エピソード10 奪う者
アナザーエピソード0
そこで私の記憶は途絶えた。いや、記憶ではない。
“願望”だ。
いつもより早く起きて、天気予報を見て、トースト食べて、新しい制服を着て……。
そこで異変が起こった。
扉がグニャリと曲がり、曲がって捻れて
ーーパリン!
割れた。まるでガラスのように。
割れた先は真っ白で何も無いように見えたが、色を見つけて目を凝らす。
紅。私の目と同じ色。ぽつんと二つある紅はさながら目のようでーーーー目?
「わぁ!?」
私は悲鳴を上げて後ずさる。相手も少し驚いたようで、私を凝視しながらゆっくり割れた隙間から出てきた。
白い髪に紅い瞳、少し機械チックな洋服……。
服と頭に乗ったヘンな物体以外は全てそっくりだ。これは……まさか、憧れの……。
「君は誰!?私のドッペルゲンガー!?それとも生き別れの双子!?」
思わず興奮して私にそっくりな子に詰め寄る。と、そこへ
「サクヤー、そんな急がなくても世界は待っててくれますよー。仕事は迅速に……って、え!?」
眠そうに目をこすりながらもう一人、小さな可愛い紫の女の子が隙間から出て来た。
「サクヤ、この人サクヤにそっくりですね!おぉー凄い!音声データ、顔認証、骨格認証完全一致です!!」
なるほど、そっくりな子もサクヤというのか。名前まで一緒でさらに興奮する。
当のサクヤさんを見ると、目を丸くしたまま固まっていた。
「あっごめん、びっくりしちゃって。実は私も裂夜って言うんだよ、こんな偶然あるんだねえ!それより何かお仕事あったんだよね、そこの裂け目?をどうにかしてくれれば何も聞かないから。お仕事頑張ってね!」
そう言った途端にこにこ笑っていた紫の女の子も笑みを消して動きを止めてしまった。
結構言葉選びに気をつけたつもりだったのだが、何か悪いことを言ったのだろうか。
「そう……仕事、しなきゃね」
サクヤさんが私の肩に手をかける。次の瞬間、ドクンと世界な動いたような感覚。
ピシピシと私の体がガラスのように破れていく。
「サクヤ!何もここで消さなくたって……」
紫の女の子の叫び声が遠くに聞こえる。
最後に見えたのはサクヤさんが涙を流している姿。
そこで私は何も見えなくなった。
ここは、どこ?
なんだろう、なにかがきこえる。
「ごめんね、コノハナサクヤヒメ」
*********
「はあ!!」
死角からの一撃が綺麗に決まり、世界の守護者が消滅した。かわりに金色のタマゴ球が現れる。
「おおー、アリスが初めて剣だけで倒しましたね。前までは生命力で何とか頑張っていたのに」
ヴィオラの言葉を遮るように俺はタマゴ球に手を置き、それと同時に世界が破れる。
また、殺した。
世界を壊せば壊すほど、人殺しの重みが肩にのし掛かる。だがこれを一ヶ月も続けていれば、もう気にならなくなった。
いや、気にしないようにしている。あの日俺の世界が壊れた瞬間を忘れることなんてできないし、かと言って気にしていたら罪の重みで自分が潰れてしまいそうだから。
気がつくとひとつめの楽園に戻って来ていた。
サクヤが上司に報告しにヴィオラ端末を開いていると、ヴァレンが俺の横に出現した。
「……言ってなかったかもしれないけど、僕達フィリアス・リーダー・アルティメット・ストレージ・オペレーティング・メモリーズの別名は『脳内監視カメラ』。主人が考えただけで僕の電源を入れたり操作したりできるのは僕が脳の感情を司るところを読み取っているから。つまり僕は君の考えている事なんて全部お見通しって事。罪の重さとかめんどくさい事考えてもいいけど、僕に見られてるって事忘れないでよ。安心して、君の復讐には一切関わらないから」
「は!?え、ちょっ……」
俺が口出しする前にヴァレンはさっさと消えてしまった。
全く、いきなり出て来たかと思えばいきなり消えて、よくわからん奴だな。
……あ、やべ。今思ったこと読まれたかも。
「今日の任務はここまで。私はまだ本部でやることがあるからアリス、あなたは先に帰ってて」
そう言ってサクヤもヴィオラもヴァレン本体(ヴァレンは俺と契約したから本体が離れてても俺の側に居るけど)もそのまま瞬間移動してしまった。
……なんだか、ひとり取り残された気分だ。
