エピソード11 超新星と破壊神と隕石
「……奪う者っていうのは、全パラレルワールドでもスティーム00ハレルヤにしか無い『生命の実』を奪いに来る奴らのことを主に指す」
本部へ向かう非常用リニアの中でハリーシアが説明してくれた。
「さっき言った駆逐隊と修正者は破壊の救世主以外の異能者達だ。駆逐隊は奪う者のような異次元からの敵の主力迎撃部隊。修正者は次元の歪み、本来の因果の通りに修正する者達。破壊の救世主と同じで表では軍の精鋭だから、カモフラージュの為に呼ばれる。実際に出撃するのも彼らだけど」
「……てことは奪う者?っていうのは…」
「別世界の住人だよ。ただあいつらはあんたと違って能力が無いから、この世界に来れたとしても元いた世界には帰れないけどね」
俺と同じ、別世界の住人。でも俺の心に浮かんだ感情は、同情でも共感でもない気がした。
やっとひとつめの楽園に着いた。サクヤはもう来ていて、見たことない顔が数名いる。
サクヤ以外黒いセーラー服を着ているってことは、彼らも異能者……つまり駆逐隊と修正者だ。
「なんであんたがアリスと一緒にいるの」
サクヤは俺とハリーシアが一緒に来たのが気に食わないようだった。
今更だが、この二人なんで仲悪いんだろう。
「ヤボ用の帰りに会ってね。ヒマそうだったから付き合ってただけだよ」
「ろくに任務もこなさないサボリ魔をこの作戦に加える訳にはいかない」
「あんたにそれを決める権限あるのかい?」
「ふ、ふたりとも……喧嘩はよくないですよ……」
修正者と思しき少年が喧嘩を止めようとした時。
「お前らそのへんにしておけ。これは命令だ」
入口の方から知らない声が飛んで来た。いや、知っている。一度だけ聞いたことがある。こいつは……。
「タカオミ、今日は私も出させてよ。あとアリスも」
「えっなんで俺……」
反論しようとした時、タカオミと呼ばれた男が俺を上から見下ろしていた。
……動けない。俺よりもハリーシアよりも背が高く、黒髪黒瞳、三白眼のカッコイイ男……なのだろうが、今は汚物を見るような目でこちらを見ている。フツーに怖い。
この人が、多分サクヤの上司。
北極星最高司令官、ロキ・タカオミ・アルテア・メテオライト大将だ。
「……お前が新入りだな。サクヤと同居してる」
「あ、はい……」
司令は舌打ちして何やらブツブツ呟いた後、また俺に険悪な目線を向けて、
「いいか新入り。俺はサクヤが政府に来た時から親代わりとして教育係として面倒見てきた俺にとっては妹同然だ手ェ出したらどーなるか解ってるだろうな」
「……は?」
「タカオミ、シスコンでてるですよー」
「兄貴というのはみな妹を愛しているのだヴィオラ」
……俺の中で、この司令のキャラが確定した。
するとヴァレンが出てきて、こう言った。
「ムダだよタカオミ。それどころかアリスはサクヤを殺す気だよ」
「あぁ!?」
汚物を見る目が死体を見る目になった。
「ちょっと何地雷踏んでるのヴァレン!?」
「本当のことを言っただけでしょ」
俺は司令に向き直った。
やばい……。この人同居を認める時も「手ェ出したら殺す」とか言ってた、そういえば。それにさっきも妹も同然とか言ってたし。
ターゲットのクソ強い護衛に目ぇつけられた暗殺者みたいな気分だ。
「……いいだろう。テイラーピール、ハヤミ両名をこの作戦に参加することを許可する。だが忘れるな。サクヤはお前ごときには殺られない。もしお前がサクヤを殺したら……そんな可能性はゼロ%だろうが……俺がお前を殺す」
なんで俺が作戦に出るのをお願いした感じになってるの……。
だがひとつはっきりした。サクヤを殺すには、この司令のさらに上に行かなきゃならない、という事だ。
「……あのー、復讐もいいですが、そろそろ司令、作戦指揮を……」
修正者の少年が声を上げた。
「奪う者は現在、地球国連合陸軍第十一番隊、獅子が交戦中。だが時間の問題だろう。我々北極星からは10名出撃させる。駆逐隊からスコーピオ中将、ホーク少将、エリース大佐、修正者からはライラック准将、マグナ中佐、カシオペヤ少佐、救世主から小官、フレイム少将、テイラーピール中将、そしてハヤミ少尉だ。貴官らに命ずる。楽園内に侵入した奪う者を排除せよ。敵部隊から、我らが国王を守り抜け!!」
「了解!!」
……なんだか、軍人って感じだ。俺以外みんな少佐以上、そして地球国王に忠誠を誓った人達なのに、俺は自分の目的の為に出撃する。
また言いようもない孤独感が襲ってきた。
てゆうか俺、いつの間に少尉にまでなってたんだ?
