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蒼黒アリス  作者: 朱華 麒月&カロン
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エピソード21 Either hope or despair









無空間で保護した少年は、多田ただ 樹月いつきと名乗った。


俺と同じ高校一年生。休日の朝、家でゲームをしていたら世界が壊れたらしい。



取り敢えず北極星ポラリス本部に連れて帰ったはいいけど……。



ヴィオラが彼の前に紅茶を出す。樹月は一瞬 紅茶に目を移し、そして俺を睨みつけた。





「毒とか入ってないだろうな」


「失礼な人ですね!安全ですよなんなら調べますか?カフェイン4.2%、ポリフェノーr」


「そこらへんにしとけヴィオラ。マスター命令だ」



それ以上言ったら機械なことバレるだろ。


ヴィオラは即座に黙った。






「……何も話してくれないのかあんたら。オレは何も識らない。でもあんたらは何か識ってるだろ?教えてくれよ」





樹月はあの時の俺と同じ立場にいる。そして俺は真逆だ。


これから俺はこの少年の怒りと憎悪を買うだろう。




でも俺が説明しなくてはいけない。






「……今から全て話す。落ち着いて聞いて欲しい」

















「……そんなの信じられるかよ。異能者とかパラレルワールドとか。世界が、壊れたなんて……そんな…………」




樹月は下を向いたまま聴いていた。


沈黙が流れる。





「…………でも解んねえな、あんた」


「……?俺か?」




名指しされ、彼を見つめる。樹月は皮肉るような笑顔で言った。




「ああ、あんただ。あんたも世界を壊された側の人間なんだろ?なのになんであんたも世界を壊しているんだ?」




被害者が加害者になっているのが樹月には理解できないらしい。まあ当然だが。




なんで……か。




そう言われたのは初めてだ。


考えてもいなかった。



自分の心にぴったりはまる言葉を探りながら、俺は文章に起こした。





「……取り戻す為と、復讐の為だ」




樹月が顔を上げた。




「取り戻す?復讐?」



「ああ。俺は自分の世界に帰ることを諦めてはいない。一片たりとも。でもそのためには他の世界を壊さないといけない。そして俺の世界を壊した奴を殺すために、俺は強くならなきゃいけない。俺の為に、俺は世界を壊している」




俺は何かが違うような感じを胸の奥にしまった。


でもきっとこれが今俺が説明できる精一杯だろう。





「……んだよそれ」





樹月の声が掠れて漏れた。




「世界再生?復讐?自分の為に?なんでテメエの勝手な都合で……!!」




樹月が俺に噛みつかんばかりに怒鳴る。





「ふざっけんじゃねえぞ!!世界は!人間の都合で壊していいもんじゃねぇだろ!!何かの為に、誰かの為に他人の世界を壊すなんて、そんなの間違ってる!!!!」








……間違ってる?





なんでこいつに、


そんなことを言われているんだ?





世界は。


世界樹は。


運命は。





俺を離してはくれないっていうのに。







「……じゃあお前のそのちっぽけな手で何ができる?何が救える?…………何も救えてないだろう。生き残ってしまった奴にできることなんてたかが知れてる。掌の上で弄ばれて何もできないまま握り潰されるのか?それこそ間違ってるだろ。別にお前がどう思おうと構わない。それでも俺のやる事は変わらない」





