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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

記憶を失くした英雄

作者:

連載の息抜き+現実逃避の作品です。IFバージョンも考え中。

目が覚めたらそこは知らない世界だった。



「………は?」


え?ちょ、えぇ?

いや、と、とりあえず冷静になろう

俺は…俺は、誰だ?

………ふぁ!?

え、えぇえええ…ダメだ、出だして詰んだ


ど、どどどどうしよう


と、とりあえず周りをよく観察しよう、するんだ!


まず、俺の服装

金のよく分からない刺繍が入った黒いマント…ローブ?……の、様なもの。違いなんか分からん

に、これまた高そうな黒のズボン。…とても手触りがいい。ただ、なんかよく分からない、分かりたくない赤黒い物が付いている。

…いや、うん、ど、どんどんいこう!ここでとまったら何も分からないっ!

次はマント…ローブ?の中だな

こっちは少し膝下が見えたズボンと違ってスッポリと覆われている。中は…白のシャツだった。詰襟のところに黒のリボンをしている。

……良かった、普通だ。


思わずほぅ…と息を吐くのは仕方ないと思う。

だって普通じゃないだろうズボンとかズボンとかズボンとか……。


因みに靴は黒い革靴。装飾はない。


周りを見渡してみるがあるのは木、木、木、川。

良かった木だけじゃない


とりあえず水は確保したも同然だ。

……飲めるか分からないから

ただ木は実を付けていないから水が飲めないとかなり拙い。3日と持たずに死ぬだろう。


……試してみるか


ギリギリになって飲めなかった場合、移動できる自信がない。なら余力のあるうちに試しておいた方がいいだろう。飲めたらここを拠点とすればいいのだから

キラキラと太陽の光を反射する水の中に手を入れ掬う。ほんのりと冷たいのが心地いい。


「……よし…………っ」

これは………っ!

「…ぅまいっ!!?」


な、なんだこの異様にうまい水は!?

本当に水か…?

喉越しが爽やかに感じる程よい冷たさ。無味かと思っていたが柔らかな口当たりには仄かな甘味を感じる。

………水か?本当に?


と、とりあえず拠点はここにしよう。

次は寝床の確保だ。

こんなに水が上手いのなら集まってくる動物も多いはず。ならばできるだけ隠れることの出来るところでないといけないだろう。下手したら喰われる。


隠れるのに適していてこの水辺に近い安全な所


高望みしすぎか?いや、命がかかっているんだ。

妥協はできない。


「どこか丁度いいところは…ん?」


……いま、後ろの茂みが揺れなかったか?

風が吹いた様ではない。そんなに強い風が吹いたなら流石に気づく。


ゴクリ…と、喉がなる

頭の中で警笛がなる。


-ココハキケンダ-


「っ、ぅぁあっ!」


一目散に走る。

すると隠れるのを辞めたのか『何か』は低い唸り声をあげて飛びかかってくる。ちらりと視界の端に赤黒く長太い牙が映る。『何か』の目は狩るもの-強者の目だった。


「ハッ…ハァ…ハァハァッ」


死ぬ


このままじゃ、死ぬ。


手足の感覚が遠のき視界が絶望からか暗くなる。


嫌だ。死にたくない。嫌だ。嫌だっ!

まだ何も分からないんだ。自分のことも。この世界のことも。何もかも。それなのに、死ぬ?嫌だ。


まだ、俺は死ねない…!!


どうしたらいい?どうしたらあいつを狩れる(たおせる)?どうしたら俺はアイツに負ける?

まず、負けているのは、純粋な力。向こうには更に強靭な牙まである。このままでは勝てない?

なら死ぬ?嫌だ死にたくない。勝たないといけない。

何が足らない?アイツの四肢を縛る鎖、あの牙を防ぐ盾、アイツにトドメをさす矛。

どうしたら手に入る。どうしたらいい。体が熱い。走り続けているせいか上手く息ができない。

アイツの声はもうすぐ後ろまで迫ってきてる。

どうしたらいい。どうしたい。まずは、

何が必要だ…?


「アイツを、止める、盾っ!!」

アイツが止まらないと縛れない。アイツを縛れないと息の根を止めることができない。

その盾は何で作る?何で作れる?

