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蒼黒アリス  作者: 朱華 麒月&カロン
17/33

エピソード17 決意の先にあるものは





リリスが俺の心臓めがけて剣を突き出す。もう動く気もしない。このまま殺されるんだろうか。それもいいかもしれない。





だって、結局こうなるんだろ?




パラレルワールドはもうひとつの可能性。


どんな未来を選んでも必ず分岐する。




なら、俺の悩む意味ってなんだ?



どんなに悩んだ末の決断でも、その逆が必ず生まれる。




それって意味ないじゃないか。




今だってそうだ。きっとこの瞬間にもあの平穏な日常を退屈に過ごして、それでも生き続けてる無力な俺がどこかに居るんだ。


そして顔も性格も何も知らないアダムの生まれ変わり。それだけの理由で俺は今殺されかけてる。





もう、何もない。生き残った俺のできたことは、せいぜい巨大な運命に指差す程度だった。






『それが歪みです』






リリスの声が直接響いてくる。





『それは矛盾。もうひとりの自分という矛盾。破壊で救うという矛盾。宇宙が定めた条理は欠陥だらけ。その欠陥がやがて世界樹自身を殺す。どうせ無意味なんですよ。あなたの行動も存在も意思も全部!!』







無意味。



俺が。







きっとそうなんだろう。




俺の世界が壊れたのはサクヤのせいでもリリスのせいでもない。




俺のせいだったんだ。俺がアダムの生まれ変わりだから。







どこで間違えたんだろう。



俺は普通だった筈だ。普通の小学生で、普通の中学生で、普通の高校生活を送っていた筈なのに。



もしあの時サクヤが転校してこなかったら。


もし俺がアダムの生まれ変わりじゃなかったら。


もし俺が異能者じゃなかったら。






もう、遅い。




終わりだ。何もかも。













ぐしゃっ。





肉を裂き、骨を貫き、血が飛び散る音が響く。


痛みはない。


コールブランドが微かに震えている。



俺はゆっくりと目を開けた。









――黄金?







しかしその黄金は慌てたように消え、かわりに残ったのは




……白と、紅。






そして真ん中がだんだん赤く染まっていく。





「サク……ヤ……?」






名前を呼ぶと同時に、サクヤの身体はどさりと砂に倒れ込んだ。



そしてワンテンポ遅れて、折れた血櫻がリリスの真横に突き刺さる。




「サク……!」


「サクヤッ!!」




俺が駆け寄るより早く、司令がサクヤを抱きとめた。




「ヴァレン、無菌室フィールドと最大回復陣を展開、ヴィオラは生命維持装置のロックを解除しろ!!」


「うん!」


「はい!」










……なんで?





なんでお前は……!










「……なんでだよ。なんでお前がそんな事するんだよ。俺は復讐者で、お前は俺の復讐相手なんだぞ。俺の世界を壊したくせに、俺を憐れんでるのかよ!?」




無言で血を流し続けるサクヤに向かって、俺はどうしようもない遣る瀬無さを投げかける。



これ以上俺を惨めにしないでくれ。







「……私は、アリスの上司、だから……そ……れに……」





サクヤは二度目の笑顔をして見せた。





「ぱふぇ、食べられなくなるの……困る……」











……困る?





サクヤは、俺を必要としているのか?









と、俺が引っかかった何かを探している暇もなく、リリスの殺気が立つ。





「……まさかあなたが『二度も』彼を庇うとは……解っていた筈なのに……僕の落ち度です。でも……」




混乱し、連携の取れなくなった俺達に、リリスは完全な戦闘モードとなって突っ込んできた。




いや、俺に、だ。





「それじゃ困るんです。あなた方が殺し合ってくれないと、全部台無しだ!」




リリスの剣が俺を真っ直ぐ捉える。



俺は慌てて避けようとするが、間に合わない。







『ーー資格持ちを傷つけることは、許さない』





ガキンッ!!






するとコールブランドがひとりでにその剣を受け止めた。




「えっ?」




俺が疑問を投げかける暇もなく、コールブランドはリリスを攻め、俺は引っ張られる。




「うわぁっ!?」




今まで俺がやったことのない上級の剣技をコールブランドは次々とこなしてみせる。


完全に攻防が逆転した。



……凄い。リリスと互角に渡り合ってる。







『“水竜剣コールブランドに宿った意識”、かな』






俺の夢に出てきた『彼』の言葉が頭をよぎる。


彼が力を貸してくれているのだろうか。



なら、俺はそれに応えなくてはならない。


俺がしなくてはいけない事。それはーー。





コールブランドがリリスの創る氷を次々と砕いていく。




水華蒼穹すいかそうきゅう!」




俺は水の華を創り出し、リリスの逃げ道を塞ぐ。



剣術の技術不足はコールブランドがカバーしてくれて、俺は自分のやりたい戦闘を頭に思い浮かべるだけでよかった。



剣と剣がぶつかる。





リリスもちゃんと本気なようで、パワーではリリスに勝てず、俺は空中に弾き飛ばされる。


追い討ちをかけるように氷の刃が六つ飛んできた。



確か俺の背後にはでかいビルがあったな、と自分の記憶に賭けて俺は背後に水を出現させ、自分に向かって放射し減速する。



記憶通り足が地につき、そこに刃が迫ってきた。


反射的に横に避けるが、避けて気がついた。



完全に重力に逆らっている。



しかしなぜか身体はビルに重力があるかのように軽い。

いや、考えるのは後だ。刃の数的にあと五発避けないと俺は死ぬ。



俺は思い切ってビルの端めがけて駆け出した。




ドオオン!!