いや、世界を壊された時から俺はずっとひとりだった。だから世界再生を望んだ。
サクヤにヴァレン、ヴィオラ、ハリーシア、北極星の将校達……。
周りに人が居たからなんとなくひとりじゃないって思ってただけで。
でも本当は、俺はずっとひとりぼっちだったんだな。
とか思いながら歩いていると、いつの間にか本部の入り口まで来てしまっていた。今はまだ午前10時27分。
素直に家に帰るとしても、あそこ、娯楽がひとつも無いのだ。サクヤのことだから『必要ない』とでも言って切り捨てたんだろう。あんな所に暇を潰す時間もない。
トレーニングルームで剣の稽古でもしようか?でもサクヤが居ないとトレーニングルームに入れるかさえも危うい。
どうしよ。
「あれぇ、アリスちゃんじゃないかー」
突然頭上から声がした。この陽気な声は……。
「……その呼び方はやめれくれ、ハリーシア」
見上げると、そこにはかの陰険魔法使い、ハリーシア・カタストロフ・テイラーピールが箒に乗って俺を見下ろしていた。
「あはは、ごめんごめんアリス」
「まあいいけど。それより何やってんだ、お前?」
「んー、ちょっとヤボ用でね。そっちは任務帰り?」
「よく判ったな。今日の任務はもう終わりらしくてな、ヒマ持て余してた所だ」
「ふーん……。……あ、ねぇ!ならあたしの家 来る?」
「は?」
「あたし一応破壊の救世主としては先輩だし、授業で解んない所とかあったら教えられるし。それに……」
ハリーシアは言葉を止めてにやっと笑うと、
「あたし、あんたに興味あるんだ。宇宙で2番目くらい」
そう言って地上に降り立ち、俺の手をとる。
次の瞬間、俺は空を飛んでいた。
「どう?面白そうなの見つかった?」
ハリーシアが空中浮遊しながら本棚の間を縫ってやって来た。
「……凄いな、ここは。無限に本が出てくる」
ここは、ハリーシアの家の奥、玄関のジャンル問わず散乱している本棚とは違う、ちゃんと整理された本当の書斎だ。魔道書はもちろんのこと、歴史、文化、専門書、はたまた小説や俺の世界でいう漫画まで揃っている。
「今の時代 紙の本なんて殆ど無いからねー。軍立図書館でもここまで揃ってないんじゃないかな?まぁ気がすむまで読んでくれればいいよ。何かあったら言ってね」
そう言ってホットココアとサンドイッチを俺の傍らに置いてさっさと消えた。
うん、なかなか面白かった。
探偵モノだが所々笑えて日常が懐かしくなった。最後探偵が犯人だったのはショックだったけど。
さて、次は何を読もうか。魔法の本とかがいいな。理解できるかは…………頑張る。
「それ、面白い?」
「え?ってうわぁ!!」
いつの間にかハリーシアが目の前にいた。
熟読してたのか、長い髪が垂れてるのに気づかなかった。
「面白いというか何というか……興味深い?解んない?」
「あたしに聞くな」
「なんか違うな……懐かしい……かな?」
俺が読んでいたのは、使命を背負わされて、足掻いて、それでも最期はみんな失ったひとりの王の物語だった。
魔法の本を探していたはずなのに自然と手がその本に伸びて、気づいたら読んでいた。
「……主人公は俺とは真逆で何でも出来るのに、俺と同じで全部失う。まぁ、足掻いた結果失ったから、失ってから足掻いてる俺より惨めではないよな」
「同情?」
「……共感の方が近いかな。ちょっと違うかもだけど」
そう、俺は失ってから気づいた。モノの価値は持ってる者より持ってない者の方がよく知ってるとは言うが、それを説いた人も俺みたいに全てを失ったことは無いだろう。
でも、失うとは同時に与えることでもあるんだろうな。俺がサクヤに世界を破壊されて、世界の大切さに気づいたように。
……とか考えていたらまたヴァレンに何か言われそうだ。
そろそろおいとまするか、そう言おうとした時。
『ビーッビーッビーッ!!緊急警報発令、緊急警報発令。奪う者の侵入が確認されました。一般市民は指定されたシェルターへ直ちに避難して下さい。繰り返します、緊急……』
「……またか。最近多いな。アリス、行くよ!」
「え?行くってどこに……」
「本部へ、だよ!一般市民の避難警報は、救世主、駆逐隊、修正者の招集伝令だ!!」




