エピソード19 北極星最高司令官2
「ハリーシア?」
「そうだハリーシア。ハリーシア・カタストロフ・テイラーピール中将だ」
「あー、あの魔族の子?知らねーなぁ、もともと俺らは魔族なんかと関わんねーし……」
アリスとサクヤがアダムとイヴの魂を持っている。
ガレスの話では魂は別世界には転生しないらしいが、そこは妥協点だろう。この世界の理が全パラレルワールドの理であるとは限らないのだから。
リリスがあんなに必死になって殺そうとしているのだから、もうほぼ確定したこの事実を聞いて回っても意味がない。
なので俺は本格的にハリーシアの捜索に乗り出したのだが……。
「そっちはどうだった?ベティ」
『ダメですね、魔法とは縁を切ったとか、魔族なんかの話をするなとかが殆どでした……』
ベティと通話していると、ガレスからも
『司令、ダメでした。やっぱり司令が見た時が最後みたいです』
ここ一週間俺たちはハリーシアを探しているが、魔法でも使ったのか消息が全く掴めない。
あいつに付いている筈の拘束具も反応がなくなった。
「わかった。二人とも、ご苦労様。後は俺がやっておくから、お前達は各任務に就け」
そう言って反論が帰ってくる前に即座に通信を絶った。
これ以上破壊の救世主の問題にあいつらを巻き込むわけにはいかない。
ところが通話を切って間がたたないうちに、今度は違う奴から通話がかかってきた。
俺は何気なく出てしまってからそれを深く後悔する。
『やっぽータカオミ調子どう?』
ぶん殴りたくなる声が耳元で囁き、慌てて表示された名前を見ると、そこには「ガリレオ・アルテア・スコーピオ」と出ていた。
『あ!タカオミ通話切らないで!!どうせてめーかよ話もしたくねーわとか言うんでしょ俺知ってる!!』
「わーった、切んねーから大声で叫ぶな!」
もうクソどーでもよくなってきた。俺は次の目的地を検索しながら歩き始めた。
『ハリーシアさん見つかった?』
「見つかる訳ねーだろ」
『まあ、あの子も可哀想な子だよねー。憎んでいるであろう国連軍に無理矢理連れてこられてさー』
「同情なら他所でやれ」
『そんなんじゃないよ。…………ねぇタカオミ』
ガリレオは少し間を空けていつもより低めの声で言葉を紡いだ。
『ハリーシアさんのこと捜してるのって……“あの事”とは関係ないよね?』
心臓が跳ねるのを感じた。
『彼女は確かにあの人にそっくりだけど……タカオミはハリーシアさんを憎んでるの?それとも迷っ』
「黙れ」
俺は、周囲が俺を見ている事も、歩みが止まっている事も、瞳が皎く光っている事も忘れてそう呟いていた。
『ごめん。タカオミ』
珍しくガリレオから謝罪の言葉が降ってきた。
「気にするな。切るぞ」
『あ、待ってタカオミ最後にひとつ』
「なんだ」
なるべく穏やかな声でそう言う。
『ハリーシアさんの家、もう行った?』
「これから行くところだ」
『なら、ハリーシアさんの師匠さんの情報を持って帰ってきて。師匠さんならなんらかの情報を持ってるかも知れないじゃん?けど肝心の居場所が解らないんだ。こっちで勝手に調べとくからさ』
さっきの謝罪のつもりなのか、ガリレオがそんなことを言うとは思っても見なかった。
いや、ガリレオが悪い訳ではないのだ。俺も貸を返さなければいけないか。
「珍しく感謝しとこう。ガリレオ50ポンド追加」
目の前の洋館を前にして、俺はマガジンを入れ替えた。
そしてドアを蹴破る。
予想通り弾幕やらコウモリやら爆弾だのが飛んできたが、全てを避け切り足を踏み入れる。
リビングであろう部屋は、随分前に訪問した時よりも荒れていた。
そして水色の宝石が部屋を歩いて行ったかのようにあちこちに散らばっている。
……変だ。
散らばった宝石を追っていくと、二階へ続いていた。
いや、二階と言うよりは図書塔と言った方が適切だ。筒状に吹き抜けになったその空間は、一説では軍立図書館をも超える冊数があるとか。
ここもやはり水色の宝石だらけだ。あいつはここにだけは宝石を持ち込んだりはしないのに。
おかしい。
『いやー、ここまで侵入ご苦労タカオミ!』
唐突にハリーシアの声が響き、辺りを見回すと、一冊の本が宙に浮いて輝いていた。
『ちなみにこれは録音。もしタカオミじゃなかったらごめんね。でも絶対タカオミだよね?あんたはいつもこういう立ち回りだもんな!』
人をイラつかせるのは相変わらず十八番のようだ。俺は本を睨みつけた。
『というわけで侵入者はタカオミだという前提で話を進めるよー。どーせアダムとイヴのことをもっと教えろとか、今どこにいるんだとかそんなんだとは思うけど、こんなのはまだ序の口だよ。あの二人……いや、アリスを待ち受けてる運命はもっと強大だ。くだらない理由だけど、リリスはあれで本気なんだ。……まあ、狙われる理由はひとつじゃないと思うけど……』
狙われる理由はひとつじゃない?