左手の拘束具に報告催促のバイブ音が鳴った。


出て行こうとするすれ違いざま、




「……俺の世界を返せよ」





樹月の涙混じりの声が小さく響く。




俺は足を止めずにそのまま本部を後にした。







…………サクヤも。




俺に殴られた時、こんな気持ちだったのだろうか。














「新しい異能者ですか!?」




本部の談話室には、ライラック准将とスコーピオ中将が残っていた。




「ベティ静かにしてください。まだ軍に所属すると決まったわけではないのですから」



と言いつつスコーピオ中将も嬉しそうだ。




この二人は北極星ポラリスの美少年(美少女?)コンビと呼ばれている戦績三位と四位のランカーだ(北極星ポラリスでは将校のことをランカーと言う)。


スコーピオ中将に関しては長いロングスカートを履いているから完全に見た目は女だが。



とにかく男であれ女であれ、俺にとっては頼もしくてかっこいい先輩だ。




「男の子?女の子?その間?」


「男です。俺と同い年の」


「データは提出した?」


「さっきしました。コピーをヴィオラが取っておいてくれてると思いますけど、見ますか?」




目を輝かせる先輩達。まさか俺が来た時にもこんな事していたんじゃないだろうな。



ファイル一覧に飛んで、最新のものをタップする。




「あ、意外とかっこいいですね」


「なっガレス僕じゃなくて彼を……!?」


「何言ってんですか。あなたが一番かっこいいですよ」


「ガレス……!!」





……あー、あとこの人達は芝居なのか素なのか互いに親友の度を超えた好意が見えることがある。要するにB ○。苦手な方は退室頂きたい。




「でもアリスさん、気をつけてくださいね。初めの頃の異能者はとてもデリケートです。ちょっとしたはずみで弾けます」



さっきまでのアブない雰囲気は嘘だったかのようにライラック准将は心配そうだ。




今思うとあの時の俺は世界再生と復讐という道標を見つけることができた。生きている意味を、希望を見出せた。



俺は死なんて考えていなかった。




「マナの適性は破壊の救世主(セイヴァー)ですか。奪う者(ローバー)増えたんで駆逐隊デストロイヤーに欲しかったんですが……」



スコーピオ中将が肩をすくめる。



「まあまあガレス、破壊の救世主(セイヴァー)適性者は少ないですからいいじゃないですか」




二人の会話を遠くで聞きながら、俺は不安が心を乱しているのを感じた。



俺は生きる為に殺した。




でも彼は……。






『何かの為に、誰かの為に他人の世界を壊すなんて、そんなの間違ってる!!!!』






…………彼が選ぶのはどっちだろう。





施設か、破壊の救世主(セイヴァー)か。


生か、死か。


希望か、絶望か。












しばらく日が経つと樹月に出撃命令が出された。




つまり樹月は軍の傘下に入る覚悟を決めたのだ。


そんでもってハリーシアもサクヤもタカオミも居ないので俺が破壊の救世主(セイヴァー)任命する羽目になった。





何日振りか似合う樹月は痩せていた。


瞳に生気が宿っていない。



それでもここに来たということは、戦う覚悟を決めたのだろう。




俺はさっきもらった緑色のタマゴみたいなものを取り出して、宙に浮かばせる。




「タダ イツキ、あなたは自分の意思で破壊の救世主、セイヴァーとなることを決定し、偉大にして万能の絶対者、我らが仕える全ての母に忠誠を誓うか」




「…………ああ」





タマゴが弾け、中の液体のようなものが樹月の顔まで飛んで行って、光り輝く。その光はやがて樹月の右眼に吸い込まれた。




「拘束具って目にも宿れるのか?」




ヴァレンが面倒臭そうに言う。




「タカオミは心臓に宿ってるよ」





やがてファイルが吹っ飛んできて、規則正しく宙に並ぶ。


そのうちの一つがこちらに引き寄せられる。




ファイルには深緑色の剣が描いてあった。


俺の時と同じように輝き、細長くなる。





コールブランドより少し小さめだ。深緑の柄に銀の装飾が施してあり、扱い易そうだ。





「登録名は……“エクスカリバー(フェイク)b?」




読みながらヴィオラが首を傾げる。




「エクスカリバー?これがですか?あとこの(フェイク)とbって何なんですかね?」


「偽物なんじゃない?」


「まあ武器としては問題なさそうだからいいだろ。樹月、さっき話した通りだが今回お前は見学だ。世界の(ワールド・)守護者(ガーディアン)からはヴァレンとヴィオラが守ってくれる。お前は見ているだけでいい」