「アリス、行くよ」
サクヤが俺を待っている。
「あ、ああ」
思えばこの時、俺は自分の立っている地面をちゃんと見ていなかったんだ。
俺は気づいていなかった。
この舞台から降りることは、もう絶対許されないということを。
ーー戦争だ、これは。
獅子は全滅、ワームホールは塞がれたからもう敵はこれ以上増えないが、それでも向こうの兵力は10万はいる。
10万対10は流石にムリゲー
……と思っていた俺が甘かった。異能者達はひるむことなく突っ込み、次々と敵を倒して行く。中でも目を見張ったのは破壊の救世主の3人だ。
サクヤの火力は言わずとも核爆弾並。
メテオライト大将の武器は小銃と爆弾なのだが、これがまた恐ろしく素早い戦車と化している。武器の使い分けやリロードの滑らかさ、命中率、今まで見た銃使いの中でぶっちぎりで一番だ。人間ひとりであの戦闘力を出せるなら戦車は要らない。
しかしこの部隊の中で1番の実力者はーーーー
ハリーシア。あいつが戦ったところは見たことがなかったので知らなかったが、あいつ、相当な化け物だ。
魔法というチートな攻撃力。近距離からも遠距離からも攻撃でき、攻防共に隙がない。手札の多さも相まって攻略方法が全く見えない。サクヤやメテオライト司令は洗練された技術や戦術で勝つって感じだけれど、あいつは何も考えなくても無双できる、無敵の兵器って感じだ。
敵じゃなくてよかった。
「あはっ、うじゃうじゃ湧くね、おいで、みんな平等に殺したげる、あはははははっ!!」
カタストロフの二つ名を持つ理由が解った。凄まじい破壊力、そして何より殺戮を楽しむあの表情。『破壊神』と呼ぶにふさわしい。
他の異能者達も達人を凌駕した腕前。数は多いが、これなら勝てる。
俺も、微力だが力にならなければ。
という結論に戦場に出て5秒で達した俺は、邪魔にならない端っこで、ちぎっては投げちぎっては投げを繰り返していた。
ぶっちゃけこいつらは世界の守護者に比べたらまだ戦闘は楽だ。
途中、一度敵を取りこぼして死んだ!と思ったが修正者のライラック准将が助けてくれた。それからは迫ってきた敵全てを捌けている。
いける。これならーー
ドクンッ。
突然、言い表しようのない感覚に襲われた。
これは、何だ……?
生身の人間をこの手で殺した罪悪感?
……違う。これは、そんな安っぽいものじゃない。
「アリス、ボーッとしてると死ぬよ!」
ハリーシアが横で上級黒魔術を発動させ、敵を蹴散らす。
だがハリーシアも次の瞬間言葉を止めて空の彼方を見上げた。
何かが、近づいてくる。
ーーーーあいつは!
「ーーーー……!!」
俺は何か言葉を口にした。
すぐモヤがかかって消えてしまって、もう思い出すこともできないが。
その言葉を聞いたハリーシアはハッとしたように俺を見た後、そいつに向き直り
「そういうことか……」
と呟いた。どういうことかは知らんが、いつもの笑顔が少し引きつっているのでいいことではないだろう。
そいつが近づくにつれて、胸のざわめきも強くなっていく。そしてそいつの顔をはっきり捉えられるまで近づいた。
サクヤのような白い髪に蒼い瞳、つり目か印象的な俺と同い年くらいの美少年だ。
ああ、そうか。
この感情の名前がようやく解った。
ハリーシアが箒に乗って迎撃態勢に入った。
「あいつらの狙いは生命の実なんかじゃなくて…………アリス、あんたか」
この感情の名前は、怒りだ。




