エピソード14 正しい歪み
「特別チーム、ですか」
「ああ。チームにした方がやりやすいと思ってな」
そう言う司令の顔はなんだか嬉しそうだ。
「サクヤと一緒に居られるから、同時にどこの誰とも知れない年頃の男子からサクヤを守れるから、じゃない?」
「ヴァレンおはよう。司令、そうなんですか?」
「るっせ。ヴァレンてめ余計な口聞くな」
「主人が疑問に思っていたから推測しただけだよ」
「あー、それでだな、チーム名なんだが……」
司令は無理やり話を逸らした。
「『どこの誰とも知れない年頃の男子からサクヤを守りま小隊』でいいか?」
「本来の目的を大幅に欠いているよタカオミ。頭良いのにバカだよね」
「それはてめーもだろ。その並外れた演算能力を俺との会話にしか使えないんだからな」
「シスコン」
「ロリコン」
「僕はロリコンじゃないし!このシスコンが!!」
「妹はいいぞ!シスコンと呼びたければ呼ぶがいいこのロリコン!!」
……男子同士仲がよろしいようで。
と、その時
「フレアブラスト!!」
「永遠に凍結!!」
「ぎゃあああぁ!!?」
「うわぁあっ!?」
部屋の入り口付近から火の球と氷河が飛んで来て、それぞれタカオミとヴァレンに命中した。
そちらを向くと、サクヤとヴィオラが怒り顔で術を発動させていた。
サクヤが拘束具から血櫻を取り出し、少しずつ司令に詰め寄る。
「タカオミ、最高司令になる時言ったよね?地位や権力を使って不当なことしないって。アリスは私の部下、私はタカオミの部下。部下の部下を信用しない故にこの作戦に加わるようなら……」
サクヤは言いながら血櫻を振り上げた。
「義兄妹の縁切るから……」
「ぎゃーーごめんなさいごめんなさい許してサクヤもうしません!!!」
妹に見限られた兄は哀れだ……。
ヴィオラもヴァレンを正座させて、
「ヴァレン、わたしはヴァレンより演算能力は劣りますが、これだけは解るよ。マスターの為に戦うのと、口喧嘩に容量使うの、どっちが賢いかくらいは」
「……うん。そうだね。ごめん」
静かに怒っている。女子って怒らせると怖いな。
ん?女子といえば……。
「……あれ、そう言えばハリーシアは?」
特別チームは破壊の救世主上位四名から選抜される(というか破壊の救世主は四人しかいない)、と聞いている。なら、サクヤと共に一位のあいつも居るものだと思っていたが、どうも姿が見えない。
「サボりだと思いますよ。あの人は任務している方が珍しいです」
ヴィオラが呆れたように言った。
そういえば、サクヤがハリーシアのことをサボり魔と言っていたっけ。
「あいつが居ても居なくても俺たちのやるべき事は変わらん。リリスを見つけ出して倒す。それだけだ」
司令が鼻血を出しながら言った。全く、この人のような人のことを残念なイケメンと言うのだろう。
「あー、朝早く集まってもらったのは、作戦会議と下準備の為だ。サクヤ、ヴィオラ、あれの準備はしたか?」
「しましたよ。わたし達を舐めてもらっては困ります」
司令は頷いて、鼻にティッシュを詰めて話し始めた。
「知っての通りリリスはきっと俺たちと同じ異能者……生命力を持ち世界を行き来できる人間だ。たとえリリスを発見できても別世界に逃げられては意味がない。そこで必要なのがヴィオラの力だ」
「あいあいさー!」
「?……なんでヴィオラ?」
「ハリーシアが言っていた言葉、覚えていますか?『リリスとは、人類が生まれた世界に必ず生まれる“正しい歪み”』。リリスはアダムの最初の伴侶で、楽園を追われた後造られたのがイヴ。リリスが『歪み』なら、それは『正しい』ことになる。矛盾から生まれた産物です」
ヴァレンがヴィオラを見ながら言う。
「強引な考えではあるよね。これはあの魔法使いに聞くとして、大事なのはここから先。リリスはその身を魔に堕とした。夜の悪魔として」
ヴィオラが深く頷く。
「この神話とあのリリスに共通点があるとしたら、もしくは同一の存在だったら、リリスは夜、つまり闇に何らかの耐性のようなものがあるのかも知れない、という可能性が大なのです。こないだリリスが現れたのも夜でした。そこで、夜と同じわたしの闇属性で、リリスの力を相殺できるんじゃないかなーって」
「希望的観測ではあるが、唯一の救いだ。頼んだぞ、ヴィオラ」
「りょーかい!!」
アダム、イヴ、そしてリリス。旧約聖書に出てくる最初の人間。それくらいは俺も知っている。
でも、だとしたらなんで俺が狙われるんだ?