「っぅあ、!?」

ろくに足下を見ていなかったせいか思い切り転んでしまった。強く全身を打ったせいかすぐには動けない

アイツは俺がもう逃げられないと悟ったのかゆっくりと慎重に、いつでも飛びかかることのできる状態で低く唸りながら近寄ってくる。


四肢に力を入れて飛びかかってくる。アイツは全体的に白い、虎の様な獣だ。あの牙や爪にやられれば俺なんかひとたまりもないだろう。

だが焦る気持ちは生まれてこなかった。

俺は、アイツを止める為の盾も、縛る鎖も、殺す矛も見つけていた。


「【大地の盾よ】」

それは今俺が触れている大地。

地面は瞬時に形を変え俺を守るように迫り上がる。

アイツは勢いを殺すことができず突然現れた盾にぶつかった。

「【生物の鎖よ】」

それは俺の足を止めた植物。

植物達は急速に成長し、アイツの体へと巻きついた。

アイツは必死に抗うが抵抗虚しく地面に縫い付けられる。

「【聖光の矛よ】」

それは俺に暖かく降り注ぐ光。

暖かな光は急激にその熱を上げアイツの身を焦がす。

アイツは逃げようと踠くが鎖によってそれも叶わずその身をゆくっり焼かれていった。


「……【清浄の水よ】」

生み出した水は火照った体に心地よく、砂漠に水が染み込むようにすぐに飲み干した。


落ち着いてきた頭で考える。

今のは一体何だったのか

疲れた体に鞭をうち、ゆっくりと立ち上がる


我武者羅に走ったせいか先程までいた場所が分からない。辺りを見渡してみても木、木、木。


「あー…もしかして、ピンチってやつ?」


い、いや、水はある。

さっき魔法…魔法?で作れたから水はある。

だが寝床がない。飯がない。


……。


飯がないっ…!!!



いや、あるにはある。

目の前にはこんがりと焼けた白い虎の様な姿をした獣……。


-ゴクリ…と喉がなる。


一瞬で焼かれたせいか毛は焼け落ちその身は狐色に染まっており程よい油が滴っている。


「ちょ、ちょっとだけ……ぁむ…」


……………!!?


口に入れた瞬間香ばしい香りが口の中を満たし一口噛んだらその肉汁が溢れ出す。肉は柔らかく解けるように溶けていきその肉汁は全ての旨みをつぎ込み濃縮したかのような深い味わいで調味料の類が一切ないにもかかわらずこってりし過ぎずさっぱりしすぎていない究極とも言えるバランスをとっている。

「………ぁむっ、むぐ……もぐもぐ…ぁむ」





白い虎……大変美味しゅうございました。
























「……っは!?」


しまった!白い虎(極上の飯)に夢中になっていたがここはどこだ!?

見渡す限り木、木、木。

あぁ川があった時が懐かしい。


とにかくこの林…森?を抜けないことには俺が誰なのか知ることは不可能、なんだろう。


「…歩くか」


とりあえずまっすぐ進んでみよう。

そのうち木以外も見れるだろうし。

ま、一応印でも付けとくか。


白い虎の骨を使って近くにあった木に横一線の傷を付けた。


































「………嘘だろ」


丸1日歩き続けて見つけたのは自然界ではまずつかないはずの横一線に傷つけられた一本の木。

思わずその前に膝をついてしまった俺は悪くないと思う。


「まさか、振り出しに戻るとは……」


『クスクス』『やっと気づいたよー?』『3回も通ってたのにね』『僕らのことも忘れてるのかなー?』


子供の様な楽しげで、大人のような悲しげな声が聞こえた。

ポツリと漏らした本音に反応があるのが嬉しいが彼らは一体何者だろうか…?


『忘れてるのかな?』『忘れちゃたんだよ』『王女様の魔法は絶対だもん』『でも寂しいね』『我儘はダメだよ』『約束だもんね』


「なぁ、君たちは一体誰だんだ!?俺のことを知っているのか?」


姿鳴き声はこっちが声をかけると途端にしんと静まり返る。

…話しかけてはいけなかったのか…?


『ね、僕が先だよ』『僕だよ!』『違うよ僕が先』『僕が先!』『僕だって』『ずるい僕も!』


…いや、これは順番の取り合いをしてるだけ、か?

このままだと埒が明かないな…


「皆でせーのっ!で出てきたらどうだ?」

『それいー!』『名案だね!』『みんな一番!?』『あは、面白い』『誰が言うの?』『僕言いたい』

『えー!僕も言いたい』『僕が言うの!』


あぁ、これ終わらないやつだ

でもこういうのって誰かが言ったもん勝ちだよな


「いくぞー?せーのっ!」



『僕一番!』『ええー僕だったよ!』『違うよ僕!』『僕だってー!』『僕が一番だよ!』


同時に現れたのは沢山の光。

掌サイズのそれはふよふよと空中を漂いながら自分が一番に出たのだとその光を度々大きくしながら主張する。


……これは、なんだ?

こんな生き物(?)聞いたことがない。

いや、聞いたことがあるとしても覚えていないのだが


「なぁ、あんた達は俺のことを知っているのか?」


『……』『…………』『………………』


なんだ?急に大人しくなったな

何か知っているのか?


『…………言っちゃダメなんだよ』『あ!こら!』『女王様に怒られるよ!』『約束なんだよ!』


「……そうか、なら……この森の出口は分かるか?」


約束、言っちゃダメ、女王様、ねぇ…

なら、教えて貰えることだけ教えてもらうとするか


『ダメだよ!』『外はダメなの!』『行っちゃダメ!』


「…おいおい………外はダメって…」

何だよそれ。外に出るなって事か?