樹月は頷かなかった。聞いているのすら判らなかった。


そんなことをしているうちに、ヴァレンが侵入点を開き始める。




俺は光に吸い込まれる前に樹月の手を鷲掴み、ガラス片をその手に押し付けた。




「これはお前の世界のカケラだ。これがあれば世界を再生できる。殺すのと引き換えだが、選択肢は増えた」




言い終わったのと同時に、俺達は光に吸い込まれていった。












慣れたが見飽きることのない砂漠に埋もれた都市がその世界に在った。




しかし少し違ったのは、激しい戦いの痕と共に、壁に黒い人影みたいなのがたくさんあるのだ。




「これってもしかして……」



突然吐き気が催した。日本人ならこれの正体を誰もが識っている。





ーー原爆が落ちたんだ。






「……プルトニウム239を検出。主人の言う通り、原爆投下された可能性が非常に高いね」




ヴァレンが言う。



この世界は第二次世界大戦に近い時代なのだろうか?いや、建物が日本らしくない。


俺の記憶では原爆が落ちたのは日本だけだ。




じゃあこれは、第三次世界大戦の残骸なのか?







「ーーアリス!!九時の方向から時空の歪みを確認しました!!世界の(ワールド・)守護者(ガーディアン)が来ます!!」




……気にしても仕方ないか。





「全員、戦闘態勢用意!!」










**********








「ガレス、イツキさん大丈夫ですかね?」



新入りとアリスが初任務に出発した後、ベティはいつもの心配性を発動した。



「大丈夫ですよ。アリスさんが居ます。あの上達のスピードの速さをベティも知っている筈です」


「そうじゃ、ないんです……」




ベティは俯いた。





「歪みですか?」




ベティは修正者コレクターの中でも特に優秀で、歪みを感知できる特殊能力がある。




「さっきイツキさんとすれ違ったんですけど……彼……やばいです。世界の(ワールド・)守護者(ガーディアン)の本来の仕事は修正者(ぼくたち)と同じ、歪みの排除です。もし見つかったら……





……ただじゃ済まないかもしれません」








**********







「樹月!!」



叫ぶとほぼ同時刻、ヴァレンの


「エンフィールド!!」


という声が響き、円形のフィールドが展開される。




世界の(ワールド・)守護者(ガーディアン)は真っ先に樹月に飛びかかったのだ。




「ヴィオラ、お前は攻撃に回れ!ヴァレン、マナ生産回路出力抑制装置解除していい!樹月を守ることを最優先に考えろ!」


「「Va bene!!」」





ヴィオラは術依存で回復、防御は紙だが攻撃は一撃一撃が重く強い。攻撃に回らせる方がいい。




俺はコールブランドを取り出して、世界の守護者ワールド・ガーディアンに一太刀浴びせる。



当然弾かれ、体が吹き飛ばされる。


そこにできた隙を見逃さず、連続の突きが繰り出される。




「水華蒼穹!」




俺は水の壁を創り、攻撃を無力化する。



そこをヴィオラの詠唱が終わり、




もしフロリンドが(セ フロリンド)誠実なら(エ フェデーレ)!」




声と同時に大量の光の弓矢が飛んできて、世界の(ワールド・)守護者(ガーディアン)を貫こうとする。



時間差で大量に迫ってくる矢を一回、二回、三回……と、世界の(ワールド・)守護者(ガーディアン)は避けていく。



取り敢えずヴァレンと樹月から引き離すことに成功はした。




ヴィオラの矢を避け切ったところを俺は切り込む。


近接戦に持ち込めばこいつは樹月とヴァレンに手が出せない。



「アイス・メルクリウス!!」



俺はコールブランドに霜を憑依させた。


髪一本でもこれに触れたら相手は凍結する。



そのまま斬りかかり、早期決着をつけようとする。



もちろん避けられるが、それでもいい。


俺の攻撃が一度でも当たれば、それは俺の勝利だ。







**********







学ランの少年ーーーーアリスが紫の仮面をつけた幼女と戦っている。



剣技が繰り出され、弾かれ、剣が右手から左手に移動して、バリアで防いで、氷が出現して……。




ヴァレンと名乗った少年のフィールドに守られながら、オレはことの一部をずっと見ていた。



あれが、世界の(ワールド・)守護者(ガーディアン)。あれを殺せばこの世界が壊れる。オレの世界と同じように。




怖い。




周りの人が、モノが割れて消えていく。その先には暗闇しかなくて、オレ以外誰も居なくて、真っ白になって。



なんでアリスは、“あれ”を識っていながら戦える?