どういう意味だ、と質問しようとしたが、
『ねぇタカオミ』
という声に重なって、これが録音だということを思い出した。
『世界の歪みを人間の中でも限られた能力者達が全て消し去る……それって本当に可能なのかなぁ?』
面白がるような声で本はそう言った。
『もし歪んだ世界全てを消し去る方法があるなら……世界に復讐したい者は、何に使うんだろうねぇ?』
……そうか。
なら、アリスは……。
『ふふふ、タカオミ、もう解ったでしょ?』
……反吐が出る。
愛するサクヤに怪我をさせた。
サクヤを殺そうとしている、何も知らない子供を。
「『命を懸けてでも守らなきゃいけない』」
ハリーシアは、それを伝えるためにこの本を残したのだろう。
あいつの命の光を絶やさせない為に。
『屈辱だろう、反吐が出るだろう。だけど世界樹はアリスを失うわけにはいかない。そしてこの事を、お前の口からサクヤに伝えるんだ』
俺は眉を上げた。
『あたしが言ってもあいつは信じない。でもお前から言われたなら信じる。アリスのこと死んでも守り抜け』
「……言われなくても」
めんどくせー仕事をもらっちまった。
これからどうするもんか……。
『あ、因みに師匠は地球国連管理外地区Gに居るよ。多分ニヴォーズ……クリスマスには絶対いるでしょ』
「ああ。了解」
『じゃあ外まで送ってあげよう。侵入者避けをまた潜り抜けるのは嫌だもんな!そこ動くなよー』
そう本が言うと俺の周りが輝き魔法陣を形成し始めた。
よくよく考えたら笑えねーな。
義妹を殺そうとしてる、俺が本来殺すべき奴を命懸けで守るとか。正気じゃないにも程がある。
ここを出たらトレーニングルームにでも行って頭を冷やすか。こう言う時の俺の友達はL85A3と20だ。
心なしか少し空気が涼しく感じる。寒いくらいに……。
「……あ?」
よくよく辺りを見回すと、とっくにハリーシアの屋敷を抜けて、一面銀世界の雪野原に居た。
生身だったらクソ寒いんだろうが、軍から支給されたユニフォームの暖房システムでちょっと涼しい程度だが。
『タカオミ、この後トレーニングルームにでも行って爆裂させた後頭冷やそうとかいう思ってたでしょ?なので頭も冷やせて爆裂もできそうな世界に転移させましたー』
「は?」
色々ツッコもうと思った瞬間、背後に気配を感じて反射的に銃を向ける。
発砲音が響き、見てみると面白がって造ったようなスライムが倒れて居た。
『あと面白がって造ったスライムが千回くらいランダムでエンカウントしまーす。こいつら倒さないとこの世界から出られないよー。名付けてスライム千匹倒すまで帰れま1000』
「そー言うことは先に言え!!」
俺は叫びながら次々に発生するスライムを撃ち抜く。結局こーなるんかよ運命のバキャロー!!
『じゃああたしはこの辺で。頼んだよタカオミ頑張ってねー。ばいばーい』
「は?ハリーシア後でシバくかんな覚悟しとけー!!」
帰れま1000は、始まったばかりだ。
……とまあこのように俺はもうスライムを見たくないと思う程打ちのめされて帰ってきた。
「どど、どどどうしたんですかタカオミ、雪と(緑の)返り血塗れじゃないですか!?」
開口一番ベティはパニクって出迎えた。
「何してんですか全く。それで本部歩かないでくださいねタカオミ」
そう言いながらもガレスは洗浄ルームに俺を突っ込む。
「ごぶっ!!」
鼻が折れるかと思った。
しかし状況は、刻一刻と変わっていく。
部下の一人が、恐ろしい速さで本部に突っ込んできたのだ。
「大変です司令官っ!!ハヤミ少尉が……っ!!」
本当に、運命のバキャロー。
*********
桜の花が散ってゆく。
もうどうしようもない。
死んだ者は帰ってこない。
それでも、桜を見ると思い出してしまうんだ。
復讐に走ったあの日々を。
お前と暮らしたあの部屋を。
一緒に戦った戦場を。
「サクヤ……」
お前のことを。