それに、仮にイーモン王子ことリリスが本当に俺の世界を歪めていたのなら。
俺はサクヤに目を移した。
サクヤへの復讐って、無意味じゃないか……?
「リリスへの対策は積むだけ積む。そして最大の問題が……」
鼻に詰めたティッシュを捨てながら司令は言った。
「……リリスの居場所。これはアリスの……アリス?おいアリス!」
「えっあっはい何ですか?」
「作戦会議中にボーッとするなバカタレ」
叱りながら、司令の瞳はだんだん険しくなっていた。
「…………実は、お前にまだ伝えていないことがある」
*********
「……まぁ、ここにあるわけもないか」
見渡す限りの砂漠と廃墟。
これから先、宇宙が滅びるまで変わらない光景だろう。
吹く風に、メキメキとあたしの身体を侵食する音が重なる。
砂漠に堕ちるは、水色の宝石。
「……時間がない」
そうだ、時間がない。
砂に堕ちたあたしの破片を踏み潰して、あたしは歩き始めた。
*********
「俺の、身体に?」
「僕が調べたから間違いない。其れはいつか必ずアリスの身体を殺す」
「え、それ大丈夫なんですか?」
「大丈夫なわけないだろう。…………剣が体内で育ってるんだからな」
司令が俺にまだ伝えていなかった事。それは、リリスに刺された剣の破片が、俺の体内に残っているというものだった。
「まだお前が意識不明の時、リリスの居る世界を少しでも絞り込もうと思って手掛かりを探していたら、ヴァレンが『主人の傷の治りが遅いのを気になって調べてみたら、体内で主人のマナを吸い取っている何かがいるみたいだ』と言い出した。調べてみると本当に居るもんでな。どうやら、リリスの剣の破片がお前のマナを糧にして剣として成長している」
「それ、アリスは大丈夫なの?」
サクヤが聞き返す。
「そんなの知らん。俺の知り合いに腹に剣を育ててる奴はこいつが初めてだ。だが重要な手掛かりになった」
「腹に剣を育ててる知り合いになれて光栄です。でも、何でそれが手掛かりになるんですか?」
「うむ、いくら世界を行き来できるリリスでも、巣にしている世界が必ずある筈なんだ。しかし無限にある世界を手掛かりなしで探すのはいくら異能者でも不可能。だがお前のその剣に刻まれた因果律、痕跡を辿れば、ある程度の絞り込みはできる。結論、リリスを追える」
というわけで、俺達は俺の腹の剣に刻まれた世界情報を頼りに、めぼしい世界を探して行った。
探すと言っても拘束具で探知し、俺たち異能者の能力のひとつ、永続的干渉能力(マナを消費し半永久的に理に干渉し続ける能力)の応用でヴィオラ領域増幅器をその世界に送り、リリスの探索、発見次第こちらに情報が伝わり、対リリス迎撃陣を展開する。
後はその世界に乗り込み、リリスを倒すだけだ。
さっきまでサクヤとヴィオラはこれらを全て遂行できる小型機器、ヴィオラ領域増幅器を作っていたのだ。
俺達はヴィオラがリリスを探知するまで休む暇なくマナを送り続けた。こちら側の世界のモノを別世界に直接送るのは、異能者の永続的干渉能力によって生み出されるマナが必要だからだ。
他の異能者達も手伝ってくれて、俺達は何とか、七日目でリリスの居る世界を探り当てた。
……その前に、異能者達にひとときの休息が与えられた。