さっきアリスから貰ったガラス片をポケットの中で弄る。



なんでこんなちっぽけなモノに希望を持てる?


誰かを殺してまで自分の願いを優先できる?



それはオレには出来ないことで、そして愚かな行為だ。




オレは








…………死にたくない。








「……ヴァレン、て言ったか?そこのお前」




翠目の少年は目線だけこちらを向ける。



「何?僕今君を守るのに忙しいんだけど」



皮肉をたっぷり込められてそう返された。




「……このフィールド、解いてくれないか?」


「はぁ?」



「オレ…………死にたくないんだ」








**********






氷が炎で溶かされる。


俺は炎の剣が俺を捉える前に体を捻る。



焦げ臭いものが通り過ぎ、水を地面に向けて放ち起き上がる。




確か水属性と火属性は水属性の方が攻撃が通り易く、防御が通りにくいんだったな。


この世界の(ワールド・)守護者(ガーディアン)は左手が巨腕に成っている。あの厄介な腕さえ斬り落としてしまえば戦闘が楽になるはずだ。



狙いを定めて一撃を放とうとしたその時。





「アリス!!」




ヴァレンともヴィオラとも違う声が俺を呼ぶ。


フィールドに守られていたはずの樹月だった。



俺が戻れと言う前に、




「アリス、オレは……死にたくない!!」



そう叫び、瞳から深緑の剣を取り出した。


そして拘束具の宿っている瞳だけ翡翠色に輝く。




ーー戦闘モードだ。




樹月は俺の見よう見まねで剣を構え、




「うああああっ!!」




世界の(ワールド・)守護者(ガーディアン)に飛びかかる。





駄目だ。


その攻撃だとやられる。



俺は樹月と世界の(ワールド・)守護者(ガーディアン)の間に水を放射する。






…………が、水は出なかった。いや、出た。一瞬で蒸発しただけで。




俺は自分の左手を見る。





蒸気が上がり、真っ赤に火傷していた。




俺は振り返る。



世界の(ワールド・)守護者(ガーディアン)の、ニヤリと笑う口元が見えた。




「樹月ッ……!!」





ぐしゃっ。






目の前が紅に染まる。



サクヤの時と同じように。




世界の色が消え、代わりに痛いほどの虚無感が全身を襲う。







樹月はまだ生きていた。


ぼんやりとだがこちらを向いたからだ。




駄目だ。



死ぬな、樹月。






俺は一秒でも速く樹月の方へ走った。




しかし突然巨大な力に身体にのしかかられ、その場に突っ伏す。




前に進みたいのに。


樹月を助けないといけないのに。



ブラックホールのような重力に引き寄せられたみたいだ。




顔をどうにかして上げると、ヴァレンとヴィオラも俺と同じように突っ伏していた。





「ア…………リス」





樹月の声が弱々しく響く。



俺は樹月を目で探した。


身体を握られ、ものすごい量の血が滴っている。




「い、つき……逃げろ……!!」




俺はそれしか言えなかった。






「言っただ、ろ……?オレ…………死に、たくない…………だから…………」






瞳に生気を宿して。


そして笑みを携えながら。






「オレは、オレの正しいと思う方を…………選ぶ」








それを最期に、樹月は巨腕に握り潰された。











……馬鹿野郎。



間違ってる。








『オレは…………死にたくない』





『オレは、誰かを殺してまで生き延びて死にたくない』







大事な所が抜けているじゃないか。








頬を静かに涙が伝う。


生暖かったそれは、だんだん冷たくなっていく。







「ああああああああ!!!!」






叫ぶと、俺を中心に氷が広がっていく。




流れる血も伝う涙も全て凍らせ、俺は世界の(ワールド・)守護者(ガーディアン)に突っ込んでいった。








全ての想い出を樹氷の中に閉じ込めて。










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