸った聖剣。きっと明らかに水属性なのに、





「……私に使いこなせるかな」




そう言うと、アリスは苦笑し、




「お前、俺が初めてコールブランド貰った時にも同じこと言ったろ」





次の瞬間、私達の居たビルは地響きとともに崩れ落ちた。










「ーーーー月斬桜!!」





叫ぶと、斬撃はビルの残骸を、そしてその周囲1キロ程に居た奪う者(ローバー)を無数の片へと変化させた。




尸が地面に落ちる音が雷鳴の如く響き、ワンテンポ遅れて血の雨が降る。




私は左手に持った剣を見た。





眩い輝きを放っていたそれは、しばらくすると光を失っていき、予想に反し私が前に持っていた血櫻となんら変わらない日本刀に成った。



血の雨が、新しい血櫻の刀身をなぞるように滴り、紅く染めてゆく。






「……アリス、ありがとう」








罪色の躰に罰を重ねて、私は血櫻を握り直した。











**********










俺にはやらなければならない事がある。



世界再生とサクヤへの復讐だ。


それを成すためならどんな犠牲が出ようと構わない。




そう思うと剣が軽くなった。



逃れようのない罪は理由を得れば満足した。






でも本当は違った。





俺は普通だった。姿も能力も全てがアベレージ。



だから俺にとって、命ギリギリの、運命との駆け引きは今までの何を差し置いてもいいくらいの快感だった。


『生』を実感する心地よさ。異常な状況だけど、それをいつも夢見てる。





今なら自ら死を選んだ樹月の気持ちが解る。





あいつも“普通”だった。だからあいつは乞いたんだ。




俺とは真逆の、『死』の快感を。






「君はそう言った意味ではとても人間らしいと思うよ。何も感じない殺戮者よりずっといい」


「でも人殺しに変わりない!」





コールブランドの言葉を遮るのは、俺の本心。





「もう何億人も殺した。そしてそれに意味が無かったら?俺はただの人殺しだ。他の世界を壊してまで救いたい俺の世界に、失ったモノ以上の価値があるのか?無いよ。俺の世界に、そして俺自身にそれと同等以上の価値も意味もあるはずないんだよ!!」





……なんでこうなってしまったんだっけ。




剣を振ったのは?


世界再生の為だ。


サクヤに復讐したいのは?


あいつが俺の世界を壊したからだ。


リリスを殺したいのは?


全ての黒幕だからだ。


樹月が死んだのは?


ーー俺が弱かったからだ。








そんなの分かり切った事実だ。



今更過去は変えられない。


でも理想の未来を求めても、俺にそんな資格があるとも思えない。




ただの傍観者だったらどんなに楽だっただろう。




もし俺がアダムの生まれ変わりじゃなかったら。



もし俺が殺戮せずに黙ってひとりで死んでいたら。



もし俺があの時もっと早く気づいて動けていたら。







もしーーーー。














「自惚れるな!!」







声が聞こえたのはその時だった。


俺は恐る恐る耳を塞いでいた手を外した。






……サクヤ?







『外』からだ。『ここ』には居ない。


そもそも、『ここ』に来れるのはコールブランドと俺だけだ。







「もしもなんて考えるな!どんなに後悔しても、喪ったモノは戻らない!なら、今できる最善の方法を死ぬ気で考えて選択しろ!そして選択した先に何があったとしても、受け入れる覚悟を持て!それが『世界を壊す』者にできる唯一の贖罪だ!目を覚ませ!自分の何を犠牲にしてもその罪を一生背負え!誰にも渡さないで、自分の罪のまま死ね!解ったら早く起きろこの中二病!!!!」









…………。







………………そうか。








サクヤも『イヴの生まれ変わり』なんだ。




そして俺と同じように、生きる為には破壊の救世主(セイヴァー)になるしかなかった。



サクヤも、ハリーシアも、司令も、みんな同じ罪を背負ってる。


俺よりも大きい、比較にならないほどの。






運命に遊ばれているのは、俺だけじゃない。















「それが、君の選択か」






背後から声が聞こえる。コールブランドの声だ。




相変わらず姿は見えないが、俺はもう彼が怖いなんてことはなくなっていた。




「先に進めば、待ち構えるのは困難ばかりだ。絶望なんて日常茶飯事、今日の友は明日は死人、そんなこともしょっちゅうある。それでも君は生きていけるのかい?この残酷な世界を」






その言葉は、再び俺を絶望の淵へ誘ったが、何かが俺の手を掴んで引き戻した。



それはサクヤだった。あろうことか俺を絶望から引きずり戻したのは、他でもない復讐相手だったのだ。




何故。



それは、





「俺は愚かだ。一番近くで俺を見てくれていた奴を、俺は復讐相手としてしか見ようとしなかった。あいつは俺のことをそんなの関係なく見ていたのかもしれないのに」





サクヤにとって、俺は何なのだろう。



俺にとって、あいつは何なのだろう。






「俺は『識りたい』。サクヤもリリスも許せないけど、それ以上に真実を識りたい。だから行く。生き抜いてみせる」







見えない青年は、優しい笑みを浮かべていた。











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