一発目。




俺、傾斜九十度を走っている!




ガシャン!!



二発目は窓ガラスに命中し、破片が霧散する。




続いて三、四発目が間を挟まず飛来し、同時にビルの長さが限界に来ていた。


ちらりとリリスを見ると、氷の刃は目視計算だと俺がビル端に辿り着いたちょうどに激突する。




こうなったら……!!




五発目がビルに激突した。


爆風で体が飛ばされ、何も見えない。


数秒後、視界に色が戻り、はっきりと物を捉えられるようになったが、俺の身体は完全に目の前のビルにぶつかろうとしていた。






ガシャアアアンッ!!





『主人!!』



ヴァレンの声が聞こえる。




取り敢えずサクヤに教えてもらった受け身の姿勢をとる。



刹那、衝撃が肉体を包み、感覚が戻ってきた。


ビルの窓に突っ込んだんだ、と理解して起き上がる。





……?






ビルの中は廃墟だった。この世界の様子からしては当然だろう。




だが、このビルは何故か大量の水色の宝石が散らばっていた。


状況に対してオーパーツな違和感を感じる。




と、そんな違和感を解消する暇もなくリリスがビルに突っ込んできた。



ぱらぱらとガラス片が落ちる。ここまで来ても、それでもリリスは俺に剣を向ける。





「アリス、どうしますか?無意味だと解った今、あなたはサクヤに復讐する理由なんてないんですよ?今なら、気持ちよく逝かせてあげますけど?」





……無意味。





俺にはこれ以上の言葉はないのかも知れない。




……でも、






「だったら、意味がなければ人は生きていてはいけないのか?リリス」




リリスは若干顔を上げ、



「ええ。この宇宙のものは全て意味を持つ。何者にも生まれてくる意味がある。その意味がなくなった瞬間、それは“要らない”んです」




リリスは話しているうちに嬉しそうに笑っていく。





「……じゃあ、お前も俺達への復讐が為されれば“要らない”んだな」






リリスの瞳がかっと開いた。




「……何が言いたいんです」




ちらりと窓の外に視線をずらす。



「俺は復讐も世界再生もやめない。それに俺は無意味じゃないらしいからな」






俺はリリスを改めて睨みつけた。





「そして、サクヤも俺も死なない。俺が殺すまで、サクヤは誰にも殺させない」








これが俺の答え。



無意味でも滑稽でも、俺は続ける。



サクヤは俺を必要としてくれた。俺はまだ『意味がある』。


だから俺はもう自分をこれ以上死なせない。







「……あなたは、なんで……」




リリスが何かを言おうとした、その時。





『ーー接続コネクト解除!!』



ヴィオラの声が響き、拘束具が輝く。


何が起きたのか理解する間もなく、俺の身体は元の場所(せかい)へ戻っていった。
















「主人ッ!!」




ヴァレンに呼ばれて意識が醒める。




「大丈夫?リリスにやられてない?」


「誰かさんに散々弱いとか言われたけど、なんとかな。元の世界に帰ってきたのか?」


「うん。ヴィオラとサクヤのコネクトを強制解除して、同時にヴィオラに与えられた命令も効力を失ったから、増幅器が壊れた。だから帰ってこれた」


「……サクヤ、は?」





ヴァレンが目を逸らす。その方をつられて見ると、腹部が血まみれになったサクヤが居た。




司令はメンテナンス室に連絡を入れていて、ヴィオラはいない。


サクヤのバックパックから解錠された生命維持装置の示す数値を見るに、なんとか助かりそうだ。



すると、メディックの制服を着た職員が二人駆けつけて、将軍と何かを話した後、瞬間移動装置でサクヤとともに行ってしまった。





「……聞いてたぞ。サクヤを殺すこと、諦めていないらしいな」



司令が口を開く。



「…………はい」




ぶん殴られる……と思ったが、司令は俺を見向きもせず、




「作戦失敗。負傷者一名。……本部には俺が伝えておく。次の任務、俺はお前と別行動をとるから、そのつもりでな」



俺は顔を上げた。


サクヤを巻き込んだからだ、そう思った。




「そんなくだらない理由じゃない。リリスが言ったことが本当か嘘かを確かめる手がかりがない。だからそれを調べると同時に、ハリーシアを探す」


「ハリーシア?」


「あいつは『何かを識っている』。それにそろそろサボる部下を捕まえなきゃならない。次の命令が下るまでお前は休め」




そう言いながら、俺の背後にあるドアに向かって歩いていく。



すれ違いざま、






「次は動け」






と言い残して。









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