「見つけましたわ!」

「!?」


「あぁ、無事でしたのね…ふふ、そうですわね…貴方ともあろう人がそう易々とやられるわけありませんわ」


いきなり現れたやつは俺のことを見てほっとしたようだった。が、俺の中に生まれるのは焦りと…何故か危機感だった。


「随分と探しましたわ」


そう言って近づいてくる奴は全てを飲み込む漆黒の髪に真っ赤な緋色の瞳を持った若い女だった。

その格好はとても森の中を歩く様なものでは無かった。鎧やローブなどは身につけておらずその豊満な身体を包むには心もとない小さな布地だけだ。


「………あんた、誰だ?」

「まぁまぁまぁ!貴方ともあろう人が(わたくし)の事を忘れたと言うのですの!?」


あいつは態とらしいほど驚きその体をくねらせる。

…まるで心から傷付いた、と言わんばかりに。


先程までの明るさが一変し辺りがゆっくりと暗くなっていく。共にいたはずの光の生き物達もいつの間にか消えていた。


……殺られる…!


先ほどの虎のような殺気をぶつけられた訳ではない。

ただ、本能が今はこの女に勝てないと告げている。

逃げるのは悪手。おそらく背を向けた瞬間殺されるだろう。だからといって戦うのはもっと下策だろう。

挑んだ瞬間殺される。

一番は仲間を呼び共に戦うことくらいだろうか?

だが自分には仲間が居たかも分からない。

だが……


何故、俺はこの人に対してこんなにも怯えている…?

この人は俺に殺気をぶつけている訳では無い。

寧ろ俺の身を心配し、見つけた事に対して安堵していないか…?


微笑みを浮かべながらこちらに歩いてくる女を見ていると不思議とこの女を信じて良いのではないかと思えてくる。


「さぁ…共に行きますわよ……フレッド」


…フレッド?それが、俺の名前……?

共に…彼女と共に…行く?

どこへ……?


「ふふふ…帰りますわよ(・・・・・・)フレッド」


…………帰る?

帰るって、どこに…?

森から、出るのか?さっきの光の生き物達は出ては行けないと……


彼女はもうすぐ目の前に居た。

ゆっくりとその手を伸ばしそっと俺の頬を撫でる。

何故か体に上手く力が入らなかった。


「私の事も忘れましたの?」

「…覚えていないんだ………何も」

「ふふふ…そうですの。私の名はフェリシー」

「…………フェリシー」

「そう…フェリシーですわ。そして貴方はフレッド」

「…………フレッド…?」


フェリシー…?彼女は、フェリシー。

俺は……俺は、フレッド?

ここは……?ここは、どこだ?


「……ここは、どこだ?」

「精霊の森ですわ」

「精霊の森…?」


彼女は…フェリシーはゆっくりと俺の頬を撫でながら俺の目を見て離さない。

そんな彼女から俺も目が話せなかった。


「貴方は私と同じ魔族ですわ」

「魔族…?」

「共にこの精霊の森に交渉に来たら女王によってこの森のどこかに飛ばされてしまったのですわ」

「……そう、なのか?」

「えぇ…けれど見つかって安心しましたわ……さぁ、帰りますわよ…魔界に」

「………あぁ、分かった」

「ふふふふふ…いい子ですわ…フレッド」


彼女の口と俺のが重なった時、ゆっくりと意識が闇に落ちるのを感じた。

ただ、俺は彼女と共にいればそれでいいと何故か心から思っていた。





「ふふふふふふ…あはははははははははは!勇者アルフリードももうこちらの物!ふふふふふふふ!これで人間界も手に入れたも同然ですわっ!」































































「フェリシー…?どこだ?フェリシー?」


戦火に包まれた街の中、俺は向かってくる物達を潰しながらフェリシーを探していた。


「なんですの?フレッド」

「あぁ、フェリシー!」


その姿を見て思わず抱きしめる。

あぁ、やはり、彼女は強い。

この戦火の中でも傷一つ負わない。


「ふふふ…フレッドは甘えん坊ですわね…さぁ、顔を見せなさい?」

「…あぁ」


フェリシーは戦場に行く時、最中、帰った後と必ず俺の顔を見たがる。だから俺は彼女を探す。

彼女を見ていると少し頭がボーッとするがそれは俺が彼女に見とれているかららしい。

彼女がそう言うのだからそれが正しいのだと思う。


「ふふふふ…フレッドは私の事が大好きですわね」

「あぁ、俺はフェリシーが大好きだ」


フェリシーは俺の頬を撫でながらゆっくりと問う。


「今日は私の為に何を狩ってくれたのかしら?」

「前にフェリシーが言ってた第二王子って奴を殺ったんだ」

「ふ、ふふふふふふふまぁまぁまぁ!流石フレッドだわ」

「…ただ、第二王子が変なことを言っていたんだ」

「…まぁ」

「……【目を覚ませ】って……」

「ふふふふふ…フレッドはどう思ったのかしら?」

「どう?フェリシーは俺に嘘をついたりしないだろ?だからただの狂言かと……」

「…ふ、ふふふふふふ!そう…いい子ね、フレッド」


フェリシーがそうやって笑ってくれるなら、それでいい。


俺は、フレッド。

魔族で、魔王のフレッド。

伴侶はフェリシー。

今日も人間界を滅ぼすべく、共に戦う。


ありがとうございました(*´∀`)

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